第21幕:最後の真竜
窓の外に漆黒の炎が収束し、再び20メートルはあるだろうかという巨大な影が出現。
それを皮切りに、止んでいた艦砲射撃が再開、現れた巨影を執拗に狙う。
繰り返される砲撃音が壁を伝って船底まで届く。
けど、もはや遠距離による攻撃は意味がないものにすら思えるようだね。
というのも、艦船が放つ砲弾は大空を羽ばたく巨竜が纏った黒炎によって全て融かされ、身体に触れるより早く霧散しているらしかったから。
「―――四祖魔公ジュデッカ……! ここで来るのか……、まだ四騎士とも戦ってないのに……え、竜!?」
「いや何で竜なのさ! 変身なの? 軍部元帥は魔族じゃなかったの!?」
船内の最深部、マジックミラー越しにその姿を目にしていた青騎士君たちに動揺が広がっている。
大空を駆る巨影が戦艦の攻撃区画を次々と破壊していく様子にはそれだけの迫力があって、まるで一つの戦闘映画を見ているよう。
今に何度も、何度も足元が揺れる。
「これだけ巨大な船が震えてる……。落とされたら困っちゃうよね?」
「ですーー」
「……。いや呑気! これだから天然勢は……! それよりパラシュートの準備をだねぇ……!」
「じゃーねよ副長!」
「貴方までボケに回らないでください。それより、さしあたっては彼……四祖魔公の撃退。いえ、可能なら撃墜が急務」
「―――できるのかなぁ……。攻撃まるで当たってないみたいだよ? 過剰戦力だと思ってたのに……」
青騎士君の言葉通りだ。
これまで多数の飛竜たちを撃墜、地上へ叩き落していた艦砲射撃は今や引き立て役。
その全てを掻い潜り、融かし、破壊する巨竜は物語に出てくる厄災の化身そのもので。
角度によって幾度も見えなくなる姿……また幾度も揺れる船。
果たしてどれだけの膂力なのか。
「おーちゃん。あの竜さんは何なんです~?」
「―――力になれそうにない。余も驚きだ。真竜……まだ生き残りがいたとは」
「おーちゃんでも知らないことあるんですね~?」
まるで真竜が普通にいた時代を知っているような口ぶりの時点でおーちゃんさんのすごさが分かるけど、今はあの竜の情報だ。
他に知ってそうな人は……。
「おっけールミエール。シアちゃん出番だよ」
頼れるは小さなナビゲーター。
虚空へのスクロールで呼び出した彼女は、画面の向こうでちょこんと座りながらこちらを見ている。
『参るねどうも。最近は疑って呼んでくれないのに、こういう時だけ便利屋扱いだ』
「便利屋はお嫌い?」
『むふーん。おっけー』
いいらしい。
「じゃあ頼むよシアちゃん、ゲームの都合上先のことは教えてくれないけど既出の情報なら詳しく解説してくれるコメンテーターシアちゃん」
『照れるね』
「照れる要素あったか? いま」
「メタいし」
『けど、みんな知らないかなー? 彼こそ、最後の幻想。あれこそ四祖魔公ジュデッカの真の姿だって。昔は常識だったのに』
昔っていうのが何百、何千年前なのかによるね。
けど、やっぱり冥国の四祖魔公……軍部元帥の正体があれ。
「本当に竜なんだ? 最強の魔族さん」
『そうだとも。彼はかつて天界との戦いに挑んだ72柱の真竜、その統率者であり魔神王の腹心。魔族でもあり、同時に竜でもある存在。―――強いよ? このままやられっぱなしだと本当に船が落とされちゃうかもしれないね』
「ほーむ」
……。
「らしいけど、どうする? ショウ君」
「俺!? ―――円卓のみなちん! 最強ギルドの力でどうにかしてくださいよォ!」
「ひでぇ無茶ぶり来たな」
「さすがにあれ、明らかなレイドボスですが……副長。如何します?」
「うーん。いつもだったら王様が決めてくれるけど……。こちら側としても何かしらの行動は起こす必要があるね。じゃあ、ってなわけでだ」
