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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
最終章:フィナーレ編

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第19幕:器の中身



 

 全長20メートルを超える艦船が衝撃を生み突き進む。

 たとえこれがゲームの世界だとしても、体重僅か100キロにも満たないような人間が数千、数万倍の質量を留められるか……、否。

 果たして、この瞬間只人に何ができただろう。


 答えは簡単。

 衝角……艦船の船首下部に取り付けられた体当たり攻撃用の固定武装を前に吹き飛ぶ人型。


 【七海覇者】……海洋伯と同じ職業。

 前提職業である4thの【海賊公子】時代から引き継がれた専用スキルによって呼び出された船が、最強NPCである二人を同時に跳ね飛ばした。


 さながら交通事故……。

 圧倒的な威力の単体攻撃を受け、海洋伯は壁に叩きつけられ、バベルさんは巨大な黒鎧の防御があっても一気に体力をすり減らす。

 今この瞬間、彼らは蒼穹の魔砲と黒鉄の機銃を同時に撃破したんだ。


 ……いや。



「ぐ……。よもや私と同じ力を……! それもこのような使い方など……」

「か、ぁ……これ、が」



 大きく飛ばされた海洋伯はよろめきながらもサーベルを支えに片膝で立ち、バベルさんもまた黒鉄の銃身をこちらへと向けなおす。

 体力がレッドゾーンであることは確認できるけど……それでもまだ。



「―――まーじか。今ので削り切れないかよ。PLなら百回は*んでるぞ」

「最強の意地、というにも恐ろしいであーるな……。我の船、今の強制召喚で暫く使えないレベルの損傷こうむってるであーるのに」

「修理コストが重いんだっけ? あれ」

「めちゃくちゃに! ギルドの共通資金は常に火の車……否、沈みかけの船である! ……さて」



 ……。

 感嘆、或いは驚愕。

 決まったと思っていた一撃ですら削り切れなかった事実を前に、やがて空間の誰もが息をひそめた。

 

 確実にトドメだと確信できた。

 誰もがそう思っていたからこそ、それでなお立ち上がってきた英雄たちの底力に驚きと敬意、或いは誰が最初に攻めようかという押し付け合いの余地が入り込んだんだ。


 ……最初の者が確実にやられる。

 そう思わせるほどの確かな圧が、手負いの英雄たちから放たれていたからで。



「―――ぁ」



 そんな中、静寂を破ったのは幾人もの後衛に守られるようにして私の傍にいたステラちゃんだった。

 遅れるようにしてリア殿下も目を見開く。



「ここまで、おい、こまれる、か……」



 ピシ、と。

 一たび立ち上がったバベルさんの重厚な黒鎧へ、目に見えて亀裂が走った。

 それでなお、立ち上がった。



「この、我が……鉄に蹴飛ばされる、など。異訪者。凄まじき、ものよ」



「さあ、続き、を……」



 黒鉄の騎士は歩む。 

 なお広がり続ける罅……けれど黒の鎧を覆うほどに広がる亀裂にまるで頓着することなく歩み、機銃を掲げる巨躯。



「待て、黒鉄の」



 彼の歩みを止めたのは海洋伯。

 後ろから声を投げかけた彼は今に抜いていたサーベルを鞘へと戻し。

 


