第33幕:今あるありったけ
「古龍戦団、吾の足跡に続くがいい!!」
「円卓の騎士たちよ、私とともに道を拓くぞ! 進め! 世界は彼ら只人の手にゆだねられるべきであると……!」
「「―――――」」
切り開いたのは彼らだった。
常に最前線を進んできた英雄たちは最後の瞬間でも最も前を進んだ。
結果、初めて■■の撃破に成功。
突入した両ギルドの所属員は全滅、代わりに■■を倒した最初の者たちになった。
この衝突で、あれらには個体によって弱点や攻撃手段に大きな違いがあることが分かった。
………。
「航空艦隊総勢16隻、搭載火力は無限大……! 全軍かっ飛ばすぞ」
「突貫だ!」
「接敵次第撃って撃って撃ちまくれぇ……!」
二度目の大攻勢。
その勢いもまたかつてない規模。
最高位5th、中でも大規模破壊を得意とする術士が百を超えて集まったのはギルドの枠組みを超えた呼びかけによる成果。
彼らは空中艦隊に乗り込み、自爆覚悟の特攻を行った。
結果、全滅と引き換えに■■のうち4体の撃破に成功。
それらに弱化系の魔法などが有効であることも判明し、様々な検証が行われることになった。
………。
その後も数体の撃破と再誕、検証を繰り返す。
英雄たちが飛翔し、消える。
積み上げてきたもの全てを燃やし尽くすように戦い、消えていく命。
命が砕けるとともに仮説が生まれ、砕けて詰みあがったガラスの数だけ山も高くなった。
やがてPLたちは学習した。
まるで足りない、もっと戦力が必要だ。
全ての■■を倒すための戦力が、すべての■■を一度に撃滅するに足る戦力が。
「崩れたクエスト」の発令から現実時間で5日。
成り行きを見守っていたけど、いまだ膠着というべき状態は崩れていない。
「都合三度目の大攻勢。今度こそ異形の天使全てを倒すことができるのだろうか―――と。どう? ヨハネスさん」
「いーぃ記事ですねぇ。振り返りも出来てエクセレントッ。あとは文末に英霊たちを悼む文言でも入れれば、と」
「おぉ、じゃあここは……」
「なーにが数多の犠牲に感謝を、だ」
「クエストの発令から一度もやられてない人が言っても説得力ないと思いますよ、ルミ姉さん」
「だってだって、そもそも私は戦ってないからね」
高みの見物決め込んでるだけなんだから、キルもキラレルもないよ。
後モラルもないよ。
「私、これからはお涙ちょうだいで食べていくことにしたんだ」
「骨の髄まで最悪」
「さいてー」
けど、実際私じゃどうしようもない戦局だしね、今は。
対人に特化した能力構成だと難しいんだ。
一寸法師みたいなものだよ。それこそ、ショウタ君とかエナみたいな範囲火力持ちが活躍する戦場だ。
見上げる大空。
空中要塞バベル、或いは暗黒都市タルタロスからも確認できる巨大な裂け目がある。
巨大な人型実体がその裂け目を守るように飛んでいて、今この瞬間にも空の裂け目は大きくなっているように見えた。
実際、発生時と比べたら比にならないほど大きくなってるんだ。
あの日―――というとまるで物語の冒頭みたいな回想だけど、実際は現実時間で5日前、ゲーム内時間でも10日ほど。
時空を破って現れた巨大な天使たち。
最初に現れた数十体を倒すまでは速かった。
けど、撃ち落とされたそれらの後に出てきて、最終的に都合12匹となった天使にはそれぞれの特徴があった。
剣や弓……変わり種では鎌とか斧槍とか、ともかくそれぞれが巨大な武器を持ってるんだ、彼ら。
誰でも分かるけど、その武器はまぎれもなく12聖と同じで、それぞれが対応する武器を持ってる。
あるいは彼らの原型ともいうべきなのかな。
