第38幕:また明日
「ルミ、やっぱり怒ってる?」
「怒る」
子供っていうのは人の感情に凄く敏感だっていう。
大人より小さくとも、遥かに人の機微というものをよく理解しているから、懐く懐かないでその大人の人となりが分かるって……。
ハクロちゃんから見て、今の私は怒ってるらしい。
「ルミの怒ってるところ見たことない。だから、不思議」
「むぅ。悪夢さん……」
「見えないわ。色なんてなーんにも見えない」
無言の中に何か普段と違う変化でも感じちゃったのかな。
確かに今の私の胸中って言ったら平常というにはちょっと違うけど、彼女が指摘してくれるような怒るっていうのもまたちょっと違うんだ。
無性に……、そう、何だか身体を動かしたい気持ちっていうか。
何か、熱中できることをしてたい気分。
今に抑えきれなくなりそうな衝動を解放し、転職によって大きく向上した身体能力のままに飛竜から飛び降りる。
狙いはすぐ真下を群れで移動してたエンジェルって感じの子供型天使たち。
五人ほどの隙間に潜り込んで。
「そぉーーーい。からの……、タタタタッ。しゅぱーん……」
「「……………!」」
決まった……。
順に、頸の致命攻撃に始まって左胸、こめかみ、脳天、下腹部―――どれも肉体破壊の必殺コンボさ。
私のこれを受けて立ち上がらなかった敵はかつていない……。
「キュォォォォ」
「「ホアァァァァァ」」
「あれ?」
おかしいな。
まとめて切り裂いたはずなのに、殆ど減ってないっていうか一人もキルできてない。
「おかしいね」
「当たり前のようにわてらの方に乗り込んできたでござる。ところで、立ち上がらなかった敵がいないなら倒せるわけねーでござらん?」
「そもそも母数がゼロなのではないか? ルミさん」
「聖女サンが戦闘してるのみたことねーんだが」
「滅茶苦茶に速いしどれも決定打になる一撃の筈なのですが、攻撃が軽すぎるのと天使たちの弱点ではないようですね」
落ちた先で飛び乗ったのは円卓ズの送迎飛竜。
今に悪夢さんの騎竜も横に着けてきて。
「エネミーとの戦闘経験がなさすぎよ、ルミ。そんなんじゃ倒せない。今までずっと後衛支援やってたのがいきなり前衛なんて、まともに戦えるわけないじゃない」
「なんという正論」
皆ボロボロに言ってくれるじゃあないか。
取り漏らしは私が決めポーズしてる間に彼らが片づけてくれたみたいで。
あぁ、そうだ。
確かに私はこれまでまともに魔獣とかと戦ったことないけどさ。
思えば、数少ない戦闘も殆ど魔獣より攻撃の通りやすい対人ばっかりやってたような記憶があるけどさ。
「けど良いや。すっきりしたし」
「やっぱストレス解消かいッ!!」
「雲どころか綿あめのような方ですね、王よ」
「それでこそルミさんだ―――、まだまだ来るぞ、各自押し進んで討って進めッ」
「ん……めあ」
「勝負ね、ハクロ。良いわ、先行譲ってあげる」
「白跳び―――白刃、さざれ雨」
弾幕の飛び交う戦場。
飛んできた光の奔流を真正面に飛び出したハクロちゃんが斬撃で分散―――そのまま八相飛びのように円卓さんたちを乗せた飛竜を乗り継ぎ、一息に消滅エフェクトのガラス片をまき散らして戻ってくる。
成程、現代の英雄だ。
「7体」
「やるぅ。じゃあ私も―――エクレアーノ、右よ」
「ホアァァ!!」
変な鳴き声で飛竜が鳴き、その背で悪夢さんが敵を切り裂く。
双剣使いだから単純に効率も上みたいだ。
「6、8―――9ッ!! ……うふ。向こうが自分から飛んでくるんだからわざわざ振り抜く必要もないわね」
「むむ……」
こっちこそハクロちゃんが攻撃を撃ち落としたり悪夢さんが回避してくれるけど、戦域の多くは弾幕が飛び交い、次々と敵味方が撃墜されていく戦争状態。
配分的には敵敵味方、敵敵敵敵味方……撃墜する数の方が明らかに多いけど、供給源になってる空の穴はまだ塞ぐことが出来てない影響でイーブンに近い。
剣聖と悪夢……全てを蹂躙する小嵐二人を乗せた飛竜が突き進み、戦域を跳ぶ彼らを次々と追い越していく。
全ての元凶へ向け、確実に、着実に。
「あら、ミーア」
「メアさん!」
進んでいく中ですれ違いそうになった飛竜と横並び。
出会ったのは彼女の知り合いらしい大人しそうな女の子―――けど皆黒い鎧つけてるからちょっとチグハグ。
で、一緒に乗ってる子たちは私の知り合いだ。
「―――ルミねえ」
「やぁユウト、皆。お友達も一緒かい?」
「初めましてルミエールさん。ミーアって言います。騎士長とメアさんとは良くして頂いてて……。勿論お噂はかねがね」
「勿論いい噂だろうね」
「はい! いわゆる妖怪みたいな扱いです!」
悪意なき暴力……!