今に円卓ズがずずいとステラちゃんたちへ距離を詰める。
まるで騎士たちの凱旋のように。
で、当然立ちふさがるは最強の護衛アレスさん。
けど、青騎士君たちの狙いはむしろ彼女にこそあるらしく。
「ね、双鎌さん。あれこそ皆で協力して倒すべき相手だよね!? ね!?」
「協力してくれねえかなー、皇国の一件のよしみでよォ」
「ここで墜落は本意ではないでしょう?」
さながら交渉に見せかけた命乞い。
頭も低くすり寄る推定最強ギルドの彼らに対し、アレスさんは顔色一つ変えずリアさまへと振り返る。
「―――殿下」
「彼らの願いはもっともです。お願いできますか? アレス」
「命令とあらば。代わりに―――」
「いったぁ!? え? あえ……?」
「ぅぅ……、いてて。何でこんなところに落とし穴なんて……。あ、アレス姉か」
「これらを置いていきます」
アレスさんがかるーく鎌を振るうと、まるで落とし穴から落ちてきたかのように上から現れる双子の12聖トール君とポールちゃん。
尻もちをつき、面食らったような様子で辺りをきょろきょろしている二人を差し出すように前へやる彼女。
「いえ。リア様? ここは……」
「そうですね、ステラ様」
逆に、リアさまとステラちゃんは同時に双子を返品する。
「私たちも行きます」
「お願いします! アレス様!」
今度はアレスさんが面食らった顔だ。
「―――そばを離れぬように。”異空”」
けど、混乱も一瞬。
主の言葉を第一にしているらしい彼女に逡巡はなく、今に私たちの頭上にある虚空を円形に撫でる鎌。
空間が丸ごとくりぬかれたような感覚に足元がふらつき、思わず受け身を取る……。
「「!」」
その瞬間、広がる青空。
気づけばすでに私たちは要塞の甲板にいる―――。
それも、乗り込んできた魔族側と人界側のPLが競り合ってるど真ん中にだ。
「うわ……!」
「んだこいつら! どっから現れ―――、ぐわ!?」
「”斬魔閃”……ルミねぇか!?」
「やぁ。皆いるね」
「本当にルミさんたちだ。と、さっきやられたショウタも」
「あ、その節は……」
「今どこから現れたんです? ルミ姉さん」
偶々優斗たちが戦ってた区画だ。
それ自体はむしろ、信頼できる護衛さんたちが更に増えて幸運だけど、この混戦はかなり危ない―――、お?
「「!」」
「うお!?」
「つっこめ!!」
「いけぇぇ! 進むのであーる!」
不意に頭上に巨大な影がかかったと思ったから、もしかして真竜さん……と思ったけど、見上げれば目に映るのは船の裏側。
5th【七海覇者】の職業に就いている人たちが能力によって空飛ぶ戦艦を呼び出し、艦隊を組んで攻撃を仕掛けていたんだ。
「―――すっげ……」
「これもう最終決戦だろ」
見上げた頭上で、海賊船が敵軍の航空戦力を率いている真竜へと突き進む。
その先端には多くの人影。
見るに、ビーンさん率いる遠距離部隊だ。
彼らは列をなして一斉に銃を構え、或いは魔法を詠唱している。
「野郎ども、一斉掃射ァ! 火を噴けやぁ! ”爆砕大紅蓮撃”」
「”風旋天昇”」
「―――、―――、―――。谷に来訪はなく、海にさざなみはなく、地にめぐりはなく。しかして世界に便りはありき―――。天師の囁きをそらんじろ。いざや照覧あれ天師の風を……! ”混天斬”!!」
追いすがり、距離を詰めて放たれる攻撃。
相変わらずビーンさんの射撃は銃っていうより火山の噴火みたいな威力だけど、そんな大火力が列をなす中でも一番の大火力は空を断つんじゃないかと思うほどの風の斬撃波。
真竜に当たりこそしなかったものの、一瞬で空の果てへ飛んでいく音速の超広範囲技は目を見張るもので。
