第17幕:戦い疲れだってする
魔族側のやり口は私たちにとっては結構予想外なものだった。
元々数に劣る彼らが何らかの奇策とか電撃戦を敢行してくるだろうというところまでは思考が回っていたけど、蓋を開ければまさかの数で押してくるプレイ。
ナーガ、コボルド、ゴーストにサイクロプス……。
今まで見たことのない亜人が沢山、正体不明の新兵器の登場によって戦争の常識が変わるように、これまでにない敵の出現によって人界側は出鼻をくじかれた。
最前線で戦っていたギルドの人たち曰く、彼らは魔族領土固有の亜人、ご当地さんたちらしくて。
「物理攻撃にめっぽう強いゴースト、逆に魔法防御が激高のサイクロプス、機動力のコボルドに特殊技のナーガ……」
「厄介すぎだーね。こう考えると魔族側強すぎか」
「地底の神々がいるじゃん? 不定神とかが封印された時とか、地上にスライムがポップするようになったアレ……。もしかして、元々はその種族の祖に該当する神様がもっと沢山いたんじゃないかって」
「そういう話は結構あったよね、前々から」
太古の昔には地底の神々はもっと沢山いたんじゃないか、と。
敵軍への評価の中そういった話も盛り上がる中で、そこかしこから戦略的な話が盛んに聞こえてくる。
最重要拠点であるここ皇都シャレムは教皇庁。
解放された屋内には常に警備として多くのPLが常駐していて。
帝国側……現在の最前線は要塞都市。
激しい攻防が繰り広げられていて、いち早く情報を受け取った皇太子エトワール様が軍の派兵を決定。
皇帝即位への巨大な実績作りとか何とかの理由による直々の指揮の元、帝国の12聖である【紅蓮の戦鎚】、【銀閃の刀姫】、【金璧の天盾】、【淵水の雷鞭】さんといったそうそうたる顔ぶれが総出で防衛を続けている。
敵側もここに最大戦力を次々と投入しているらしく、アリギエリさんとエルゴ・ラースさんの姿も確認済み。
あるいは話に聞く四祖魔公ジュデッカさんも、と。
で、王国側……これはもう手遅れに近いね。
元々中央が機能してなくてボロボロだった節はあるけど、現在となっては最前線とか防衛ラインとかもなく、とにかく次々と都市を制圧されている状況だ。
王国側の12聖の殆どが消息が分かっていないっていうのも大きいけど、とにかく連戦連勝の敵の士気が高く。
中でも人界側を驚愕させた一大ニュース。
「灰燼の拳仙のキル―――。これによるところが大きいでしょうね、ふはは」
「あんたどっちの味方なんよ、ヨハネス氏」
「ジャーナリズムはとめられなーい」
曰く、12聖の中にも得意とする分野が存在するらしく。
大規模戦闘の中で真価を発揮する戦略的な力の持ち主もいれば、個として他の追随を許さない領域に存在するタイプもいる。
「つまり、拳仙さんは対軍に対軍への制圧特化の御仁で、だから一騎打ちでやられてしまったのも止む負えないと……」
「そういう話?」
「アレス」
「―――はい。いいえ、殿下。アラクラン師は12聖の中でもかつてアルバウス殿に並んだ対人最強の御仁。それだけ彼ら異訪者が強くなっただけのこと」
「「……………」」
「重ね―――老い、でしょう」
おいおい。
それだけはどこの世界にも等しくあるんだね。
アルバウスさまも引退したし。
「遥か昔、地底の神々が地上へと這い出たことにより生まれた差異。睡眠と覚醒、生と死、老い。世代交代。あるいは、彼ら異訪者が舞い降りたのは世界の循環を促すためなのかもしれません。今ここへ至るまで代わりになるものが現れなかった世代の不甲斐なさを恥ずべき、と」
御子の護衛であり神に仕える神使の長だけあってアレスさんは宗教的な価値観も持ってるらしい。
「ともかく、クエストが発令されてから2週間。ついには一個人で大ボスであったはずの12聖を倒せるPLが現れた」
「確かに進化は促されてるかもしれないな。戦争で世界の技術力がいきなり引きあがるのと同じだ」
皮肉だね。
そして、12聖の一角を単騎に討ち取った人物はまさに我らがヴァディスさん……。
「冥国三騎士へ新たに追加された四人目。その方がまさか皆さんと同じような外界からの異訪者だったなんて……」
「言ってませんでしたっけ、その話って」
「わ、わたしたちは魔族側にも異訪者は存在するという話だけ」
リア様やステラちゃんは聞いてなかったらしい。
こちらは単にあんまり意識してなかっただけだ。
人間身近すぎると違和感を覚えないものだね。
「―――さて、時間はどうかな」