12聖の前任者であるいにしえの英雄たちへ加護を与えていたのが天上の神々だとするのなら、あり得る話だ。
―――空では相変わらず断続的に裂け目から天使が這い出てきて、どこかへ飛び立とうとしてはPLに打ち落とされて墜ちていく。
「武器持ってねぇ連中がそこまで強くないとはいえ、そろそろ問題の先送りも限界だな、やっぱ」
「だね。そのうち12天使もどっか飛んでくかもしれないし、這い出てくるアレの数増え続けてるし……」
「これが最後の大攻勢、ってことだなー」
「問題ない。今度こそは成功させる。が、そのためにはすべての戦力の共通認識が必須だ」
「ムーン君」
話してるユウトたちに近づいてくる、最初の攻撃を主導した英雄さんだ。
古龍戦団と円卓の盃、彼らPL最強の二大ギルドが手を組み、神風覚悟で剣の天使へと攻撃を繰り出し、壊滅と同時に何とか仕留めた。
たった一体、けど初めて12天使の一翼を墜とした―――それが第一の戦い。
で、結局天使は復活したんだよね、あまりに無慈悲だけど。
英雄たちの挙げた大戦果にPL達がわいていたのもわずかに数分……消滅から僅かにそれだけの時間で、消えたはずの剣の天使は何食わぬ顔で復活してきたんだ。
二度目の大攻勢はそこから一日後。
ガタノトアさんらの駆る空中機動戦艦、リエルちゃんやビーンさんといった大規模破壊に特化したPLが大攻勢をかける。
この戦いにはユウトたちも参加した。
結果、短時間の間に都合三体もの天使を消滅させることに成功……これには弱化が効くなどの特徴が判明したことなども挙げられて。
けど消滅から10分後、消えた時と全く同じ様子、同じ武器を持った天使が再び姿を現した。
結果として、得られた回答は凡そこうだ。
「ゲームでよくある、大規模攻略戦闘。12匹の天使をそれぞれ均等に戦力を配分し、同時に叩く。単純な戦闘力だけではなく並行した戦いの共有、緊密な連携を必要とするわけだ」
「まさに」
制限時間は一体目の天使が消滅してから10分きっかり。
その時間内に全ての天使を撃破しないといけない。
中々難しそう―――っていうか、これまでの戦いを鑑みてもPLだけだとほとんど無理かもしれないっていう結論。
ほんとうに全ての力が必要なんだ。
「そう、全てを一度に討滅できる戦力がね」
………。
……………。
………。
……………。
「だからって全員集合―――って言って本当に来ることあるか?」
「ふつうねーよ」
「トラフィーク牙兵団、参陣」
「……フォディーナ鉄血兵団」
「クリストファー術士連!」
「カストゥルム要塞騎士団」
「そして帝国連合の全軍指揮を担当するのはこのビスマルクであるッ!!」
「誰も疑っておりませんよ、ビスマルクおじさま。突然どうされたんです?」
「いやなに、ステラよ。指名があったようなのでな」
「?」
既に帝国の四大都市が保有する戦力揃い踏み。
鉄血候がいるから、当然先の戦いではいなかった【紅蓮の戦鎚】タウラスさんもいるし、牙兵団の長である【淵水の雷鞭】メルクリアさんも来てくれた。
「リオンさまが説得してくださってるので、もしかしたらパルテノさまも来てくださるかもしれません!」
「そうなれば帝国の四聖は勢ぞろいだね。ステラちゃんはエトワール皇太子殿下とも友達だから、こういう時ありがたいよ」
「はい、友達の友達みたいなものですので!」
「「微妙な関係……!」」
流石に帝国も事態を把握しているからここ大一番である状況に戦力を動かしてくれたわけだ。
「神使は総出動が掛かっている。今更国の守りなどどうでもいいこと。殿下のおわすところ、すなわち皇国なれば」
「アレス姉」
「それ、言いすぎ」
