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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
最終章:フィナーレ編

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285/312

第14幕:蒼焔の兜




「どうやらこちらは終わったようですね」

「「!」」



 それはハクロちゃんとアルバウス様との決闘が終わり、さぁこれから領主であるプシュケ様に会いに行くか、それとももう一つの戦いの状況を確認しようかという時だった。


 一瞬に向く皆の視線。

 声とともに現れたのは……。



「エルゴ・ラース……」

「かつて我々と渡り合った白刃の剣聖……好敵手たるアルバウス殿を打ち倒すとは。あまつさえ、彼のすでに尽きていたはずの定めを打ち破るとは。あなた方異訪者とは、一体何なのでしょうね」


「何、と。聞きたいのはこっちの方ですわ。あなたたち三騎士こそ、一体どんな目的があって……、何のために! あなたたちは魔族側ではないのですか!? どうしてあの時。それに―――双子さんは? アレスさんは? まさか……」



「いなくなったお連れが気になりますか? ふふ……。無論―――」



「もーどってきたぁぁぁ!!」

「てきぜんとーぼうだ!」

「なめた真似をしてくれたな、兜」


 

 暗黒騎士の言葉に息をのむ私たち、焦燥が言動に出るよりそれは早かった。

 今に虚空に裂け目ができて飛び出してくる三人。

 魔族の相手を買って出ていた彼女らは普通に元気そうだ。



「……生半可な戦力では足止めにもなりませんでしたか」


「アレス! 二人も……、無事ですか!」

「無論です、殿下」

「でんかー! その人ずるいよ!」

「仲間を盾にして逃げたんだ! もう警告はいらないよね!? ”聖遺物生成(ジェネレート)”―――ポール!」

「うううぅぅぅーー、撃てぇぇ!」



 アゲアゲな言葉とともに放たれるは槍や斧、剣などの武器で。

 双子ちゃんの能力である武器の生成、そして掃射。

 要塞都市の一件で猛威を振るった文字通りの飛び道具が数十と魔族へと躍りかかる。



「単調この上なく。憤怒の蒼焔よ」



 けど、双子が生成して放つ強力な武器の掃射も、床から吹き上がるように展開された青の焔が蹴散らす。

 現象でしかない火が質量をもっているみたいにそれらを払い除け、そして溶かしつくしたんだ。



「ルミエールさん、気を付けてください。魔族側の三騎士は数こそ少ないけど実力は12聖を遥かに凌駕すると言われてます!」

「確かに、前に見たアリギエリさんの能力も途轍もなかったしね」



 マリアさんの言う通り、本当に隙のない構成だった。

 あの時は何らかの強化でさらに強くなってたけど、素の状態でも12聖より強いというのは全く冗談ではないんだろう。



「じゃあ直に確認してみよう。ステラちゃん、お願い」

「―――映し出せ、星の覗き穴!」




 ………。


 ……、っと。



「勿論そんなことできる筈もないけど、これは油断できないね」




――――――――――――――――――――

【Name】  

 暗黒騎士エルゴ・ラース

【種族】   最高位魔族(age:140) 

【一次職】  憤怒王(Lv100)

       冥国四騎士 怒れる兜


【職業履歴】 

一次:術士(1st) 黒術師(2nd) 

   憤怒王(――)


【権能】

四騎士・怒れる兜

体力減少割合に応じて魔力値が上昇


【基礎能力】            

体力:150(+200) 筋力:150(+100) 

魔力:500(+300) 防御:80(+100) 

魔防:250(+100)  俊敏:150(+150)


【能力適正】

白兵:A 射撃:A 器用:A 

攻魔:EX 支魔:AA 特魔:EX

――――――――――――――――――――




 彼女の権能によって映し出されるは三騎士たる彼本来のステータス。

 いままで沢山の強い人の能力値ってやつを覗いてきたけど、やはり彼らはNPCの中でもほかの追随を許さないような強さを持ってる。

 神格とかの途轍もないレイドボスを除けば最強かもだ。



「後衛寄りの構成の筈なのに、それ以外もおかしいくらいに強い。それに……まさかの、現地人さんにしてユニーク持ち……それも、完全に成長しきったユニーク持ちさんとはね」

「……! あの盗賊と同じ大罪系スキル……。名前からしてそうじゃないかとは思ってましたけど、やっぱり……! どうして無力な私たちの目の前にはいつだって強敵が現れるんですかね!?」

