107話:参戦2
小王の宣戦布告は秒読みだったんだから、今さら宣戦布告で慌てることはないし、軍の編成だってほぼ終わってる。
それはいいけど、なんでそれで、学生の俺が隊長格なんだ?
「若手というなら、もっと、適任がいるはずでしょう…………」
「ちなみに、あなたは編成された中での最年少の隊員です」
レルナー先生がさらに気の滅入る情報をくれる。
どの隊に行っても、俺は年上の同じような立場の貴族を率いることになるらしい。
そうなると、なんで学生の俺が隊長として書かれてるかって話だ。
俺の内心なんて顔に出てるだろうけど、先生はそ知らぬふりで渡した名簿の説明を続けた。
「あなたの下に配属されるのは四人、このリベルトは伯爵家の十番目でしたか? 自領で盗賊討伐など、小さいながら手柄を挙げている実戦経験のある者です」
爵位は同じでも、どうやら子だくさんの家のようだ。
だからこそ伯爵令息なのに、盗賊退治で前に出るような扱いをされてるらしい。
事前情報はありがたいけど、不安が募る情報だ。
つまりそれだけ、自分の手柄を挙げて独立したいっていう意欲が高いとそうぞうできる。
そんなところに年下の学生の命令に従えなんて言われたら、余程人ができてない限り反発するはず。
先生は次の名前を指した。
「モーラーは男爵家次男ですが、戦闘経験は完全にありません。つき合いで兵を出した家の者たちを率いているだけになるでしょう。こちらのリービヒクローンは、男爵家の息女。騎士を目指していますが、今のところ実っていません」
なんだこの、極端な人選。
今度はつき合いってはっきり言うほど戦意が低い人選。
さらにまたやる気がありそうな女騎士志望。
やる気あるのかないのかわからないんだが、プラマイゼロにでもしたいのか?
俺の困惑を無視して、先生は最後の一人を指す
「バイザイトは富裕層の平民の六男ですが、実家が人材は有効に使うことを是としていますので、顔が広く、またこの参戦も家の利害がらみです」
「教えていただけるのはありがたいんですけど、やっぱり俺が隊長は不満出そうな人選ですね?」
たとえば経験者で伯爵家のリベルト。
俺がほぼ無名なのは知ってるだろうし、自分で功を挙げるという意識が強いなら隊長を望むだろう。
同じく騎士を目指す男爵令嬢のリービヒクローンも、騎士への道のための参戦なら、もっと名の知れた者の下につき経験を積みたいはず。
男爵家のモーラーは経験がないと言うが、家のつき合いとはっきり言うなら、それこそつき合いのある家の者と並びたいだろうし、富裕層のバイザイトも利害がらみなら、利害相手を優先したいはず。
初対面になる俺の指示にどこまで従う気があるやら。
「不満が出たところで、何か問題が?」
あ、これ駄目なやつだ。
問題あるなら解決しろって、言外に先生は言ってる。
それが俺を配置する前提であり、力尽くでも従わせろと言う含意での人選なんだ。
これは愚痴っても無駄だ。
だったらもっと建設的に質問を重ねよう。
「この人員の中で、俺が隊長にされた理由を教えてください」
家格ならリベルトだし、年齢と経験もあるなら俺より適任だ。
それを退けて俺を据えたなら、表向きの理由、もしくは裏の思惑があるはずだ。
「あなたには他国での実績があるでしょう」
「それを評価されるには早すぎるじゃないですか」
「名指しで功を打ち立てたと、他国よりの申し送りがあってますので、その功をこちらでも認めるには、遅きに失するより早すぎることにさほどの問題ではありません」
まさかの外交がらみかよ。
というか、名指ししたの誰だ?
ダーリエフェルト国王?
ナイトシュタインの若王?
