第34幕:春の10分天使狩り
「ジュデッカさーん」
「そなたらか」
空に現れた推定援軍さん。
大きく手を振っていると、こちらへ飛来した巨竜……世界に残った最後の真竜さんが人型になり降り立ったのは彼が地上へ墜とした天使を私たち人界側の遠距離職たちがタコ殴りですり潰して間もなくの事。
「どうやら戦いの準備は出来ているようであるな、人界」
「見ての通りさ。みーんないるんだよ」
「そのようであるな」
彼は集った人界の精鋭を見渡している。
軽く頷いてるのは満足っていう事でいいのかな。
「……。かつて我々は人界へと再び侵攻した」
「あ、その話長くなる? 第一次から続くクロニクルの事だよね。実はそれより―――」
「それはひとえに灯った焔の脆弱さゆえに。偽りの平和に酔い、忘れてしまった者たちへ再び思い出させる為であった」
「今は悪くないってことだよね。うん、わかるわかる」
違うんだ。
私が言いたいのはそういう事じゃなくてね。
魔族側の皆さんのご厚意の話なんだけど。
「ところで時間制限っていうのがあってね。さっきのと、今上でやってもらってる総攻撃なんだけどさ」
「む?」
「―――それです! ちょっとやめてくださるかしら!?」
私がそうするより早く最強魔族真竜かつ神様の右腕元帥へと詰め寄るマリアさん。
彼女はジュデッカさんが仰け反ってる中で事情説明を開始。
「つまりですね! 共闘は結構なのですけれど、今ああやって突出されるとこちらとしてもやりづらいっていう話ですの!」
「たった一人で天使両断しちゃうのは本当に凄いんだけど、ね。早い話ちょっと間が悪かったかな」
「む……。すまん」
「良いよいいよ。良かれと思ったんだろう?」
「うむ、魔神王陛下の加護とともに、我ら冥国タルタロスの勇士たちも……」
「口上はいいですからとっとと上の方々一時退却させてくれます!? 作戦やり直します!」
「―――ぬ……、この圧は……」
「マリアさん。私たちのドンだよ。怒らせると怖いよ」
「成程……」
「最強魔族に変なこと吹き込まなくていいんです!!」
ちょっとしたお茶目じゃないか。
「けど結局味方なんだよね!? 心強すぎぃーー!」
「四祖魔公ジュデッカ。敵として出会い、そして敵として戦った魔族たちが、ついに」
「真竜が味方か! うむ! 死合おう!」
「目的変わってんぞ」
「ジュデッカ様だけが戦力ではない。我々もいるぞ」
「命令受けたわ、元帥様。一旦攻撃中止ね」
互いの実力はよく理解しているだろう。
出鼻がくじかれたマイナスよりも彼らが参戦してくれるプラスの方が圧倒的に上だってみんな分かってるんだ。
そうこうして一時退却命令を受理した彼らの動きが止まり、降り立ってくる。
バディスさんと悪夢さんは相変わらず戦いたすぎてうずうずしてる感じだ。
………。
「見える?」
「ああ。復活してるな」
「本当にぴったりなの」
スタートダッシュに失敗した流れで待つこと暫し。
最初の攻撃で地上へ落下しバラバラに砕け散った天使が再び形をとり即座に復活した。
皆の希望をあざ笑うかのように、やっぱりきっかりに。
「ジャスト―――やっぱりあの天使たちは10分おきに復活してる。ほら、確認もできたね」
「元から分かってたことですの。バディスさん? 作戦のすり合わせが必要です?」
「良い、マリア殿。自由にやらせてもらうのが性にも合う。互いに邪魔をしないこと、それだけ定めておけば問題ないだろう」
「「……………」」
「では、魔族らよ。これは私が勝手にしゃべっているだけだ。気にせず作戦を練っていてくれ。まず我らの作戦行動は―――」
わにゃわにゃと話し合ってる彼ら。
主に前衛部隊の総司令であるムーン君と魔族側の指揮官であるバディスさんがメインのやり取り……ムーン君は本当にコミュニケーション強者だ。
マリアさんはお鉢を奪われたね。
「その辺はどうでもいいのですけれど……、ルミエールさん。本当に暗黒騎士バディスってスミカさんなんです?」
「そうだよ。オフで何度か会ってるだろう?」
「……変わりすぎですの」
人も変わるさ。