「今誰かが撃ってたの、さっきショウタ君がブツブツ言ってたのと似てるね。あれって同じ天師系の職業かな?」
「っすね。多分風属性の嵐天師……威力すげーけどやっぱ当たんねーよなァ……」
「撃つべきタイミングを見誤っちゃいけないわけだ」
確かに威力は途轍もない。
けど、こうも拓けた場所、相手が凄まじい回避能力を誇ると、やみくもに撃っても当たらないのは道理。
彼らもそれが分からない筈は……いや。
「すすめ、ハイドラ号! 貫くのであーる!」
「―――陽動か!」
「出たり消えたり便利だな、あの船!」
あの大規模な攻撃こそが陽動作戦。
元からそれが狙いだったのかもしれない。
先の海洋伯たちとの戦いでも見せたのと同じ、彼らPLのそれは私の馬車とかも同じだけど、突然出現させることができる収納仕様。
今に虚空から現れた船。
ガタノトアさんが舵を握るそれが真竜へ肉薄―――やがて訪れるだろう結果は衝突しかなく。
「ぶつかる!」
「行けるか!?」
単純な体当たり。
その実、12聖すらまとめて吹き飛ばしたすごい一撃が20メートルはあろうかという赤い鱗の竜へと迫り。
「根源の焔よ―――”炎刃滅却”」
その時、数十人のPLを乗せた戦艦が丸ごと火を噴き大破する。
―――真竜だ。
竜がその威容のまま、二対の翼を剣のように振るい、その全てで剣術スキルを繰り出したんだ。
巨大な炎の刃は大きな船を切り刻んでなお衰えず、先の風属性広範囲技のようにこっちへ―――。
「ひょわぁぁ!?」
「*ぬぅ!」
衝撃、大揺れ。
まともに斬撃が命中した要塞が大きく傾くし、甲板には火の礫が降り注ぎ、同時に至る所から大きな火柱が上がった。
「やっべぇぇ……! 消火活動!」
「水! ラントさん、水ぅ!」
「いっやァ、よく勘違いされるんだけどね? 僕って青騎士とはいうけど実際に水属性は使えるわけじゃないんだよねー! そうだ、海洋伯は!?」
「操舵に手いっぱいだってよ! さっきからずっとその一点張りで―――二撃目来るぞ!?」
「「ま!?」」
消化とばかりに水の聖剣を振っていたユウトが悪態から警告へと切り替え、周囲の皆が空を見上げる。
その先では確かにあの真竜が二撃目とばかりに二対の翼を構えていて。
「いや―――あれは?」
けど、その巨大な姿より更に上空。
既に船から遠く離れた上空に人影があって―――その豆粒ほどの姿が落下……竜の真上に飛び込んでいく。
アレスさんだ。
『ぬ……!』
「墜ちろ。星断ち―――」
真竜が彼女の接近に気付き、こちらへ放つはずだった斬撃を上空へ飛ばす。
逆にアレスさんも、今に振りかぶった大鎌で斬撃を切り飛ばし、更に竜の翼へと振りぬく―――。
「……くッ!!」
「さすがの業だ、最強の眷星よ。しかして、その栄光の影にどれほどの屍がある」
まさにヒーローの一撃だった筈だ。
けど、獲った……と。
一連の光景を見ていた誰もがそう思った瞬間、双鎌に狙われた竜の翼が消えた。
鎌の一撃を受けたのは翼ではなく、黒い炎を纏う長剣。
竜の巨影が再び消失、持ち主は身長2メートルほどの魔族に変わっている。
上空で二つの大鎌と長剣が交わる……その一合目まで力は拮抗していたように見えて。
けど、そこから一息に四つの剣が攻撃に加わり、手数はたちまち2対5へ―――ジュデッカさんは自身の翼をも大業物の武器のように自在に操っていた。
「―――眷星よ。二翼そろえたとて、張り合わせただけの蝋翼で何ができる。そのような我のない翼では羽ばたくことなど出来ぬぞ」
「ぐ……、ぅ」
撃墜。
爆裂する黒焔に吹き飛ばされたアレスさんは落下し、甲板に落ちてきたのをトール君とポールちゃんが急ぎ回収した。
「アレス姉!」
「アレス……!」
「意識ある!?」
「―――ッ……。問題、ない……」
無事、かな?
