第39幕:新たな世界で歩くこと
『では、皆様。また、何処かでお会いしましょう』
『夢か、現実うつつか……はたまた別世界か。皆様の明日が、優しい夜明けで始まるように……!!』
………。
歓声っていうのはいいものだ。
それは、言うなれば物語の幕引きを齎す糸。
歓声が多く、どこまでも轟く―――その熱量が多ければ多いほど、更に多くの人々から惜しまれた舞台であったという事。
私が最後の舞台を終えた日の事、今でも覚えている。
いやいや、最後だけじゃない。
どの国で行ったものでも、それこそ道すがらなんの気なしにセッティングしたものだって、全部全部覚えてるさ。
誰かの、人々の歓声を聞くたびに思い出すんだ。
………。
物語は終わるものだ。
けれど続いていくものだ。
きっと、新たな物語のピースとしてどこかの誰かが引き継いで、また新しい物語を紡いでくれる。
新たな糸が、次の幕を。
………。
……………。
「ルミエーー、おーい、はよ起きろーー」
「ルミエちゃーん。朝になるよー」
朝らしい。
実際どうなのか一考の価値ありな点として、私の目覚めログインに反応して呼び始めたのか、それより前にもずっと呼び続けていたのか、確認したい感情とそのままがいい感情が二つあるみたいで。
はしたないことだけど、特に顔を洗うでも髪を梳かすでもなく一階のスペースへと降りていく。
意味のないことを楽しむのもハリある人生のコツ、そのうえでやらないも楽しみの一つってね。
「やあ諸君、おはよう」
「おはよールミエちゃん」
「おう、寝坊助―――飯は?」
「たべるー」
何だかんだでいつも用意してくれるんだ、店主君って。
オルトゥス時間で二年以上も過ごしておかしな話だけど、あっちの世界でご飯を食べて休んだはずなのにどうしてかこっちで起きるとお腹がすいてるってことが当然なんだよね。
この辺、ゲーム内で最後にご飯を食べたのがいつかって話だからさ。
テーブルの上には数種のパンが入ったバケットと果物が数種入ったバケット。
「―――バゲットのバケット……」
「はーい、朝から愉快やんね、ルミエちゃんは。はい、スープ」
「ほほっ。贅沢だね」
今に、エルフらしいエルフなクラレッタさんがミルクスープを置いてくれる。
スープは粘土高め、具材は根菜たっぷり……私のひとしお好きなタイプだ。
「ヴィオラさんは―――」
「私がどうかしましたか、ルミエールさん」
あぁ、いたいた。
「ヘイカノジョ、一緒に食べない?」
「とっくに頂きました。最後なんですからお皿洗いも頼みますね」
「洗う皿があればね」
一人さみしく朝食をとるのは居候の特権らしく。
通商都市名所百選にもノミネートされて、今日も満員御礼大繁盛たる黒鉄商店の皆が仕事仕事で忙しい中、只一人席に座って黙々とパンとスープの素晴らしい献立を味わわせてもらう。
ところで、世界観に合った食事ってどうしてこうもおいしいのかな。
―――そして新聞ってこの世界観に合ってるのかな、今更。
「ルミエールさん、行儀がよろしくないようですね」
「んんーー、んむ。まぁまぁ。本人も反省してるみたいだからさ」
「反省してなさそうだから本人に言ってます」
新聞を読み読み食べるバケット。
読み終わったページを敷いておくとランチョンマットにも出来て、パンくずもまとめて包めるって寸法さ―――ゲームだからゴミは出ない? ははは。
それに毎日この一刊を楽しみにしてるんだよ、私は。
「魔族領土の鉱山で竜骸晶発見だって。ヴィオラさんも見た? 今日の見出し」
「コラムに発見者は偶々ハイキングでやってきた金髪美女(無職)ともありますね」
「そんな人いるんだ、アウトドア無職」
縦読みなし、予告状なし、クロスワードよし―――今日は普通の新聞、と。
で、今週のギルドランキング……。
「ふふっ」
「あれ笑ってるんよね?」
「多分な」
「気にしないのが秘訣です。スープを冷ましてるのと変わりませんよ」
週初めに新聞に載るギルドランクの推移……勿論直接叡智の窓でも確認できる情報らしいんだけど、ギルドに所属してない私とかはこういうのでもないとそんなに目を通さなくてね。