「だねーー」



「まあ、今回に至ってはむしろ運がいいさ」



「戦闘系ユニークは相手を倒すことによって簒奪することができる。PLの場合は一対一の状況に限られるけど、ボスであるNPCさんはどうかな」

「む?」



 それよりなにより―――。



「こちらにも完全に到ったユニークはいるんだ。とっておきの子がね」

「―――ですわ! 私たちは無力じゃない! お願いしますわ、ハクロさん!」



 マリアさんの呼び声に応えるように飛び出す影。


 彼女こそ白刃を継ぐもの。

 最強の異訪者であり唯一の12聖であるこの子が拓いてくれるさ。

 反撃の道をね。



「大好きな皆を守る。そのために戦う」

「―――。成程、異訪者としての12聖……。それも、完全に力を掌握した……。面白いものですね。図らずも、似た境遇にある同僚を思い出してしまうようです」

「ヴァディスさんにはちゃんとごめんなさいしたんだよね?」

「……………」


 

 眼鏡くいー。

 痩躯の魔族は中指でそれの位置を調整する。

 笑うとも怒るとも異なる、けど冷徹なわけでもない、様々な感情が混ざったような目があった。

 クオンちゃんのことを言った途端にだ。



「クウォ殿とともに行動していましたね、あなた方は。どこまでたどり着いたか、非常に興味深いものですが……」


 

 今に両手を広げ、私たちの目の前に立ちはだかる騎士。

 その掌に蒼の焔が燃え上がる。



「我が生は主のために。我が偽りはあの御方のために。今一度この土くれの身体に熱を……」



「いいでしょう。命の焔を燃やし尽くし、鎬を削る。どちらが生きるかくたばるか。……我、冥国三騎士エルゴ・ラースの名をもって、その戦いの意へ、全力で応えると致しましょう」

 


 今に術士風の儀礼服を翻し、顔にかかっていた眼鏡を取り去る。

 床に転がったそれが踏み砕かれ、焔に融ける。



「まことの戦いを……血沸き肉躍る戦乱を!! あの時の熱を、炎と血を! 俺に捧げるがいい!」

「あ、戦う時はキャラ変わるタイプね?」



 本で読んだことあるよ。

 ヨハネスさんみたいな紳士が、いきなりガラを悪くしたレイド君になったみたいだ。



「―――んう?」



 ………。

 おかしいな。

 いつもだったらガラの悪い盗賊はただの盗賊ですけど? っていうよく切れた突っ込みが隣から飛んでくるはずなのに。



「マリアさーん?」

「―――え……、あ、は、はい! どうかしました!?」

「……………。もしかしてああいう人がタイプだったりするのかな。ぎゃっぷっていうの」

「ぅえぁ!?」

「それともワイルド系? 何だかんだでレイド君と気が合ったりするし」

「誰がですか! あんな野蛮な―――」



「さあ、行きますわよ!! PLで初めて三騎士を討ち取った者たちになるチャンスです!」 



 話が終わったとみるや、皆が戦闘態勢に移行する。

 アレスさんが双鎌を構え、ハクロちゃんが大剣を握り、双子が背中を合わせ揃いのポージングを決める。

 私やマリアさん、御子様たちなんかは後ろの隠れて声を飛ばすばかりだ。



「さすがに蛮勇だと思うけどね。こっちには12聖が三組もいる」

「その筈です。ではルミエールさま、ご指示を」

「お願いしますね!」



 えわたし?



「うん―――アレスさん、双子ちゃん、戦えるんだよね?」

「無論……」

「いつでも」

「おけーい!」

「よし来た、じゃあトール君とポールちゃんは御子様たちの警護メインで中衛、ハクロちゃんとアレスさんが前衛固定だ。マリアさんは支援、アルバウス様は隠居、私は休憩」

「か・い・ふ・く!!」


 

 はいはい。



「……土くれよ、空の器に炎を灯し我が意にこたえ駆動せよ、冥府の憤怒を伝えるがいい。焔の河よ。大いなるプレゲトン、ピュリプレゲトーン……」

「すぐ終わらせる」



 準備万端な前衛さんたちを前に、やはり武器を持たず両手を広げる暗黒騎士。

 今に身の丈もある大剣を一閃したハクロちゃん―――その一撃を止めたのは、砕けた床から這い出てきた土の塊……?

