第36幕:欺き嘲弄し
ゴブリン・アルケー……、アルケー。
意味は始まりとか原理とか。
クエストというルールを構築し、すべての人々を縛り付けることでこの世界の法則そのものへと成り代わり、行く末全てを操作しようとした上位存在。
歴史の陰で暗躍し続けた神様だ。
また、アルケっていう言葉にはほかにも幾つかの意味があるけど。
「あ―――こういう時こそ検索機能だね。翻訳カモン、盗賊A君」
「うぃーー! ヒット! アルケーってのは支配って意味もあるらしいぜ!」
らしい。
本当に彼女にぴったりの名前ってわけだね。
「あとは、えーと……、異訪者の―――タタリ、ガミ……?」
「ですか? 優斗」
「残念、字が違う。あれはタタリじゃなくてスウ、崇めるの方だな。―――異訪者たちが祈ったことで意図せず実体を手に入れたことを揶揄ったわけだ」
「システムにまで揶揄われてんのか」
「ウケるね」
ほかならぬ自分が構築したシステムによって同じ盤上に引きずり出された神様。
勝ちが確定したような状態からひっくり返された現状とあってはかなり可哀そうなものであるはずだけど、見上げる私たちの反応は冷ややかっていうか嘲笑的。
少なくとも同情されてるわけではないらしく。
『い、いや……だから何が変わるっていうんだい。クエストが出来たからって、それが叶ったからって何だっていうのさ!? 君たち召喚された者たちが私に触れることすらできないのは同じ、同じ神のラーディクスだってあのザマ。もう私の脅威になる者たちはこの世界のどこにもいないんだッ。どれだけ強力な力を揃えようとも、只人が寄せ集まったところで大神たる私の領域を侵すことは出来ないんだ!』
勝利への確信をまくし立てるそれだけど、多分その通りなんだろう。
見上げれば、確かに魔族の崇める神である黒い太陽さんが光の柱に貫かれた状態で完全に静止している―――封印状態?
とくればこの世界に残る唯一神は光神のみ。
確かにレベルこそ大神の中でも最弱だ。
けど、それでも250っていう数値は大神以外のどんな敵よりも強大で、どんなボスよりずっと強いのは真実。
『良いさ―――。君たちがそのつもりだっていうのなら、神を倒せるなんて思いあがっているのなら、その思考を照らしてあげよう。私の真の姿にて、世界のすべてを極光に染め上げるためにッッ」
シアちゃんとしての姿が消える。
代わりに、天上で収束していく光。
丁度魔神王ラーディクスさんを貫いた槍が落ちてきた空だ。
光輝の粒子によって構築されていくのは金とも銀とも取れる荘厳な光を纏った、端正な顔立ちの女神。
多分銀色だろう髪は光を纏って角度によって色を変化させ、身体を覆い靡く白いベールは雲のように広がり、霧のように霧散する。
およそ20メートルほどあるだろう姿は神話の彫刻になってそうな芸術性を感じさせる。
「まっこと創世神話で言うような女神さまの外見だね。あれでゴブリンなんだ」
「見た目じゃない。―――準備は?」
「無論ッ。ただ見上げてるだけじゃ芸がないのだわ!! 総員構え」
「はい、姉さん属性!!」
「うええ、お姉ちゃん過労でーす」
こっちだって何の準備もせずに見上げてたわけじゃない。
アミエーラさんの号令を受け、12天使たちに大打撃を与えた属性連弓が放たれる。
天地がひっくり返ったような逆上する七色の流星雨だ。
「ふん―――笑止」
「手を合わせた……?」
「さては頂きます……」
「いや一生のお願いだから攻撃するのやめてみたいな……」
違った。
光神が合わせた手をずらすようにして捻ると、彼女の実像を中心として巨大な衝撃波が発生。
それは全ての遠距離攻撃を薙ぎ払い、かつ跳ね返ったそれらが地上に着弾した地点から全てを浄化するような光柱が天へと立ち上り、十字架みたいに爆裂する。
「うおおおぉぉぉぉぉぉお!!?」
「ちょ―――待って!? なんか強くねぇ!? 明らかに今から逆襲開始っていうか勝ち確BGM流れてたじゃねーか! 全然そんなことなかった!」
