第28幕:光が出でれば黒も白
『そう、私だよ―――ラーディクス』
所謂謁見の間、視界の全てを覆うかと思われるほど無数に現れた叡智の窓へモニターのように映し出される顔。
銀髪、朱の瞳……青白い肌。
造り物のように美しい女性はそっくりそのまま、まぎれもなくイミテーション。
そこに現れたのは、ナビゲーションNPCであるディクシアことシアだった。
コイツが……!?
……。
いや。
まぁ、全然予想外でも何でもないな。
「光神アルケー……。アルケ。意味は始まり、根源、原理―――支配。よく言ったものだな」
「根源領域の壁画に描かれていたのはまさにお前の事だったわけだ、シア」
「簒奪者……まぁ、そんな気してました」
「壁画云々は知らんけど、終始怪しかったしなァ」
「特別新鮮味もなく、想定の域を全くでなかったのであーるな」
世界中に存在する遺跡の内容。
陽、月、星を象った三つの紋様。
更に根源領域オルトゥスにあったのは、地底から上を見上げ、大きく口を開ける名状しがたい形の怪物達が五つ。
そして下から上へ向かって昇っていく小さな光が一つ。
「地、水、火、風……。当初、地底の神々は全部で四だと思ってた。が、アリマンが闇属性、魔神王が火属性の時点でその原則は崩れた。普通に考えて、残されたひとつ―――光に目が向くってもんだよな」
「光は地底より昇る―――。あなたが最後の地底神だったんですね……!?」
……。
絵にかいた勇者。
勇者ユーシャの言葉に、シアが画面の向こうで目を細め、今に拍手をする。
『うん、うん……凄いよ、君たち。やっぱり名前が残るような子たちっていうのはそういう想像性の面でも高い実力を持ってるんだ』
悪びれもせず、欠片たりとも隠しもせず。
目の前に浮かぶ窓の向こうでシアが淡々と告げる。
『そう、まさに。私―――天上神々の長たる光神アルケーは地底神だ。いや、そもそも私は天上の神なんかじゃない。光が届かない地底の底も底じゃあ、一番力が弱き存在。どれだけ力を込めて表現しようとしても、小さな光なんて誰も見てさえくれなかった。君たちの先の言葉は間違ってないんだ。私は、地底の神々の中では最弱の神。―――だから裏切った』
叡智の窓が閉じていく。
そしてすべてが閉じられたとき、俺たちの目の前には等身大、かつて目にした月の御子と同様の姿を取ったシアが立っていた。
かつての姿のまま、そこにいる。
実体は消滅したんじゃなかったのかよ。
『けど、同じだと思ってた天上の神々も。彼らの光は私よりずっとずっと大きく、強かった。光の具現であるはずの私よりも。光は私の筈なのに、どうしてかみんな私よりずっと大きな輝きを持ってたんだ。月でさえ……光を映さないと輝けないはずのディクシアでさえ、私よりも。それっておかしいよね? ずるいよね? だからみんないなくなった』
『ね、君たち、分かってほしいんだ。分かってくれるよね? 最初は凄く弱かったのに、ここまで強くなったんだ。君たちだって分かってくれるはずだよ。ようやく、ようやくなんだよ? 私が始めた最後のクエストが。最初で最後の願いがようやく叶うんだ』
『どこまでもどこまでも続くような光の中―――君たちも好きだろう? 光は。怖いだろう? 闇は。誰もが望む、誰もが神に近い力を持てる、誰もが輝ける光の世界が完成するんだよ』
『そしてその中で、私は唯一の管理者になる。ようやく、私はこの世界でたった一つの完全になれるんだ』
「「―――――」」
『どう? それって素敵なことだと思わないかな』
………。
勝手に色々喋ってくれたが、あまりに情報量が多すぎんだろ。
今の話も、この経緯も。
突入前は精々四祖魔公ジュデッカがラスボス枠で、倒したらこの戦いが終わるだろう、みたいなことを考えてた。
で、最終的になんやかんやあって人界、魔族側が協力して何らかの敵を倒す、みたいな。
もっとそういう方向を考えてたんだが。
「……結局は自分が一番になりたいだけってことですよね? とりあえずどうしようもないくらい悪ってことですよね、シアさん」
間違いない。
己が力を与えたはずの勇者が呆れるくらいろくでもない神だ。
「もうちょっと後に出てくると思ってたぞ、お前みたいなの」
『悪いね。呼ばれて嬉しくなっちゃってさ』
「いや、早くてよかったんよ」
「本当に倒すべき相手が分かったことであーるからな」
既に俺たちの敵は魔神王じゃない。
何故このタイミングだったのかは分からないが、倒すべき敵はやはり別にいた。
『あはは―――じゃあ殴ってみる? 少しは溜飲ってものが下がるかも―――』
「月に吠えろ、聖剣カレドヴォルフ……。“剛尖剣”!!」
最初に動いたのはムーンさん。
