第23幕:相手を求めて
大地を埋め尽くすような人ならざるものの群れに、空を覆う翼竜の大群。
戦力割合でいえば1対5……数ではここが本拠である魔族側が圧倒。
両軍を合わせた総数でいえば、これでも五千には届かないんだろう。
そう……これでも、だ。
成程、やはりいにしえの時代の戦いっていうのがどれ程壮大であったのかを現代に生きる私たちが理解するにはあまりに足りないのかもしれない。
古代中国で百万の軍を率いた大将軍とか。
古代ギリシャで数十万の敵軍に向かったスパルタさんとか。
彼らに比べてしまえば、こんな戦いはものの数ではないのかもしれない。
ただ、どんな過去の将軍でも、英雄でも……彼らが得られなかった経験がここにはある。
これは、あり得ざる幻想の戦いだ。
「レオニダス何某さんも曹操何某さんも、魔法が飛び交って人ならざるものと戦うような機会はなかっただろうから、実質私たちの勝ちみたいなところあるよね」
「あー、はいはい。勝ちね」
「もう勝ちでいいのでおとなしくしててください、ジャンケン中です」
「あとそこまで言ったのなら何某いらなくないです?」
「ルミねぇは私が運ぶんだい!」
「普通に考えて筋力あるやつだろ」
「その枠なら僕もいけるよね?」
「なぁ、こんなことやってんの俺らぐらいだぞ……」
人の話も聞かず、どうやら誰が私を担いでいくかを取り合ってるらしい。
どうせ俵運びだろう? 私は詳しいんだ。
けど俵運びは困るよ。
どうして私が運ばれるときはいつもあの持ち方なのかな。
「もっとあるだろうに、お姫様抱っことかおんぶとか、それこそ肩車……」
「ルミ」
「んう?」
と、ハクロちゃんだ。
最前線にいたはずなのに、気付けば人界最強のPLさんが私を見上げている。
「前がいいなら、ハクロと一緒にくる? 担いでくぞ」
「いえね、せっかくいろんな人と戦う機会なのに邪魔しちゃ悪いよ。言い方的に君もどうせ俵運びだし。それに、もやしには危ないよ。ひき肉にされちゃうよ。良いカモだよ、ウサギのパイにされちゃうよ」
「結局何類なんだよ」
「鳥なのか哺乳類なのか植物なのかはっきりしてくれませんか?」
これでも昔は柴ヶ咲のカモノハシで通っててね、言われたことないけど。
「「―――――」」
今だ、にらみ合いの様相は崩れない……。
ジャンケンの話じゃなく、暗黒都市を背にする魔族側と、空中要塞を背にするわたしたちのだ。
これは互いに先攻を譲り合ってる状態。
人か、魔か……。
張り詰めた空気が大きくなっていく中で、対面―――東の上空を飛んでいる四騎士のほうで動きが見える。
ガラティアさんと、エルゴさん。
二人の将軍さんが前に出て手を高く掲げ……。
何か仕掛けてくる気かな? クオンちゃん。
………。
……………。
「クウォ。やはり我々から仕掛けるのが良いのではないですか?」
「んーー。けど、それって誰が指揮を?」
「それは、えぇ。まぁ。私以外の誰かが……」
「我以外の誰かがやるであろうな」
「右に同じく」
ティアもエルゴもアリギエリも、結局誰が指揮を執るで押し付け合いになってる。
取り合うではなく、押し付け合う。
結局、私たちには戦闘狂しかいないんだ。
四騎士の間に上下関係はないから、最初の音頭を取った将軍がなし崩し的に全体の士気を取る方向にシフトしていくパターンだよ、これ。
けど、それ言い始めたらそもそも、どうしてNPCである三人がPLにそれ押し付けようとしてくるのか本当にわかんないよ。
戦争って言ってもゲームだよ? 私客だよ? プレイヤーだよ?
