女王学園の冒険20
かつて二人の天才によって共同発明された亜空間収納『キャスター』は亜空間に生物以外の物を収納するという技術だ。
キャスターの登場は、それまでにあった数々の常識を一変させた。
身近なもので言えば引っ越しもその一つだ。
キャスターにはそれぞれ容量制限があり、容量以上の大きさの物はキャスターに収納出来ない。
しかしそれはキャスターの性能の問題であり、大容量のキャスターを使うなら一般家庭の家財道具一式程度であればポケットに納める事も出来てしまう。
なので現在の引っ越しはキャスターに収納している家具を亜空間から取り出して、部屋に配置するだけで終わる様になった。
荷物を一つずつ丁寧に段ボールで梱包し、それを業者のトラックに詰め込んで引っ越し先に運搬して……なんてやってた戦前には考えられなかった進歩だ。
「いやー助かったわ!初めてアンタの能力が羨ましいと感じたかもしれないわね!」
バスの襲撃事件を解決した後、オニキスはルビーの引っ越しを手伝っていた。
オニキスは重力操作で大きい家具を浮かせてはルビーに指定された場所に配置していた。
キャスターで持ち運びの手間は減ったが、家具の配置の微調整なんかは流石にまだ人力で行う必要がある。
「まったく、調子の良い事を……」
クオリアシリーズは戦後間もないセカイの混乱期に生まれた。
実質的な親であるメタトロンから受け継いだ超能力を使い、当時は文明世界の再構成を阻まんとするモッド達との戦いに明け暮れていた。
でも少し前に色々あって、クオリア達が所属していた組織が解散したのでクオリア達は皆それぞれ違う道を歩み始めた。
現在のオニキスはガレスという相棒と共にセカイを旅しながら傭兵として活動している。
ルビーは新しい道として学校へ入学するという道を選んだという訳だ。
「お疲れ~もうすぐ蕎麦が煮えるから食べましょ」
「蕎麦?」
「なんかヒッコシソバっていう昔の伝統行事みたい。長く切れない付き合いを、みたいな……つまりゲン担ぎみたいなもんね」
「へぇ~面白い、初耳ですね」
「たまたま知っただけだけどね、あたし元々そういうの気にするタイプでもないし」
「まぁまぁ、それで上手くいくなら安いもんじゃないですか」
「……だといいけどね」
・・・
バスが襲撃にあったり、ロイヤルナイトに事情聴取を受けたりと、今日一日なんやかんやありはしたが、ようやく恋は新居のアパートに到着した。
今の時代は気軽に七大都市間の移動が出来ない為、当然アパートのう内見も出来てなかったが、予算内で、しかも一番安い物件を選んだから、ボロいのはまぁ仕方ない。
幸いな事にそれ以外は部屋に致命的な欠陥は無さそうだった。
(……ふぅ、これ以上引っ越しとかで煩わされたら頭がイカれちまう所だった。まさか荷物を持ってないのが幸いするたぁな)
恋の荷物はあってないようなものだった。
シャンプーや歯ブラシ、当面の生活費、まだ袖を通していない学校の制服、ジャージ。
彼女がヤンキーである事を差し引いても、年頃の女の子にしては壊滅的に物が少ない……というかそもそも恋は以前から私物をほとんど持っていない。
彼女が今まで暮らしていた孤児院『うさぎの家』は元々治安の悪い新月街の中でも更に治安の悪い下層にある。
スラムの孤児院が裕福な暮らしを出来ている訳も無く、恋自身も孤児院を経営するシスター・ラヴィオラの負担を減らしてあげたいと思っていた。
(学校か……)
何も無い部屋の床にごろんと寝っ転がり、殺風景な天井にぶら下がっている簡素な照明を眺めながらぼんやりと考える。
どちらかと言えば難しい事を考えるのは苦手な恋だが、その胸中は複雑だった。
今回、恋がジュラルバームの学園に入学出来たのはジュラルバームが街として行っている「就学支援プログラム」という慈善事業によるものだ。
恋はそれがまず金持ちの傲慢に感じていけ好かないと感じていたが現実は厳しい。
孤児院を出る日がやってきたとして、スキルもコネも無いスラムの若造に一体どんな仕事にある?
身体を売るか、マフィアの下っ端になるぐらいしか道は無い。
恋にとって入学はまさしくチャンスなのだが……どうにも心の何処かに諸手を上げて喜べない自分がいる。
(わかっちゃいるんだがなぁ~…………ヤメだヤメだ、さっさと寝ちまおう)
現状に対する不満を無視するかのように恋は目を閉じた。