とはいっても、実際は一気に体力が半分以下。
12聖もカテゴリーでいえばNPC……体力の面では私たちより圧倒的に多いということはなく。
「そんな……!」
「うそでしょ!? あのアレスさんが……」
12聖最強の呼び声も高い彼女が敗れた。
ジュデッカさん……真竜の形態と魔族の形態を自在に操り全てを破壊しつくす―――途轍もない強さだ。
流石にクオンちゃんたちの上司だね。
「眷星よ。貴様の牙は軽い。あまりに。我が、己がない」
「「………!」」
空を統べていた竜の影が消えていた、と。
気付いた時には声はすぐ傍から。
まるでアレスさんと同じ、空間を跳躍してきたみたいな速さで、既に彼―――真竜さんの姿は私たちの目の前に存在している。
長く艶のある黒髪、とがった耳、白い肌に赤い瞳。
魔族の特徴マシマシセットに二メートルある身長と竜を思わせる飛膜のある翼が二対。
今まで会ったどんな人より魔族らしい容姿だ。
「冥国四祖魔公……ジュデッカ。貴方が……」
「魔族さん……。最強の魔族さんなんですね?」
「如何にも。初対面だな。天上の御子らよ」
目の前に最強の魔族がいて、ステラちゃんたちと言葉を交わす。
当然にまずい。
御子様二人は人界側の大将首で、敵軍の主戦力が今に人界の喉元に食いつかんばかりというのが今状だから。
「そなたらには少しばかり話がある。が……少し待て」
けど、真竜……ジュデッカさんは御子様たちへ何をするでもなく、既に鞘に収まっていた武器を再度抜き、辺りをぐるりと見まわす。
「どうした、異訪者。そなたらの前にいるのは敵将……冥国最強の魔族である。来ぬのか?」
「「―――――!」」
「我ぞと思うものは……」
それを号令のように受け取ったか、誰もが一斉に攻撃に移った。
スキルのモーションが幾重に重なることで七色に瞬き、次々と戦闘に自信ありのPLたちが切りかかる。
けど。
「あ、が……!?」
「次だ。まとめて来るがいい」
「なめやが―――がわぁぁぁ!?」
「あぁ、この感じ……この感じだ! まだ3rdだった頃に古代都市で白刃の剣聖にぶっ*された時の感じが戻って―――、ァ」
斬撃、打撃、刺突、魔法に遠距離射撃……。
百を超える殺意がたった一人へと向けられ、しかしその悉くが届いていない。
切り出される攻撃全てはかつてない火力の連続、PLの到達点。
その上で相手があまりに強すぎる。
「そら、こちらから行くぞ―――”奈落断ち”」
「「……!!」」
剣で斬り裂き、翼で防ぎ、魔法を避けて黒焔を繰り出す、ソレを纏わせた剣で広範囲を薙ぎ払う。
一連の動きがあまりに完成されすぎている。
これは確かに、さっきの名も知らないPL君の言葉通り……、戦力差的にはまだレベル上限が60程度だった頃に本気の12聖と戦っていたころと同じ。
圧倒的な暴を前に、今や人界の本拠となったホームグラウンドで格の違いを思い知らされている。
「なめるなァ! おおおおォォォお!!」
戦況を変えるべく走ったのは青騎士君だ。
トレードマークの青鎧はまだまだ健在―――それがスキンなのか本当に装備を強化して使い続けているのかはともかく、相も変わらず蒼い稲妻のような凄まじい速さで武器を振るい。
「ゴードン、続いてください! 援護します!」
「まっ……かせい!」
青騎士君に続くようにロッカさんが大吹雪を纏わせた一矢を放ち、ゴードンさんが一撃で叩き潰すように斧を振り下ろせば、そこに天から紫の雷が落ちる。
個々の練度も当然、そして連携の力をとっても超一流なのがサーバー最強ギルドのトッププレイヤーたち。
流石はムーン君の仲間で、三人の連携は今まで見た中でも屈指だ。
「―――良い。素晴らしいぞ」
それは彼、四祖魔公ジュデッカさんをして賞賛に値するものだったらしく。
「素晴らしい速さだ、青騎士ラント」
「へへへっ―――。え!? いま―――」
「ぐわぁ!?」
あ、思いっきり吹き飛ばされた。
「雷斧ゴードン、天眼ロッカ……」
「「な!?」」
「ぐ、は……!? これ、は……ファン……、サ!!」
「だなァ……! がくっ」
あまりに鮮やかな連続技。
一瞬に三連撃を放ったジュデッカさんの攻撃を受け、崩れ落ちた彼らはキルされたわけでもなく、レッドゾーンの体力を引っ提げてただ満足げに目を閉じて転がる。
勝負ありだ。
「―――じゃねーよ。おい! ラントさぁん!!」
「寝ない! たって! 立つんだじょー!」
「あぁ、ホント……。こういうところだよなァ……、ホント」
「異訪者さまとは本当に自由なのですね……」
「悪いねステラちゃん。私が思うに、上位ギルドにいるような廃ゲーマーさんたちほど顕著な気がするよ、こういうの」
