第13幕:剣を置いて
「結局民主主義で負けちゃったけど、全員で来る必要あったかな」
「バベルの時は流れを掴めませんでしたが、双子は私の守護星。もしもの時は説得します」
「視てみたら何か異常があったのかもしれません。次こそ私の眼で……」
「余は皆が行くって言ってるから……」
「諦めるしかないですわ。本人たちが行きたがってるんですもの。現状を見てもらうのが一番手っ取り早い方法! そうは思いませんの?」
「さすマリだぁ……。アレスさん、もしもの時はお願いね。私達勝手に生き返るから―――あ、じゃあこの辺で」
「……命は、大事に。聖女殿」
何処かから飛んできた火山弾のような燃え盛る岩が虚空に呑まれて消えた。
どうやらまだ生きてていいらしい。
現在地、王国は古代都市アンティクア。
既にそこは戦場。
敵味方も入り乱れての乱戦になっていて、空は魔族領土の暗黒騎士たちが飛竜に乗って旋回し地上へ攻撃を降らせ、地上では攻め入る黒鎧さんと都市の防衛に走る銀の騎士さん達がしのぎを削り合う。
防衛側はれべるで言えば下弦騎士さん達が50~、上弦騎士さん達が70~80程。
それらが手練れの魔族や半魔のPLと渡り合っている現状は下手な都市外領域より危険に満ち満ちている。
魔法が飛び交い流れ弾で命が消え、身近で起きた数多の異変に気が逸れたものから武器で切り裂かれ、或いは押しつぶされては消えていく。
炎の赤に津波の蒼、礫の灰が命の消える破砕音と交わって、一種の幻想的な雰囲気すら纏っている。
人がキルされた場所に残るエフェクトはまるで舞い散る細雪だ。
「やっぱり動き出してますのね……」
「観測していた。魔族側はこうなる事を理解していたのだろうな」
世界の多くを視ていたおーちゃんさんが淡々と告げる。
結局私はマリアさんを説得できなくて、むしろ普通に説き伏せられて、おーちゃんさんもステラちゃんもリアさまも皆連れてきて……。
「言ってない! 私そこまでは言ってませんわ! 最初は私だけ連れて行ってって言っただけなのに……」
「一番手っ取り早い?」
「この言葉狩り無職っ」
「無色? ―――ルミエールさま!!」
「無色の聖女さまだ!」
今に私達に気付き走り寄ってくる、正規軍である下弦騎士と上弦騎士さん達だね。
こちらの姿を捉えるなり歓迎ムードで敬礼してくれてる。
お忍びに当たって御子様たちはスッポリの外套で変装させたから気付かれてないみたいだけど。
「……何でそんなに大人気なんです?」
「んーー」
何かあったっけ。
最近では砦の一件で共闘した覚えくらいなものだけど。
「お急ぎください! 既に魔族側の一部は内部へと侵入しております! 指揮官となる存在もつい先刻に!」
「あの、ハクロさんは」
「副団長とアルバウス老は内部に! 領主さまの警護と共に、客将の紫紺殿も侵入した賊と渡り合っております!」
「では、双子は―――ルミエールさま、マリアさま。これなら……!」
「えぇ! 皆味方かも……!」
彼等の言葉に現状を認識。
防御陣形を組み地形を利用して敵の攻撃を跳ね除け続ける彼等の間を縫って進み、そのままリアール侯爵家の領主館へと踏み入れていく。
ひとまず、私たちの頼みの綱である彼女らが味方のままである事を祈るのみだったんだけど。
「―――く……、ぅ!?」
「ポール!」
入ってすぐ。
エントランスホールの扉、その脇に飛び込んできた―――吹き飛ばされてきた小さな影。
紺色の髪を持つ中世的な少女はまさに紫紺の片割れたる妹、槍のポールちゃん。
「―――凄い勢いだ、ボールみた……」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんって!」
「ポール、無事ですか!」
「え―――リアさま……?」
「って、何でここに? あ、何か知ってる人たちもいっぱいいる……ピクニックなの!? ここ危ないからやめた方が良いと思うよ!?」
「……正気、ですわね」
「外れてくれてよかったけど……あ、トール君は?」
「一緒だよ! 相手がやばやばでさぁ!?」
ダメージ自体はさほどでもなかったのか、彼女はすぐにひょいと起き上がる。
攻撃的な姿勢はまるでない。
「良かった……双子が仲違いしてたら困りましたけど、どちらも私たちの味方になってくれそうですわね」
「どちらかというとよくないのは、その12聖な双子さんが揃って戦っても吹き飛ばされてくるような相手がいるって事だよね?」
「……ですわね」
「……、ぅ」
「わわっ、わぁ……!? お爺ちゃん強すぎ! 大丈夫!?」
二階の奥から転がり出てくる影は二つ。
「ハクロさん!」
「トール、無事ですか!」
「……! マリア……、ルミ……!」
「あ、リア殿下―――でんか!? どうしているのさ! 星の御子様たちも!」
やはり押されているのか、後退するように飛び込んできた二つの小さな身体。
12聖である双子や彼女が共闘して、その上で圧されるような相手?