で、当然国家元首なお友達のリアさまのおかげで皇国はまるっと動いてくれて。
「戦いの後の事全く考えないような最大戦力大放出してきやがる」
「まあ、世界の危機ってなったらそうだよねー。心強いじゃん、王国からもアンティクアの上弦騎士と、……お姉さん、鋼殻騎士団はやっぱダメだったのかなー?」
「それがね? 何でか海洋伯と連絡がつかないんだ。そういえばユウトたち一緒じゃなかったっけ?」
「「……………」」
「用事があるって言ってたな、そういえば」
そうなんだ。
彼、こういう時は絶対に来てくれる側の筈だけど。
「けどクライマックスだからね。こういうのって今まで結んできた絆パワーみたいなのでみんなが駆けつけてきてくれるんだろう?」
「異常だって」
「本当にこの戦力駆けつけてくれることあるんだ」
「ルミねえホットライン繋げすぎ」
「私だけじゃないよ。知らないところでNPCと友好関係を結んできた人たち、私の知らない沢山の物語を紡いできた人たち、皆が積み上げた結果なんだ。にーさってやつ」
「それ多分違うと思う」
「いつの時代の話だよ」
「そもそも絆って言って、早い話PLがお問い合わせ並みの人海戦術で各国の主要部に救援依頼出しただけであーる」
「物は言いようだよなー、はははッ」
既にゲーム内時間では10日も経ってる。
それ即ち、人界三国も準備する時間が十分できていたという事。
「けどさ? もし仮に12天使を討滅できたとして、それって結局壊れたクエストの内容とは別だよね。最終クエストが終わったら何が始まるんだい?」
「知らんの?」
「クエストが始まる」
「あの裂け目が光神の準備だとして、阻止できれば舞台にも上がってくるだろ? 普通に考えれば」
「けど早く解決しないと新学期で立ち行かなくなっちゃうじゃないか。新入生の顔全部覚えないといけないのに」
「また性懲りもなくルミねえが性癖破壊を!」
「リアル問題入れてくんな」
「そうやって誰でも勘違いさせるからいつもややこしくなるんだと思うんですけど」
「君たちだって勉学に身を入れなきゃいけない学年だろう? 進路のことだってあるんだ」
「ゲームでクエストやりたーい」
「学業なんてちゃんちゃらおかしくて」
なんて今どきの子たちなんだ。
卒業さえすれば、或いはゲームのように年齢さえ上げれば職が勝手に降ってくると思ってるんだね?
「ちょっと人生設計を舐めてるよ。いいかい? 私の時も皆慎重に進路を考えて―――」
「はいはいははい」
「分かります、分かります。進路ね進路」
「誰も聞いてないのである」
「スーパー非常勤の話は話半分で良い。この人参考にキャリア構築考えてる生徒まず居ないからな」
「さ―――12の天使を同時に、一定時間内に全部倒す。多分それが条件だと思うが。……果たして」
「我ら異訪者が最前線に立つ」
「取りこぼしはそっちに任せていいんだよな? 皇女様、ビスマルク候」
「ご期待に応えて見せます」
「ふふ……ははっ、異訪者が、言うようになったな! その意気やよし!!」
私が進路の下り話してる間に、彼ら作戦会議に戻ってるよ。
「うーん。やっぱり戦い終わらせてからの方が身が入りそうだね、勉学も」
「さも簡単なことみたいにサラッと言いますわね、あなた。一応最後の戦いみたいなものなのですけれど」
「問題ないさ。じゃあ、そういうわけだから。全体への情報伝達とか士気向上とかバフとかオチとかは任せたよマリアさん」
「だからどうして私ばっかりなんですの!? これ以上目立ったら面倒なことになりそうで嫌です!」
「やれやれ系?」
「私目立ちたくないんだけどなー、ちらっちらっってこと?」
