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42話:園遊会2

 園遊会でイジドラ嬢と遭遇したら、ドミニクは即逃げしやがった。


 それでも公爵令嬢と話すだけで、俺でも園遊会に溶け込めてはいるようだ。

 ただ問題がある。

 そろそろ会話のネタがねぇ!


「えー、それで…………あぁ、あの方は」

「うん? あぁ、アイフェルト卿か。そう言えば狩猟大会でも共にお見かけしたのだった」


 俺は目についた相手を適当に話題に乗せる。

 バリバリの叩き上げらしいのに、小王関係者に惚れて着飾ることを覚えたというしょうもない情報しかない相手なのに。


「少々噂を耳にしたのですが、不治の病だとか」

「む、不治の? そうなのか?」


 あ、通じなかった。

 どうしようかと思ったら、学園でも見る従者っぽい女生徒がイジドラ嬢に耳打ち。

 途端に、イジドラ嬢は比喩だと気づいて真っ赤になると、無知を恥じる。


「す、すまない。そうした話題には慣れていないもので。その、昔から騎士に憧れ、身を鍛えることに専心してきたので…………!」

「えぇ、そうでしょう。素晴らしい身ごなしであり、お志は存じております」


 慌てるイジドラ嬢に、俺はなんてことないって風を装って頷く。

 そうしないと、女従者の視線が痛いんだよ。

 主人に恥をかかせるなって無言の圧を感じる。


 まさか恋愛系の話が地雷なんて思わないだろ。

 俺も得意な話じゃないんだけど、振ったからには何か言わないと。


「クラレンツ公の下に呼ばれた際には、お見かけせずにおりました」

「閣下の元は人の出入りが一番激しいと言われているから、すれ違いもあるだろう」


 良かった。

 軍事関係の王弟殿下の話だったらイジドラ嬢は普通だ。


 いや、それも令嬢としてどうなんだ?

 他人事ながら令嬢として大丈夫か心配にもなる。

 さっきの真っ赤になるのだって、令嬢にしては表情を崩しすぎだし、騎士としてもそうだ。

 まるで普通の女の子のような反応だった。

 あ、令嬢になんの話振ってるんだって、また女従者から圧がきた。

 判定からすぎないか?


「…………おや、クラレンツ公が」

「あー、はい」


 イジドラ嬢は視線に敏感なのか、意味ありげに目を向ける存在に気づく。

 俺も見ると、王弟殿下が何やら合図を送っていらっしゃるなぁ。


 うん、行けって言ってる。

 どうやら今が、イェーデシュタン侯爵突撃の好機らしい。

 けど待ってほしい、今俺イジドラ嬢と話してるんだ。

 なのに行けって、そういうことでしょうか?


「ご一緒に、挨拶に向かっていただきたいのですが。巻き込んでしまうやもしれません」


 もうイジドラ嬢の人の好さにつけ込んで、俺は正直に伝えた。

 狩猟大会でも面倒ごとに巻き込んで怒るどころか、俺を支持するようなことさえ言ってくれたイジドラ嬢はやはり乗ってくれる。


「ほう、何があるのだろう? クラレンツ公の内示なのだろうか」


 王弟のオーダーは、このままイジドラ嬢と行けだ。

 途端に騎士らしい凛々しさを表情に浮かべる姿は、ちょっと頼りがいある気がしてくる。

 もうこうなったら、臆さないイジドラ嬢で良かったと思うべきか。


 王弟としても、立場が弱すぎる俺一人で突貫するよりも、公爵令嬢がいたほうがいいって判断なのかもしれない。

 その上相手は学生二人と油断もする。

 イジドラ嬢は血縁で王家に関わるから王弟としても、介入しやすいってところだろう。


「実は、イェーデシュタン侯爵の下に調べが入る予定でして」


 俺はかいつまんで、園遊会での時間稼ぎを命じられてることを伝えた。


「確かに良い噂を聞かない方だ。先日の狩猟大会で、縁者に死者も出たそうだが、弔いに関して手助けが何もなかったと嘆く声を聞いた。悪事を暴けるのならば、嘆く者も留飲を下げよう。よし、行こう」


 イジドラ嬢は義憤に駆られて決断する。

 それは人としていいんだが、そこで自ら行こうと言えるのがそこらの令嬢と違う。


 俺は仕方なくドミニクに合図を送った。

 いつのまにかイジドラ嬢の従者と一緒にいて、そっちがついて来ようとするのを止めてくれる。

 そのままイジドラ嬢と、取り巻きに囲まれたイェーデシュタン侯爵の元へ向かう。


「ご挨拶申し上げます」


 俺は下手に出て、追い払われないようイェーデシュタン侯爵の周囲の見たことのある顔に、こっちの容姿もきっちり見せた。

 すると、戦勝会での謝罪行脚で見た顔が、イェーデシュタン侯爵に耳打ちする。

 きっと俺が誰で、何した奴かってのを伝えてることだろう。


 と思ってたら、イジドラ嬢が前に出た。


「イェーデシュタン侯爵閣下、お時間よろしいだろうか」

「これは、マハトヴァーサ公爵令嬢」


 イジドラ嬢に、イェーデシュタン侯爵も無視できず応じる。

 その上で、イジドラ嬢はまさかの切り込みを敢行した。


「先日の狩猟大会において生じた死傷者に関する扱いの改善をお願いしたい」


 突然のことに、俺も固まる。

 そして家内のことに口を出されたイェーデシュタン侯爵も、嫌な顔を隠しもしない。


「弔いのための葬儀代も、手伝いの派遣もないと聞く。それはあまりに情のない行いだ。葬儀においては家名を出すことさえせず、無関係として扱ったのはどのような存念であろう」