名指しなら、俺の名前を覚えてる可能性がある王叔もあり得るか。
いや、それはもう終わったことだ。
今更文句も言えやしない。
「それならなおさら、俺を下につけずにいるのは何故でしょう?」
他国の評価を受けての抜擢なら、下っ端の隊長よりも、名うての下につけるほうがいい。
下積みもさせない理由に、先生は考える様子を見せた。
「そちらのほうが予想外だからでは?」
「はい?」
「あなたは現状、狩猟大会と、ダーリエフェルト国王に関して、そしてナイトシュタインで三度クラレンツ公の意表を突いた」
「いや、それほどのことじゃないと思いますけど」
俺は異論を挟むけど、先生は無視して続ける。
「反対に、イェーデシュタン侯爵やアイフェルト卿の捕縛に関しては、命じて動かしても予想の範疇を越えることはなかった」
異論はある、あるんだが、何が言いたいかはわかった。
俺は誰かの下につけるよりも、独自に動かしたほうが、王弟の目の届かないところで動くと思われてるんだ。
そこはゲームって言う前提があってのことだけど、知らないほうから見れば、俺が独自に判断して意表をついてるって話なる。
だったら、判断を下せる立場で、俺という学生が就ける位置、小隊の隊長に押し上げようって言うのが、今回の編成の結果らしい。
「…………ご期待に沿えるかはわかりませんが」
「死なないことが最低限です」
そんな厳しくも心配を含んだ教えを受けて俺は城を後にした。
そして翌日ドミニクに呼ばれて、俺はムートに頼んでた品を持って向かう。
慣れたゲシュヴェツァー伯爵家だが、今日は見慣れない裏に回った。
そこにはドミニクと、紋章持ちの傭兵、ロイエがいる。
「早いほうがいいかと思ってな。時間は大丈夫か?」
「ありがとう、ドミニク。時間はあっても足りないから、単刀直入に言う。ロイエ、依頼をしたい」
不躾な言い方にも、ロイエは口の端を上げて不敵に応じる。
「さて、反乱鎮圧以上に稼げる話なら考えなくもない」
そう言われるとちょっと迷う。
何せゲームでは、反乱でダーリエフェルトにいるはずの傭兵だ。
それが現状反乱も起こらず、ダーリエフェルトにも行かずにこのヴェーゼンに残ってる。
これは明らかに、ゲームと違う動きだ。
だから本筋に少しでも戻そうと思っていた。
ゲームからはずれている現状だけど、全く別ではないし、勇者としてユリウスは時期は違えど、ゲームと同じ動きをしてるから。
だったら、それを助けるロイエにも同じ動きをしてほしい。
それが、ユリウスの助けになると思った。
思ったんだが、反乱への傭兵としての参戦もまた、ゲームに合致するんだよなぁ。
「…………ユリウスたちを追って、トロイェンに行ってほしい」
「小王の反乱に関わるが人物が一人、国外逃亡してる。魔人の疑いがあり、それをユリウスたちは追ってトロイェンに向かったんだ」
ドミニクが補足すると、ロイエはあまり乗り気ではない様子だ。
けどロイエはゲームでダーリエフェルトで出会い、トロイェンで再会する。
すでに勇者が向かった今、そのトロイェンでの再会をしてほしい。
「海賊が出ているとは聞くが、稼ぎがあるとは聞かないな」
「すまないが戦働きではなく、お使いだな」
そう言って俺は持っていた物を渡す。
中が見えるように口は開いて見せれば、ロイエの眉が上がった。
「これをユリウスに渡してほしい。そしてあちらでユリウスが困っていたら力を貸してやってくれ」
ついで俺は、家から持って来た宝飾品も見えるようにして差し出す。
「前金と思ってくれていい。働きの報告次第で追加も考える」
「おい、ローレンツそれは…………」
ドミニクは、俺が差し出す宝飾品が、何かを察した様子で止めようとする。
けど首を横に振って断った。
ロイエは先に渡した品を見て、差し出す宝飾品を見る。
「質のいい宝石だが、女物か」
ロイエが言うとおり、俺が支払いのために出した宝飾品は女物。
そして俺が持ってる女物となると、母の遺品しかない。
ドミニクは気づいて止めようとしてくれたが、俺が動かせる金はほとんど残ってない。
だから金と同じくらいの価値のあるものを持ち出したんだ。
「現金化が間に合わなくて悪いが」
「…………いや、義理堅い奴は嫌いじゃない」
そう言って、渡した品だけを受け取るロイエを見返せば、ニヒルに笑いを返された。
「運がいいな。今は懐に余裕がある。後払いでも構わない。買い直せる確かなところで金にしておいてくれ。戻った時には確かに受け取る」
傭兵という何処の誰に売るかもわからない相手に預けるよりも、自分で買い戻せる商人に持って行けと言う。
女ものでデザインも親世代の持ち物となれば、遺品であることは察せられたんだろう。
というか、そんなことを言ってくれるロイエのほうが余程義理堅い。
前金もなしに戦働きの機会を蹴って、お使いに行ってくれるんだ。
「商会からの護衛任務でもついでにあれば旅費が浮くんだが?」
ただ抜け目なく、ドミニクにそんなことを交渉してるけど。
俺の支払いを止めようとした手前、ドミニクも頷いて、仕事を回すよう近くに控えていた使用人に命じる。
なんだか人間としての格の違いを見せつけられたような気分だった。
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