恐らくは魔族側の―――。
「―――よもや、御子様たちが」
「え」
ハクロちゃん達が構える先。
そこからゆっくりと歩いてきたのは、細く、しかし高い身長の老体。
白っていうよりは灰色に近いひげを伸ばした、私の良く知る人だった。
「……来てしまいましたか。目に入らねば済んでいたものを」
「アルバウスさま……?」
「であれば、儂は……」
今に彼が武器を八相に構え、振るう。
その相手は―――私たちだ。
「来るぞ! 樹根、木蓮―――むむぅ!!?」
「虚ろの空よ」
おーちゃんさんが一瞬で生成した護りを容易く切り裂き肉薄したソレは虚空に消える。
アレスさんがいてくれて本当に助かるよ。
「そんな、白刃の剣聖様が!?」
「嘘でしょう!?」
「本当だよぉ! あの激つよお爺ちゃんに虐められてるんだぼく達!」
「定めがどうとか神託がどうとかさ! よく分かんないけどさ。頭の固いおじいちゃんたちが勝手に言ってるだけで、それって僕たちには何も関係ないよね!? あったまくる! ―――ポール!」
「おーけー! 切り札決めた!」
「“炎斧嵐々”」
「“氷槍霧塵” からの!」
「「妖星よ、紫紺の星天よ。四十八宿星―――四魂暴乱!!」」
双子が互いの武器を打ち鳴らし、構え。
紫紺の一撃が空を裂く。
破滅的な威力を秘めた魔法斬が剣をこちらへ構えた老体へ迷いなく飛翔し。
「白刃よ」
「「………!」」
そして、左右に分かれて消えた。
魔法を斬る。
それはまさにハクロちゃんが得意とする、ユニーク【剣聖】の絶技。
アルバウスさまはその能力を基本搭載で通常攻撃として放てるらしい。
「終わりか、幼子らよ」
「バカ師匠……!! 全然分からない!」
「あぁ、分かるまいよ、世のしがらみを理解しきれておらぬ幼きそなたには。欲なきそなたらには」
「意味わかんない!」
「さっきから、お爺ちゃんの話は本当によく分かんないよぉ!」
大剣の連撃、斧と槍の乱舞。
その全てを紙一重で躱し、往なし、そして弾く。
老いて引退する時までその座に居座り続けた12聖だ。
対して、ハクロちゃんも双子さん達も代替わりを経た、その中でも一際幼い部類……まだ半人前の彼女たちでは一対一で渡り合えるものではないのだろう。
相手の身体を掠める技はなく、逆にハクロちゃん達の身体に届くかといったギリギリの攻防が繰り広げられる。
私たちは只息を殺し、拳を握り見守るしかなく。
「わ……、ひっ……、やっぱりアルバウスさまの武器が掠めて―――劣勢みたいです……!!」
「三対一でも……」
「それが真なる担い手とそれ以外を隔てる壁。……お下がりを、殿下」
「―――!」
只観戦してるってわけにはいかなかったみたいだ。
何処からか蒼の焔が舞い、館の内部を焼いていく。
騎士さん達が言っていた、指揮官となる存在……アルバウスさまが敵だとしても、魔族側の指揮官では決してない筈だと思ったけど、やっぱりいたらしい。
「三騎士……、エルゴ・ラース」
「アレス殿。久しいですね、まさに50年前の戦い以来」
現れたのは魔族側NPCの中でも12聖以上と目される三騎士の一人。
けど、彼は。
「魔族側だったりあの人と一緒にいたり―――あなた達……。三騎士は結局何なんですの!?」
「何、とは」
「どこの味方かって話です!」
黒髪に銀縁眼鏡、長身痩躯。
纏うは金属の全身鎧ではなく、黒布をメインとした儀礼用に近いイメージを持たせ、身に着けた武器は幾つかの短剣のみ。
ラースって名前がまるで似合わないような優男さんはマリアさんの問いに得心したように頷く。
「何処の味方か、と。あぁ、それならば易い。私は魔神王陛下、そして元帥閣下の忠実な僕。此度、人界平定の急先鋒を務めさせていただく、冥国三騎士が一人―――怒れる兜エルゴ・ラース……」
「おーー」
「拍手してる場合ですか!」
彼の口上に合わせて上がる青の火柱が綺麗で思わず見とれてたよ。
けど、実際問題アルバウスさまと三騎士さんが敵。