ほら、なんていうか―――遊園地にきてアトラクションに乗りに並んだのに、いつの間にかキャストでお客さんの誘導係に任命されてたような。
その役目を何とか押し付けようとしてくるのが三人で。
何て言うか、別の戦いが始まりそうな予感だ。
「……。ね。試しにひと当てしてみるのがいいんじゃないかなぁ」
「ひと当て、とは」
「先に戦った皆があの要塞凄く固いって。堅牢すぎて移動中には落とせなかったわけだし、実際どれくらいのものなのか測ってみてもいいと思うよ。三人の誰かが」
「―――わたしたちですか」
「そりゃあね。私の技って単体とかしかないし」
純粋な戦士としての最大値が桁違いのアリギエリ。
術士として卓越した魔力を持つエルゴ。
いわば魔法剣士って感じで双方の力を半々に持つティア。
三人とも方向性が違う、それぞれが埒外の強さを持ってる。
単純なボス級の彼らと比較すると、当然だけど私は格が落ちるというのはあるわけで。
「成程、クウォ殿の意見には利がありますね。であれば……。ガラティア殿。久しぶりに合技でもいかがです?」
「……。いいでしょう。これで終わるようならば興醒めもいいところでしょうから」
「融解の蒼炎よ」
「針穴の光よ」
二人の将軍が半歩分飛竜を前に進ませる。
エルゴが螺旋を描くような青い炎を頭上に構築して、ティアが髪の毛みたいに細い光の糸を何百何千と束ねていく。
私たちの頭上に出来上がるのは、紡がれて天へとそびえる巨塔のような光の槍。
螺旋を描く蒼焔を纏ったそれが、今に敵陣の本拠へ向けられ。
「天裂く光をここに縫製しましょう。陽は地底より昇る―――”白夜葬槍”ッ!!」
「「……!」」
流星、飛来する槍の柱。
今に突き抜けていった光槍を止めるべく、人界側では術士たちが魔法やスキルによる防御を展開している。
けど、うねりをあげて進撃する槍は止まらない。
あれはもう貫きの概念そのもの、ムービー銃。
空を裂き、魔術を抉り砕き、空を飛ぶ艦船を突き抜ける一撃。
止められるものがあるとすれば、それこそ天の使いか何かで。
「「―――――」」
結局、誰にも止められなかったそれが黒鉄の空中要塞に衝突したのは間違いない。
………。
けど、大槍が要塞の外壁に衝突したとき、音も爆発も起きなかった。
方陣を描くようにして展開された金色の……葉脈みたいな筋が吸収するみたいに光を飲み込んだんだ。
光を打ち消す光。
強い光は、より強い光によってかき消されて見えなくなった。
単純な外壁の力によるものじゃない。
何らかの保護魔法によるもの。
「……あれって」
要塞の甲板で巨大な盾を掲げる金髪の男の人。
背は高く、異訪者基準でも並外れて整った顔。
こちらを見て、不敵に笑う―――帝国の12聖ル・リオン。
金璧の天盾の名を持つ彼は、公式の情報で12聖最硬の防御性能を持つって言われていたNPC。
「―――12聖。やはりいるであろうな」
「引きずり出せたとみるべきでしょう。混戦の中、いきなり現れられてもたまらない」
「話は簡単。今現在この戦域に彼らのうち何人が来ていて、その何人が人界の完全な味方なのか、という話ですね」
それでいうと彼ら人界側を倒した後、この三人も何をし始めるか分かったものじゃないけどね。
私一回本気で獲りに来られてるし。
「とはいえ、まさかあれを止められてしまうとは思いませんでしたが」
「次はどうしましょう、クウォ」
ほーらまた私だ。
もういいよ、あれで。
むしろ最初からそうすればよかったんだ。
「じゃあ、やっぱり正面から切り崩す。特に作戦とかはなくていいよね。向こうも全体の指揮を執ってくるような人はいないみたいだし、どのみち乱戦でしょ」
「好きに突撃していいということだな! では!」
「はーい、せめて皆で動かしてからね」
「それじゃ……」
「「全軍、前へ」」
四人で同時に行軍の合図を出す。
飛竜が、魔族が、半魔が、亜人が……陸、空、それぞれ横並びに、一つの生物のように動き出す。
「よし―――。うん?」
そんな中で、キラッて何かが。
わたしたちよりもう少し上空に、何か動くものがあったように見えたけど。
ガラス、鏡の反射みたいな。
「……気のせいかな。じゃあ、行動開始!」
変なことに気を取られたことで既にどっか行っちゃった三人に出遅れてる。
「―――騎士―――バディス―――」
「見つけ―――」
「ティラミス、回避ね!」
「ルルㇽル」
飛んできた火の玉ストレートを避けて、明らかに狙い打ちしてきてる斬撃雨を大回りに回避。
戦端が斬って落とされる中、早速もつれ合う地上へ飛ぶ。