「あんまり会話に気取られるなよ。―――”七海断ち”」
交流会もそこそこ。
目の前でユウトの聖剣ハイドゥグラムが振り抜かれ、水属性有する範囲スキルが空間を飲み込む。
「聖剣の固有攻撃……七つの海を断つ斬撃、ってな」
「なーんか嫌な名前だよねぇ」
「他人の気しねーよな」
「あんまり撃ち落とせてないみたいですし名前倒れですし、ナナミ断ちに改名しましょう」
「おうこらー!」
エナの言う通り、エフェクトも派手だし実際すごく強力な技の筈なんだろうけど、属性不利なのか天使にはどうにも効きが悪いみたい。
まだ真の力を発揮できてない、とか。
わらわらっていう言葉はあんまり人型に使いたくないけど、中央を目指せば目指すほど敵の層は厚くなって、減らすより増える方が……。
「ちょ、ミーアさん! 下ァ!」
「回避しますぅ!!」
「「―――――」」
下方から漆黒の奔流が飛んできて天使を薙ぎ払い、道を作る。
空中戦艦バベルの主砲だ。
そして追随するように乱れ飛ぶ鏃の流星はアミエーラさんやルイちゃん、沢山のNPCさんら地上からの援護だったり12聖さんたちの援護だったり。
一つ一つは膨大な数の天使を僅かに削るだけのもの、点にすぎないけど、それが無数の束にもなれば遥か空から見下ろす神にも無視できるものではなく。
「いいねぇ~。道が出来てくぅ」
「進むも地獄ですけど。行くんです?」
「諸君らがいかないのなら我々が先に行くが」
「いや、ここは俺らが」
「私たちでいいじゃない」
「こういうのってどーぞどーぞじゃないの? どうして一番危ない箇所を取り合うのかな」
「目のまえでチョロチョロと、ほんっとうに君たちって目ざわりだなァ!! 数ばっかり多すぎて気が狂いそうだ―――”剣の大天使”!!」
彼女の場所に迫りつつあるからか、第二段階に入ったみたいだ。
虚空が開き、巨大な剣を振りかざす腕が世界を薙ぐ。
「”杖の大天使”」
別の虚空が開き、振り抜かれた杖から発生した属性嵐が飛んでいた戦艦一つを丸ごと撃ち落とす。
「私は神だ。世界の全てを照らす、唯一の神なんだッ! 黙って従え逆らうな。寄こせ、全部全部ぜんぶよこせ! 持ってるもの全てを、自由を、世界を。全部私に寄こせ!!」
………。
「聞いた?」
「「?」」
「変なこと言ってたか?」
「変たところしかないですけど、ガキ大将みたいな事ばっか言ってます」
「神にしてはレベルが低すぎるって話かしら」
いやね、たった一つの輝きになりたいんだってさ。
そんなどうでもいいことが心からの望みだっていうらしい。
「分かってない。彼女は心底全く分かってないね。教えてあげなきゃいけない。あ、こういうのを分からせって言うのかな」
「多分違うわ」
「多分違う」
意味が違うぞと横から突っ込みで叩かれる。
けど何故か武器の面で叩いてくるし、彼女たちって普通に怪物だから普通にちゃんと体力減るんだよね。
「開腹しておこう。ざくっ」
「意味あってる?」
「こっちは大体あってるわ―――、ルミ。掴まってなさいっていってるでしょ? 落ちるわよ」
「おっと、ごめんなさい」
第一段階、なお激しく降り注ぐ光の弾幕。
第二段階、集団で中央に近づくと虚空から現れた大規模攻撃で薙ぎ払われる。
これがあるから誰も光神へと直接攻撃を叩き込むのに難儀している状況だ。
「苦労している様子だな」
「あら、団長」
「騎士長!」
「あ、行く先々で人界側からフレンド交換を求められたせいでもう開き直って兜を外したバディスさんだ」
「うるさいぞルミエールさん」
クオンちゃんとバディスさん混ざってるね。
親しみやすくていい塩梅だ。