こちらで対抗できそうなのはハクロちゃんと双子ちゃんとアレスさん……ギリギリでおーちゃんさん。
「相変わらずどこ行っても結構なピンチだったりするかも」
「アレスなら三騎士とも互角に渡り合えるかも……」
「うん、そうだ。リアさま。もっと良い手がある。ポールちゃん、トール君」
「んえ?」
「どかした? おねーさん」
「ハクロちゃんとアルバウスさま、二人の戦いに邪魔が入らないようにしてほしいんだ。三対一なら三騎士さんを完全に留められる。だろう?」
「ルミエールさま。しかし、それは……」
「剣聖様は歴代12聖の中でも最高位とされた剣士様です! ハクロさま一人では……」
「―――いいえ! できますわ」
「「!」」
その場にトサと腰を据え、向かい合う二人をただ見届ける。
空いた隣にマリアさんも腰を据えて。
「……アレス。ポール、トール」
「良いの? 殿下」
「お二人が断言したのです」
「それなら、間違いはないのかもしれません……。では、私も」
信頼が強すぎる。
主の命令を受け取った彼女たちは三騎士の一人へと武器を構え。
「―――やはりお邪魔のようですね、私」
「派手にね!」
「そういう事だから場所替えよ! アレスねーさん!」
「……………」
空間が揺らぎ、四人の姿が見えなくなる。
今この場で戦いの動作を見せているのはハクロちゃんとアルバウスさまの二人だけとなった。
「―――ハクロさん」
「マリア?」
「これは勝手な押し付けです。本当に勝手な言葉です」
「私たちの前で負けないでください。一対一の戦いで負けないでください……! 貴女は最強のPLなんです!!」
「………ん」
マリアさんの言葉に、団で覚えたのか騎士としての礼をするハクロちゃん。
当然、彼女は最初から迷ってなんかいない。
ただ師匠の真意を読めずにつなぎとして防戦に徹していただけだ。
っていうか、今の彼女が迷う事って多分ないと思うんだ、これからも。
だって、彼女は。
「ハクロよ」
「12聖、白鷺の剣聖」
「……!」
「任務―――師匠を斬る。斬ってから言うこと聞いてもらう。それが一番早いから」
「……。あぁ……! そうじゃ。儂らにはその力がある。己の我が儘を通すための、力が。儂はその力をそなたに伝えたのじゃ」
「……るみ」
「いつも通りの当り前さ。君に出来ない筈がない。だから私はここで待ってる」
決着はすぐにつく。
先に相手の真芯を捉えた方が。
「「刃魂」」
一合目、突き技。
確かにあった距離が一瞬で縮まり、少女の大剣と老躯の長剣が武器の魂を削り合う。
「「白刃・さざれッ」」
二合目、横薙ぎ。
最もメジャーな技の一つとして私も知っているそれがささめ雪のような火花を散らす。
……。
まるで型稽古。
互いの技を確認し合うかのように繰り出されている技。
「「―――――」」
「奇麗……」
「全てが最適解。互いの技を知り尽くしているがゆえに、相手が打ってくる最適解を予測し、己もまたその技に対する有効打を放っている訳だ」
「勝とうとして、けどそれが結果として相子になってる」
まるで武器が鍛えられるように。
決して激しくはない、けど確実に断続的に打ち鳴らされる技。
「けれど、それでもレベルに劣るハクロさんは不利で……」
「そんな事もないみたいだ」
「え?」
「おーちゃんさん……、何かした?」
「余ではない。彼女には既にその資格があった。それだけの事。余でなくともソレを可能とする方法はいくつかあるのだ」
「あの、さっきから何の話を……?」
「分からないかな、マリアさん。ステラちゃん。あれ、出来る?」
「あれ、です? ぁ―――あぁ! はいです、星の眼よ……!」
―――――――――――――――
【Name】 ハクロ
【種族】 人間種
【一次職】 剣聖(Lv.100)
【二次職】 釣り師(Lv.15)
【職業履歴】
一次:戦士(1st) 剣聖(――)
二次:釣り師(Lv.15)
【称号】
月光騎士団 副団長 上弦騎士
