第24幕:勇者は暗殺者
「ひとつに、私たち人界側はキルされてから現実時間で30分は復活することができない……」
「まぁ、これは最終戦争をするにあたって当然の制約って感じだよね。無制限、無尽蔵にやり直せるっていうならいつまでたっても戦いが終わらないゾンビ決戦になっちゃうから。だから当然―――そちらさんも?」
「こちらもあるわ。私たちの場合は蘇生時間の制限ではないけれど、リスポーンから30分間各種スキルの使用制限と能力値半減。生き返ってから暫くは実質的に戦う力と移動手段がほとんどなくなるってこと。当然飛竜も呼べない」
恐らくは魔族側が攻められる側であることを想定した差別化。
本来数に劣る筈の魔族側に与えられた細やかなアドバンテージね。
これに関してはスミカ―――クオンたちの積み重ねによって戦力差そのものをひっくり返せる当てがあるから、実質的にノーリスク。
むしろこちら側に有利に働く。
「む、なんか策がありそうな顔だね」
「普通にやめてくれないかしら?」
当たり前のように読んでくる。
もはや相手の顔や雰囲気から悟るのではなく、頭の中を読み取る―――それこそフルダイブMMO【ON】のような。
「トワのインスピレーションって此処から生まれたのかしら? もしかして」
「え、何の話?」
「何でも。結局どうする? 私たちの勝負。何をもって敗北とするか。勝利とするか。単純な戦争の勝ち負けでもいいけれど……」
「そんな大層な話でもない気がするんだよね。さても、さても」
もし戦いの落としどころが異なる場合、話自体がなくなるかもしれないから。
予防線を張っておいてもいいと話していた。
複数の感情、色がこちらに向いているのが分かる中で、フムと頭を揺らしていた相手がポンと手を叩いて。
「じゃあさ、サクヤ。お互い一度でもキルされちゃったら、その時は敗北が確定っていうのはどうかな。これ、ルールの条文に追加しよう」
「ルミにしてはずいぶんリスキーなこと言うのね」
後衛特化、戦闘能力なんてほとんどない職業がそれを言い出す理由とは。
前線に出ないゆえの余裕?
いや、道化師の最終スキルによる強化に余程の自信を持っているのか。
前一緒に行動していた時はまるで使いこなせていなかったけれど……ルミなら或いは。
「私に力はないけど、私が懇意にしてる人たちは凄いんだ。虎の威を借るカモノハシねこれ」
「はいはい……」
単純に他人任せなだけか。
「あなたに他人を顎で使う味を覚えさせちゃったのが悪かったのかしら。ま、私は別にかまわないけれど」
「じゃあ決まりだ。ここから先、私たちは敵同士。勝者が全てを手に入れる」
「つまりは……」
「つまり」
………。
「「負けたらそっちが奢りね?」」
「顔も年もいい大人の二人の会話ですか? これが」
「最悪すぎる……」
「もうちょっと大人っぽい会話してくれないです? サクヤさん」
「お金の問題じゃないのよ、スミカ。これはプライドの問題なの」
「君たちも大人になったらわかるさ」
「僕の名推理だと、多分一番子供っぽいとこの感情が邪魔してるやり取りだったと思うんですけど」
「はーい正解」
とにかく、負けられない戦いであることに間違いはないの。
絶対に、ね。
◇
「焔禍震天―――大災刃ッ!!」
「下がれ!」
俺たち一団へ向け放たれる斬撃、最大出力で振り下ろされた炎纏う一斬が大地を割る。
噴煙、そして灼熱の黒焔が5メートルと噴き上がり……これが一人のPLの技だってのか?