分かるけどね、相手が敵であってもすごいビッグネームに個人名を呼んでもらったら嬉しくなっちゃうの。
むしろ敵方だからこそ自分を認知してるって感じるとすごくうれしいだろう。
まあそれはともかくとして、味方からすれば早く復帰してほしいもので。
最前線で防御に徹しているユウトやワタル君もかなり必死な形相。
「なんで名前呼ばれた程度で満足げに転がってんだよ! 意味がわか―――」
「そなたも素晴らしい防の立ち回りだ―――到達者ユウト」
「あ、どうも……」
「「ずるい!」」
「ずるいぞユウト! 俺なんか船に当たるから派手な攻撃できないのに! お前だけ名前呼ばれて!」
「いいって! そういう戦いじゃねーから話しかけ―――ちッ!?」
「「リーダーぁぁぁ!!」」
あ。
勇者さん、気が散ったのか普通に斬られて消えちゃったけど。
と……トップクラスのPLたちが次々にやられていくのが見えたからだろう。
いつしか自分から名乗りを上げる人たちは少なく、ただ遠巻きに状況を伺う者が増え。
本来前に立つつもりがない私の目の前にジュデッカさんがいることからも、戦力のガタガタぶりが際立つ。
けど、彼はただ目の前に現れただけの私には切りかかってこないらしく。
「……。お前は―――。誰だ」
「あ、データにない?」
そして、偶然目に入っただけの場合はファンサの対象外らしい。
非戦闘者っていうのもそうだし、世界全体でいえば私ってやっぱり無名だろうから。
「いや。無色の聖女ルミエール。―――そなたがそうか」
「え」
え。
「えじゃないよ。驚く要素ある? そこ」
「逆に何で知られてないと思うのでしょう」
「あれだけ暴れといてそりゃねーよな、姉さん」
足元で青騎士君たちが話し合ってる。
ピンチの時にすぐ助けられるように待機してくれてるらしい。
「―――いいだろう。武器持たぬ星。色なき星。無数にありし、瞬く……この世界で己を確立したものよ。問おう、異訪者。そなたは何を望む。何を成し、何を求める?」
「己を確立……。あぁ、そういう事」
キャラが立ってる……っていうのかな。
この世界である程度名が売れてる相手に、「これからの目的は?」って聞いているわけだね。
多分、この戦いの果てに君はどうしたいかってビジョンを問いたいんだろう。
或いは私たちが好敵手たり得るかを測ってもいるのかな。
「答えならとっくの昔に出ているよ」
「私はしたいんじゃなく、見たいんだ。何の特別でもない誰か。そういう人が救うし、輝く。そういう世界を私はみたいのさ」
輝いていなくていい。
小さな光、可能性が羽ばたいていくのを。
この最後の戦いで新たな光が生まれるのをこっそり見に来たんだ。
「実際ジュデッカさんが名前を呼んでたみたいに。また、この戦いで沢山の人が名をあげるんだろうね。楽しみだね、それ」
「誰であってもかまわないと? 魔族だろうと、……なんの力を持たぬ、特別でもない、ただの剣士でも?」
「勿論勿論。それこそ些細だ。誰もが主役……輝く時がある。それが世界なんだから。人間とか魔族とか、そういうのはどうでもいいのさ。もちろん、私たちは手なんか抜かないし必死で、全力で戦うだろうけどね。だろう? お二人さん」
……。
私の言葉を受け止め、一歩前に出た御子様たちにジュデッカさんの視線が向く。
少しの沈黙。
「ジュデッカさま」
最初に言葉を発したのはリアさまだ。
「私たちはすぐにそこへ行くでしょう―――決戦はシンプル。どちらが攻め入るでも、攻め入られるでもない。互いの目標は互いの目の前にあって、ソレを取り合うのです。私たちも最高の準備を。あなた方の陣営もそう」
「いっせーので、同時に出撃です! だから、それまで待っててくれると嬉しいです! つまり帰ってくれると嬉しいんです……!」
……。
「嬉しい……。ふ、く……はははっ」
と……ステラちゃんの純粋な言葉が彼の琴線に触れたらしい。
最強の魔族さんは端正な顔をゆがめ、一つ小さく笑って。
「うむ、よかろう。元より、あれらには推し量るだけと話してあるゆえ。重ね、目的の半数は既に達しているゆえ……。我は帰る」
「「―――――」」
「タルタロスにて待つぞ、天の御子。薄明へ挑む異訪者たちよ。必ずやたどり着くがいい」
何処かゆったりとした雰囲気の中、彼はこれまたゆったりと剣を収め、空を見上げる。
再度黒い炎に包まれる身体、現れる赤鱗の真竜。
私たちが目を見張る中で天に吼えた巨竜が飛翔し、東へと飛び立つ。
残り火のように揺らめく黒煙が線を描き、ソレはまるで道を示しているかのようだった。