「異訪者は此処まで至った。もはや我らの時代ではない、もはや、私たちの……」

『まだだ……」



『まだ、おわって、いない……」



 けど、仲間から制止された彼は歩みを止めなかった。

 体力がレッドソーンを超えているはずのバベルさんはなお、こちらへと武器を向けて歩む。

 ボロリと崩れ落ちる鎧の節々、ひびの入ったそれが軋みをあげて……それでも。


 誰も動かなかった、武器を構えなかった。

 今や皆がわかっていた。

 彼が無理やり身体を動かすほどに身を包む鎧は砕け、消え、そして彼の体力ゲージはゆっくりと消費されている。

 これ、あの時のアルバウス様と同じ……。



「―――リアさま! 黒鉄さまの身体は既に!」

「………!」



「バベル、もうやめてください! それ以上は本当にあなたが! 今ならば私が治します! 治して見せますから……」

『許容、できない』



「―――ねぇ、なんか……」

「さっきから声の出どころおかしくねえか、あいつ」



 やがて私たちは違和感に気付く……気付かないはずがなかった。

 節々が砕けていく鎧、バベルさんの声は確かに弱弱しくも聞こえてはいるけど、その声は彼の鎧の中から聞こえているわけではない。

 そう、まるでシステムアナウンスみたいな、直接頭の中に響くそれは……。



『また、犠牲になろうと、いうのか。また、己が身を捧げれば、救われると……本気で、思っているか。それゆえに、我は……安心、できぬのだ』

「今必要なのは私ではなくあなたたちの力なのです。道を切り開くための力なのです。戦いの術を持たない私の替わりに貴方が味方してくれるというのなら、それこそが。そのためなら私は……」

『違、う!!』



 本来護るべき君主を前に、反逆の英雄がひときわ大きな叫びをあげる。

 身に纏う鎧すら引き裂かんばかりの叫び。

 それが原因でもないだろうけど、彼の鎧の罅は更に拡大する。



『殿下。御嬢、様。我は、私にとっての世界とは、貴女がいてこそ、だった。御子の犠牲に成り立つ世界、など……。まして、我のために命を消費する、など』



 リアさまやステラちゃんも権能としての回復を行使できる。

 けど蘇生魔法の域となればPLでいうレベルや経験値……NPCでいう生力を消費する。


 バベルさんが言ってるのはつまりそういう事だろう。


 かつて皇国の皇女は命を危険に晒されていた。

 封印が緩んだ地底の神【死刻神】アリマンの力によって皇都を覆った「黒骸病」

 不治の病に身をむしばまれ、けどその力がそれ以上国民に及ばないように自らの命を懸けて戦っていたからだ。

 自己犠牲をまるで厭わないリアさまは必要に迫られれば簡単に自分を犠牲に出来るだろうけど、NPCはPLと違い二度と生き返りはしない。



『滅私奉公……。他者のために自らを差し出す。そのようなものは、美徳では、ない』

「ですが、このままでは貴方が……」

『認めぬ、許せぬ……許容、ならん』


 

『そのようなことは、認めぬ。無駄である、ゆえに』

「無駄かどうかは―――」

『無駄、なのです』



『我は、とうの、昔に……滅びているが、ゆえ』

「「―――――!」」



 ………。


 あ。



「嘘……」

「こ、れ……は」



 巨大な機銃を支えていた手甲がだらりと垂れ下がる。

 けたたましい音とともに転がる機銃……合わせるようにバベルさんが纏っている鎧が大きな破砕音を轟かせてぼろり砕け、落ちる。

 砕け散った黒の破片の内側……本来生身の肉体が存在するべき場所。


 鎧の中には―――()()()()()()

 冷たい金属の下にあるはずの身体、僅かばかりでもぬくもりの存在するはずのそこは……、からっぽだったんだ。



『我、ハ……とうの昔に、滅びていた。少しでも長くお守りするために……空っぽの鎧はそれでなお動き出してしまった。しかし、その契約が。神の尖兵としての生が。我が欲が……いま、殿下を危険に晒した』



『我らは12聖は偶然に生まれたものにあらず。世界の意思によって生まれ、そうなるべくしてここへ至った』



 サラッとすごく重要なことを言ってる気がする。

 わたしたちが知る話によれば、12聖とは数十年以上前に起きた人界三国と魔族領域との戦争で三国が指定、大活躍した英雄たちの総称。

 けど、彼の言葉から紐解けば、その真実はもともと英雄になるべく世界の意思によって生まれ落ちた存在。

 最初から国家ではなく、更にその上の上位存在の命令を遂行するために生まれたんだと。


 

「……最初からこうなる定めだとでもいうのですか?」

『それ、が。世界のシナリ、オ……クロニ、クル。だが、誰もが認めたわけでは、ない。我は。我々は。決して世界の意思に縛られ続ける生など、御免、だった。抗いも、した。呪いも、した。だから、こそ……』