「それよりジュデッカ様からの言伝だ。優斗、炎の剣を使え」
「なんで?」
「何でも」
「能力的に結構劣るんだが」
「私を信じろ。秘策がある」
「……。ま、お前がそこまで言うなら……」
「ムムム……メアクォに新たな刺客の予感ですぅ」
「うふ。三角なのに四角なのね」
雲上でのやり取り。
優斗が焔刀斬鬼を取り出すのに対し、クオンちゃんが構えた黒剣が熱の輝きを増す。
「黒晶剣サブナーク……かつて地上に存在した72柱の真竜、その遺骸より新生した魔剣……」
「―――で?」
「お前の武器もまた真竜ゆかりのものであるはずだ」
「大元になった骨董斬鬼は大迷宮産のドロップアイテムだけど別に竜由来の武器じゃないぞ。強いて挙げるならテツの持ってる焔鎚で強化してもらったが……」
「そう言えばそれって骨製の剣なんだよね?」
第一次クロニクルの時だけど、金属系の攻撃を受け付けない【輝ける鎧】アリギエリさんに通用していたのが印象深い。
確か、材質は骨で……。
まるで熾火の炭から別の炭に炎が移るように。
焔刀へ、黒剣の熱が伝播する。
「うむ―――やはり、誤りではなかったな」
「うおォ!? ジュデッカ!」
「唐突に現れるのやめてくれんか!」
「ジュデッカ様」
「これ、何なのです? 元帥様」
「焔の共鳴。真竜アウナス……我が同胞の骨より削り出されし剣に、焔の竜骸晶が息吹を吹き込んだ……。そしてッッ、目覚めよ!!」
「「!」」
ジュデッカ様が剣を掲げると戦場のそこかしこから紅蓮の光が灯る。
この輝きが全部真竜由良の装備ってコト?
「これ……、思ってる以上に真竜ゆかりの装備持ってる人っていたのね……」
「トッププレイヤーが沢山いるからな、この辺。そりゃ激レアアイテムくらい沢山持ってるだろ」
「すげえー……」
「我らは神の欠片であるゆえに。肉体は滅びたとしても魂までは滅せぬ。くすぶり続けた者たちは待ち続けている、戦いの時を。主とともに空に輝ける光を撃ち落とす時をッ」
「共に参ろう、友らよ。竜に認められし所有者たちよ。今こそ全ての宿命を終わらせる刻!」
共鳴反応。
各地から上がる雄たけびがどんどん大きくなってくのは真竜由来の装備を使ってる人たちの能力値が天井知らずに上昇しているからだろう。
今に燃え盛る反逆の熱、かつて敗れ去った者たちが光の熱を押し返す。
「何で!? やっぱりおかしいッ! ラーディクスが消えたのに焔の加護は強まるばっかりだ!」
次々とこちらの有利に働く情報が出てくる。
着々と暗躍し、全ての手札を使って盤面をひっくり返した光神に対してトラップとなるカードを次々と出していくようなワクワク感。
空に浮かぶ黒い太陽―――封印された状態の魔神王さんは本当にこのことを予期して準備していたのだと分かる。
魔族たちを指揮するジュデッカさんも、主を失ったはずなのにまるで戦意を失ってないのがその証明。
私たちの誰にも届くような、システムを利用した声で叫ぶ光神に対し、やれやれと言ったようにジュデッカさんが首を振る。
「弱まったのではない、貴様の光がくすみ始めているのだ」
「なんだって!?」
「簡単なこと、権能の分散―――陛下が魔族らに分け与えたことで力が分散したというのなら、その封印が完全となるまで維持する貴様の力は細分化され、露出した魂の分消耗は激しくなる一方だ。照らす範囲が広くなればなるほど陰りは色濃い……当然であろうがよ」
「……どういう?」
「あれやこれやと手広くやりすぎ、リソース割きすぎって話ね」
「トワもよく分からないピコピコとかやってるときにそんなこと言ってた」
大事なのは詰まる話、この機を逃す手はないという事。