「こんな強いなら半端な小物感出してんじゃねーぞ!?」
爆裂する光の十字架、それらはそこかしこで発生して皆逃げ惑うばかり。
むしろ数で押そうって現状の方が不利になるかもで。
本当に、私たちってあくまでスタートラインに立っただけ。
どれだけ顔芸晒したところで彼女が世界を簒奪した大神の一柱っていう事実は動かない。
「この世界は私のものだ。そうだ」
「さあ、従え、ほら敬え、崇めろ、崇めろ崇めて崇めて奉れっ。私だけがこの世界で唯一絶対の存在、本当の神様なんだ……。至高天より来たる裁きよ!!」
「あ、動きにくそう―――」
「言ってる場合ですか! あんなのどうやって……」
女神さまの背に現出する6……否、12対もの白翼。
それらが羽ばたくと光槍が次々と空から降ってくる。
「迎撃、げいげーき!! ”神器錬成”」
「掃射―――って、僕たちだけで全部は無理だよーー!」
「リオン、これはどういう状況なのですか」
「言ってる場合ではないので流れで把握してください、パルテノ。”金獅子の大盾”よ!!」
「戦鎚天牙!! ……メルクリオ殿」
「わたくしの魔技を空への迎撃で使うと今度は役目を終えた津波が降ってきますわよ?」
ラスボスの全体無差別攻撃に対応するのはPLやNPCの軍勢は勿論、現状招集できた全ての12聖さんたち。
「滅空!! ―――く、ぉぉぉ……!」
「アレス、無理はしないでくださいね……」
「多分既にしてます」
一番被害が少ないのは空間ごと削り取って異界へ追放するっていうアレスさんの技だけど、負担も大きそうで。
「12聖か……。ふん、羽虫だね。いつまで持つか悠々見せてもらうよ」
攻撃は止まない。
現状招集できるすべての12聖がいて、なお届かないレベル。
本当に力はこれまでの神様たちと同等。
いや、レベルでは下回っているけど完全に顕現している分アルケさんの力の方が強いとさえ思えってしまう。
「ラスボスは伊達じゃないみたいだ」
「おーちゃん! 賢者知識でどうにかならないんですー!?」
「無理だ」
「即答!!」
「かつて君たちが大迷宮で不定の神の復活を阻んだように。無明神を魔神王が沈めたように。光神が魔神王の力を封じたように。真なる神を相手にするにはそれと同等の権能の持ち主が圧倒的な力で貫通するか、或いは神の欠片によってこの攻撃は異物ではないと認識させなければならない。君たち異訪者はまさに神の欠片であるが、ソレを光神は既に対策している」
彼女には私たちPLの攻撃しか通用しないけど、逆にPLの攻撃を受け付けない力もある。
確かに実証済みで、まさに反則。
「余のような光神によって作られた者ならば、一定効果はあるかもしれぬ。しかし、余は……おーいててっ。ボコボコにされた傷が疼く……」
「おう妖精」
「働かないとまたぐりぐりだよーー」
「理不尽なり!」
おーちゃんさん戦闘は不得手だからね、元々。
「ジュデッカさん?」
「座して待つのみ」
「おい最強」
「どうしようもなく使えないのだわ!」
どうしよう、八方ふさがりだ。
「私は光。始まりの光明―――。君たちは私に攻撃を当てることさえできないんだ、はははは!! こうやって無様にすり潰してあげるっ。異訪者である君たちは何度でもよみがえるだろうけど、戻ってくるたびにこの世界の命は少なくなってるだろうね。何回目くらいで絶望してくれるのかなっ、知ってる人たちがもういないってことに!!」
………。
「大分調子乗ってるな」
「いつもこのパタンじゃね?」
「多分、私の経験則で言うともうちょっとしたあたりで……」
彼女が調子に乗ってると良いことがないのはいつも通り。
ラスボスが無敵すぎて倒す術がないっていうのも、メタ的に見たらここまでは制作者っていうか管理者の想定の一つだろう。
なら、確かにこの辺りで何かないかな。
―――。
「さあ、さぁ、寛大な神様は今からでも忠誠を誓う人たちには―――……、あれ?」
光の粒子で構成された巨大な体を走る朱のエフェクト。
攻撃が通った……?