ランキング一桁台、多くの顔ぶれは固定―――そう思ってた時代が私にもあったよ。
一位、円卓の盃
二位、古龍戦団
三位、亡者の千年王国
四位、黒焔騎衆
五位、精霊賛歌
六位、千獣海魔連盟
七位、朱き冥剣
八位、一刃の風
九位、聖剣連合会
上位ギルドの合併とか、新規勢力の参入とかもあって今はまさに戦国時代。
超大型アップデートに伴い魔族領域のPLは勿論、この世界のNPCさんたちもが勧誘次第でギルドの参加枠に入るようになった。
今のところ流石に12聖さんとかクラスは未確認だけど、例えばギルドランク五位の精霊賛歌なんかは元妖精賛美のアミエーラさんを筆頭にティリネルさんやルイちゃん、そして妖精王さんみたいな超ネームドのNPCさんが参加してたり。
前例がある以上、他にもボスクラスの実力者が入る可能性だってあるわけ。
解散して新たな勢力となった人たちもいれば、復活を待ち望む声のあるギルドも多い。
「マリアさまぁぁ!!」
「うちのギルドに入って……、入れぇ!!」
「てかギルド復活させてくださーー! お姉さまぁ!!」
「ひぃぃぃぃぃぃい!! 私はただ広場で演奏がしたいだけ、なので!! 追ってこないでほしいんですのーー!!」
今はとにかく有望株、枝、大樹の取り合いだね。
引き抜きとかも盛んだけど、あの終局クロニクルで活躍したPLで、かつフリーの人たちは更に輪をかけて人気だ。
「ノルド君ノルド君。恒例の流しマリアさんよー」
「あー、おぅ、そうだなー。へいらっしゃい」
「いつも通りの光景過ぎて反応薄くなってきましたね、ノルドさんも。あ、いつも有難うございましたー」
「もくもく……」
平和だねー。
店先にはハト君たちがホーホー鳴いて、大通りでは時折流しマリアさんが右へ左へ。
これがオルトゥスのFUURYUUってやつだ。
「そ・こッ! 風流感じてないで助けてくださいッ!!」
「あ、うん」
「ぜえ……ぜえ……。最近いっつもこの店に逃げ込むことになってます、の……ッ」
「大使館か? ウチぁ」
「各重要都市に支店を作って領主公認の商売をしてますからね。PL達も損ねたくはないでしょう」
黒鉄商店、いつの間にか治外法権になっちゃったらしい。
ヴィオラさんの商売人としての力が光りすぎた結果だね。
「元々の取引先と商談はしましたけど新規で開拓した覚えはありません。どこかのルミエールさんが繋いだ既存ルートです」
「どこかのルミエールさんはここのルミエールさんです」
「照れるね。あ、マリアさん新聞見た? 黒焔騎衆がランキング四位だって。冥剣って人たちも一桁台だし。凄いよね、タルタロス陣営の躍進」
「それですの!」
それなんだ。
「クオンさんたちがやーべぇせいで隠遁してる私にまで色々とお声がかかる! 逃げる! 逃げ込んだ先で追われたと思ったら飛竜に拉致されて魔王城に連れてかれる! あげくは四騎士に囲まれてギルド入りを迫られる! 一体何が起きてるのか説明してほしいですわ!?」
「本当にマリアさんって拉致が似合うね」
「全くです」
「黙る!!」
そうそう、このランキング第四位のギルドとかは魔族側のPLたちが創ったギルドだったりして。
団長はクオンちゃん、副団長はあの日に出会ったミーアちゃんで、戦闘員には例の悪夢騎士とか名のあるPLが居たりする怪物軍団だったり。
まさに人界側は悲鳴を上げてたりもする。
主にビーンさんとかガタノトアさん、レーネ君だったりだけど。
それで彼ら、連合組んで包囲網を敷こうとしてるらしいんだって。
六位の千獣海魔連盟も対抗の結果発足した合併ギルドだ。
「快進撃を止められればいいね。もぐもぐ……」
「人ごと!!」
「マリアさんだって人ごとだろう? あと、他人の不幸でご飯がおいしいって昔から言うらしいね」
嘆息するように天井を仰いだ彼女は今に隣の空席を引いて座―――ろうとしてそこに腰を落ち着けていたハト君を見つけ、更に別の席をむけば照明係君が転がってる。
「満員……。さぁルミエールさん! 今日こそ一緒に第七ホールの世界へ行きましょう! 入口はタルタロスの霊山の何処かです!」