私はティラミス……飛竜の操作に絶対の自信があるわけじゃないし、かなりの速度で飛んでくる攻撃を全部避けるのは無理だと思ってる。
どっちかっていうと地上で戦うほうが性に合ってるわけで。
「―――ここだぁッ!」
見定めて飛び降りた先で不意打ちざまに何人かを切り裂く。
「……ッ!! まさか!?」
「バディス! 暗黒騎士バディス・クウォだ!」
正直気持ち良いと思う。
敵が私のことを見つけて慄くの、結構楽しいんだ。
「ひぃぃぃ!? ナイトメア!?」
「悪夢だ!」
「あら、ファン?」
そういう意味では過去に未知領域で上位ギルド狩りをしてたメアさんも名を知られてる。
敵が恐怖を抱いてくれればくれるほどに私たちには好都合なわけで。
私に続くようにして次々と降下する皆と一緒に前へ前へと歩を進めようとして、すぐに複数のスキルにの対象にされたことをアナウンスされる。
大方敵が鑑定してきてるんだ。
けど、余程のレベルじゃない限り私の能力秘匿は抜けないし―――。
「いやレベル120ってなんぞ!? クオンちゃんずるい!」
「……………」
やっぱ着地地点ミスったかも。
何で歩き出してすぐそこに知り合いがいるのかな。
目の前には七海ちゃんがいて、驚きの表情だけど、そういえば鑑定のレベル凄く高かったなぁ。
「……人間よ。不平等は、ある」
「ずるいー! ずるいずるいずるいずるい!」
「確かにずるいです。不公平です。改善を要求します」
駄々っ子かな。
「……あー、二人とも? 私たちいま一応敵だから、さ? ね?」
「ならキャラ崩すな」
「あやしてくれるの人が良すぎる……」
え、皆いるじゃん。
いや、大体一緒に行動してるんだから一人いれば全員いるか。
となったらあの人も……。
「いない―――。……もっと暴れてから会いたかったな、お前たちとは」
「ままならないもんだろ。降下してきたのはそっちだし―――なッ!!」
「む……」
優斗君と航君、前衛の二人が連続で攻め立て、中衛の七海ちゃんが隙間を埋める。
恵那ちゃんが確実に削って、将太君が大火力を放つ。
役割が完成されたチーム。
あくまで小規模ギルドで活動してきたゆえの、すごい息の合いようだ。
「ナナミン、いまだよ!」
「ソイヤッさァ!」
「……ッぅ」
航君の拳撃に追従するようにして空を裂いた銀閃は手で振られたものじゃない。
ナナミちゃん、糸で短剣を遠隔操作してる。
彼女自身が近づいてきてるわけでもないのに宙を飛び回る四本もの刃は、暗殺者を複数相手してるみたいで。
「恵那ー、私ごとやりな、武器だけだけど!」
「”雷竜招来”……」
「避けるッ!」
本人が攻撃してるわけじゃないならそこに利点は大きいわけだね。
横から突き抜けていった雷の波動を紙一重で回避……巻き込まれた宙舞の短剣ばかりが消えてく。
「―――。ふふ、はは。確かに素晴らしい連携だ。だが……。小細工の一切を吹き飛ばす理不尽があることを教えるのもまた―――、……!」
一度仕切り合いと開かれた間合い。
彼らへ向けて私が考えた格好いい言葉を言い切るより先に、それが肉薄してきた。
巨大な白閃が走り、地上付近を滑空していた仲間の飛竜が文字通り真二つに割れる―――勿論乗っていた人ごとだ。
異訪者唯一の12聖が来た。
「すっげ……」
「もう人間業なのかすら怪しくなってくるね。彼女」
最初に出会ったのは秘匿領域。
ルミエールさんとの出会いとほとんど同じころ。
あの時から、ずっと彼女とは本気で戦いたかった。
今なら、叶う……。
思わず体が動く―――けど、私より早い味方がいた。
「煉双・無限刃」
「……ん!」
混ざりあう剣技。
単一の威力なら大剣という重さに優れた武器の持ち主へと傾く趨勢は二刀流という相乗の力によって相殺され、両者の力が一時拮抗する。
「止めるのね、これは。じゃあこれ―――これこれこれこれこれこれッ」
「止める止める見える……、見えてる。夢殉ッ!!」
「―――それは避けるわ」
動体視力。
ゲームの攻撃速度に慣れた歴戦のプレイヤーでも反応が追い付かないメアさんの連斬を全部捉えてる。
その上で全てを断つ斬撃が放たれて、メアさんが後ろへ回避する形で間合いがひらく。
「―――ん……。めあだ」
「そう、私。待ってたわ、ハクロ……!! この時を待ってたの。あなたにずっと焦がれてたのよ?!」
「世界で一番目付けられたくない相手に見定められてしまったようだな」
「クオン?」
「―――私はバディスだ」
「……。でもクオンはクオ―――」
「バディスだ」
「あ、う、うん」
「おい、さっきの反省を活かして押し切ったぞ」
「クオンちゃんおとなげなーい」
どうしろと……?
