女王学園の冒険21
一級品の家具達に囲まれた豪華な部屋の中で、一人の妙齢の女性が携帯端末で動画を見ていた。
女性は誰もが認めざるを得ない程美しく、街を歩けば誰もが振り返り見惚れてしまうだろう。
切れ長の目の奥にある濃い紫色の瞳は彼女の美しさよりも、彼女自身の巨大な過ぎる存在感を感じさせる。
艶のあるストレートの黒髪を頭頂部にまとめており、身体にはやたら際どいネグリジェしか纏っておらず、今は就寝前に寝室でリラックスしているといった所か、不意に女性が大きな声で笑い始めた。
「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!」
大きく口を開け、顔に手を置いての大爆笑。
寝室に響き続ける笑い声に言葉を返す相手はおらず、彼女が何故大笑いしているのか誰にもわからない。
そこへ呑気な男がノックもせずにドアを開けて入ってきた。
「マリィちゃーん、一緒にワインでも飲まな~い?」
男は緊張感も礼儀も何も無く、ズケズケと部屋に入って来た。
もし彼女が普段通りなら、そんな無礼者はあっという間に磔にされて、死ぬまで拷問されるだろう。
女性の名はマリィ・ジュラルバーム。
戦後セカイ最大規模を誇る七大都市の一つ『学園都市ジュラルバーム』の礎を築いた偉人だ。
彼女は偉人であると同時に狂人としても広く知られており、ヒトを拷問にかける事が大好きで、ついたあだ名がそのまんま『拷問女王』
ジュラルバームが学園都市となる以前は、彼女の独裁体制で街を治めており、その頃のジュラルバームでは街中から常にヒトの悲鳴が鳴りやまなかったという。
これでも結婚してからは随分丸くなったという話だが、未だに彼女の本質は以前から変わってはいない。
気に入らないヤツは速攻で蹴り殺すし、強い奴が居れば真っ先に飛んで行って喧嘩吹っ掛けるし、ヒトに難癖をつけて拷問にかけたりしている。
ならば、そんな恐ろしい拷問女王に馴れ馴れしく、彼女の寝室にまでズケズケ入ってくるこの地味な男は一体何者なのか?答えは一つだ。
「なぁ~に~?私もう寝るとこなんだけど?」
「そんな釣れない事言わないでおくれよぉ……それより随分楽しそうだったけど、何見てたんだい?」
男の名はクロード・ジュラルバーム。
拷問女王マリィ・ジュラルバームの夫にして、独裁体制だったジュラルバームに研究機関や大学を誘致し学園都市へと造り変えた男。
これも他に類を見ない偉業であるが……それよりも拷問女王と結婚出来て、そして生活を維持出来ている事の方が奇跡だと言えるだろう。
「ウフフフフ!今日、入領管理局から面白い映像が送られてきたのよ、これ見て」
「どれどれ?……うわぁ、エグいねこれ」
マリィが見ていたのはマイと野盗の女頭目が戦っている映像だった。
女頭目はマイの毒によって既に肉団子にされてしまい、泣き喚いているシーンだ。
「無精卵の強制妊娠ですって!!これは素晴らしい拷問だわぁ……今まで私には無かった発想よね!」
「そうだねえ、一般的には妊娠とか出産って命を生み出す高尚な行為ととられがちだからね、それをただヒトを苦しめる為だけに行うなんて普通は考え付かないよね。倫理の穴をついた感じ?」
高揚し、うっとりしているマリィの隣でワインを片手にヒト肉団子の映像を眺めながら冷静に分析しているのだから、この男も相当アレな事は間違いない。
ある種の似た者同士なのかもしれない。
「……それで、他にも何か面白い事、思いついたんでしょ?」
マリィは端末を操作し映像を早送りしてある場面で停止した。
「この子と、この子とこの子……どうやら学園の新入生みたいなのよね」
「あぁー、大体わかった……でもメゾーレは嫌がるんじゃないかな?」
「これは娘がつまんない奴にならないようにっていう思いやり、母心なのよ……」
「よく言うよ、キミが娘をからかいたいだけのクセにさ」
軽口でじゃれ合いながら、クロードはワイングラスをマリィに手渡した。
「あら、いけないかしら?」
「いや、名案だと思うよ。確かにメゾーレは良い子なんだけど、遠慮しすぎな所があるからねぇ、少しははっちゃける事も覚えた方が良い……じゃあ、そうだな、娘の健やかな成長でも願って乾杯って事で」
「「乾杯♪」」
・・・
一方、同じ屋敷内にあるメゾーレの寝室。
部屋は既に消灯しており、メゾーレは既にベッドの中に居たが、母親の笑う声はしっかりと聞こえていた。
「お母様が笑っている、嫌な予感がするわ……」
あのヒトが笑う時は大体誰かが不幸になる時だと相場が決まっているのだ。
こないだなんて、いきなり抱きかかえられて、そのまま高い山に登ったかと思ったら、突然崖から突き落とされた。
あの時もこんな風に笑っていた。
「…………まぁいいわ、明日の事は明日考えましょ」
今日はもう寝て終わりだ、出来る事はもう何も無い。
嫌な予感はするが、それは明日の自分が頑張ってなんとかすれば良いだけの事だ。
これ位の事を気にしている様ではジュラルバームの跡取りなんてやっていけないのだから。




