女王学園の冒険135
ルビーと対峙しているドールが忌々し気に言う。
「……まさかこの程度の傷を負わせたからって、まさかこのドール様をどうこう出来るなんて思い上がってるんじゃねえだろうなぁ?傷があろうがなかろうが、テメエのすっとろい炎が当たる事はあり得ねえんだよ!」
旧人類の科学力が頂点だった第三次世界大戦の頃ですら、終ぞ人類は戦闘に於いて敵の状態を分析する事に力を入れなかった。
それよりも敵の居場所の方が情報としての優先度が極めて高く、敵の状態に関しては二の次三の次だった。
どのみち敵なんてものは居れば殺して進むだけであり、敵がどんな状態でも兵士達がやる事は変わらない。
償いの日によって技術力が衰退してしまった現代でも、敵がどんな状態かというのは相変わらず戦闘の当事者間の駆け引きに委ねられたままだ。
つまりドールの傷がどの程度で、体力がどの位残っているのかというのはルビーにはサッパリ見当も付いていない。
「その割には随分辛そうじゃない?もし降参するならアンタの安い命ぐらいは助けてあげても良いわよ、お情けでね?」
言葉を額面通り受け取るならルビーが敵に情けをかけている様にも聞こえなくも無いが……手傷を負って尚、啖呵をきった相手に対して言うのだから、これは挑発以外の何物でもない。
実際ここでドールが本当に降伏したとしても、ルビーは平然と敵を攻撃しただろう。
ルビーは甘くない……そもそも辛党なのだ。
「ぬかせ、たまたまマグレで当たったからって調子に乗ってんじゃねえよ。お前なんか、でけえストーブと大差ねえ」
「……アンタの方こそ、私の炎が遅いだなんて勘違いも甚だしいわ」
そう言いながらルビーはゆっくりと構えを取った。
身体を斜めにして足を開いて立ち、腰を落として、左腕を前に出して、右手は曲げて腰の位置へ。
全体的に見れば剛の外家拳の様にも見えるが、拳を握らない点や地面に根付く木の様な構えの安定感から柔の内家拳のようにも見える。
どうやらルビーのオリジナルの型らしい。
「はっ!事実だろうが?」
ルビーの雰囲気が変わったのをドールは見逃さない、そのビックマウスに反して油断なく身構えていた。
静かに呼吸を整えたルビーが短く息を吐くと同時に仕掛けた。
大きく、直線的な踏み込みから肘を大きく突き出した頂肘での滑る様な高速突進。
「バカが!バレバレなんだよ!!」
ルビーの攻撃を最小限の動きで受け流したドールは、最大限のカウンターを叩きこむべく長ドスを取り出した。
しかしここに来てルビーの動きに急激な変化が起きた。
「なにぃ!?」
あり得ない程の急加速。
ルビーは自身の火力を背中に展開した翅に集中させて、火力を推進力に変換しているのだ。
ドールは瞬時に反撃を捨てて回避に徹する事でなんとかこれを回避した。
すれ違っただけだというのに、袖口と髪の毛が少し熱で焦げた。
(流石のアタシも肝を冷やしたが……所詮直線だけの猪だ、そのスピードじゃ碌に方向転換も出来ねえよなぁ!?)
背中を向けたルビーに銃弾を叩きこんでやろうと、今度はリボルバーを取り出して狙いを定める。
「喰らえストーブ野郎ッ!」
キチンと狙いすましたマグナムの弾丸が真っ直ぐにルビーへと迫る。
誰がどうみても、現在のルビー体勢では回避はおろか振り向く事すら出来はしないと確信出来るだろう。
「殺った!!」