けどごめんハクロちゃん。
今度のオフ会でおいしいもの食べさせてあげるからね。
思考を祓うように武器を一振り、血を振り払うような動作を見せた後、血を吸ったように赤黒く煌めく切っ先を純白の剣士へと向ける。
「メア。彼女は私の獲物のはずだ」
「後生よ、団長。私だって欲しいの。もう辛抱たまらないわ。それこそ、私は彼女に会うために20年以上も生きてきたのかもしれないのに」
獲物を取り合うように牽制し合う私たちに対して、彼女自身は逃げも隠れもしない、堂々と武器を掲げる。
「ハクロは一番前で戦う。相手も選ぶ」
「誰にも消えてほしくない。だから一番前に行く。誰も悲しんでほしくない。だから一番強くなる。一番強い敵と戦う。自分だけじゃなく、皆に強くしてもらう」
「うし、じゃあ一緒にやるか」
「バックアップも完璧だからな、ってこって……」
「「マリア(さん)!」」
「最強剣士さんに最強サポート頼みまーす!」
「承り―――ですわ!! レベル100になった私の力、太陽のごとき光に目を焼かれなさい!」
「光は地より昇る―――”神々の御伽歌”」
マリアさん。
元最高位ギルドの団長、サーバー最大数を誇った【戦慄奏者】のリーダー。
彼女の能力である超広範囲サポートの真価はまさにこういった乱戦でこそ発揮される。
けど、その大人数をサポートするはずの力が、ただ一人に。
ただでさえ強力な能力値にバフの力が乗るわけ。
「……ん。行ける。戦える」
まるで陽の光のような橙、黄の光を纏う身体。
今の彼女、魔神王陛下の加護を受けてる私以上かもしれない。
「ね、クオン。お願いがあるのだけれど」
「―――ふーー、……ダメ、私がやりたいです」
「あら、あら……」
やっぱり我慢できない。
メアさんでも、彼女の相手は絶対に譲れない……。
私だって最強の称号はまだまだ諦め切れてなんか―――、っと。
「“剛尖剣”」
高速で突き抜けてきた西洋短剣を回避……。
この攻撃も懐かしい。
昔ほど脅威には感じないけど、油断したら貫かれるだろう相変わらずの鋭さ。
「やぁ~、お歴々お揃いだねっ」
「我々もご一緒させてもらおう、暗黒騎士」
騎士王ムーンに青騎士ラント。
どんどん知ってる顔が来るね。
「さて……。メアさん。どっちがいい? 二人で仲良く分けるか、それともいっそ三つ巴にするか」
「あまりにバーサーカー」
「騎士ってより蛮族だね、バディスさん」
「いけずね、団長。けど私、そういうの答えたことないの。だって―――」
「迷ったのなら全部食べちゃう。それで、結局後悔なんてしないもの。全部お腹に収まるの」
「「……………」」
相手側が一斉に身構えるほどに殺気が膨れ上がる。
魔族側最強のPLたる彼女も本気でやる気だ。
―――ところでその全部に私は入ってないよね? 大丈夫だよね?