七色の属性を纏った矢が、槍のように降り注ぐ大氷塊の氷柱が、ショウタ君ら俗にロマン砲と言われる最高威力の魔法職が放つ渾身の波動が。
援護射撃として細く長くが固定化しつつあったそこに押し寄せるような怒涛の攻撃が光る。
今まで片手間みたいにそれらを捌き、往なし続けていた光神さんの手に戸惑いとぎこちなさが混ざっていく。
どれだけの技も意味がないと口では言ってて、明らかに弱弱しくなっている。
「ふざけたことばっかり! ”斧槍の大天使”よ!」
上に無数の穴が開き、降ってくる巨大な刃。
槍が降るって本当にあるんだ。
「彼女、ポーカーフェイスが崩れてきたね」
「マラソンでも大食いでも表情が崩れてきた子から負けていくのが勝負の世界よ」
光神の崩れた表情には必死さが表れている。
既に出し尽くしつつある、本気の顔。
世界の簒奪者として、驚いたり間抜けな顔をしたりと色々と顔芸を見せてくれたことは数あったけど、「必死な顔」……その一点はかつてない。
「関係ないところで妨害が入るも、もうどうでもいい箇所が欠落するのも。そんなのは冗談交じりに許容することは出来ても、その一点だけは譲れないっていうところが崩れちゃえば穏やかじゃいられない。道理だね」
今初めて、本当の意味で彼女の自負の根幹となる土台に罅が入った。
「―――、こんな……。こんなッ」
彼女が見下ろせば地上には沢山の光が灯っている。
強い光が他をくすませようとするほどに、新たな光がより強く煌めき、灯る。
……彼女が心底拒絶したいらしいものであり、私が心底欲しかったもの。
「征くぞ、御子の守護星」
「命令するな、―――主らの生きる世界のために、仕方なく協力を……」
「黙って閣下に従うのです、アレス殿」
「まぁまあ、命令の権利はないのですから……」
「む、貴様ら喧嘩は良くないぞ。特に女同士の喧嘩程醜い―――」
「「黙る!」」
ジュデッカさんが、アレスさんが、三騎士が……。
最強の味方達、かつて神々の産み落とした星と大地の欠片が神の防殻を打ち砕く。
神へと刃を届かせる。
一つ一つの攻撃が光の壁を砕き、防御に走った巨大な羽を焦がす。
「攻撃通るのであーる! 主砲、放てぇ!!」
「おおおおォォォォォ!! ”紅蓮大噴火・滅龍弾”」
「渾身の魔笛を奏でよう! みんなで歌って踊ろうよッ」
「竜が飛べるのならば竜人である吾も飛べるのが道理ッ! 炎天大征!! ―――ぬおおおォォォ……」
「ロランドがまた落ちたぞ! 回収ッ」
「DPS的に回収してるリソースの方が勿体ないですし、もうあの方縛り上げておいた方が良いのでは? ”反逆の鏃”」
「それに関してはジャーナリストもどきに同感ですね……! ”極光の一条星”」
集ってきた群雄。
誰もが思い思いの必殺を惜しげもなく叩き込む。
どれだけ強力な範囲技だろうと、どれ程沢山の敵を異界から召喚しようと、この一瞬の戦力比は完全に崩れ去った。
「何で―――どうして!? どうして勝たせてくれないのさッ。だってそれっておかしいじゃないか! 私頑張ったのに! 私だって必死に頑張ったのに! クエストがあって、ゴールがないなんておかしいじゃないか! おかしいよね!?」
「君たちも、世界も……結局皆私の導きが必要だっただけで、私の事なんて一度だって見てくれなかったじゃないか!! 知ろうとなんてしてくれなかったじゃないかぁぁ!」
やっぱり、クエストのシステムっていうのは光神固有の力らしい。
そこへ至るまでのプロセスを可視化する、「道を照らす光」としての性質が彼女の本質であって核。
全てを照らすだけの力はなく、一寸先の闇を照らしてくれる存在だった。