「成長の面もあるだろうけど、一年もあれば役も身に入るってものさ。マリアさんだって大学でいきなり御嬢様になったりするだろう?」
「それはっ―――……。しますけど」
「「するんだ」」
するんだ。
「皆してするんだって反応しない! あとなんで聞いてるんですの!?」
「「………するんだ」」
「するのか御嬢様」
「そこは否定するところだと思ったんだけどなァ、姫さん」
本当に皆して聞いてるんだ。
「さぁ、情報共有できたのならさっさと散会!!」
「かいさーん」
「さ、仕事仕事」
「世界を救うお仕事ってな」
追い立てられるようにして散らばる人魔連合。
予定の通り、分散していた戦艦が謎動力で空を駆け、飛竜たちが並ぶように飛び立つ―――魔族たちとの共同戦線へと入る。
勿論三国の連合も待機済みだ。
「第一フェーズ……!」
「了解なのだわ! 弓魔師団、弱体の鏃!」
「構えぇぇ」
「続きまーす、皆せーのでバフ行きますよー。全員せーの―――って言ってから……」
「姉さんまじめにやる!」
「はーい、お姉ちゃんまじめにやりまーす。皆、合わせてーー」
「発射。地獄の第七、大寒氷晶庭園」
掃射連射轟射―――。
大規模殲滅を得意とする天師系の術士たちにリエルちゃんを始めとする超広範囲魔法の魔公系ユニーク、そしてルイちゃんを始めとするバッファーの属性強化が加わって巻き起こる嵐は天使たちの体力を均一に下げる。
「これで一体も倒すことなく満遍なく弱体化。……第一目標達成です」
「そのまま反撃来るよ。リカルドさん」
「おオ、準備万端よ」
鏃と、魔術。
遠距離かつ大規模な攻撃が二重、三重の波状攻撃となって放たれる。
多量の攻撃を浴びせられたとあっては向こうも黙ってはいない。
反応して迎撃態勢に移行した遠距離型の天使たち―――同じく弓や杖、砲や銃など多彩な攻撃手段を持っている人型実体がこちらへと裁きのような一撃を見舞ってくる。
「老師、タイミング頼むぞ」
「奴らの属性は解析済み。無効化だって楽勝よな」
あれらの天使は武器の種類も得意とする属性も12聖と同様なんだ。
幾たびの衝突でその性質も大体が判明している以上、これは何の脅威にもならない。
相性有利の力を展開すれば、対消滅みたいに防げるから。
「では速やかにフェーズ2へ移行です。やっておしまい!」
「よし来たッ、空中機動戦艦連合、全速前進だぜ!」
「触手を突き立て突き進むであーる」
そうしている間にマリアさんの姿が空中要塞に投影されて前衛部隊も出撃、接敵。
攻撃方法は多種多様で、突き立てた触手を足場にして斬りかかったり、或いは天使の身体に飛び移っている人までいる。
本当は翼が壊れて天使が地上に落ちるのを待ってもいいのに敢えて空中戦がしたい彼らは生粋のゲーマー。
船や足場から落ちないように戦う姿はあまりにリスキーかつスリリング……。
「でも、ないのか」
「ひゃっはーー!!」
「銃の流れ星だぜー」
ビーンさんたち一部の変態さんたちは銃のすさまじいまでもの推進力を利用して空中を駆け、そのまま戦うっていう離れ業をやってのけてる。
ちょっと燃料が切れてきたらまた船に戻るって寸法。
勿論単に飛べばいいってわけじゃなく軌道とかも計算する必要があるから誰にでもできることじゃない。
中には失敗して落下―――飛竜に回収されたり、色々だ。
「足場が欲しいわね」
「姐さんに足場!」
「叩き斬られる前に早くしろっ、間に合わなくなっても知らんぞ!」
他にも空中で生み出した岩々を足場にとか、変わり種では水の流れの上で何かを足場にサーフィンなんかしてる人もいてみてる分にも面白い。
実に飛躍した発想、突き詰めてくるとここまでできるようになっちゃうんだね、想像力。
「初めて会った時海面にガラス生成して八相飛びみたいなことしてた無職がいたのですけど」
「へーー」
「聞いてない!」
だって目の前であんなすっぺくたくるされちゃったらね。
他の事なんて目にも耳にも入ってこないよ、寝耳にソイソースだよ。
「それを言うなら寝耳に水……」
「―――あ、水…」
先ほどからサーフィンに利用されていた水の流れ……それ以上に巨大も巨大な水の渦が空に生まれた。
「―――ついに水の上を走り始めたか。まるで曲芸師だな、勇者」