気付けば彼女は斬られていた。
触れることさえできない神の姿に被弾のエフェクトが走った。
けど、それが誰なのかは―――いや、見えた。
前に後ろから刺した人を、さらにその後ろから刺し、更にその後ろから。
勝ちを確信した相手を背後から倒すっていうマトリョシカ状態は彼らの伝統芸能らしい。
「―――神の欠片というのならば、私たちはまさにその一片であることをお忘れなきように、皆さま」
「全てはこのために」
「なれば、持てる全てを使い倒すとしよう」
「アリギエリ、ラース……、ティア!? ―――皆、何で!」
アリギエリ・スム。
エルゴ・ラース。
ガラティア・コギト。
元ジュデッカさん配下の冥国三騎士だ。
けど、光神の配下としての正体を現していたはずの彼らが、今度は光神を攻撃した。
「閣下!」
「今この瞬間で良かったのですね!?」
「問題なし。素晴らしき、まこと適正なタイミングよ。大儀なり……!」
いや違う。
これは明らかに計画的な。
今に、座して待っていた元帥さんは立ち上がる。
「そら、何をしている? バディスよ。我が四騎士が一、見えざる外套」
「―――辞表叩きつけたい気分です。私にだけ内緒だったってことですか!?」
ちょっと感情爆発しちゃったらしい。
兜を脱いでジュデッカさんに詰め寄るバディスさん……否、クオンちゃんモード。
丁度マリアさんの真横に行ったことで要塞に大きく映像で映し出されちゃってるよ。
「え、拗ねてる。あの暗黒騎士バディス・クウォが―――……。女?」
「かわ―――え? ……。え?」
「ヴァディスって女なの!!?」
「嘘だろ!? てっきりうちの王さまみたいな生きる嫌味な王子様野郎かと……!」
「しかもめっちゃ美人だぞ!? 黒髪美少女だ!」
私知ってる、これ配信切り忘れでバズるってやつだ。
昔流行ったジャンルだ。
「ふははははっ、見たか人間ども、うちの団長は可愛いんだぞ!」
「ざまーみろ人界!」
「私たちの団長の愛らしさは世界に通ずるのよ」
「嘘なのであーる……」
「くっ、悔しい! あんな女にギルド滅茶苦茶にされたなんて……でもなんか嬉しいッ」
「ぐぬぬぅ……。王さま、バ美肉!」
「阿呆を抜かすな」
「ってかうるせー半魔ども! それにこっちの旗印は可愛いぞ!! 御子様聖女様だ!」
「え、わたしたちです?」
「聖女、というのはルミエールさまくらいしか覚えがありませんが……」
「「ざまーーみろぉ!」」
「「ぐぬぬ……」」
………。
逃げ惑いながら意気投合してる。
極限の戦闘環境が奇妙な友情を築いちゃったんだ。
「滅ぼしてもらった方がいいのかもしれません、人界も魔族領域も」
「ちょっと過激だよ? マリアさん。元気があっていいじゃないか。健全な証拠だよ」
「また教師みたいなことを……」
「ところで私たち何でこんな極限環境に身を置いてるんだっけ。何かを忘れて……」
「私を、無視、するなぁぁぁ……!!」
おっと、そうだった。
「忘れるところだったよ。私たちは今まさに最後の戦いとして世界の簒奪を目論んでいる光の神様と向かい合ってるところで、今更人界とか魔族領域とかでいがみ合ってる場合じゃなかったんだ。たとえ相手がちょっと抜けてて顔芸でポンコツなところのある地底の中で最も弱弱しい道化の神様だからって油断していい相手じゃないんだ」
「どうして貴女って」
「いつもナチュラルに煽るのだわ!?」
「よくもまあスラスラ出てくるよな毎度―――、っと。失礼するぞ歌姫様」
「ひゃあぁ!?」
私や近くにいたアミエーラさん、マリアさん親衛隊筆頭レイド君が同時に飛び退る。
色々やってるけど、実際空から降り注ぐ光十字は厄介だ。
機動力の低い人からやられていくってことで、マリアさんはレイド君に俵持ちされ、御子様たちもステラちゃんがリオンさんにお姫様抱っこされたり、リアさまが双子ちゃんに二人掛かりで担がれてって中々面白い運び方を……なんか親近感。
「こういうときって普通お姫様だ……っこ、とか……。その。するものじゃ、ないですの?」
「してほしいんか?」
「してほしいとかじゃなくて、普通は……!」
「して欲しいんでござるな」
「だんちょパース! おれやるっ、おれやる! マリア姫お姫様だーーっっこ!!」
「「パス、ぱーーす!!」」
「バスケットボールじゃありませんの!!」
楽しそう―――と。
横目に見ている間に地上に降り注ぐ攻撃が少なくなったのを認識。
見上げれば、もう攻撃っていうのは出鱈目に色々な場所に飛ばされてて、どうやら彼女の狙いは飛び回ってる三騎士らしかった。
襲い来る光の奔流に対してラースさんが炎で拓き、ガラティアさんが薙ぎ払い、アリギエリさんが斬りこむ。
