第27幕:世界の簒奪者
「―――”次元断ち”!!」
空間に風穴が空いて、そこから無数の斬撃が飛び出してくる。
どこが斬られてるのか、どこから斬られてるのか。
まるで無数の達人が四方から襲い掛かってるみたいな剣嵐が吹き荒れ、そしてその嵐が黒焔に沈む。
両者の登場から、文字通り台風の目が切り替わった。
飛び出した最強の12聖アレスと最強の魔族ジュデッカ様が渡り合い、私たちは見届け人になり下がったんだ。
「チヅルさま、ミツルさま、こっちですぅ!」
「おーちゃん様も、アレスの戦闘行動は災害そのものです、巻き込まれないうちにお早く!」
「ぬぬ……! 余怖い!」
「うひぃ! ばけものぉ……!」
「あんなももうどう手出ししていいか分かんないよー。っていうかおねーさん本当に消えちゃったの!?」
とんでもない戦い―――その動きは私でもすべて捉えることが難しいくらいに早く、逃げはしないまでも本当に巻き込まれないように避けるので手いっぱい。
双鎌アレス、その強さっていうのは確かに聞いてたけど本当に……私が倒した灰燼の拳仙アラクランより、ずっと。
「ぐ、ぅ……!」
「やはり貴様はつまらぬ戦いをする。まるで傀儡師に操られた人形よな」
けど、そんな相手の攻撃全てを捌き切ってるジュデッカ様もあまりに別格だ。
「意志がない。貴様には己がないのだ」
「私、は……ッ」
空が裂け、振りぬかれた剣の軌跡が闇につぶれる、黒の剣と二振りの鎌が交わり極小の台風がうねる。
今まで戦ってきた相手の全てを過去にするような、怪物と怪物の戦い。
けど―――何だろう。
一つの違和感。
私はこの戦いを始めてみたはずなのに、どうしてか彼女……アレスを知っているような気がする。
戦いの神の名を持った英雄の戦いぶりを、どこかで。
「……。―――あら?」
「だ、め、で、す……!」
既に乱入しようなんて愚者は一人を除きいなくて、誰もが両者の決着がつくのを台風が過ぎ去るのと同じように待っているようで。
誰もが怖れを隠し切れない、一人を除き。
本当、こんな状況でさえ楽しそうにしてるのはメアさんくらいだし、引き止めないと本当に飛び込んでいきそうなのも彼女くらいだ。
けど、だめ。
「メア―――メアさん。いま消えられたら困るんですけど」
「戦う目的はもうないの。良いじゃない、派手に散っても」
「本当にルミエールさんがあんなのでいなくなったと思います!?」
「……。へぇ?」
正直、これに関しては方便のほうが強い。
今メアさんに居なくなられたら本当に困るから、単にそれだけ。
けど、確かにごくわずかにその可能性を捨てきれない自分もいる。
「分かってるはずですよ。爆風の中で、誰かが消えたエフェクトがあっただけ……本当に決めつけられますか? あの人なら、本当に何でもありですよね?」
「……………」
「消化不良だからって投げやりにならないでください。そもそも、戦う目的がないって何ですか? 貴女は私の……何なんですか?」
「―――。流石私の選んだあるじ様。悪かったわ、団長。そうね、私が何かしなくとも、どちらにせよ決着は……」
「貴様がこのままである限り、我を倒すことは永遠に出来ぬと知れ」
「が、あ……!?」
分かっていた勝敗、勝負の瞬間は一瞬だった。
最強の魔族は人界最強の英雄を地に墜とし、膝をつかせる。
竜の翼でもって、舞い降りた彼は勝利者の余裕を見せつけるように敗者へと剣を突き出す。
「肉体強度、潜在能力、その全てにおいて貴様は過去に類を見ない最強の使徒であろうよ。しかして、貴様には最も人を人たらしめるものが欠けている。我らと真に渡り合えた英雄たちの持っていたものが」
「……………ぐ、ぅ」
「陽の眷属星。貴様には忠誠のみが存在するのではない。貴様には己がないのだ。自分の意思さえなく、それゆえに神の干渉を跳ね除けたのだ」
一度、空中戦艦での戦いで彼女はジュデッカ様に敗れていると聞いてる。
仕方がないことだと思う。
単純な戦闘力では12聖よりも私以外の四騎士のほうが上だし、そんな四騎士よりも強いっていう設定を持ってるのがジュデッカ様なんだ。
神様とか特殊なイベントボスとかを除けば世界最強……そんな人を相手に出来る一個人はいない。
けど、膝をついていたアレスは大鎌を引き抜き立ち上がる。
まだやる気だ。
「まだ、まだまだまだまだッ」
何度も空間を跳躍、翻弄するように立ち回る人間。
その全てを予知するみたいに捌く魔族。
再び劣勢になり行く戦いの中、双鎌アレスの周囲に朱の瘴気が舞う。
「護……るの、だッ!」
「それは貴様の意思ではない。原初の命令を淡々とこなしているだけ」
「違う! 私は―――」
「ならばなぜ天の御業が機能しない。なぜ貴様には神の意思が加わらん」
まるで命をくべて戦っているかのように。
けど、そのうえで彼女の攻撃はジュデッカ様に届いてない。
このまま、順当に負ける。
「……ね、クオン。見てられないと思わないかしら」
「―――え?」
「分からないの。分からないのよ。たった一人で戦えちゃう人は、誰かに助けてもらうっていうのが分からないの。そもそもの発想が。必要な時、既に遅いのよ。彼女は間に合わなかった私なの」
メアさんの、何かを憐れむような顔。
初めて見る印象的な顔をした彼女の言葉に耳を傾ければ、メアさんは短くそう答えて。
……いや。
そうだ。
だから、メアさんはその意味でも剣を抜こうとしてたんだ。
アレスをずっと誰かに似てるなと思ってた。
どこまでも強くて、他を寄せ付けない、暴力の化身。
それって、メアさんなんだ。
性格も全く似てないけど、どうしてかメアさんと彼女が重なってしまうんだ。
メアさんがああなってた可能性?