「この前行ったばっかりじゃないか」
「先日のハイキングはよく分からない採掘大会に発展して激レアアイテムが見つかった後ジュデッカさんに攫われて頓挫したでしょう! 今日こそ行くんです……!」
「えー。家でゴロゴロする計画なのに」
「貴女何のためにゲームしてますの?」
「だって私の職業は―――」
「失礼する」
「お邪魔しまーす」
あ、円卓ズだ。
ぞろぞろと、お店にいるお客さんたちの羨望を浴びつつ現れた環境トップに君臨し続ける彼ら。
団長と副団長の鎧ズは相変わらずきらきら光ってて。
「見つけたぞ、歌姫殿」
「お呼びですの?」
「そそっ。早速交渉だっ。とりあえず前金で100万アル」
テーブルの上にアル金貨がたくさん入ってることが予測される袋が幾つも。
自分と同じ金色キラキラに惹かれたのか証明係君が卓上に移動して、私も果物を取る振りしながら手を伸ばしてみるけどヴィオラさんにぺしってされた。
食事の作法はいいけどお金の作法は手が出るらしい。
「新たに見つかった旅の扉の先、どうにもかなりの高難度エリアみたいでさ。ちょーっとばかり協力してくれないかなーって。報酬は時給で―――、このくらいでどう?」
「むむむ……」
「歩合も出すよ」
ギルドに所属する人もいれば、フリーで傭兵的な立ち回りをしてる人たちもいる。
名の知れた層としてはユーシャちゃん率いる【勇者隊】とかも絶賛傭兵稼業。
勿論、サーバー最強のPLな剣聖さんとかもフリー。
仲良くなって何とか取り込もうとしてるギルドも沢山あるみたい。
「ルミさん」
「やぁ、ムーン君。今日もお日柄が良いね」
青騎士君とマリアさんの交渉が白熱。
その間に彼は照明係君がいなくなった席に座り込む。
鎧のままだと結構面白い絵面だ。
「単刀直入に言おう。結婚機能、知っているか」
「昨日食べたよ」
「それはよかった。私と共に食べないか。実はこれから行くクエストの最深部には教会での儀式に必要な指輪の材料となる―――」
「今すぐあの鎧キングをつまみだすならこの条件でいいですわ、ラントさん」
「ハイハイ、王さまー。交渉終わったから行こうねー」
「待てラント、まだ話は―――」
「ゴードン、ロッカ、引っ張って」
「「あいさー」」
「じゃ、歌姫さま。日曜の13時から19時くらいでよろしくね」
「労働条件の詳細はあとでメールで送ってくださいね、ちゃんと確認しておきますから」
「はいはーい」
「く、ぬ……! 放せ……、放して……ッ」
「ガチで全力抵抗してくるじゃんこのキング」
筋力値の差で無理やり引き摺られてくムーン君。
最近あそこの団員くんたちは彼の扱いに慣れてきたっていうか、真に仲間として気心知れてきたみたいだね。
「新しい異界の入口ね……。ランキング一位、単純な戦力差は知らないけどサーバー最強格の彼らでもてこずるって、何が起こるか全くの未知数ってところだね?」
「単純な戦闘能力では測れない環境とかもありますからほーんと困っちゃいますの。どこかの誰かさんが戦線復帰してくれれば何処も総出で確保しに来るかもしれませんけどね」
「ふーーふふっ」
「あれは―――笑ってるん?」
「スープ冷ましてるだけですね」
「分かんねーよ、どっちか。何で分かんだよ」
ズズ……、と。
「うん、おいしい」
「―――本当においしいスープは冷めても美味しいし、シンプルだから値段も手頃。詰まる話、無職でも長時間お店に居座れる」
「せこいです。ドリンクバーで居座る客のレベル」
「スープバー付きがいいよね、やっぱり。……スープが冷めるまで話せる相手、ゆっくり食べられる時間……。私はこれでいい、これがいいのさ」
―――――――――――――――
【Name】 ルミエール
【種族】 人間種
【一次職】 無職(Lv.20)
【二次職】 道化師(Lv.20)
【職業履歴】
一次:無職(1st) 聖女(――)
無職(1st)
戦士(1st) 剣士(2nd)
光剣士(3rd) 光明剣士(4th)
無職(1st)
二次:道化師(Lv.20)