単体でも強い彼らだけどここにきて連携が凄く上手っていう新事実。
そして彼ら三人の攻撃は確かに神様に通ってる。
体力の減りは微々たるものでも、確実に攻撃を受けているという事実が神様をいら立たせているらしく。
「……この、ちょこまかと! それも土くれの人形が……! 造った恩を!!」
「ふ……」
「何を、今更の事を」
「この世に生まれ落としたこと。それ自体は感謝することもあります。しかし……」
「我々に命を、名を与えてくださったのは貴女ではありません、光神」
「我々に火を灯してくださったのは陛下であり、名と存在をくださったのは元帥閣下であるゆえに!!」
コギト・エルゴ・スム……日本人に身近な呼び名なら、われ思う、ゆえにわれ在り。
この世全てを疑ったとしても、自分の存在だけは疑うことができない。
だって、考えているのだから。
「自ら選び、ここに至った。私たちはほかならぬ自らの意思で創造主へと反逆するのです。人形ではなく、人であるゆえ。今更世界を乞うような神代の亡霊に引導を渡すために!」
「端的に、好感度で負けたのです、創造主よ。私たちは魔族として生きることを選んだ、それだけ。ちなみにガラティアの思い人は」
「元帥閣下であるな」
「言わなくていいことです!!」
「ふざっ、ふざけ―――娘の相手がラーディクスの息子だなんて私絶対に認め、ぐう……ッ!?」
天を駆ける空中戦。
三騎士を追うようにして構えられた12対の翼が衝撃によって羽を散らし、黒の炎が移る。
「そう言うことだ、光神よ。自ら手を下さぬ者、己が服を汚さぬ将についてくる騎士はおらん。それが主であればなおの事。端的に―――愛想をつかれたのだ、貴様は」
「まんまと騙されて閉じ込められた神の眷属風情が何を……」
「なに、陛下が動かずとも十分、ということだ。既に必要なものは預かっているゆえに。―――大権、来たれり」
………。
『ステータスが更新されました』
―――――――――――――――
【Name】 ルミエール
【種族】 人間種
【一次職】 光明剣士(Lv.71)
【二次職】 道化師(Lv.1)
【職業履歴】
一次:無職(1st) 聖女(――)
無職(1st)
戦士(1st) 剣士(2nd)
光剣士(3rd) 光明剣士(4th)
二次:道化師(Lv.1)
【権能】
・地底の火(偽)/ 神格特攻を付与
【基礎能力(経験値2P)】
体力:15 筋力:52 魔力:20
防御:10 魔防:10 俊敏:190(+20)
【能力適正】
白兵:A 射撃:D 器用:C
攻魔:B 支魔:A 特魔:E
―――――――――――――――
「地底の火……、神格特攻?」
「これって確かバディスの持ってた権能の……」
クオンちゃんのは真だったけど、私のは偽。
そして、見たところこの戦域にいるPL全員に同じものが付与されたらしい。
「な、なんっ、なんんんんんんんンッっ!!?」
「三騎士が反逆した時点で気付かぬか? 全て、陛下は予期されていた。魔神王―――地底の火は世界における最初の思考。矮小な光程度が理解すること叶わぬ神智であると知れ!!」
「ふざ―――」
「ふざけるなぁぁぁ!」
「「……!!」」
止んでいた光雨が再び降り注ぎ始め、同時に肌で感じる恒星の爆発かと思うような圧。
追い詰めれられた神様もついに本気の本気で掛かってきそう。
けど、ここからなのはこっちも同じ。
「長らくNPCがメイン張ってたムービー戦闘が終わって、やっとこさ俺たちPLターンってわけね」
「クエストに踊らされてたやつらがクエストを利用して黒幕をぶちのめす……」
「痛快ッ!!」
「これで本当の戦いです!」
そう、ここからが私たちの―――んう?
偶々だろうけど、丁度私たちの方めがけて降ってきた光雨の量が多すぎる気が。
「レイド君。あの量避けられそう?」
「―――。無理だな、諦めっか」
「こらぁ!!」
「マリア姫と心中!」
「「うぇーい!」」
「無理心中はいやぁぁぁ!! 誰か! あの流星雨止めて―――」
「分かった、斬る」
………。
「そろそろ人間か? お前」
「ん? ……むぎゅ!?」
「ハクロさぁぁぁぁん!! やっぱり信じられるのは貴女だけですわ!」
目前まで迫ってた光の奔流は本当に斬られて消えた。
元々魔法を斬るっていう絶技を使えるのが彼女だけど、まさかラスボスの放つ光の柱さえ斬っちゃうなんて。
ん、今ならいけそうな気がするよ、私も。
「ルミ。沢山守ってきた。次、なにすればいい?」
良いとも、良いとも。
今丁度チャットでチケットを買ってるから……よし。
「うん、うん。ちょっと空の旅を予約するつもりでね―――私と一緒に神様斬りとか、どう?」