「喧嘩売ってるのかは知らんが今は勝負って気分じゃない。どっちかっていうと協力だな。他の連中よりも先に俺たちがアイツら地上に叩き落すってのはどうだ」
「―――悪くない、賛成だ。高度をあげろっティラミス……!」
「ォォォォオ」
「根源の焔よ、地底灯す原初の光明」
「刀身を伸ばせ、ハイドゥグラム」
「―――”焔神滅天”!!」
「―――冥海斬!」
水と焔、同時に放たれた斬撃の余波が轟きわたる。
絶対両断の一撃が余波で鎚の天使と拳の天使を獣たちが待ち受ける地上へと追放。
やがて、それに続くように次々と天使たちが地上へ墜とされていく。
空中戦を挑む彼らは天使をそのまま倒すではなく、あくまで地上へ墜とすことを優先してる。
というのも、落下によるダメージと一斉掃射を合わせれば瞬く間に撃破できるから。
「敵しかいないから誤射の可能性も低いし。ね、アミエーラさん」
「どうして私に聞くのだわ?」
皆が思い思いに戦える、クエストに支配されているわけでもなく、ただ自分のやりたいことをやりたいようにやっているだけ。
それが私はとっても嬉しい。
彼らは天使を着実に倒していく。
その一体感が心地いい。
異訪者も、人界も、魔族側も……今は全てが一つになっている。
「ヨハネスさん」
「ノーフェイス」
「ええ、六分経過です。六分時点で7体撃破」
「本当に凄いなぁ……」
「今のワンクッションいらなくないですの? というかあなた方こそ最前線で戦うべきじゃないです?」
確かにヨハネスさんもメモワールさんも一線級の戦闘者だ。
「ルミエールさんは……やっぱり参加しないんですの?」
「うーん」
「勿論事情は分かるんですよ? 対大型には向かないスタイルっていうのも。けど、こういうテクニカルな戦いこそルミエールさんが一番得意そうな気がするのですけれど」
「いやね、私って夢がないからさ」
「……?」
どこまでも現実的なんだ。
「相手が人型とかなら予測も出来るし、対処しやすい。切れば倒せるだろうし。けどこう魔法的っていうか常識の通じない部分はどうしても苦手でね。理解が追い付かないみたいな」
「常識外れの具現化みたいな人がそれ言います? 世界一の奇術師でしょう貴女」
「それだよ」
皆それ言うけど、結局のところ手品っていかに科学的、物理的に突き詰めるかのお話。
当たり前のことをどれだけ大げさに、非現実的に見せられるかのペテン。
「足元でチクチクしてても、普通にプチっと踏みつぶされて終わりそうな予感だよ」
そもそも光明剣士って言って、私別に長い剣とか持ってないんだ。
何の魔法もスキルもなくただ剣もってチクチクしてるだけの人いたら逆に笑うだろう?
「私が道を拓くわ―――全員、ついてきなさい。流星みたいに」
「波状攻撃、行くぞ!」
「良い子は姐さんの真似しちゃいけませーん!」
天使の身体を軽快に駆け上がる悪夢さんとあくまで飛竜の背で援護する彼ら。
両断の一撃……俗にいう「ただ斬ってるだけ」がまた一体の天使を狩る。
「ただ剣もってチクチクしてる……。メアさんの存在がファンタジーですわね」
「結局は筋肉、そういうものさ」
さて、ここまでくれば今後のことも考えなきゃいけないけど、そういえば魔族側とその辺って話してなかったかな。
「ジュデッカさん、何かない? 秘策みたいな」
「聞いている」
「うひぃ!? ―――ビックリしたァ!! いつの間に背後に立つのやめてくださる!?」
「主は仰っていた。神は信仰によって生まれ、信仰によって形をとると。神を具象する者が多ければ多いほど千変の力を得る。が、ソレは利点でもあり弱点にもなりうるのだと」
「どういう意味です?」
「神を信仰する者がいなくなればこそ、その力を留める者はいなくなるのと同義」
「利点だけがあるわけじゃなく、知っている人が多いほど却って弱体化しちゃうこともあるってことなんだね?」
信仰される神ほど人々に近くなり、寄り添う者となる。
そう言う意味で魔神王さんはそっち側の神様なんだろう。
都市伝説みたいだね。
信仰と認知こそが実体を形成する最も重要な―――。
………。
