第37幕:光祓うとき
「何もかもだ。世界はそうなんだ」
「世界っていつもそうなんだ」
「始まった時からそうだ。最初から、起源から、全部全部。なんだって君たちは。なんだってこの世界は……。どうして全部全部ぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶ……!! ぜーーんぶ私の思い通りにならないのさ!!? 何だっていつも君たちは私の思う通りに動いてくれないんだ!」
クエストの管理者は叫ぶ。
それはまるで思い通りにならない癇癪に身をゆだねる駄々っ子のようでもあり、同時に今まで生まれ落ちてきた全てのゲーム製作者や運営を代弁する魂の叫びのようでもあった。
後者の視点で考えるのなら、好き勝手するゲームプレイヤーに対して本音をぶつけるような。
多分、横道にそれたり本来想定してない運用だとか、そういう遊び方をしてる人たちに対する隠れたメッセージ。
嗚呼、全くもってそうだとも。
「そうだね、ルールは守るべきだ。ダメだよね、そういうのは。ゲームにはちゃんと正しい遊び方っていうものがあるのにさ。開発者が本来想定してない使い方をしたり、折角もらった重要アイテムとかポジションをいらないって捨てたりなんて、なんて酷い……」
「そろそろ貴女って助走付けて一発殴られても文句言えないと思います」
「痛いところを突くじゃないか」
「全身急所の人が何を。痛くない部位があるのなら言ってみなさい」
マリアさんは平常運転だ。
「けど君ってギルドの数は50人が目安っていう了解っていうか不文律を無視してたよね」
「ぐくっ」
あっちもちょっと痛かったみたい。
見上げるは20メートルを超えた体躯で、かつ12対の翼と光輪を持つ人型実体の女神。
事実として彼女は光の化身であり、この世界の創世に関わる地底の神々最後の一柱―――地底の光だ。
望まない行動ばかりとる地上の存在へ神罰でも与えるつもりなのかな。
「あぁ―――。そうか……」
世界全てを騙した簒奪の大神は癇癪を起したように声を大にしていたけど、やがて誰もが展開を伺う中でその声は尻すぼみに小さくなり。
「数が多すぎるんだ」
……。
流れ変わったかな。
「奴さん何か禄でもないこと言い始めてねえか?」
「そんな気がしますな」
「―――もう知らない。世界なんて壊れちゃえばいいんだ」
「おいおい……」
「どうしてそう極端なのか……」
「数が多いと、それだけ目が曇る。……だから私が再構築する。たった一人の神様なんだから、良いよね。もっと小さくて、簡単な……小さな光でも隅々照らせるような世界にしよう。そうしようよ。個人個人に輝きなんて必要ないんだから」
耳を傾ける手合いじゃないって分かってたからなのかもしれないけど、待ったをかける者がいなかった。
今に光神は両掌を合わせ、再びよじるようにしてずらす。
「減らすならやっぱりこれだね―――”空裂”」
裂け目?
いや、穴。
灰色の空に、夜空の……一等星の輝きが無数に現れたような。
無作為に針を突き刺し続けたみたいな穴が次々と開いていく。
実際それは孔だった。
大きさで言えばまちまちで、けどどれもがちょっとずつ大きくなってく。
………。
ガラガラと天から降り注いでくるのは瓦礫の山。
石だったり見たことない形質の樹木だったり、或いは石柱とかの人工物も。
未知領域の建造物群みたいな混沌が出鱈目に降り注いでくるんだ、これが。
「次元が繋がった―――分からない……どこだ? あれは、どこに? 何に!?」
「アレスさん」
「これは何なのです……?」
「我が能力は創造主から齎されたもの……。光神が使えぬことはありません。しかし……」
「三人ともっ、どうなってる!? 想像主は一体何処と繋げたんだ!?」
「うむ、さっぱり分からぬっ」
「確かなのは、あれが広がり続けて良いことなど何一つとしてないということくらいでしょう」
「えぇ、得体のしれぬ反応が無数に」
アレスさんも、クオンちゃんに詰め寄られた三騎士も分からないという。
何処かにつながった空の穴。
光神アルケーはアレスさんと同じ次元を裂く攻撃ができるんだ。
けど、今回彼女がつなげたのがどこであるのかは光神の眷属であった彼らですら誰も分からない。
「ふふっ、あははははっ。私はね? 確かに最弱の神だよ。けどさ、私自身が弱いからって使うものまで弱いとは限らないよね」
瓦礫とともに降ってくる中に生体反応。
レベルがあって、能力がある……魔獣?