「一歩進んで、また一歩……もう沢山だった!! だってヒトが聞いてくれないんだ!! 私がどれだけ親切に、親身に道を照らしてあげてるっていうのに、自分からその道を放り出して、勝手に……何度も何度も何度も何度も……だから私が、特別な誰かが導いてあげなきゃいけないのに!! 弱弱しい彼らを守ってあげなきゃいけないのに!?」
……。
凄く頑張った―――努力したから。
努力したら、その分だけ必ず報われる?
違う。
じゃあ、誰にも見られないっていうのはその人の頑張りが足りないから?
違う。
必ず見てくれる人はいる。
まだ巡り合えていないだけ。
本当の芯に寄り添い、理解してくれる人は必ずいる。
きっと、本当は……彼女はそれを探さなきゃいけなかったんだ。
見つからなかったんじゃなく、辞めちゃったんだ。
悠久、幾星霜、遥かなる……途方もない時間が存在していたのにも関わらず、見つけるためのヒントはあったはずなのに、彼女はそれを自分の足で見つけることをやめてしまったんだ。
「外側に理由を求める人もいれば、内側に求める人もいる。光だとか、闇だとか。皆どっちかばっかりだ。いつだってどっちかに偏りすぎるんだね。今だからわかるよ。私もそうだったんだ」
「ルミ……」
世界の始まり。
最初の選択で、彼女は間違えた。
―――修正は? できないなんてことこそ、あり得ない。
だって私が出来たんだから。
空っぽの器が、ゼロが一になれたのだから。
「マリアさん、精神攻撃お願い」
『―――――』
『マイクテスト、マイクテスト』
『光の神―――、貴女はやはり愚か者ですわッ』
『地底の神であり、天上に迎えられた神でもあった。貴女はどちらにも居場所を持てる存在で、双方を繋ぐ存在にもなれるはずだったッ!! 双方の妥協点たる道を照らし、全員と共に行くことも出来たはずなのに……。探し物を探すことも諦め、照らすことも諦め……孤独を選んだ。唯一になればわかると思いましたか? 世界全てを手に入れれば見つかるとでも思いましたか!? きっと……一生無理ですわ。自分の光に目を焼かれ、挙句大きすぎる範囲でしか見てない。光が強すぎれば見えないし、大きすぎても物事は見えない―――そんなの当たり前の事じゃないですか!!』
強すぎる光の中で、人は目を空けられないから。
真っ白な光しかない世界っていうのは、目を閉じているのと何も変わりはしない。
彼女って結局、ただ見たくないものから目をそむけただけだ。
空虚を埋めるために、埋めるものを探すためにとりあえず全部が欲しいだけ。
けど、その全部の中に彼女が欲しいものはきっと存在しないから。
『当たり前の事すら分からないくせに全能の唯一神なんて、恥ずかしくて顔から火が―――』
「うるさーーい!! 耳障り……耳触りの良い正論は沢山だッ。君みたいな如何にもな特別が、私は本当に嫌いだったッ!! 口を開けばリアソールみたいな正論ばっかり!」
光神が大きく手を後ろへ突き出し、握りこむ。
光が収束して形となる。
あれは魔神王さんを貫いたのと同じ光槍―――狙いの先は空中要塞。
「まとめて―――消えろォォォ!!」
地上全てを吹き飛ばす勢いの槍。
着弾地点はたまったものじゃなくなるだろう。
「ぅ……、ぁ」
「リアさま! 結界術じゃ絶対に無理です……!」
「ちーちゃん防御!」
「むちゃいうなーー!! いけっ、ようせいおー」
「それこそ無茶な」
「紅蓮追魔!!」
「金璧の天盾よ―――……、ぐゥ!!?」
リオンさんやタウラスさんらが押しとどめようとしてとどまらない力の波。
天よりの光が今に地上を破壊する……否。