三界十二聖 白鷺の剣聖
【基礎能力(経験値0P)】
体力:30(+9) 筋力:200(+11) 魔力:0
防御:10(+29) 魔防:0 俊敏:300(+32)
【能力適正】
白兵:EX 射撃:B 器用:A
攻魔:E 支魔:E 特魔:E
―――――――――――――――
「レベル……ひゃく! こんな能力値って!? これ―――! 何かしらの条件を達成して、レベルキャップが解放された。ずっと貯まってた分の経験値で一気にカンストしちゃった……ってコトですの!?」
「うん、つまりはそういう事かね」
おーちゃんさんが言っていた「新たな力」
ユニーク職にとってはレベルキャップの解放という意味で効果を齎した。
PLとしては一度も見た事がない、あまりに暴力的な能力値。
「今の彼女こそ、本当の終着地点。最強だ」
「……私たちの最強、ですね……?」
まさにね。
手を伸ばすだけで互いの身体に触れるだろう距離の中で、刃を横に構え押し出した二人の技が交わり。
空いた間合い、互いに同時に踏み込む。
「白刃・さざれ」
「絶剣―――夢殉ッ!!」
「「―――――」」
最後の応酬。
ついに、それ以降互いの武器が触れ合う音は聞こえなかった。
あまりに静かだった。
右足が踏み鳴らされ、互いの一文字が十字に混ざり合った中で、パキと薄氷が静かに割れるような音だけがあった。
………。
「―――か、……ぁ」
初めて、二人の放った技が異なった。
アルバウスさまの繰り出した横薙ぎの一閃に対して、ハクロちゃんの放った大上段が十文字を形成し、その上でアルバウスさまの武器が砕け、袈裟に切り裂かれる身体。
今に崩れ落ちる身体。
ドサとその場に崩れ落ちたアルバウスさま。
ステラちゃんの眼から変わり、鑑定眼鏡で見た限りだと、既に彼の体力はゼロを突き抜けてマイナスの領域に入り込んでいる。
「師匠……!」
「ふ……、負けたわ。ようやった……。ようやった、我が……愛弟子よ」
「―――ルミ!!」
「ここからは私たちの出番かな。“極光の癒し”」
……。
戦いが終わったならと、サポートチームが動き出す。
マリアさんが私にバフを、私はそのまま回復を。
これがあるから、ハクロちゃんも安心して全力でキルしに行けたと思うんだ。
だから、さ。
「―――体力が。ルミエールさん!」
「ね……アルバウスさま。一体どういう事かな―――“道化神の悪戯”」
「……ふ」
そういう使い方するものじゃないスキルで彼の体力を一時的に上げたけど、その上げた分も……まるで血が流れ出るようにして少しずつ、また少しずつ減っていく。
このままなら数分と持たず彼は消えてしまう。
NPCは二度と蘇らない。
「ししょう、体力減ってる……。ルミ……? ルミ!!」
異変にハクロちゃんも気付いたのだろう。
目の前でどんどん力を失っていく師匠を見て、かつてない程の焦燥を見せて。
けど、その彼女を撫でるようにして倒れ伏した騎士は笑む。
「ルミ!」
「ハクロ……、ハクロよ」
「お願い! 師匠が消えちゃう! そせいまほう……」
「よいのじゃ、ハクロ」
「ルミエールよ。そなたにも世話を掛けた」
「―――治らない」
「うむ」
「そなたの持つ蘇生の力とやらは己が生力を切り離し、対象に分け与えることで効果を発揮する。儂の肥大した魂を埋めるには、あまりに足りんのよ。老いた儂には神の権能はあまりに眩すぎての」
「巨大な権能を授かろうと、儂らは人……。欲があり、意志がある。それを抑えられなかった……。儂は、ハクロよ。そなたと戦いたかったのじゃ……」
「!」
「自慢の弟子と。恐ろしい程の才能に満ちた弟子と。若き頃に出会いたかった弟子と。……全力で、死合ってみたかったのじゃ。その誘惑に、結局勝てなんだ。主と悲願を天秤に、後者を取ってしまった」
「―――誘惑。それが正体なんですか?」
抗ったか受け入れたか。
それによって、12聖の中での味方になったか敵になったかが分かれた?