 


「ォ……、ォガ」

「ブォ、ヶ」

「ん……! つち……」



 まるで神話の一幕。

 人間に火を与えた巨人プロメテウスのように、地面から生えた土くれに火がともる。

 形だけが人型をとったそれらは今にのそりと動き出して。


 とても強そうには見えないけど、当然油断できるような相手ではないだろう。



「さぁ、俺は安全な後方から……くはっ」



 そもそも無手だし、武器らしい武器は使いもしない……腰に下げたいくつかの短剣のみ。

 装備や能力値からも察するに、やはり彼は術士。

 騎士といっても、生み出した眷属たち前衛に据えて本人は後方からあの蒼焔を……。



「やはり我慢できるかッ―――さぁぁぁ!!」

「ん!?」

「まさか!?」



 あいや、飛び込んできた。

 爆裂による衝撃を推進力に、何のために生み出したのか全く分からなくなった土くれたちを蹴散らしながら距離を詰める。

 あまりに早すぎる。

 ハクロちゃんも完全に虚を突かれたか、驚愕の表情で。



「―――んん!?」

「くはははは! おぉぉぉぉ!!」


 

 彼が腕を振るうだけで青の焔が視界を覆うほどに荒れ狂い、うねる。

 しかもその火は質量をもつかのように重厚に轟き、柱を蹴散らし壁を削る。


 一瞬の衝撃から立ち直ったハクロちゃん、そして合流したアレスさん……二人が左右から巨大な剣と鎌を振りかざし、薙ぐ。

 そんな中でもエルゴさんは後方へ逃げることもせず自ら攻撃を往なし、躱し、質量をもった蒼焔で迎え撃つ。



「この熱量は……!」

「……ッ!! まるで活火山の火口部で戦ってるみたいですわ!」



 人界最強である12聖と、魔族領土の最強戦力たる三騎士の応酬。

 隙を狙うかのように私たちへも襲い掛かる火の粉をトール君とポールちゃんが防ぐ。



「くははははッ! ネゲブの焔蛇よ! 食らいつけぇ!」



 向こうはまるでやりたい放題。

 本当に人が変わったように白兵戦を決め込みながらも幾重に魔法を展開し、彼が腕を振るうと同時に四メートル級の巨大な炎の蛇が私たち後衛側へと襲い掛かってくる。



「白の、私が斬る」

「お願い……!」



 瞬間移動。

 一瞬にして空間を渡ったアレスさんが鎌を薙ぎ、炎蛇そのものを刻む。 

 切断された身体や巨大なしっぽが音を立てて落ち、延焼。



「当たらないほうが……よさそうですね」

「そばにいるだけで暑いですーー!」

「だね。触っていいことなんて万に一つもなさそうだ」

「そもそも何で術士がバリバリ前衛白兵戦なんですの! 徒手空拳! 腰のナイフの使い道は!? ここに水属性の使い手がいれば……!!」



「いけるよお! おねーさん! だって僕たちは紫紺!」

「二人で一人、一人ですべて! どんな色だって!」



「「神器生成(ジェネシス)溟渤の聖剣(ハイドゥグラム)」」



 今に双子が形作る一振りの件。

 それは、今までのものとは込められたリソースがまるで違いそうな精巧さと輝きを有するもので。



「帝国の至宝―――水の聖剣ハイドゥグラム!」

「双子はあらゆる神器の贋作を作ることができます。確かにこれなら」



「一本で一杯一杯だけどね!」

「やっちゃいぇーーい! 飛空・貫突!」



 あの剣ってユウトが持ってるやつだよね。

 二人の技は前衛の援護を受け、違わず暗黒騎士へと肉薄―――。



「が……!!?」



 突き刺さった。

 噴き上がるように展開された火柱の壁を貫き、騎士の身体へ。

 不意を突いた、必殺の一撃だった。



「ぐ……ぅ、ぬ……。―――ふふ、くくくっ」



 ……?

 あ。



「焔の魔塊……。冥府の焔河から創られた俺の肉体を贋作風情が貫けると?」

「「……!」」



 乾いた音とともに床へ落ちるのは、刀身を失った模倣の聖剣。

 まるで熱した鉄板に棒状のアイスを押し付けたような。



「逆に剣を切っ先から溶かした……!? どんな体温ですか!!」

「水属性最高位の聖剣が……」

「属性不利じゃないんです!?」

「面白いことを言うな、星の御子よ。水が焔を侵すだと? 馬鹿な。根源たる焔を蹂躙することは、闇にも光にも出来ぬと知れ!」


 

 ………。

 まさか属性不利さえもひっくり返してくるとは思わなかった。

 けど、まあ、



「十分に時間は稼げたかな。ハクロちゃん」


「―――”夢殉”」

「……!」

「属性、関係ない。ハクロなら全部切れる」



 今の彼女は最高にのってるらしく。

 アレスさんの力によっていきなり背後に現れた彼女へも、エルゴさんは確かに反応できていたし迎撃をしようとしていた。

 けど、彼には終始忘れていたことがある。



「なるほど。水に強い火がある、と。では、火に強い木があっても全く不思議ではないだろう?」

「―――!」

「忘れているかもしれんが、余の命を狙ってきたこと、忘れてはおらんぞ」



 ハクロちゃん、同じく空間を跳んだアレスさんが武器を振りかぶり。

 それに対応しようとしたエルゴさんの動きが固まる。


 彼の足、腰……それらを縛ったのは、まさに床下から伸びた緑の樹根。

 どうして彼がいなかったのか、指摘しなかったのはやっぱり忘れてたのかな。



「な―――、妖精王おおおォォォォォォ!! この戦いに邪魔を―――」

「「うるさい」」



 ……悪役どっちかな?