 普通他人の葬式に口なんて出さないし、相手は侯爵だ。

 金に汚いと噂になっても、誰もそこを突っ込めない地位がある。

 なのに、イジドラ嬢は真っ直ぐに相手の非情さを詰った。


 そこには騎士道的な清廉さがある。

 だが相手が悪い。

 そんなもの馬の餌にもならないと言いそうな金満家なんだ。

 しかも傲慢でワンマンな一家の当主。

 もっと早く気付くべきだったが、どう見てもイジドラ嬢とイェーデシュタン侯爵の相性は悪い。


「…………く」


 俺はすぐさま王弟にヘルプを求めて目を向けた。

 けど王弟は一瞥するだけで知らんふり。

 これはそのままやれと? この開口一番空気が最悪になったまま?


 俺がついて行けない間にも話は続く。

 というか、常識的に詰めるイジドラ嬢に、イェーデシュタン侯爵は子供が口出すなと、お上品な口喧嘩になりそうなギスギス感が高まっていた。


「不躾ではあることは承知。しかし私とて、人として悖る行いはしていません」

「口ではなんとでも弄せるもの。家門を司るもののことなどない気楽さよ」

「しかしながら、庶子が亡くなられたにもかかわらず、知らぬ顔をするのはいかがか」


 またバッサリ言った。


「こちらのローレンツどのは、学生から出た死者には自ら指揮した故として、労りの手紙と共に見舞金も送られている。私は学院でご子息と親交があった故に、遺族の嘆きを耳にした。心ばかりの慰めもできない者が、一家を率いるに足るのだろうか」


 突然飛び出したとんでもない話に、俺はまた固まる。

 イェーデシュタン侯爵の庶子なんて知らないし、イジドラ嬢の学院での交友範囲も知らない。

 だが、伯爵家以下の家の学生には、確かにそういうことした記憶はある。


 イェーデシュタン侯爵の取り巻きも、固く口を閉じて下手なことは言えなくなってた。

 そりゃ、王妃出してる公爵家の人間と対立なんて火の粉が怖い。

 そこを気にしないでいられるイェーデシュタン侯爵の威光があっても、庶子を無視したなんて人道的にアウトな話なんて首を突っ込みたくない。


「不躾だと理解しているのならば、慎みを持つことも淑女として家の名を傷つけずに済むだろう」

「騎士として正道を曲げる行いはしていないと誓えます故、我が家の瑕疵になることはありません」


 間髪入れず答えるイジドラ嬢だけど、たぶんそれ、お前の家に瑕疵として言いつけられたいのかって脅しだ。

 それに気づかず真っ直ぐ喧嘩買ってる姿が、いっそ強者に見える。


 っていうか、金に汚いとは聞いてたけど、まさか自分の子供の葬式代出してないのかよ。

 金に汚い以前に、人間として駄目すぎる。

 そりゃ、イジドラ嬢も最初から喧嘩腰になるわ。


「ふん、高潔ぶって名を売ることに必死に過ぎるわ」


 ここで何も言えなくなるほうがまだ常識あったんだと思う。

 なのに、イェーデシュタン侯爵は倫理観を質すイジドラ嬢を売名行為扱いだ。

 しかも、顔見る限り半分は本当にそう思ってそう。


 貴族のお手付きだとか、一夜限りの過ちだとか。

 大人のアレな話はある程度成長すれば聞こえるもんだけど、だからって、自分の子供をなんだと思ってんだ。

 …………なんて思ったのが悪かった。


「いち早く逃げ出すあなたの背を守ったからこその死でしょうに。それさえ汲むこともないのですか?」


 俺は気づいたら口を開いてた。

 イジドラ嬢の言葉から庶子は学生で、そこに留まらせたのは俺なんだけど。

 しかもがっつりイェーデシュタン侯爵を非難する言葉を放ってる。

 まずいと思ったけど、もう言ってしまったからには遅い。


 けどこいつ、王弟のいる本営守らずに逃げ出した一人なんだよ。

 こっちはできるだけ生き残ろうと、魔物たちを通さないよう頑張ったんだ。

 そして踏みとどまった人員を犠牲にしたからこそ、逃げた奴らはこうして無事でいるはずなんだ。

 身を挺して、命さえ投げ出して助けられて癖に、そう思ってしまった。

 自分も、そうして助けられた側だから。


「ふん、生きていればまだ使い道はあったのだ。そもそも勝手に死んだのだから何を汲むことがある。思い上がるな」

「なんということを…………」


 あまりの言いようにイジドラ嬢が声を震わせた。

 イェーデシュタン侯爵はそんな動揺さえ煩わしそうに顔を顰める。

 これは何を言っても無駄だ。

 こいつの価値観の中に、自分以外の命を尊ぶ気持ちはないのかもしれない。

 だから俺もイジドラ嬢を押さえた。


 するとイェーデシュタン侯爵から、思いのほか憎々しげに視線を向けられる。


「…………行方不明にでもなれば、名も使えたものを」


 口惜しいことを思い出したと言わんばかりの言葉だった。


定期更新

次回:園遊会3

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― 新着の感想 ―
 あっ想像以上に俗物?小物?  にしても直球過ぎw  下手すりゃ早々に話を打ち切られても仕方ない展開だけど、そこは高位貴族の面子があるんですかねえ。
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