女王学園の冒険42
ニレは家に帰った後、何かあった時の為に購入しておいた緊急用の端末からスゥに連絡してみる事にした。
『スゥさん、今ジュラルバームに来てるってマジですか?』
『誰だよ、やぶから棒に……ってお前ニレか?久しぶりだな、調子はどうだ?』
『はい、お久しぶりです。おかげさまで元気でやっていけてますよ……ってそれより今日、聞いたんですけど学園都市でスゥさんの目撃情報があるという話が出てて……スゥさんの事、捕まえる気満々みたいですよ』
『ちっ、あのオジョーサマ、まだあん時の事根に持ってんのか』
『何やったんですか一体……?』
『……いやなに、ちょっとしたイタズラ仕掛けたら目の色替えて追っかけてきやがって決闘だとか言うもんだからよ、ブチのめしてやったんだよ』
『マジですか……想像以上にやっちゃってますね』
ニレがスゥの話を聞いて何より意外に感じたのは、メゾーレがスゥに執着を見せているという所だった。
ニレが知るメゾーレ・ジュラルバームというお嬢様は、どちらかというと揉め事を避けてヒトと距離を置きたがる、平和主義者……というよりも事なかれ主義者という印象が強かったからだ。
『しかし、あん時の決闘……なんとか勝ちはしたが、アタシもオジョーサマの蹴りをマトモに貰っちまって、肋骨バキバキにブチ折られて結局病院送りにされたからなあ……実質痛み分けみたいなもんかと思ってたんだが、やっこさんは完全勝利というのがお望みらしいな。まあ母親が母親だからな、当然っちゃあ当然か』
『お嬢様が動いてるって事は騎士団も動いてるでしょうし、今は学園都市に居るのは危険ですよ』
騎士団とはジュラルバームという街がマリー・ジュラルバーム率いる強盗団のアジトだった頃からマリーに仕えていた部下達が始まりとされるジュラルバームの武力集団の名である。
元々は一つの集団であった騎士団は現在では時代の流れ、または街の仕組みに変化に沿って多様な役割を持つ集団へと分かれていった。
人々の生活を守る『警察騎士団』
ジュラルバーム家、または権力に歯向かったものを捕らえて拷問する『磔刑騎士団』
ジュラルバーム郊外の治安と交通を監視する『街境騎士団』
ジュラルバーム家以外の学園都市議員資格を持つ貴族達の私兵部隊として登録される『議会騎士団』
最後にジュラルバーム家だけに従う最強の騎士達『近衛騎士団』
五つの騎士団は『有事の際にはジュラルバーム家が全騎士団の指揮権を得る』と街の法律に明記されている。
つまりニレは、これらがスゥの敵になるという可能性を心配しているのだ。
『なんだアタシの心配してくれるってのか?まったく、義理堅いヤツだなお前も……』
『当たり前じゃないですか!今のあたしがあるのはスゥさんのおかげだし、この名前だってスゥさんに貰ったものですし!』
『ふっ……』
ニレという名前なんて、スゥにとっては20番という元の名前から即興で思いついて適当に付けた名前だった。
強引に名前を付けた時はニレ自身も嫌がってた様に思えたが、気に入らなければ今までいくらでも違う名前を名乗るチャンスはあったはず。
(それを今の今までそのまんまだってんだから、マジで律義というかなんというか……)
流石のスゥは多少は情に絆されて、少しだけニレに目的を話す事にした。
『オーケー危険なのは十分わかった。ありがとな、ニレ』
『いえ……あたし今、ジュラルバーム家で働いてるんです。だからこれくらいしか出来なくて……』
『アタシも今ジュラルバームに居なきゃいけない理由があるんだよ、要は人探しなんだが』
『人探しですか?』
『グラーフ・フェルディナント・ツェッペリン……奴が8年ぶりに人前に姿を現した』
『ホントですかそれ!?あの空間の魔術師って呼ばれてる天才ですよね!?』
ニレは現在、ツェッペリンと並び称される天才科学者、生命の錬金術師ヘルメス・タリスマン博士のセーフハウスを家にしている。
何か予感めいたものを感じたが、今はスゥの話を聞く事に専念する事にした。
『あぁ、奴はまさに神出鬼没……この期を逃したら次はいつになるかわからねえ。それに奴が何を企んでいるのか皆目見当もつかねえ』
『そんなアブない奴なら尚の事、学園都市にその事を伝えるだけでいいんじゃないですか?』
『……それがダメなんだよ、奴には個人的な借りがあってな。どうしてもそれを返してえ』
その後もしばらく説得を試みたものの、スゥの意志は固く学園都市を離れるつもりは無い様子だった。