「―――おおおおォォォォ!! ”大海嘯”!!」
「ナイス優斗、武天撃!」
「ぬ……、”斬閃”……!」
目の前に広がる黒焔の嵐を防ぐように聖剣の軌跡が津波を描き、追従するようにして【武尊】となった航が拳を振りぬく。
交わる拳と黒剣、大技の後でも当たり前のように受け止められるな。
「確かに速い。流石は武闘家派生。が、その攻撃は見たことがある。既に撃ち滅ぼした敵の技だ」
「だからと言って当たらない道理はない、よね? 打撃掌・二ノ打ァ!」
「そら、俺の相手も忘れないでくれ、よ!」
俺と航の猛攻を完全に封殺してくる暗黒騎士、本当にこの状態の彼女って性格変わるのな。
バディス……クオン、スミカ。
同一人物なのかすら怪しくなってくる。
「一人二人に時間を割いてる暇はない」
「そう言うなよ、初っ端からいきなりこうして楽しめるチャンスが巡ってくるとはな、ナナミン、エナリア!」
「切り裂け、七刃剣舞ぅ!」
「魔弾繚乱!」
「炎熱地獄・終局……!!」
全員で叩いて隙を作り将太の最強火力が決める、対ボス戦の陣形をたった一人のPL相手に行ってる狂気。
舞う攻撃、嵐の大火力……全て紙一重で躱される。
「ぬるい炎だ」
「んじゃ避けんなや!」
いかに同じ炎使いのバディスでも、今の将太の技を食らえば一撃で消滅は当然。
当然、全部避けてくるな。
勿論俺たちだってバディスだけを意識しているわけにもいかず。
戦争、流れ弾にも常に気をつけなきゃいけない極限環境だ。
こうも乱戦だと考える暇もなく戦って戦って……気付けば自分も消えていると思ってた。
それ自体に悔いはない。
けど、本当に戦いたかった相手が目の前に現れてくれたとなれば話は別。
「いっやぁ、盛り上がってきたねー! 王さま!」
「我々も負けられんな」
「余裕ね、あなた達も」
俺たちがパーティーでバディスを相手取っている間、悪夢の騎士メアを押しとどめるのは騎士王ムーンと青騎士ラント。
迅雷のような応酬を交わす悪夢と青騎士だが、人界の最精鋭の一人たる青騎士をもってしてもやはり戦闘力には確かな差があり、しかし隙を埋めるようにして立ち回るムーンさんの援護が戦闘を成立させている。
本当に何でもできるんだよな、あの人。
「にしても、このやりずらさ、―――あなた……。ねえ、騎士王さん」
「どこかでお会いしたか? 悪夢殿」
「いえ。気のせいね」
「けれど」
「……ッ!」
「経験上、貴方みたいなのが一番厄介なのは知ってる」
「ぐくッ!?」
「王さま!」
悪夢の騎士が狙いを完全に固定、ムーンさんを狙いまくる。
その斬撃、動きの速度は一瞬その場から消えているようにすら―――。
本当に消えてね?
「さあ、さあさあさァ!!」
「なん、―――だ!? これはよもや!」
「聖女お姉さんの入れ替えスキルじゃん!」
脱出転移。
対象と自身の配置を入れ替えるスキルを戦闘に生かそうと考えるのはありそうな話だが、実際に使いこなせる人間がどれだけいるか。
周囲を飛び回る黒い鳩……現れては消え、消えては現れるさまはまさに悪夢の具現。
スキルや魔法とまるで関係ない足技が放たれ、筋力値の差から大きく吹き飛ぶ白銀の騎士王。
分かっちゃいたがサク―――メアさんは化け物中の化け物だ。
最低でもハクロと同格。
俺たちが一年ちょっと戦いの世界を生きてみたのに対し、生まれてずっとその世界を一人生きてきた怪物だ。
バディスにメア……魔族側最強のトップ2がこの場にいる。
つまりは押しとどめられている、好機。
「―――竜退治、化け物退治。なれば」
「っと?」
「であれば吾が征くは道理! 竜退治は勇者の誉れであるぞ!」
「あー、もしかして……。あー、どうも。そういえばロランドさんも勇者でしたっけ、今」
「無論!」
「こえでけーっす」
後から後から、着々と集まってくる仲間。
前線とは言え名の知れたものばかりがやってくるのは偶然……では、ない。
俺たちにとって全部織り込み済みだ。
それにバディスたちが気付くかどうか。
「剣聖を倒せ! 首級をあげろォ!」
「魔族側のユニークはバディス殿だけではないぞ! 我地属性派生【闇魔公】の―――ブハァ!?」
「うるさい」
やや離れた戦域……ハクロも半魔のPLから大人気だ。
彼女に至ってはそもそも斬撃で魔法攻撃を破壊するというチート能力を持っていて、超範囲の技が強みの魔公シリーズですら敵ではない。
馬鹿があっちに寄っていくだけ、手が空くこちらはやりやすくもなるわけで。
「……! やはり」
「どうした騎士様、おおお、らぁ! ”蒼迅一閃”」
「ぬ、く……!」
一瞬、バディスの注意がこちらから外れていたことを理解し叩き込んだ速撃。
それはわずかに奴の身体に届いたが決定打にはならない。
マズいことに、飛び退ったバディスは背中合わせのようにメアさんの傍へと移動して。
「メア」