「曲解!!」
演説の件もあって、今じゃ全体指揮っていえば彼女だからね。
業務連絡は大体要塞に投射して中継すればいいし。
「たとえ偶然のタイミングだとしてもだよ。あの時のマリアさんの行動によって多くの人が衝撃を受けた。今まさにさすマリ株はストップ高なんだ」
「その言い方辞めてくださる?」
「ま、オルトゥス有数のインフルエンサーみたいなものだな。マリアさんが言えば黒も白だ」
「だってよ、歌姫サマ」
「あなた方、褒めてるのかけなしてるのかどっちかにしてくださるかしら」
ともかく準備は整った。
神様気取り、全てを手に入れた気になっている道化の相手としてはちょうどいい舞台だ。
まずは光神様を盤面に引きずり出す。
「アミエーラさん」
「もういいのだわ?」
「天射部隊、弱化の構え!」
これまでの戦いで天使には弱化系のスキルが通ることは分かってる。
この分野においては銃とかより弓の方が強いんだ。
最終作戦の第一段階、数百の弓術士による弱化の雨。
着弾次第、戦艦バベルに備え付けられた主砲が空を捉え、PLの大規模魔法を詠唱を開始する。
それと同時に戦艦が航行の準備に入る予定。
「―――始める気か。どこから狙うのだ? 無色の異訪者よ」
「んう? えっとね、近接系の味方が戦うために、まずは遠距離から天使の翼を破壊しないとで……」
「了解した。我らが順次撃ち落とす」
「うん、宜しく―――」
………。
ジュデッカさん?
「「!!」」
一刀両断。
まさに伝説の一幕のような……空の裂け目すら両断するような斬撃が虚空に走る。
ジュデッカさんだ。
それも真竜としての姿を顕現させた彼が空を飛翔し、12天使の中で最も手近だった戦鎚の天使の翼を切り裂いたんだ。
遅れてタルタロス側から飛び立ってきた魔族側の軍も、明らかに普通じゃないくらいの極大バフを受けているみたいに身に余る熱と焔を灯して攻撃を開始する。
先頭の飛竜たちに乗ってるのは、やはりバディスさんと悪夢さん。
「―――――」
彼女たちが接敵の距離につく頃にはジュデッカさんが翼を奪った天使は地上に落下して怒りの咆哮を挙げてるようだった。
「……早速作戦が崩れたな」
「あんだけ事前に協力するつもりはないとか言って交信拒否してきやがったのに……ツンデレなのか? 魔族って」
「思えばさー? いつもいきなり乱入してきて事実上の共闘関係だったよね、これまでも」
青騎士君の言う通りだ。
けど、こんなに心強い味方がいるかね。
「これまでと同じ……。ってことは今回も同じにやればいいってことだよね。さ―――アミエーラさん、打ち方よーういだ」
「……因みにどっち狙うのだわ?」
「え、選択肢あるの?」
第一段階の担当指揮官さんがボケちゃった。
まさかこの隙にさえ魔族側を外からタコ殴りにしようなんて、なんていけない……。
「よっぽど未知領域の時に壊滅させられた恨みが浸透みたいだ」
「スゲーこと考えるな、アミエーラさんも」
「よっ、外道」
「素晴らしい闘争本能だ、妖精姫」
「妹ちゃんザ・蛮族ですー」
「違うのわだ!! 地上に堕ちた天使か、予定通り空の方かって話!!」
「「あ」」
「そっちか」
「ほかにどっちがあるのだわ!!」
確かにその辺曖昧だと誤射になるかもだ。
「一発だけなら誤射って意見もあるけど……」
「全員が一発目誤射ったら多分全滅するぞ、魔族」
「だよね。じゃあマリアさん、全軍通達。目標はあくまで地上に堕ちた天使個体ね。翼をなくした彼らを空に送り返してあげるんだ。半分優しさ作戦、行くよ」
「今の台詞と今までの流れのどこらへんに優しさありましたの?」