いや、ソレは天使だ。
一般的に美しいとされる特徴を持ったそれらが舞い降りてくる。
人型で、体長も一メートルほどのものから通常の平均的な身長、三メートル超えのものからそれ以上のもの。
ギリシアやローマ系の石像をモチーフにしたような筋肉質なものやしなやかで女性的なものまで。
皆一様に布の服で身を隠し、背には翼がある。
中には手に大きなこん棒を持ってたり鞭や原始的な槍などの武器を持ってる者もいる。
「綺麗だろう。ここではない何処か……。君たちの好みで言うならば新天地。私でも何が起きるかは分からない。好きだろう!? そういうの!! 来るよ来るよ、かつて降り注ぎ地底に埋もれた流れ星たちが。忘れられた来訪者たちが……無限に」
赤ちゃんみたいな体型から成人のものまで、身長も様々。
浮かべる表情も笑顔だったり悲しみだったり無表情だったり、そして浮かべてはいても感情の温かみっていうか……。
「色がないわね」
「そうそれ」
悪夢さんの言葉通りだ。
何も読めない。
「天使―――か?」
「新種族じゃね? なんか話せばわかってくれそうな顔―――」
「ぐあああぁぁ!? いきなりッ」
「こいつら!?」
あ、無理そう。
舞い降りてきた彼らは表情一つ変えることなく手近にいたPLを手持ちのこん棒で吹き飛ばし、乗っていた飛竜に群れでかみつく。
猛々しく、獰猛で、さらに激しく攻撃してくる。
姿かたちだけ美しくてやってることは野獣と変わらないみたいで。
「明らかに友好的な宇宙人じゃないのだわ! 迎撃、迎撃! ティリネルッ」
「奏者の構え! 全員曲射用意」
「受け取ってくださーい、“性質付与・火星”」
「―――煌めきなさい! “穿孔の鏃”!!」
戦端は開かれる。
限界まで引き絞られた鏃が鉄と石を砕き、同じく飛来する翼を有する人型の何かを撃ち落としていく。
「ポール、トール、皆を護りなさい……!」
「りょうかい殿下! 空でも薙ぎ払うよ! “炎斧嵐々”」
「神器掃射―――”氷槍霧塵”」
流石の天使たちも空を埋め尽くすような総攻撃を受ければひとたまりもない。
防御手段は手に持った武器などしかないのか、魔法で防壁を張るでもなく翼を貫かれて墜ちたり。
地上へ落ちた堕天使へと追撃を駆けるように鉄血候率いる帝国軍や王国の義勇軍がとびかかる―――んん。
「―――うえ」
「何が天使だよ、キメぇよ」
「ん……あいつら、怖い」
「見ちゃダメです、ハクロさんッ」
……人の皮を、という言葉があるけどまさにそれ。
墜ちた天使たちはまるで皮を脱ぐように表層が剥がれ落ち、中からぬるりと現れる異形。
肌の下は骨だけのもの、緑色の肌を持ち牙があるもの、ごつごつと岩肌のような体躯の者、ドロドロと溶けだした内容物だけがうごめき始めるモノ。
表層を失ったそれらがうごめく、翼や光輪だけは存在し続ける。
……天使とも魔獣とも取れるような異形の姿。
「ルミ、マリア、離れて」
「「!」」
「絶剣―――夢殉ッッ!!」
手近に落ちた10メートル規模の不定形天使をハクロちゃんが切り裂いた。
体力を失えばちゃんと絶命するらしい。
けど飛散した不定形がまた別の個体として蠢いて……。
「それッ、っと。”聖化剣”」
「ゴアァぁぁ……!!」
「声は天使とは似ても似つかないね。天使の声を私は知らないけどさ」
ノリで私も斬ってみるけど攻撃は通る。
ちゃんと倒せる普通の魔獣だ。
で、私の攻撃が通るっていうのなら。
「真銀宝珠―――神鳴の太刀」
「砕け、紅蓮追魔ッッ」
「アリステラよ、わが妙技をご照覧あれ。淵水氾濫―――天津波・甕星」
「スライム天使よ、触手勝負なら負けないのであーる」
「触手勝負っていやーな響きだなァ! ロランドさん、そっち行ったぜ!!」
「焔の楔!! うなれエトナよッ。―――焔轟乱舞ッ!!」
大規模な魔法とスキルが入り乱れて大気を震わせる。
彼ら、トッププレイヤーと12聖、三国選りすぐりの正規軍なら十分に張り合えるだろう。
「王断ッ!! ……老師、地上の指揮を任せるぞ」
「む? うむ。任せい、王よ」
「ラント、ゴードン、ロッカ……騎士たちよ聞けッ。―――地上を留めている間に神を墜とすッ!! なれば半魔らよ、私たちを連れて行ってくれる者はいないか!?」