 空っぽの鎧と海洋伯の眼が交差する。

 僅か一瞬。

 たったそれだけで十分だったのか、空っぽの鎧の声は主であるリアさまへ向き。



『自己犠牲、など。選ばないで、ください。生きて、ください。既、に、魂は救われていた。今の我は……、貴女が生きている。それで、良いのだから。これからも生きる。なれば、良いの、だから』



 本当ならとっくの昔に死んでいたはずの彼。

 けど、まだまだ守りたくて、結果、その想いが守りたいものを危険に晒してしまった。

 野望―――、欲望。アルバウス様が言ってた、強い願い程彼らの思考を染めてしまう……。



「―――つまりはそういう事か? ルミねぇ」

「そうだね。それだけ、その想いが大切だったんだ」

「「……………」」



 誰も茶化せないし横やりを入れない。

 全てが判明していなくても、今目の前で起きている問答からは確かにあったであろう絆と歴史が感じられるから。

 リアさまとバベルさんの間には確かに強固な信頼と想いがあって、そこへ至る歴史があった。

 ゲームゆえに深くは語られない背景ストーリーってやつだね。



「黒鉄の反逆者よ」

『……アレ、ス』

「空っぽの器に縛られているのは苦しいだろう。同僚のよしみだ、既に救済されたなどとのたまうその魂を解放する。介錯が……いるか」


『フ……。頼、む』



 呼びかけたアレスさんの手には巨大な大鎌が存在している。

 既に中身など存在しない空っぽの器が首をもたげるようにして膝をつき、前かがみになり。


 歩み、見届けるようにしてその場に立つ海洋伯。

 バベルさんと海洋伯、両者の視線が交わる。



『―――我が、最後の、共犯者……。蒼穹の友、よ。我の最後の力を、そなたとともに。世界を救う者たちのために。他者の世界に踏み込んでいく、新たな英雄たちのために……』

「うむ。案内は……、任せよ」


 

 やがて空っぽの鎧の背に三日月のような刃が昇る。

 太陽を象徴とする国家の英雄に、月明かりの夜が寄り添う。



「言い残すこと言葉は……あるか」

『アレス。世話を……いや。御嬢様を。殿下を』

「頼まれるまでもなし。殿下。このどうしようもない愚者へ、一言だけ……」



 アレスさんの言葉を受け、ゆっくりと最前線へと進み出たリア殿下がバベルさんの鎧小手に自身の手を重ねる。



「お疲れさまでした、バベル。後は今を生きる者へ。私たちは―――諦めませんよ、決して」

「―――は」



 やがて、虚空を裂く鎌が振り下ろされる。

 舞い散るのは黒の破片ではなく、PLやNPCが散った時と同じ透明で、どこまでも幻想的に煌めく……ガラスのように儚い情報体。


 舞い散るそれらを多くの見届け人が送る中で、変化はあった。



「そなたの想い、無駄にはしない、友よ。―――乗り上げろ、オケアーノス」

「「!」」

「伯爵さん!?」



 海洋伯の言葉を受け、空に浮かんでいた巨大戦艦がそのまま教皇庁のここへ降り立とうとしているのか、ゆっくりと降りてきた。

 改めて見てもその大きさは……。



「俺たち纏めてぺしゃんこにするつもりで!? やっぱさっきの交通事故怒ってる!?」

「あーれは船が勝手に!」

「ちょっとここにパーキングは無理あるんじゃないっすかねぇ!? 過積載だと思いま―――あぇ!?」

「「―――――」」


 

 ぷち、と。 

 感動の後で皆仲良く乗り上げた空中戦艦に潰されるかと思ったけど、決してそうはならず。

 半壊した教皇庁、降り立った戦艦……双方に黒鉄の騎士が残した情報体が降り注ぎ、白と灰の建築が黒へと染まっていく。


 船が形を失うようにどろりと崩れて床に沈み込む。

 瓦礫が……、柱が……教皇庁を構成する要素が鉄の輝きを纏う。


 気づけば私たちはそこにいた。

 船の背……甲板だ。

 海洋伯の船と教皇庁……双方の情報が交じり合うことで更に大きく、一回りも二回りも大きいような、既に船と呼んでいいのかすら分からないような……言うなれば空飛ぶ要塞になったんだ。