本当にためらいも容赦もなく撃ち抜くつもりだっただろう。
聖剣が輝き、彼が幻想の剣を飛翔させると誰もが思った。
そして、今のシアはそもそも実体じゃないから攻撃がすり抜けるとか、そういうものだと思った。
「……!」
『ふふ、ざんねーん』
違う、それ以前の問題だった。
輝きを灯したはずのムーンさんの聖剣は急速に光を失い、本来放たれるはずだった技はその兆候さえ見せなかった。
スキルが使えない……。
『当たり前だよね。君たちに力を与えたのは私なんだ。当然、その力を与えるもはく奪するも私次第。言ってしまえば君たちを何の力も持たない一般人に変えることだってできるんだ。―――あ、身体能力とかはそのままだけどね』
「嘘……」
『殴れるものなら殴ってみればいい。けど私は光だ。光の速度で反復横跳びする相手を殴れるかな』
誰かメアさん連れてきてくれねえかな。
『君たちを呼び出したのは私。創造主さまだ。まさか自分に向けられる剣をそのままにしておくわけもない。飼い犬にかまれるくらいなら牙を抜くさ。けど私は寛大だ。矛先さえ間違えなければ、ソレを取り上げることはしないよ?』
実体として目の前に現れたシアがその場で踊るようにくるりと回る。
『さて―――逆らえないことが分かったところで。君たち異訪者の最後の役目、ソレはもうわかってるだろう?』
「魔神王を倒せって?」
「誰が素直にやると思うんですか!?」
『ふふ―――ふっ、あははははっ』
はいそうですかとやる筈もないが。
てんで反抗的なこちらに対し、奴は本当におかしそうに笑う。
彼女と同じような顔で、けどあの人が絶対にしないような最高の笑顔で笑う。
トワさんの考えそうなことだ。
最初から思ってたけど、コイツのモデルあの人だろ絶対。
『なら皆に聞いてみよう。君たち異訪者の多くがどのような選択をするのか、確かめてみるといい。ほかならぬ、自分の目でね』
1……2、4……10……。
そこから、再び空間内にあらんかぎり、数えるのも面倒なほどの叡智の窓が出現する。
これは普段こいつが見てる景色かなんかか?
その窓の向こうにはそれぞれが全く異なる景色が映っていて。
「―――あ!? リエル!」
「「老師」」
「む、カールか」
向こう側に映し出されるのは戦域で次々と大魔法を行使している【氷魔公】リエルや、ロランドさんとこの副団長であるリカルドさん、円卓の参謀である老師など。
現在も戦火の中にいるようで。
映ってるのは全て下の戦場で間違いないみたいだ。
『見ているといいよ。皆の選択を』
『地に眠りはなく、天に陰りはなく、地上には光あり。code……Arche。発令。最終クロニクル、境界の根源』
『オペレーション、オルトゥス』
………。
……………。
「―――おおおおォォォォ!!」
「そこ」
「がぁ!?」
振りぬかれた白閃が断ち、情報体の全てを吹き飛ばす。
今や12聖としてPLの枠を完全に超えた電子世界との親和性を放った彼女を止める者はいない。
少なくとも、この場にはいなかった。
白い嵐が全てを巻き、喰らい、蹂躙する。
「手付らんねー! 本当にただのPLなのかよ!!」
「姐さんとおないくらいヤバい! ってか対多なら姐さんよりやべぇ! 見た目可愛いのが余計ヤヴァさ加速させてるってか動きが早すぎて―――うぼぁ!?」
「―――おそい」
一太刀浴びせる。
せめて、それだけでもと彼ら暗黒騎士は願い。
しかし攻撃をあてるにはまず敵の姿を見つける必要がある。
が、彼らがその中で彼女を瞳に捕らえた時、既に彼女は武器を振り終えている。
「くそッ、これが剣聖ハクロ……!! こうなりゃ一帯諸共吹き飛ばして―――」
「させませんよー! たーあ!」
ハクロの影にぴたりと張り付き補助し続けるのはユーシャパーティーのシーフであるソーナ。
凄絶な剣技の裏で人知れず次々と首を刈り、確実に敵へと致命攻撃を叩きこむ。
「みなさん! この調子でハクロちゃんを援護ですぅ!」
「「うええええぇ!」」
「うえー」
「何で意気投合してるんですの!?」
数に対応するは盗賊王レイドら傍若武人の面々。
戦場に継戦能力という力を与え続けるは歌姫マリア。
彼女たちの力で本来数に劣る人界の前線は拮抗状態を保ち続ける。
「ん……つぎ」
「「……!」」
たった一人にして当千、じりじりと前線をあげる剣聖。
彼女の圧に気おされて後退する彼らは誰が次の獲物になるかを押し付け合い、いつしか前に出るものはいなくなった。
「ハクロさん! こういう時はですね?」
「ん? んーん……ん?」
ごにょごにょ。
ソーナがハクロへ耳打ちをする。
「ん……。剣聖ハクロは、次の獲物を求むる」
「「なんか言ってる!」」