「世界を断て……ぐ、ぅ」
「まさか、生力を注いで……! ダメですアレス! それ以上は」
「本当に消えちゃいます!」
「神器よ。我が魂を食らいて煌めけ」
「もっと……もっと」
「力を……もっと力を! 私は願う……守るべき者たちを守れる力を。友の最後の願いを聞き届けられるに足る力を! 己は12の星を束ねるもの。祈りを映す水鏡なれば―――。が……、あああぁぁぁぁ!!」
幾度と四祖魔公に挑む星は、既に体力が消えかけている。
煌めけば煌めくほど、星が強い光を纏うほどそれは最期の輝きにほかならなくて。
けど、その最後の一押しが消えない。
「神よ―――――我が身体を食らい、て。どうか、御子を……!」
「眠れ、星よ」
ついにジュデッカ様の剣が届いた。
12聖アレス、死神の命を彼の圧倒的な暴力が逆に刈り取った。
そう思った。
一瞬の後にアレスの髪は色が抜け落ちて真っ白に。
ゆっくりと尽きていく体力……緑が黄色に、黄色が赤、レッドゾーンに。
『―――承認』
けど、誰かの声が聞こえた。
『いいとも。ようやくつながった君の想い。最後の瞬間に芽生えたその真なる願い、その果てなき欲望。叶えてあげる』
アレスの体力が完全に消える瞬間。
ミリも残っていなかったそれが突然逆回しのように回復し、ゲージが青へ。
「―――。……」
「惑星斬り」
「なに?」
下段から降りぬかれた鎌の一撃がジュデッカ様の翼の一つを断ち切った。
「む、う……!」
吹き飛ぶ身体。
ここにきて、初めて最強の魔族たるジュデッカ様が押し負けた。
切り裂かれた、竜を思わせる彼の翼とも異なる、純白の鳩のような翼6対が上空で伸びる。
その翼全てが斬撃を生み、ジュデッカ様の一撃を真っ向から迎撃、逆に圧倒。
「何、あれは……!」
「禄でもない力っていうのは間違いなさそうね」
色の抜け落ちた髪、天使を思わせる12枚の翼。
求めに応じて力が宿ったっていうよりは、何かが乗り移った。
あるいは何かに乗っ取られたようにも見える。
「ふ、ははは……。出たな、簒奪者」
吹き飛ばされたジュデッカ様だけど、全く致命じゃない。
彼は服の埃を払うかのような自然さで剣を振り立ち上がり、再び翼を伸ばす。
「成程、どうやら見誤っていた、星よ。貴様は最期の瞬間に願いを知り、そして神は聞き届けた! そして今この瞬間、貴様は真に己という個を失った!! 我が直接手を下すにふさわしい神の傀儡となったのだ! やがてはその願いを自ら引き裂く異形へと! さぁ牙を見せろ、刃を纏え! 我が同胞の叫びを知るがいい!!」
地上から飛翔する黒翼と、上空から迎え撃つ白翼。
ぶつかり合うのは最強の人間と最強の魔族。
私たちPLそっちのけで最強決定戦始まってる。
「****、****」
「ふはははは!! 今この瞬間こそを待っていた!」
けど、むしろジュデッカ様はこれを求めてた?