それより早く光の槍へ向けて氷の道ができ、走ってくる影があって。
「ユーシャ、行けるよ」
「光焔斬ッ!!」
光に照らされた要塞にひと際巨大な影となってそれが映る。
たった一人のPLが12聖たちすら留められなかった神罰を切り裂いて散らしたんだ。
「光剣ラディアン……。普段はただ光ってるだけの聖剣ですけど、世界を救うための戦いであればあるほど、大いなる敵との戦いであるほどに強く煌めき、光を吸収して強化する―――たった一回だけの力!」
「―――え、勇者だ」
「っぱ勇者だわ」
「タイミングも都合もよすぎか!」
「……何なの、それ。作った覚えないよ、そんなのっ。またディクシアとアリステラが……。そんなの、知らないよォ! そんなの、ズルじゃないか。特別ばっかり……私がどれだけ強くなっても、特別な人が現れて阻むんだ!!」
十全の準備をして挑んだのにいつの間に全てをひっくり返されつつあって、起死回生で放った一撃もよく分からない一回こっきりの力で防がれて消える。
理不尽極まりないだろう。
心底怒りたくもなるだろう。
けど、悪いことをしたのなら謝らなきゃいけないし、どんな物事にも終わりは来るものだ。
「メア、行こう。終わらせるんだ」
「―――了解」
「ハクロちゃん、ちょっと守ってほしいな」
「ずっと守ってる」
「私だけをじゃないよ?」
「皆」
「「―――――」」
飛んでいく。
先の一撃を分岐点として、中央を目指していた全てのPLが。
最大の予測外に固まっている神を撃ち落とすべく、空を駆ける。
この際だから私も言いたいことを言わせてもらおう。
私の鏡みたいだった、彼女に言いたかったことを言おう。
「君たちっていつも特別特別言うけどね、アールさんにも言ったけどね」
私の声は不思議なほどに良く通った。
昔からそうだ。
けど、今は今までにも増して良く通る。
「特別なんて、誰が決めるでもないんだよ」
何かを成せた時点でその人は特別だから普通じゃない?
それも通る論理だ。
けど、じゃあそれって逆を返すことも出来るよね。
「誰でも、どんな人でも特別になれる。生まれが違えば、世界が違えばともよく言うけど、実際生まれながらに決まったものはないし、定められた立ち位置も、変わらない立場なんてものも絶対にありはしない」
出会い。
何故生まれたかじゃなく、これから何をするか、何がしたいか。
分からないのなら探してみるか。
難しくないよ、きっと出来るさ。
「ねぇ、シアちゃん。何でもやってみればいい。ダメだったら止まって考えてみればいい。耳を傾けて、一緒に考えてもらうのもいい。探してみようじゃないか、自分の足で」
「うるさい。君は本当に―――」
「欲しかったのって、本当は世界なんかじゃないだろう? そんなの、どうでもいいんだろう?」
「うるさいうるさいうるさい!! 分かったような口を、私の全てを理解したようなしたり顔で!」
「させん」
「壁くらいなら―――ッ」
ユウトとムーン君の二人が飛来した光矢を武器で受けた。
あまりの衝撃にまともに受けたわけでもない攻撃でさえ体力は吹き飛び、硝子となって―――。
「……!!」
「エリクサー症候群ではなかったらしいな、我々は」
「蘇生アイテム神智の霊薬……、まぁ持ってるわな、こんくらいは」
もとより能力でそれを可能とする職業があるのだから、自力で可能とするアイテムだって存在するのが道理だろう。
けど完全回復させる力はないみたい。
「使ったことなかったけど、これって体力ミリでの蘇生かよ。今のムーンさん一発殴ればランク一位なれるってマ?」
「それで喜ぶ性格ならやればいい」
「落ち着け、二人とも。ここは私がまとめて切り裂くのも手では―――」
