女王学園の冒険47
「まぁさか、あのオジョーサマがここまでやるたぁなぁ~……」
工業高校の体育館にまで追い詰められた、かの世界的テロリスト、スゥ・サイドセルは今になって己のミスを悔いていた。
正直な話、メゾーレ・ジュラルバームを一度倒した相手だからと全く舐めてかからなかったかと言われればウソになる。
普段から用心を心掛けて生きているスゥだったが、今回は確実に心の何処で油断があった。
勿論今回もスゥはジュラルバームを訪れるにあたって充分な戦力を用意したつもりだったし、スーパーハッカーの妹分、シトラにも金を払って後方支援だって付けている。
だがそれでもメゾーレ・ジュラルバームがスゥの想定を大きく上回る動きをした。
メゾーレは以前の様に自分の力だけで突撃する様な真似はせず、先ず逃がさない様に検問を強化し、辛抱強くスゥの監視を続けた。
普段の立場や役割の違うロイヤルナイトの細やかな調整を水面下で行い大戦力を用意して、スゥを体育館の籠城まで追い込んだ。
スゥに油断があったとしても、粘り強く周到で見事なやり方だと認めざるを得ない。
「やってらんね~!こっちはあくまで個人事業主なんだ、ロイヤルナイト全軍を相手にする程の戦力は用意できねえよなぁ~!」
ヤケクソなったスゥの叫びは無人の体育館に木霊するばかりに思えた……が、それに答える者がいる。
後方支援を担当しているスゥの妹分にしてスーパーハッカー、シトラ・マーコットだ。
シトラは現状スゥの唯一の味方で新月街のピンクジャムという店から遠隔でスゥをサポートしている。
「姉ちゃん、急に大声出さないでよ」
「……叫ばねーとやってらんねーんだよ」
「わたしも手伝うから……先ずはなんとかして包囲網を突破しなきゃ」
「あぁ、わかってる……やるしかねえよな」
今はこの上なく分かりやすく大ピンチである訳だが、何も今この瞬間に死ぬという訳でも無い。
ヤケを起こさず、腐らずに、行動せねば。
その前に一服して気持ちを落ち着けたいと、キャスターから紙巻の細いタバコを取り出して火を付ける。
深呼吸の代わりに大きく息を吸って新鮮な煙を肺いっぱいに取り込んだ。
次に自分を苛む気持ちを煙と一緒に全部吐き出した……まぁ、あくまでこれはイメージだが。
「ふぅ~…………とりあえずアタシはこれから忙しくなる、ドローンと多脚戦車の制御は全部そっちに任せるぞ」
「わかった……でも今のリソースだと姉ちゃんのとっておきをフル稼働させてもロイヤルナイトの連中の足止めが精一杯だからね」
「あぁ、それで十分だ」
「それで逃走ルートだけど……」
・・・
所変わってメゾーレ陣営。
ここでは今から行われる突入作戦の最終確認が行われていた。
「……海上は?」
「はい、予定通りルルイエからの援軍が到着しており、完全に封鎖状態です」
「結構、それで『ちゃんと』スゥ・サイドセルにも、その情報を流したんでしょうね?」
「はい、それも手筈通りに」
これはつまりジュラルバームの東側の沿岸部からは船や飛行機での脱出は困難である事を示す。
であれば、自然とスゥの選び得る逃走経路は西側に限定されるという事だ。
メゾーレはそこに最大戦力を投入してスゥ・サイドセルを迎撃するつもりなのだ。
「西門に近衛騎士団を集中的に配置しなさい」
・・・
そんな事を知らないスゥ達は脱出計画を練っていく。
「海にはルルイエの護衛艦隊が網を張っているから……難しい所だけど街中を突っ切って西門から脱出するのが一番確実だと思う」
「わかった」
作戦が大体決まった頃、俄かに体育館入口のバリケードのあたりが騒がしくなってきた。
スゥは短くなったタバコをペッと体育館の床に吐き捨てた。
「どうやら向こうさんも、おっぱじめるつもりらしい……こっちもいい加減、腹を括るか」
スゥがキャスターから取り出したリモコンのボタンを押すと、工業高校からパクって体育館の周囲にミッチリと仕掛けたダイナマイトがブービートラップを巻き込んで大爆発を起こした。
「よーい…………ドン!!」
スゥは爆発で崩壊する体育館から、出鼻を挫かれて混乱したロイヤルナイト達の合間を縫う様に走り出す。