現れたあれ……鉛影の双鎌アレスはいったい何をその身に下したのか。
「四騎士よ、刮目せよ。あれなるが神の意志。起源を奪いし簒奪の神ッ! 我らが陛下の敵、真に討滅せし起源の原罪である!」
「「!」」
ジュデッカ様が叫ぶ。
それって、つまり。
「魔族側の本当の標的は御子様じゃないってことかしら」
「そうなるのかな。あれを倒せば私たちの勝ちって―――、……!」
舞い散る天使の羽が光を纏い、宙を裂く。
それまで斬撃の軌跡だけに発生していた空間を裁断する力が抜け落ちた羽にまで。
こんなの当たったら一発で……。
『わ、は』
――――――――――――――――――――
【Name】 ■■■アレス
【種■】 蜈峨?菴ソ蠕
【■■■】 次元■■師(Lv150)
12聖天 ■■の双■
【――歴】
一次:■t) ――士(2nd)
士(3、d) 天■■士(4th)
【キ礎 】
体力:■■ :■0* 魔力:――
防御:100 魔防:■■ 俊敏:
【■力■■】
白兵:EX 撃:A 器用:EX
攻魔EX[ 支魔:E 特魔:AA
――――――――――――――――――――
……。
しかもあれって。
「盗賊王―――あの時と同じ……?」
「知り合い?」
「会いたくないタイプの」
あの時と同じ。
やっぱり彼ら12聖に力を与え、或いは敵として塗りつぶしていた者の正体は同じ?
考えている暇なんてない。
飛翔する白翼の残滓は私たち魔族側を見境なく狙い、追いすがってくる。
「元帥閣下と真正面から渡り合うとは。ここまで強大な力を一個人、それも人間種が持ち得る筈は……」
「来ますよ、クウォ、騎士メア、各々対処を」
「焔刃降魔!!」
「これ、結構速いわね―――わっ」
「■■■■■■■」
大断絶。
目の前が真っ黒に染まる。
もはや斬ったっていうより引き裂いた―――次元そのものが千切れて広がる。
「ぐ、ォ!?」
「なんという……!!」
ティアの光槍が消える、ラースの炎が吸い込まれる。
それでなお二人はジュデッカ様の背中を守るようにして前へと移動してるけど、私は逃げるので精いっぱいだ。
「まさしく、まさしくッ! これこそ神代の力……!」
ジュデッカ様が両手で握った剣を力強く降り墜とす。
断絶した時空そのものが切り裂かれ、燃え盛って消える。
あの二人、もう何でもありだ。
ティアやラースでさえ、巻き込まれた一般人みたいになってる。
「万象融解―――”原罪焔”!!」
空間を抉る斬撃雨をジュデッカ様の焔が焼き尽くす。
その一撃は確かにアレスへと……翼を広げる天使に対して、彼は握った黒剣の切っ先を掲げる。
「神の意思よ。存分に死合おう。どちらかが果てるその時まで」
「■■■―――、■や。その必要はないさ」
……。
今までの荒々しさが嘘のようだった。
たった一言、アレスの口から漏れ出た言葉。
「……!」
「もう、遅い」
その言葉通り、遅かった。
ジュデッカ様が振り返った時には既に取り返しのつかない状況になっていた。
この場の全てだ。
「―――。くくく……、何の腹積もりであるか? ラース。ガラティア」
「「……………」」
ラースの魔術とティアの剣、そのどちらもがジュデッカ様の身体を貫いていた。
それでも彼なら避けられたはずだった。
けど、床から伸びた樹木の根が彼の足に巻き付いていて―――これ、妖精王の。
完全に虚を突かれた。
今までの戦いが嘘のように、敵味方関係なく彼らはジュデッカ様を倒すために結託していたんだ。
◇
「帰ろうにも船がなく、自決などしようものなら戦い自体からはじき出される。さて、どうするか」
「帰るのは無理じゃね?」
「けどずっと神様とにらめっこも嫌ですよ、私」
「吾も、せめて戦うことを選ぶであろうな」
「実体すらないような相手とどう戦うのであーる?」
魔神王ラーディクスと対面して以降、何をするでもなく。
今の俺たちは常に送られてきている各戦場の状況を文面越しに確認することしかできない。
「さっきの言葉からして、要塞内部にジュデッカが向かったのは確実」
「で、今暴れてる」
天使と悪魔の戦争が起きてるってのは後衛組から聞いてる。
ついに12聖最強のアレスさえもが海洋伯や黒鉄の機銃みたいに突然おかしくなったってな。
「んじゃあ、この隙間時間に一つ、歴史の答え合わせっていうか疑問を解消するっていうのは? 許されることか」
「ユウちゃん?」
「誰に聞いてるのであーる?」
「そこの神様」
言葉は帰ってこない。
始まりの火、根源の焔魔はただ暗がりの先に存在するのみ。
「成程、ソレはいい。私も気になっていたのでな。当時を知るものが目のまえにいるのならば話もしやす
いだろう」
「え、王さま?」
「マジで今やるん? 考察」