「二人とも危なーい」
「ぐああああ!?」
「危ないと言いながら切り付けてくる矛盾!?」
「夢殉……? 斬る?」
「「そっちはいらん」」
ともあれ皆の援護を受け、或いは援護しつつ私たちは突撃を再開する。
多分、私の役割は攻撃役の彼らを神の身許へ送り届けること。
「一応、何でか聖女だった時期があってね。結構いい役だろう? ―――悪夢さん、視界共有させて」
「任せるわよ、進路は」
ん―――見える。
全てを躱して飛んで、飛んで―――皆が手を届かせるのを助けるように手綱を握って。
「来るな! 消えて消えて消えて消えて、なくなれぇぇぇぇぇぇええ!!」
断続的に発生する光輪の衝撃波。
何処までも轟くようなソレを受け流すのはタイミングが難しいらしく、全方位から異訪者が突き進んでは消え、また道を開いては託して落下していく。
パラパラと降り注ぐ星屑が多くなるのに比例するように攻撃も苛烈に。
「皆がってわけにはいきそうもないね。じゃあさ、メア。ここは私たちじゃなくてさ―――」
「大人は道を示すのみ、ね。若いのに託してあげましょうか。団長、ハクロ……、任せるわよ」
「無論」
「―――。ん、任せて」
「俺らもいまーす」
「忘れないでほしい」
クオンちゃんが、ハクロちゃんが、ユウトが、ムーン君が……この世界で紡ぎ繋がった、再び巡り合った彼らが後ろにぴたりと着き、私たちが前を行く。
大人の私たちがやることと言えば、力の続く限りメアに攻撃を捌いてもらって、私が背中を斬って回復……。
「これ、前と後ろから同時に攻撃されてるようにしか―――あ、」
「先にエクレアーノちゃんが限界だったんだ」
視界が揺れる―――撃ち落とされた。
メアが私を守るようにして手を取ってくれるけど、飛べない私たちは共に落ちてくだけだ。
ただ、私が落ちたのと同じく視界に映るのは届いた剣。
「斬鬼零落」
「絶剣・夢殉」
「王断……!!」
「獄・焔刃滅却ッ」
「う、ぐ―――、ぃア……、やめッッ」
「「―――――」」
「やめ―――いやだ……、いやだ!」
彼らだけじゃない。
時を同じく、或いはやや遅れるようにして全方位から届いた数多の攻撃が神の翼を奪った。
………。
「また―――地上に堕ちるんだ」
「私だって―――、もっと、もっと……」
「怖いんだ」
「嫌なんだ、暗いのは。誰か、ねえ、誰か……。一緒に―――」
………。
『わたし、どうすればよかったの?』
メッセージだった。
全てのPLの元に届いただろう、たったの一言。
それはこちらからの応答を待ってるみたいで、何を返すのかはきっとその人次第なんだろう。
介錯、解釈……? とにかく、受け取り方、渡す言葉次第で消えゆく彼女の最後は変わるのだろう。
私のそれは決まってる。
「どうすればよかったかじゃなくて、これからどうしたいかだよ。探すのさ、これから。君には足元を照らすだけの、小さくても立派な光があるじゃないか……」
「―――――」
「優しい闇の中で頭を冷やしてくると良い。もう一度、君の見てきた世界を見つめなおすために。続きは次、目が覚めた後で」
「だって、今日何をしたいのかなんてその日の気分で変わるんだから。何をするかはまた明日、ね」
………。
……………。
全ての虚空が閉ざされる。
自己を維持できなくなったと言わんばかりに、天使たちはガラスのようなポリゴンになって砕け、消えるのみ。
それらは雪のようにゆっくりと降り注ぎ、視界には当たり前の世界だけが残り。
やがて、地上に落下しただろう私の視界も闇に閉ざされた。
『completion of chronicle』