「おれっ、おれー!」
「かの騎士王と相乗りだーーぃッ!!」
「人界の者たちとともに行くぞ!!」
「互いの力は一番よく知ってる、存分に手の内晒していくぞ」
仲いいね、彼ら。
ムーン君といった先導者たちの号令により態勢を整えた者たちがついに敵の本丸である光神への攻撃を開始するために集まり始めて空へと飛ぶ。
「ってならこの木偶の坊も空中の拠点の方がいいんじゃねえか? 御子様がた」
「おっしゃる通りです! 空中要塞起動ッ」
「バベルさま、力を貸してください!!」
人魔連合は光神アルケーを共通敵とし、地上と空に分けて攻撃を開始する。
御子様たちの呼びかけに答えるように起動する要塞が飛び上がり、空の拠点となって空母のように飛竜の行き来を活性化する。
「異訪者らが中枢を滅するというのならば、我らは異形の翼の侵入経路を破壊しよう」
「ぴぃ!? でっかぁ!?」
にゅいと要塞に横付けするジュデッカさんは真竜形態で体長20メートルほど。
相変わらず、すごい迫力だ。
赤い鱗を持つ竜の切れ長な瞳が私たちを捉えて。
「手を貸せ、御子の守護星アレス。あの穴を塞げるのは我やそなただけだ」
「……殿下。皆を護ります」
「はい、そちらは任せますよ!! ここは私たちに……」
「皆さんの帰る場所は私たちが護りますから。アレスさまも魔族さんもお気を付けてっ―――わわっ!?」
竜化ジュデッカさんのあまりに大きな鼻先がステラちゃんの頬をツンと突く。
治療してもらった恩があるからなのか、前々からやけに好意的だ。
「アリステラの御子っ」
「四祖魔公、貴様……! なんと羨ましいッ」
「リオン……? あなた」
「敵はこちらではないぞ、金星銀星……。守るべきものを護ることだな。―――四騎士よ!」
「輝ける鎧―――アリギエリ・スム」
「怒れる兜―――エルゴ・ラース」
「無垢なる剣―――ガラティア・コギト」
「見えざる外套、バディス・クウォ」
要塞から飛び立つ騎士たち、元帥が四騎士を率いて空を行く。
彼らを先頭に勇士たちが雲を引いていく様は現代では考えられないような戦いの構図。
向かいからおびただしくも蠢く天使たちと接敵―――写真を獲ればそれだけで美術展覧会が開けそうな攻防は実際ヨハネスさんが高そうな写真で収め、後ろからハンマーを構えたマリアさんに殴られる。
「凄い戦いです……」
「本当にね」
「―――どうして私殴られたのです?」
けど凄いんだ、あの神様も。
全ての戦線の中心で空に在り続ける光神アルケー……手を振るうだけで魔法を反射し、虚空から次々に金色の光を射出する彼女は何とか接近しようとする飛竜や戦艦を退け続ける。
隙が無いから5thでも最高火力である天師系の大規模魔法すら当たらない。
攻撃が速い代わりに威力も凄くて範囲も出鱈目なのと引き換えにこっちの攻撃は通りにくい感じだ。
その代わり動きもすごく速いし。
「何が代わりになんです!?」
「まぁまぁ。じゃあ、私もそろそろ前線に行ってくるから」
「……。ですか」
「ん、マリアさんはここで皆の援護を頼むよ?」
「―――気を付けてくださいね? 賭け、まだやってるんでしょう?」
「うん」
継続中だ。
―――あ、来た来た。
噂をすればじゃないけど、丁度賭けの相手だ。
「ヘイたくしー」
「もう予約済みでしょう。さ、乗りなさい。ハクロも一緒ね?」
「乗るー」
要塞を襲うように取り付く天使たちを切り裂きながら強引に横付けしてきたのは魔族側の秘密兵器たる悪夢騎士メアさん。
片手で竜の手綱を握り、もう片手の剣で敵を薙ぎ払う。
運転しながらだと思うようにいかないのか、体力が半分くらいに減ってて新鮮だ。
「ポーションいる? 悪夢さん」
「いらないわ。飲んでる時間も惜しいの。だって、待ってた、私はこういうのを待ってたのよっ。自分じゃ届かないような、空想の戦い。獅子でもシャチでも白熊でもない、冗談みたいな怪物や神様みたいな化け物との戦いをね!」
「あぁ、うん」
けどそういう戦いこそ万全の状態で臨むものだ。
乗れといった感じに背を空けてくれる飛竜さん、こちらに背を向けてる悪夢さん。
……今がチャンスでもある。