「なに!? なにを耳打ちしたの!? 」
「変な英才教育しなくていいから―――、なに!?」
「「―――――」」
続く戦い。
にらみ合いの中、ソレは現れた。
………。
――――――――――――――――――――――
【World Chronicle Quest】 光と闇の起源
大地に力は流れ、根源の火は熾され。
再び生と死の境界を越えた原初の闇へ沈まん。
数多の光を束ね世界を取り戻すべし。
【概要】
力を取り戻した魔神王ラーディクスにより終末
イベントが発令。
七日間の後に世界は焼き尽くされすべての生物、
鉱物が眠りにつきます。
異訪者、NPC間で協力し最後の地底神を討伐し
てください。
敵と手を取り合い、歴史の真実を暴き、すべて
の戦いに終止符を打ちましょう。
目標の達成と貢献度に応じて【ギルドポイント】
及び【戦果ポイント】を獲得可能。
【戦果ポイント】引き換え対象賞品は、クエス
ト終了後に公開されます。
【終局達成条件】
・地底の火「魔神王ラーディクス」の撃破
【備考】
・開催:■■■~■■■
・再参加可能/cool time(死亡後:12時間)
本クエスト発令時点で既に死亡しているPLは翌日
からの参加になります。
――――――――――――――――――――――
………。
「なぁ、おい」
「―――何だ? これ……」
魔神王がすべての元凶。
神を討ち、世界に平和を……。
「……んなタイミングか? 今。これが運営が用意した最後のクロニクルイベントだって……? おい、老師さん」
「―――。何やら大きな違和感がありおるわ。なぜ敵もが戦いの手を止める? 奴らの召喚主は魔神王であろうに。よもや……」
「あぁ、こいつァ……」
………。
「メアさん、これ―――!」
「明らかに意図してない何かが起きてる……踊らされたって言ったほうがいいかしら。第三陣営、あの時の男? 全部織り込み済みだったのかしら? このままだと討たれちゃうわよ? 魔神王さま」
「フレンドメール見て戻ってきてみれば、何が起きてるのかさっぱり分からないのだわ! 姉さん!? これは……」
「おーちゃん! 一体どういう事ですか!?」
「……………」
………。
シアが何らかのシステムを呼び起こしてすぐの事。
この場所から各戦場の様子がうかがえるようになってから三分と経つことはなかっただろう。
たったそれだけの時間。
それが始まっただけで、あれほど激しかった最後の戦いが止まった。
普段俺たちの行動の指針として存在する「クエスト」
クエストが当たり前のものとして、クエストが絶対のものとして刷り込まれてしまっているという証明だった。
『どうして君たちっていう事を聞いてくれないのに、ちょっと道を示してあげるだけでコロッとこけてくれるのかな』
「「……………」」
「やり口最低だな。外道って言ってもいい」
「我々の知ってる人にそっくりだと思っていたのだが……」
『失望したかい?』
「あ、いや」
「むしろ本当にそっくりだな」
「最悪に近い最悪だ」
コイツ、ルミねぇをもっと性格悪くしたみたいな感じだ。
『真実に近づいたものほど混乱し、理解を拒む。知ってるだろう? 光を直視し過ぎると、人は目を焼かれるのさ。その光が荘厳であるほどに君たち人間は自己ではなく他に理由を求めたがる』
『少しきっかけを与えてあげるだけ。そうすればあっという間に世界は塗り替わる。黒も白も、光も闇も。結局は誰かが与えた大義とちっぽけな正義、そして欲望。どれだけの英雄でも同じだ。むしろ、英雄だからこそ。ずっとずっと昔、月と陽と星が加護を与えた神代の英雄たちがいた。彼らは勇敢に戦って、そして消えた。示してもらった道をただ信じて、華々しく消えたのさ』
『けど、君たちは違う。誰にもなしえなかったことができる。本当によく集まってくれたよ。神の真体に手を届かせることができるのは、神の属性を内包した職業と聖剣使いだけ。君たちならラーディクスを倒すことが出来る。―――さぁ、一緒に悪を滅ぼそう。世界に光りを齎すんだ』
「やっぱりシアさんが何言ってるのか一言も理解できないんですけどバグですか?」
「自分が邪悪だと理解してないタイプの一番どす黒い邪悪だな」
当然全く乗り気じゃないこちらに対し既に、すべてが掌だと言わんばかりに両手を広げる簒奪者。
『さぁ、全ての終わりだ。君たち異訪者は世界を救った英雄になれる』
『―――アルケ。貴様』
『うん。じゃあね、ラーディクス。君は此処で消えるけど、またずっとずっと先の未来でよみがえることもあるかもしれない。お疲れ様、地上に残った最後の神。地底ではなく地上に火を灯すことを選んだ神様』