で、アルバウスさまはその誘惑を。
「ハクロよ、そなたは儂を超えた。儂はとうに役目を終わらせていた―――、そのつもりすらなかった。もう、思い残す事など無いのよ」
「薬……! 一番良いの、のむ!」
「よい」
「苦くない!」
「―――いらぬ」
「飲んで……、のんで!」
「そなたら、このうるさい子を頼むぞ」
「なんで……、バカ師匠の分からず屋!」
自分の意思であったことに違いはない。
けど、何か「欲望」を増幅されるようなことをされたのかもしれない。
彼が、彼等が反旗を翻すかそうでないかは彼等自身の欲の多寡によるのかもしれない。
「何でです!? やっぱり能力強化が掛かりません!」
「ダメです……。私の権能も……」
「より大きな力によって阻害される……! ずっと昔に掛けられた力が私たちの力を邪魔してるようです……! けれど、こんなの天上の神々様の加護などでは……!」
バフもデバフも入らない。
そういう効果を入れられたのか。
「欲望を増幅する力。上位存在の細工が、副次的に皆の魔法も跳ね除けてる。―――詰まる話、付与された悪神の加護がなくなれば良いんだよね?」
「「!」」
「そうすれば回復できる」
「―――ルミエール。そなた……」
それなら話は早い。
「大手術だ。協力してくれる看護師さんはーー?」
「是非もありません! 先生早くしてください!」
「私にも出来ることを待ってましたよ!」
「滅私奉公。国の為にここまで仕えた英雄をどうしてみすみす捨て送れましょう!」
「「歌え、歌え、猛き白日。荘厳なりし陽の眷星(神星)よ」」
「歌え、歌え、淡き黄金。天に遍く神星よ」
「熱き焔で鉄を討ち、輝く威光で不定を融かせ」
「救いを求めし光を受け入れ、理解の果てに無明を拓け」
「邪悪祓いし白日の野に、眩き光はもういらず」
「闇受け入れし黄金の野で、手を取り合って生きましょう」
「「新たな世界に優しき光を……」」
「紫紺の雫が大地を芽吹かせ、黒と鉛が緑を育てる」
「満天の銀より水を受け、黄金の地平に紅を望む」
「我は後ろを歩む者。大いなる陽の眷星(神星)なれば」
「我は左を歩む者。大いなる星の神星なれば」
「「式句詠唱―――歌え、神々の御伽歌ッ!!」」
御子様やマリアさんの能力が非常に酷似してるのは既知。
かつてリアさまを救った時に協力してもらった力を、今度は三人同時に―――魔力消費減衰を掛けてもらえば。
「式句詠唱。其は左に星、其は右に月、其は背に太陽」
『―――光の起源は此処に在り。根源は此処に在り』
「よせ、ルミエールよ……、儂はソレを望んでなど……」
「アルバウスさま。さっき私が使った能力値入れ替えのスキルはね? バフでもデバフでもないんだ。だから掛かった。それを掛ける条件は、ただ一つだけ。対象の同意」
「!」
「相手がそれを受け入れる事。でないと効果を発揮する事は出来ないんだ」
「―――――」
「あなたが生きたいと願った。欲があった。もっと生きて、愛弟子と話したいと思った。だからこうなってる。それだけ」
だから受け入れてあげなかった、それだけ。
「年を重ねると話が長くなるのは当然。もっと話したいでしょう?」
「……。そなたはまこと、不思議な存在よな」
「黙って助かってくれると嬉しいな。あなたのお陰で今の私たちがある。あなたが導いてくれた白鷺が、私を常に導いてくれたんだ。大人しく隠居して楽しんでると良いよ。だって、ハクロちゃんはもっと強くなる―――ね?」
「なる!!」
「………ふ」
『―――――夜明け』
世代交代は成っている。
とっくの昔になっている。
物語に語られるような、大切な弟子だからこそ己が全霊をもって叩き潰し、その上で己を超えた弟子に看取られるようにして眠る。
実に感動を誘うと思う。
私もそういうの嫌いじゃない。
「けど時と場合に依るね」
私のユニークが持つ最終奥義。
どんな条件に依らず、対象に定着した状態異常の全てを強制的に解除する魔法は、やがて隠居老人っさんの身体を包み。
ついに、彼の体力はプラスの最大値に固定され、減ることはなくなった。
「……死に損なった、か」
「プシュケ様に正直にごめんなさいしないとね―――カワイイ弟子を泣かせたんだ。生き続けるのが贖罪。私はそう思う」
「私もそうだそうだって思いますわ」
「……………」
「ハクロ」
「ん……、ん! ちゃんと見届けて欲しい、バカ師匠……!」