【基礎能力(経験値0P)】
体力:11 筋力:13 魔力:36
防御:10 魔防:10 俊敏:20(+30)
【能力適正】
白兵:E 射撃:E 器用:E
攻魔:E 支魔:E 特魔:E
―――――――――――――――
「はぁ……。本当に貴女って人は……」
「っふふ……。そこがルミエールさんの魅力ですからね。誰より分かってるはずでしょう? マリアさん」
「理解と納得は別ですの。最高の支援職にも、最強の前衛職にもなれたはずの人なんですよ? これ」
「ついにこれ呼ばわりだ」
「残念、N回目ですわ。ほーらルミエールさーん? これが何か分かりますわよねー?」
「ぬ」
彼女が取り出すのは手のひらサイズでかぐわしき物体。
分かる、わかるとも。
ゲームの初ログイン以来、ずっとお世話になり続けてきたまんまるフォルム。
けれどきんきらりで、まあるくて、瑞々しい緑の葉っぱが付いた果実。
重ねて言うけど、きんきらりなんだ。
―――――――――――――
黄金果実ザ・ワン・ピート(小玉)
RANK:EX
【解説】
数多の冒険家が追い求めた神話の果実。
失われた世界樹の根に育まれ、
精霊の力を内包した果肉は魂の位階を
引き上げる力さえ有する。
【用途】
経験値アイテム/レベルアップ(小)
―――――――――――――
「今は黄金のピートだってありますから、レベル上げだって簡単なんですよ?」
「むむむ……!! それは本当に食べたい」
「こういうところでしかテンション上がらないんですの? 貴女」
黄金のピート……。
皆さんご存じ、これまで幾多の道化師や無職、聖女たちが探し求めてきた伝説の果実―――。
「全部貴女じゃないですか」
それがまさか、レベル100に到達したPLの余剰経験値が結晶化したもの……俗にいう経験値アイテムだったなんて。
道理で世界中探しまわっても見つからないわけだし、このムショクの目を以てしても読めなかったわけだ。
「節穴だから無職なんですよね?」
発覚したときの最初の興奮は忘れない。
何度かだけムーン君とかマリアさんに食べさせてもらったけど、これが絶品のなんのって。
パクパクしてるだけで幸せになっちゃうんだ。
「絶対にレベルが上がらない無職に餌やりする不毛に気付いてからはやめましたけれどね」
「由々しき問題だよね」
「世間一般で言う当たり前の行動かと。むしろ何度もあげる時点で阿呆なのですか? マリアさん」
「食べてる姿がちょっと可愛くてつい……。あ、けれどムーンさんは只の阿呆ですわ。まだ定期的に貢いでる」
いないところで酷い言われ様のムーン君に悲しき今。
ともかく、この黄金ピートの出現によってまだゲームを始めたてのPLでも攻略に参加しやすく、また構成を見直したいっていうPLとかがレベルを初期化して違う道を模索しやすくなったわけで。
まだ5thが解禁されて幾ばくも経ってないんだから、当然構成だって模索中。
むしろここからが各種対戦が盛り上がってくるところなんだって。
終局クロニクルを境に、世界中に現れるようになった異界への裂け目。
広がるは新たな未知領域、ランダム生成で無数に広がる扉の先。
そして転職し放題、自分に合った構成を限界まで煮詰めることができる無数の職業、二次職の設定。
今まであまり重要視されてなかった一次職と二次職の兼ね合いまで含めて吟味、出力する。
本当、これまでがチュートリアルだった、ともいえるかもしれない。
「そろそろ行こうかな」
「「お」」
「私のおススメは職業斡旋所です」
「同じく」
「元々外出の予定だったよ? 王国の都市でやる吟遊ブラザーズの演奏会見に行くんだ」
あの辺はまだ中枢の政治機能停止による復興が残ってる。
PLが貴族として名乗りを挙げたりもして、凄い賑わいなんだよね、実は。
「じゃあ諸君。今日という日を―――」
「はいはい」
「忘れないので早く出かけてください。仕事の邪魔です」
「拾い食いするなよ」
「門限までには帰ってくるんよー」
やれやれ。
穀潰しなだけなのにどうしてこうも当たりが強いやら。