 今まさに、私たちはその上に存在しているんだ。



「―――。これが我々の考えた最後の奇策だ、異訪者たちよ」



 意図せぬ展開に辺りを見回す私たちへ一人平静を貫いていた海洋伯がこと紡ぐ。



「魔族側にとっての最終防衛ラインが冥国の都であるタルタロスであるように、我らのそれは此処皇都シャレム……教皇庁である。そして、その間に跨るのは巨大な空間、薄明領域。あるいは人界領域。あるいは魔族領土。またがるそれが戦争の継続を促し、意味もない戦乱を呼ぶ。それはすべて神の策略。下らぬ戦火を強要する筋書き……。ゆえに」



「我々はそれを埋めてしまうべきだ。戦いとは常に単純なものであるべきだ」



「これって、つまり?」

「教皇庁そのものがこの要塞に変わっちゃったってことだよね? ……大問題だよね」

「そもそも魔族側の目的地が「教皇庁」……。なら」



 移動する拠点は何処までも飛べる。

 それこそ、魔族側の本拠地にすらこのまま向かえる。

 そうなってしまえば別の都市の戦況とかは関係なく、犠牲も最低限にとどまるかもしれない。


 だって、魔族側が目指す皇都の教皇庁と、人界側が目指す冥国の首都タルタロスがお隣さんになっちゃうかもしれないんだから。


 これが海洋伯とバベルさんの言う奇策。

 そうなるべくして生まれ、なるべくして世界の均衡を担わされた英雄たちの神への反抗。



「マジか。……マジか」

「ありなの? それ。―――伯爵さまー。この要塞ってどれくらい乗ることできるんです?」

「いくらでも、だ」

「……。教皇庁はもともとアレスの力によって異界化されているので、何人でも入ることができます。その性質をそのまま受け継いでいるのなら……」


「質問も一つ。中にベッドとかある?」

「あるぞ」

「リス固定もできるな」



 口々に交わされる疑問、回答……どんどん進む戦略談義。

 いつしか戦いは完全に終わっていた。


 これ、膠着していた戦況が一気に動くね。

 魔族領域の中央と人界の中央、その間に跨る都市と薄明領域を無視して物理的に距離を縮めることが出来たら。



「つまりこれは―――電撃、お引越し挨拶回り強襲作戦……」

「それ辞めろ」

「なんでこういう時までネーミングセンス壊滅的なの? ルミねぇ―――え?」

「時報?」

「あ、時計……。文字盤が……」


 

 と……黒鉄の巨大戦艦、そのメインマストに存在する黒の文字盤がゆっくりと時間を刻み始める。

 実際の時間は夜九時くらいだけど、時計は12時丁度から動き始めていて。

 


「今より七日待つ。仲間たちが乗り込み、やがて刻限になり次第、ともに征こう。彼が運び、私が導く。約束通り、諸君らを魔族領域へと送り届ける航海へ」



 海洋伯の言葉とともに鳴り響くアラーム。

 この場にいる全PLに対し、同時にシステムメッセージが通知されたんだ。

 

 とくれば、内容はおそらく―――ん。



「っぱこうなるよな」

「戦況が一気に動く、と。燃えてきたな!」




――――――――――――――――――――

【World chronicle Quest】 夜明けの光


【sub Quest】

奈落へくだりて船は征く


【概要】

皇国皇都シャレムに航空戦艦バベルが

出現しました。

以降「教皇庁」の拠点機能を引き継ぎ

ます。

最終クロニクルの詳細につきましてはメインクエストをご確認ください。


本戦艦は七日間の停泊を経て目的地を冥国「暗黒都市タルタロス」に設定。

三日三晩の航行を経て到着予定。

 

天翔ける船に乗り、ともに冥府の底、原初の火種へと下りましょう。



目標拠点:暗黒領域タルタロス

※本サブクエストは人界領域側全PLへと発令中

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