「待ってちょうだい、団長。今丁度いいところ……」
「周りを見てくれ」
「―――。あら」
さっきの感じ、やっぱ気づかれてたな、自分たちが孤立し始めていることに。
「いつの間に孤立し始めて。偶然? 誘いこまれて―――いえ、違う……。袋小路が向こうから来たわけ。けどどうやってこの混戦の中で状況の把握を? 一体だれが……」
なぜ知らぬ間に追い込まれた構図になりつつあるのか。
そうなるように裏方が構築した環境が仕向けているからだ。
一番手近な例でいうと、円卓の盃の老師や古龍戦団の副団長リカルドさんなど。
【軍師】などに始まる術士の系統外派生はマリアさんの歌姫と同様バフをメインとした運用であるが、他の能力としては戦場を俯瞰してみることのできるスキルなども備わってる場合がある。
完全に大規模戦闘に向いた職。
とはいえ、できても数十、百メートル四方の把握。
広大な戦域全てを視るだけの力はない。
「だからこそ、要所要所に軍師を置き、更にそれらを繋ぐ血管の働きが必要だ。あらゆる情報を手早く伝達する、バランサーが」
「強者であるゆえに貴女はそれを思いつかないだろう。貴女は彼女とは違う」
「―――。成程、伝書鳩……」
餌を使って誘い、罠で持って捉え、物量で持って叩く。
怪物を倒すにはそれなりのやり方ってものがある。
「効果範囲の問題もあるからある程度戦場に出てもらわないといけないっていうリスキーな部分はあるが……。こっちのが上手だったな」
「……!」
これで終わってくれ。
「団長! 来るわ!」
「―――む!?」
「気付かれた―――が、遅い。今こそかつての借りを返す時であーる!」
「ぶちかましてやれぇ!」
袋小路に追い込んだ暗黒騎士らへ向け、一定距離を開けた空間から超遠距離射撃が束に放たれる。
次々に撃ち抜かれる影。
そして、遠距離攻撃を避けたとしても、こっちの本命までは手が回らないだろう。
「王断」
「穿とうかッ! 煌剣灼空ッ!!」
「―――、ッ、ァ」
ムーンさんとロランドさんのツートップが同時に斬撃スキルを放つ。
バディスをかばうようにして前に出たメアさんには確実に当たった。
これは間違いなくワンキル……。
「メアさん!」
「……。大丈夫、無事。けど不覚、ね」
「「!」」
いや「無事」じゃねえよ。
何で無事だ。
「消えるかどうかは五分と五分……まさか、私が時の運なんかに身を任せなきゃいけなくなるなんて。焼きが回ったわぁ」
「ね、優斗。ここで確実にどっちかはワンキルするって想定だったよね」
「誤算は常にある」
「「開き直るな」」
総スカンを食らう中で、ムーンさんが武器を構えなおしつつ俺たちへ振り替える。
「―――重ねてマズいぞ、諸君。リカルドからの連絡だ。要塞前の拠点にエルゴ・ラースとガラティア・コギトが現れたらしい」
「「!」」
「まさか!?」
走る衝撃。
何故そうなるのか、戦場を広く見まわしている影の参謀がいるからこそあり得ない展開。
開戦以来、ずっと四騎士全員を見張っていたからこそ、予想だにしない可能性に皆が目をむき。
その答えを知っているかのようにくつくつと笑う者がいた。
「ふふ……。さっきの話。確かに私はルミみたいに多くをうまく騙して使うことはできないわ」
「けど……」と。
終わらない悪夢が武器を構えなおす。
「一人……、えぇ、二人。二人くらいを助けてあげることは出来るわ。ずっと、二人までなら気をまわしてあげてきたのだもの」
「そして―――さ、団長?」
「……先に行く」
目の前から一瞬だけメアさんの姿が消え、今度はバディスの姿と入れ替わるようにして現れる。
「―――また脱出転移……いや、バディスと場所入れ替えただけ……、じゃない!」
「いったい何処に……」
「決まってるじゃない。キングを獲りに行くの……」
単純にバディスと入れ替わったのではなく、そもそもバディスがこの場から消えた。
何もかもどういうことだ。
脱出転移……いや、俺は鳩が戦場を飛び回っているのを見ていないし、後方でそんな怪しい動きがあればわかったはず―――。
「わっはっはっはっは! 見たか人間ども!」
「我らは人界のような烏合の衆にあらず! 全力で姉御と姫を守護する最大最強の親衛騎団なりぃ!」
「「ホ」」
暗黒騎士たちが身に着けたマントや装備を動かす―――まるで収納するように転がり出てくる黒い塊。
「懐に……黒鳩!」
「密輸のやり方! 動物虐待じゃん!」
「ふはははは、言っていろ!」
「我ら託されしものの誰か一人でも後方まで食い込めればよし! できずとも己が果てる瞬間にその希望だけは逃がすのよ!」
「腰にダイナマイトじゃなく鳩引っ掛けて特攻かけてたわけか。―――ムーンさん」
「やられたな」
戦いのさなかで悪夢騎士が何度も脱出転移を使ってたのは、そもそも四騎士たちを前へ前へと送迎してたってこと……!!