「ダメって言われてもやるけどね」
「―――か、は……」
普段の彼女だったらこんな不意打ち当たらないのに。
「ル、ミ……! 貴女……!!」
「うん、お疲れ様」
背後から突き刺した剣を更に深くへ。
これで―――。
「治療完了。全回復した?」
「乱暴なんだから……。けどありがと。やっぱり便利な能力ね」
「だろう? 範囲回復とか蘇生とかは出来なくなったけど攻撃も回復も出来る便利な―――」
「この不良聖女!!」
「変な扉開くわッ」
「皆見てる前でサイコパスみたいな治療方法辞めてくれます!? せめて相手に一言断ってから剣ぶっ刺してくれます!?」
私は気に入ってるけどやっぱりこの方法あんまり周囲のウケ良くないよ。
ここは小粋なジョークでも。
「人斬りルミエール爆誕だ。ナイフとか舐めちゃおうかな」
「キャンディで我慢してください」
前線に行くならそれなりの出来ることがないといけないからね。
私はこの役割ってことさ。
「というわけで手あたり次第斬りまくっていこう。じゃあね、諸君。今日という日を忘れずに」
「ごー」
「出発するわよ、舌嚙まないようにね」
要塞に別れを告げ、メアさんハクロちゃんと飛び出す。
敵や味方側とすれ違う中で敵は普通に斬って、仲間は回復効果のスキルで斬る。
どっちも斬るだけど違う斬るだ。
「はっっっや!? 僕今なんか斬られたんだけど!?」
「けど回復したぞ―――ってルミエール殿!?」
「やあ。円卓の皆さん。あ、ゴードンさんとかもケガしてるね。斬っていい?」
「どゆこと!?」
「成程……。むしろ斬ってくれ。私を斬ってくれルミさん。滅多切りに」
「「王さま!?」」
「最近すーぐ乱心するんだけどこの団長!」
ムーン君は別に体力減ってないけどな。
「じゃあ一回だけ、サクッ」
「ぎゃぁぁ!! 王さま刺された! ギルドランクが変動する!?」
「暴れてまーす!聖女暴れてまーす!!」
「やりたい放題過ぎぃ!?」
敵は斬るし味方も斬る。
一番の激戦区で知り合いさんたちに声を掛けたりかけられたりしながら、ある時は空中で飛竜から飛び降り、別の飛竜に飛び移ってを繰り返し、進退窮まったら脱出転移で移動させてもらう。
「本当に便利だね、道化師。失って気付く便利さってある」
「私とかね」
「ルミにはハクロがいる」
聖女も失ったし道化師も一度は失って、今の私は敵味方問わず切り裂きただ可愛いだけのハト君を召喚することしかできない悲しきモンスター。
「その辺も重なるんじゃないかな? かつて持ってたもの全てを失い、自分の言うことも聞いてくれない翼もちを召喚することしかできない神様」
「……あ!?」
あ、聞こえてたの。
どうしてか20メートル超え女神様の顔がグリンとこっちを向いた。
どれだけ離れてても悪口だけは聞き逃さないタイプだったらしい。
「君たちも私を馬鹿にするんだ……! 私だって輝けるのに。私こそが光なのに……!!」
「多すぎるんだよ、命が! 多すぎて見えなくなってるんだ。雑多な小さなのが、チカチカチカチカ……目ざわりでたまらないんだ! 輝く命は少なくていいし、煌めくのは世界と私だけで良いんだッッ」
「……。ねえルミ、あの女神さまって存在自体が貴女の地雷……あら」
………。
「ルミ」
「んう? どうかした? ハクロちゃん」
「「……………」」
「どうして皆私の顔を見るんだい?」
「いや、あの……」
大丈夫、みねうちだ。
心配しなくていい、回復だ。
「ルミ、怒ってる?」
「え?」
怒る。
それはちょっと分からないね。
「―――ヨイショ……、っと。安心して、回復だよ。あ。安心して、回復だから―――、あぁそこの君、失礼、回復だよ。まって、逃げないでいいよ、今回復してあげるから……」
「「……………」」
「怒ってるわよね?」
「怒ってないよ?」
「じゃあ目に映る全て切り裂くのやめてあげないかな!? 皆さん怖がってるんだけど」
「ってか普通に太刀筋速すぎか!?」
「そりゃあ、最初に会った時からお姉さんの手業って速すぎて見えなかったし……そりゃ剣技だって速いわけだよ」
おかしいね。
ただ敵を倒して味方の回復行為をしてるだけなのに、皆が心無い言葉を浴びせてくるよ。