「起源―――オルトゥスとは何か。光は地底より昇る……この意味は? 地底の神々は滅び、光の神々は姿を消した。まるで勝者不在の状態はなぜできたのか」
「やるんですか……」
ムーンさんが武器も抜かず前へ進み出る。
「魔神王よ。私も兼ねてより聞きたいことがあったのだが―――。魔族を生み出したのは魔神王である貴方だというのは分かった。では、魔族側の異訪者。半魔たる彼らをこの世界に呼んだのもあなたなのか?」
「―――――」
「……。え? 王さま?」
「そんな当たり前の事……、どうして今」
人界側のPLたちを召喚したのが月の御子ディクシアであり、現在は残滓として存在しているシア。
ならば恐らく魔族側のPLを呼んだのは魔神王。
これは神々の代理戦争。
地上とか世界の支配権を掛けた光と闇の戦い―――そういう展開だと思ったんだ。
誰もがそれを真っ先に思い付いただろう。
沈黙。
なら答えは決まったようなものだ。
「なぁ、神様。どうして分かっていて戦いを止めない? 自分たちが盤上に引きずり出されて戦わされてるだけだって気付いてるってことだろう?」
『茶番に全力を費やすものが存在するか』
炎で綴られた文字が現れる。
神にとっては大戦争も茶番である可能性。
ではなく、この戦いそのものが意味のないものであるという事か。
「―――ってーと?」
「最終クロニクルなんていわれて、実際のところそもそもこれは管理者側がセッティングした盤上じゃない。俺たちが勝手に作り上げたもの。……異訪者が主導した、最初で最後の戦いだ」
「……それで?」
「何か問題なのかな、それって」
「前提からしてすべてがな、ラント」
管理者とはすなわち神々。
「さっきの問い、そのままだ。もし……もしも、人界側と魔族側。陣営の話ではなく、すべての異訪者はただ一柱の神によって召喚されたとしたら?」
「それは……。まぁ」
「実際のところ、壮大なマッチポンプってこと!?」
魔族側のPLだから、魔神王が対抗措置として召喚したんだろうと。
多くの者は勘違いをしていた。
「そのうえでもう一度―――この戦いは異訪者が主導してセッティングしたもの。この世界で生まれたNPCの依頼や願いではなく、最初から最後まで全部異物である俺たちのものだ」
その時点ですべてがすり替わってる。
世界の命運は既にこの世界で生まれた彼らではなくよそ者である俺たち、ひいてはそれを自由に操ることのできる黒幕の思いのままってこと。
「人界側も魔族側も、どっちのPLを召喚したのも同じ神……。それってつまり、その神様がクエスト出したら今までの話全部なかったことにしてどっちにも転がせるってことですよね!?」
「まさにな」
「けど、そんなの……」
「分かっているだろう? あり得るのさ」
PLは自由な存在。
散々NPCに言われてたことが、まさに起きる。
ロールプレイだのなんだのと言われて、俺たちPLが究極的に求めているのは自身の強化だったり、レアアイテムだったり、名声だったり……。
正直、戦争なんてどっちに転んでもあんまり興味ないってほうが大多数だ。
「当然、狙いはアンタだろうな、魔神王さま」
『―――。我が異界より何者かを召喚したこと、そして行うということは過去と未来の双方において存在しない。全ては一柱の神によって引き起こされた計画、その一端である』
『しかし、我が存在しているのであれば十分である。友たちは既に眠りについた。後は簒奪者のみ。永久の灼熱の中にその身体を焼き続けさせようぞ』
いろいろ言ってるが。
やっぱり答えは出てるみたいだな。
「簒奪者は一人。となれば」
「あぁ、そういう事らしいな」
「え、もう答えたどり着いてる系? ―――いや、聞いてて大体わかったけどさ」
「基本頭いいひと多すぎんよ」
「まるで話が分からぬぞ」
「なんてことはないさ。地底の神々は基本属性の枠で構成されてるだろう」
地底の土ヨグノス
地底の水アスラ・シャムバラ
地底の火ラーディクス
地底の風オグド・アマウネト
そして地底の闇アリマン
……。
いないだろう、一つ。
『奴こそ簒奪者。太陽も月も、星も……全ての光が届かない地底において、もっとも弱弱しい神。姑息なる、道化』
―――光は地底より昇る。
それはすなわち、元々の仲間だった地底の神々、そして己を受け入れたであろう天上の神々さえも裏切り、世界を奪い去った簒奪者。
「簒奪者―――地底の光……光神アルケー」
………。
『そう、私だよ―――ラーディクス』
その言葉が紡がれた刹那、世界そのものに亀裂が走る。
今見ているもの、目に映る全てが幻の産物であるかのように、視界が揺れる。
俺たち全員の前に、呼び出したわけでもない叡智の窓が出現する。
そこに映し出されたのはよく知るナビゲーションNPCだった。