エルゴ・ラースとガラティア・コギトが俺たちの本丸に食い込み始めてる。
そして今まさに、バディスも既にそっち側へ飛んだ可能性が高い。
「いやおかしいでしょ! 効果範囲どうなって……」
「ルミから聞いてないの? スキルポイントを消費して拡張できるの、範囲は。私はそもそもあなた達みたいに戦闘スキルにポイント振ってないし、その分こっちにつぎ込んでる」
「「―――――」」
存在自体がゲームの戦闘システム全否定。
確かに、これまで彼女が攻撃スキルを用いている状況はかなり少なかったが、まさかレベルアップで得てきた殆どのスキルポイントを二次職のスキル拡張に振ってたってのか!?
「貴女はずっと他の手助けをしながら私たちを相手取っていたというわけか」
「そのくらいならできる。骨だったけれどね」
「いや、バケモン……」
「それじゃあ、私も行くわ。あなた達、このままここで戦っててもいいけど―――精々もがくといい。ハクロ。あなたとの戦い、また少し預けるわ。私たちが勝った後に―――。存分に戦いましょう?」
「逃がさ……、あ」
脱出転移が発動し、姿が消える。
後に残された黒い鳩も目の前で空へ飛び立ち、消える。
あっち陣営は端からこのつもりで。
「ちぃ、やられた……!」
「なれば吾が!」
「ダメだ、ロランド。ユウトも、追うつもりではないだろうな。これはどちらが先に軍を食い尽くして相手側へ雪崩れ込むかの勝負ではないぞ」
「分かってはいるんですけどね」
どうにかして自陣営にとっての「暗殺者」を敵中枢へ送り込み、その間敵を足止めできるかの戦い。
それを相手も理解してたってだけだ。
「両陣営の戦力は拮抗してる。これが最終クロニクルである以上、管理者はどちらにも勝ち筋が出来るように物語を設計してくれてるのは多分、恐らく、ある……筈」
「そこを断言できないのは悲しいことではあるが、少なくとも少数でタルタロス内部へ乗り込んだ先で不定神や鋼鉄神のような大神クラスと戦わされるようなクソゲー展開は多分ない、ってか絶対ない。勝てない」
中ダレしてくる瞬間に勝負へ出ようとしたのは……考えることはやはり同じ。
あっちのが行動に移すのが早かっただけだ。
「今の一戦は挨拶だった―――そういう事にしておきましょう。次だ、次!」
「ルイちゃーん!」
「プランA継続、木を隠すなら森林浴部隊! 出番です!」
「はーーい」
5thの支援職が持つのは最早地形改変の域に踏み込んだ大技。
大地を樹根が覆い、俺たちの姿を覆い隠す。
大規模な分個々の耐久度は低く当たり判定も大きいゆえ、弱点属性で攻撃されれば幾ばくも持つものではないが。
「乗り込む時間には十分だろ―――ってなわけで」
「予定通り、準備は出来ているか? 船長」
「無論」
「俺らも氏準備万端に候」
「いつでも出れるであーる。他の面々も既に乗り込み済み」
ビーンさんやガタノトアさんたちがスタンバってたのはバディスたちを相手取る為ってのもあったが、どちらかというと本命は移動のため。
戦線は大正義ハクロと超大規模戦闘を得意とするマリアさん、獣軍レーネといった面々が担う。
「かなり手荒な運転になるゆえ、船の損壊と船酔いは覚悟してくれ。あと少しガリガリするが勘弁してくれると」
「「安全運転で」」
舵を握る海洋伯に呼ばれるまま、俺たちは一斉に船に乗り込む。
精鋭を乗せて飛びたつ船。
可能ならば、本来ここでバディスやメアさんといった敵の主力を潰せれば御の字だったんだが。
プランA―――即席勇者一行による敵中枢破壊作戦、継続だ。