「もちょっと」
「あくまで目安であって本当に時間になったら始まるのかって言ったらわからんけどな」
当然だけど、大半のPLは皆王国側か帝国側の双方の防衛線、或いは前線を押し上げることに注力している。
私たちがここにいるのは最終防衛ラインとしての備え。
あとは魔族側の勇者パーティーが来たとき用だね。
頑張って前線で張ってたらいつの間にかキングを暗殺されてた、みたいなことがないように。
「ルミねぇ、勇者を暗殺者みたいに言うのはやめろ」
「似たようなものじゃない。強大な軍勢を握る大国の、さらには数百年とか生きる王様をたった数人でこっそり倒しに行くんだろう? 彼らって」
「間違ってはないんですけど……」
「表現に悪意しか感じん」
「一応らすぼすっぽい台詞もいくつか考えておいてるんだけど、どうかな」
「さっきからどっち側目線なん?」
戦争の真っただ中に和やかな集会を開いているのも理由があって。
もう少しで何かしらのイベントが発生するって話らしく、そういう事で皆皇都シャレムに集まっているんだ。
具体的に何が起こるとかは分からないけど、とにかくいくつかのスポットで何か起きるから皆参加してねーって運営が。
「そろそろ戦略マップが煮詰まってきたから起爆剤でも入れたいんだろ」
「いっそのことさ、決闘でどうにかならないかな、世界の命運。武術大会の時じゃないけど、代表者の試合による」
「難しいだろ」
「じゃあ曜日で支配者変えるのは? 月曜から水曜は世界はあっちのもの。木曜から土曜はこっちのもの。日曜は変わりばんこ……」
「論外」
「クソみたいな制度」
「とにかくゲームだぞ? ルミねぇ。単に娯楽として武術大会を開いてるならまだしも、今回みたいな大規模、それも最終クロニクルかもしれないイベントで参加したくないってほうがおかしい」
「僕もできれば自分で戦いたいなとは」
皆、大なり小なりこのお祭りを楽しんでいるってコトらしい。
とにかく戦争自体に大きな影響を与えるっていうのは一個人にできるようなものではないのは確かで。
今回ばかりは私みたいなのは後ろで踊ってるくらいしかできないね。
「ステラちゃん、こうだよ、こう」
「こう―――んぃ……! こう、ですか……?」
「もっと足をあげてー。はいリア様も」
「く……、くっ。アレス、抑えてて下さい……!」
「……………」
「―――踊るな素直に従うな」
雰囲気的に彼女らにはやっぱりバレエが似合うと思ったんだけど。
「暇だからね。あとは……。あっちの作戦聞いてみるとか。フレンドメールで聞いてみようか? 明日はどっから攻めるのって」
「なんで教えてもらえると思ってるのか、これが疑問で」
今のクオンちゃんなら予告したうえで堂々とすべてねじ伏せてくるかもしれないけどね。
軽いストレッチをして温まってきたところで一時休憩、メイド服を着た侍従さんの淹れてくれたお茶を飲む。
「予告したうえで搔っ攫う、そういうの好きだろう? 皆。ね、メモワールさん」
「大好きです。さ、もう一杯」
「うわびっくりしたぁ!?」
「この人いつも姿違うな……。てかいつからいた―――。……ん?」
知った顔が現れてちょっと話したり、サブクエストの発令を今か今かと待っている時だった。
ちらと覗く窓の光に影が差す。
太陽が雲に隠れたにしては更に暗さが目立つ感じで。
「……?」
「なんか……」
「違和感っていうか……。ちょっとカーテン開けていいす……ま―――!!?」
最も窓に近い位置にいたショウタ君が覗き込んだまま叫び声をあげて固まる。
矢継ぎ早。
ピコンピコンピコンピコン……。
次々とメールボックスに投函される情報はいったい何なのか。
「さてはだれかスパムメールでも送り込んで―――、お?」
『外』
『外みて』
『窓の外』
『空』
次々とやってくるメールの確認もそこそこに、私も、誰もがそれを目に収めた。
それほどまでに分かりやすかった。
特注に違いない大きなカーテンの向こう、或いは窓ガラスの向こう側―――地上五階の景色のさらに上空に存在する異物。
そこに存在していたのは……、あったのは。
船だ。
空に浮かぶ大きな船。
丁度帆船と現代的な戦艦を複合したような、どっちつかずのようなフォルムで―――突如として現れたそれはまさに空中戦艦とでもいうべきフォルム。
全長は目測で400メートル……世界最大の客船よりも大きそうで、それこそ今私たちのいる教皇庁より。
「「―――――」」