「これってつまりそういう事じゃないのかな」
「……? また禄でもないひらめきですか?」
「魔神王さんの言葉で言うのならさ。信仰があるほど想像の幅がある。この世界の人たちが認識すればするほど神様は形を与えられるってことじゃないか。つまりは……」
「……ほう!!」
「―――よもや、そういう事ですか……!!」
「私にも分かるように説明くださーい」
最初から答えはあった。
私たちが祈るだけで良かったんだ。
「けどその前に、目の前のことを終わらせてあげないといけないね。ヨハネスさん、時間」
「ノーフェイス」
「8分経過。大鎌の天使、いまだ健在―――。皆出力切れ。マズいです」
使う時が来ることを祈ってたけど、どうやらそのときみたいだ。
「こっちは大丈夫そうだから行ってもらおう。ステラちゃん、リアさま。準備は大丈夫なんだよね?」
「おそらくは! 頑張ります!」
「試したことはないですけれど、多分大丈夫だと思います。試したことはないのですけれど、当然」
ぶっつけ本番、私の苦手分野だ。
アドリブ、私の大好きなものだ。
御子様たちのやる気も充分みたいだし。
「じゃあ、準備はいいかな? 私たちの最強さん」
「―――――」
良いみたいだ。
「よし来た。空中戦艦、メインエンジン励起。砲門起動」
「はいっ。バベル、起きてください!」
主砲、自動照準。
目標まで約400メートル……。
あまりに巨大な巨大な機銃の筒が天高く全てを見下ろす神の遣いを捉える。
「結晶、展開っ!」
「外殻を顕せ。神の使徒、剣の化身に我らの加護を」
御子様たちの作り出す結界は結構自在に形を変える。
今回はこれがたった一発の弾になるんだ。
「それでは皆さんご唱和を。たーまや―――」
「で・は・な・く!」
「「はっ、しゃーー!!」」
轟きわたるは主砲の一撃。
巨大な砲弾は射出されるままに跳んで、飛んで―――。
勿論、私たちは単なる砲弾の一撃が戦いの決定打になるとは思えない。
「大事なのは中身ってよく言うからね」
………。
「絶剣・夢殉」
ほらね、一撃。
開戦以来、ジュデッカ様くらいしかできなかった巨大な人型実体の一刀両断。
それを出来ちゃうのが最強の証明。
「彼女の周りを御子様たちの使う障壁でコーティングして発射の衝撃によるダメージを無力化、そのまままっすぐに飛ばして斬ってもらう、それだけだ」
「言ってることもやってることも無茶苦茶すぎます」
「はっはっはーー。これが皆大好き脱出マジック」
「世界中の手品師に謝ってください」
ともかく決定打は最新の12聖が一撃。
白閃が放たれたが最後、まさに、天地を別ける決着の斬撃によって12体目―――大鎌の天使を貫いた。
全ての天使が消えた数秒。
あらゆる事象がスローモーションにさえ見えるような静寂だけがあって。
「「―――――」」
……。
歓声が巻き起こった。
空の上では飛竜が咆哮をあげ、船上の艦砲が空の筒を鳴らす、両手を天に掲げて雄たけびを上げる。
共通敵がいなくなった途端再び敵対行動ってわけでもなく、帰り支度を始める者たちもなく、誰もが集結を喜び、祝っているようだった。
「ヨハネスさん」
「……んえ?」
「10秒前です、ルミエールさん」
「どうも」
呆けていた記者さんに変わり怪盗さんが答えてくれる。
「ルミエールさん? 何を……」
「いやね、私なら……。一番性格悪い人ならそうするかなーってね。……7、6……」
……。
別にクエストでそう言われていたわけじゃない。
そもそもクエストに天使だとか殲滅だとか、そんな条文は一言も載ってなかった。
だけど、普通は終わると思うじゃないか。
………。
「―――うそ……。何で?」
「説明されたわけじゃない。ただ、私たちが勝手にそう解釈しただけだからね。10分で復活する彼ら。じゃあ、10分以内に全部倒せばいいんじゃないかって」
それが勘違いだったんだ。
「「―――――」」
復活した。
12の天使は、まるで何事もなかったかのように再び形をとり、何事もなかったかのように己らの領域を侵した不届き者たちへと鉄槌を下し始める。
むしろ、ようやく本格活動を開始したみたいに動き始めたんだ。