 どうやら正々堂々の戦いだと思っていたのは彼だけだったらしく、白の剣と鉛の鎌が左右から蒼焔の魔族を容赦なく切り裂く。


 今にガラス質に砕けて消える身体。

 PL、NPC関係なくそれは共通の戦闘不能サインであり。


 

 ………。

 


「……ッ。……よくも、よくも―――」



 違う。



「はは……、少し熱くなりすぎたよう……、です」



 戦闘開始の最初期に倒れ伏した人型の土くれの一つが今に立ち上がり、色付いていく。

 まるで身代わり。

 布の騎士服をまとい、眼鏡をかけた―――新たに魂が宿ったかのように起き上がったのは、見間違えようもない暗黒騎士の姿。



「キルされた状態から起き上がるタイプは初めてだ。自分で蘇生を使えるのかな。いよいよ人間離れしてきたね。魔族だけど」

「いや……、いやいや! そもそも魔族だからってあんな復活の仕方……本当に魔族ですか!?」



 名探偵さんが叫ぶ。

 そもそも種として違うかもって?

 確かにそれなら……。



「三騎士―――やはりそなたらは土くれから生まれた存在か」

「……ふ。訳知り顔でものを語るのを見るのは腹が立ちますね、やはり。だからこそあなたは目障りだった。妖精王……」



 戦い前の優男の雰囲気を眼鏡とともに取り戻したエルゴさん。

 彼の視線がおーちゃんさんから私やマリアさん、ハクロちゃんへと切り替わる。

 

 

「……。しかし。少しばかり、否。どうやら私は異訪者という存在を僅かばかりにでも甘く見積もっていたらしい。これは、私の失態」



「主が与えたこの命、無駄に散らす必要もないでしょう。此度は撤退させていただきますよ」

「逃がすと……」

「アレスさん」



 去り行く彼を追いかけようとする味方さんを止める。

 

 アルバウス様も隠居させたし、三騎士の一人も撃退。

 古代都市は完全にこちら側が防衛成功したという認識でいいはず。

 今回はそれで十分なはずだ。



「じゃあ、マリアさん。そろそろ……」

「寝ないとマズいです」



 やっぱりさすがに夜更かししすぎだと思うんだよね。

 怒涛の展開についついやめ時を逸していたけど、ここがちょうどターニングポイント。


 この後の流れとしては……。



「リア様は言わずもがな。帝国担当のステラちゃんもいる。だから王国も連携に入れたいところだけど、中央はよく分からないし海洋伯も味方じゃない可能性が高い。プシュケ様なら助けてくれると思うんだ。アレスさん。この後は皆を領主さまのところへお願い」

「御子を守護するは我らが役目。感謝する」



 今後の方針として私の意見を述べれば、アレスさんは相変わらずの無機質さで……けど少し気安さを感じさせるように答えてくれる。


 ………。


 

「アレスさんはさ、何か欲望とかないの?」

「切り離したものを振り返るつもりはない。殿下は私の全てである」

「もう……。アレス? 嬉しいですけれど、あなたはもう少し我儘になってもいいのですよ?」



 いや、裏切ってほしいことは決してないけど、どうして彼女や双子ちゃんは大丈夫だったのかなって。

 「欲望」が正体だとするのなら、じゃあバベルさんの裏切りの要因は?



「うーん。やっぱり、さすがに12聖全員が敵だと人界側が詰んじゃうからってことなのかな」

「メタいです。ところでトール君たちお二人は? 何か怪しいことを言われませんでしたの? お菓子あげるとか」

「不審者かな?」


「なんか聞こえたけどよくわかんなかったよ? リア様のことは大好きだし、守りたいし」

「よくぼう、とか。大人になればわかるようになるのかなぁ?」

「……かわいいですわ」


 

 そろそろ時間も押してるからね。

 マリアさんが双子やハクロちゃんに順々にお休みのハグをするのを見やりつつ、私は先に失礼させてもらうことにしたよ。

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