「大きいね」
「言ってる場合か!!」
「明らかにこっち向かってるんだけど!? ぶつかる!」
成程……確かにまっすぐと。
甲板では備え付けられた黒鉄の大砲が挨拶するように頭を下げ。
「砲門も全部こっち向いてるし、大きな主砲が首振って挨拶してるし」
「あぁ……。お辞儀してるな。こうべを垂れて―――言ってる場合じゃねえ! 伏せろ!!」
「こっち向いてるぅ!?」
音は窓を貫通してここまで聞こえてきた。
そこからすぐあと、発射された主砲の弾は寸分違うことなく私たちのいる階層へ着弾、凄まじい衝撃を生み。
「とても大きな爆発を生みましたとさ……」
「いやアぁぁ!!」
「余裕か! 解説してる場合じゃねえ!! あんなの何度もされたらひとたまりも―――てかアレスさーん?」
「ああいうの防いでくれる系の能力じゃないんです!?」
「……………」
理不尽にも攻めるようなまなざしを向けられた12聖最強の彼女は御子様たちを後ろ手に庇いつつも答えない。
何かを警戒し続けているようで。
けど、魔族の超技術って言っても無理あるよね、これ。
今までずっと飛竜使って飛んできていたような人たちがいきなりあんな科学の力っていうか文明の力っていうか大きな鉄の塊に乗り込んで攻めてくるとも思えない。
「我には心当たりはいくつもあーるな」
「俺っちも」
最近一緒に行動してたビーンさんと一緒に現れたのは海魔の異名を持つトッププレイヤーの一人、おさかな天獄の団長ガタノトアさんだった。
成程、言われれば私も知っているっていうか心当たりがある。
彼の発現した5thと同じ……。
「七海覇者」
「「……………」」
「一々こっち見ないで」
ナナミ覇者……ではなく、七海覇者。
盗人派生の中でも特に海賊系統の頂点に君臨する職業の一つだ。
「ところでその職業に就いてて一番有名な人を私知ってるんだけどさ。ついこの間会ったった時敵になっちゃってたけど―――」
「久しい、というわけではないな」
「「!」」
先の砲撃の煙が晴れた場所には既にその人たちが存在している。
どうやらアレスさんは既に相手が降り立った事実に気付き警戒していたらしい。
けど、砲弾に乗ってきたなんて言わないよね?
目の前に現れたのは二人。
一人は身の丈二メートルにも達する巨躯。
身長だけじゃなく堅牢さっていう意味でも凄くて、全身が黒く輝く鋼鉄の鎧に覆われている中世仕様なのに巨大な機銃を背負っている。
もう一人はいかにも優男って感じのお貴族風。
青い髪に蒼い瞳、腰にはサーベルを帯剣し、容姿に優れる傾向にある異訪者基準でもトップクラスに整った容姿。
「一気に二人も来たか」
「味方枠……じゃ、なさそうだね」
皇国所属の12聖であり、リア様の側近の一人でもあるはずの黒鉄の機銃ライブラさん。
王国所属、言わずとも私たちがよく知る存在であり、異訪者の行動に多くの理解、便宜を図ってくれた海洋伯。
単騎にして最強の存在が本格的に参戦してきているのも終わりが近いことを示しているのだろう。
「思ったけど帝国の12聖さんって一人も離反してないんだよね。すごいね」
「逆に怖いだろ。なんでだ?」
「バベル……!」
あんまり危ないことをしてほしくないリア様が自ら前へ進み出た。
ついこの前いきなり銃の乱射事件を起こして逃げていった部下に事情を聴きたくなるのは当然の話というものだろう。
「何も……、話すことは、ありませぬ、殿下」
あ、話すことあるパターンだ。
バベルさんって途切れ途切れに話すから言葉に迷ってるように聞こえるんだよね。
「我に迷いはなく。世界のため……そのような戯言を発する、つもりもなく。我は、我の我儘のために、反逆するのです。そして、言葉で止めることは決して、出来ぬでしょう―――御嬢様」
リア様へ向かい、容赦なく巨大な機銃を構える彼。
当然アレスさんが見ているはずもなく虚空から現れた鎌を二振り、飛び道具のように構えて。
互いに、次何か言ったらぶっ放すぞって感じの雰囲気が肌で伝わってくるよ。
「―――私も終わらせるためここへ来た」
海洋伯がバベルさんの隣に進み出てサーベルを抜く。
12聖としての名前に反して剣で戦うつもりなのかな。
「我ら12聖、敵対すれども共に己が信じる未来のために。どちらかが生き残ればそれでいい。人界のため、世界のため、大義のため……。君たちが勝てば私は水先案内人として魔族領土―――冥国の中枢へとつながる道を示そう、異訪者よ」




