女王学園の冒険25
女王学園の時計塔最上階にはメゾーレ・ジュラルバームの為にだけに用意された特別なサロンがある。
この部屋の扉を開ける権利を持つのは女王学園の中でも唯一人、ジュラルバームの姓を持つ私だけ。
七大都市の代表者の跡取りなんて、正直に言えば普段から少し重荷に感じている。
だけど我ながら現金な事に、こういう時だけはありがたく感じてしまう。
気疲れする事が多い学園生活の中では、一人になれるこの部屋の存在は私にとっての唯一のオアシスと言っていい。
「ふぅ~……」
今日も体育の授業をサボってサロンへとやってきた。
勉強してるだけなら別に気にならないのだけど、スポーツなんかは周囲のヒトが遠慮してしまって、微妙に気まずい空気になるのが嫌で、よくサボっている。
別に単位は足りてるし問題は無いので、両親にも特に何か言われた事は無い。
そもそもなんで私がこんな窮屈な思いをしてまで学校に通っているかと言うと、それは父に言われたからだ。
クロード・ジュラルバーム……私の父はなんというか、一言では言い表せないけど食えないヒトで、別にママや私に対する愛情はちゃんとあるんだけど……一方で愛する家族を自分の目的の為に悪びれなく利用してしまえる性格をしている。
学校に通って欲しいと頼んで来た時もそうだった……メゾーレは父親との会話を思い出す。
『メゾーレもそろそろいい頃合いだからさ、女王学園に通って欲しいんだよね……正直に言っちゃうと女王学園に入学出来たらあのジュラルバーム家のヒトとコネが作れるかもしれないって、無謀な下心もった連中の客寄せパンダみたいなものなんだけどね、あはは』
「いや、あははじゃねーよ……あぁ、いけない。思い出しただけで思わずツッコミを入れてしまったわ」
流石に理由も言い方も気に入らなかったけど、私はそれを承諾して今に至る。
戦後の荒野に街を興したパパとママの功績は私も知っているし、私も出来ればそんな二人の役に立ちたいという思いもある。
その為の役割が言うに事欠いて客寄せパンダというのが面白くないけれど、かと言って私に他に何か出来る事があるかと問われると、わからないというのが正直な気持ちだ。
生まれのおかげで私は生まれつき強力な権力を持ってはいるものの、それをどう振るっていいのかわからない。
「とりあえずお茶でもいれましょ」
家に帰れば沢山いるけれど、このサロンには使用人は一人も居ない。
一人になりたい時に使用人に近くに居られるのは、どうしても気になっちゃうし……ここだけの話、私はどうも感性が小市民的らしい。
だからプロみたいに美味しく淹れられなくても一人でお茶の準備をする時間がちょっと楽しかったりする。
「今日は……素直にダージリンにしましょうか」
償いの日が起こるより以前の旧世界では茶葉の名前は原産地にちなんで付けられているらしい。
だけど償いの日の地殻変動で原産地は消失し、加えて急激な気候変動でそれまでの方法では茶葉の栽培が不可能になり、挙句に生産者が散り散りになってしまった事でそれまで地球上に存在していた茶葉の銘柄は全て消えた……らしい。
それでも紅茶を飲みたいと強く願った『イギリス』という国の出身者達が集って、かつてあったダージリンティーを根性と執念で再現したのが今のダージリンという話だ。
栽培している場所を『ダージリン』と新しく命名する事でダージリンティーは復活した。
(それにしても凄い執念よね、やり方も強引だし……)
ポットの中で茶葉を蒸らしている間、私はボーっとそんな事を考えていた。
しかし、この時の私は知る由も無かった。
このささやかな幸せが、もうすぐズタズタに引き裂かれてしまう事を。




