第12幕:拠点構築かいし
「さて―――」
「ご紹介の必要あるかな。店主君、この人誰だかわかる?」
「お初に、余が子々孫々らよ」
「……………」
「おーちゃんさん……、妖精王さんって言うんだけど」
「――――」
「あれ、店主君?」
「うんとね? ルミエちゃん」
「えっと……、ノルドさん気絶してますね……。一体全体何がどうなってこうなるんですか? マリアさん。先に発令されたワールドクエストとも関係があったりしますよね? 絶対」
「私が聞きたいくらいですの、ヴィオラさん」
チェンジ・リングで転移した先は通商都市。
何者かの襲撃に備え、取り敢えず駆け込んだのは私の下宿先である黒鉄商店だった。
ここなら危ない人は誰もいないっていう間違いない話だったんだけど……。
「あとほら、ついでに店主君喜ぶかなって」
「有難迷惑の極致」
「むしろ生きた有難迷惑」
やっぱり元団長と副団長だけあって息合うね彼女ら。
かつてあったすれ違いは何処へやら、今や互いを良き友として和やかな会話をするマリアさんたちに私も和むよ。
「おーちゃんさん……。妖精王さま、なんよね?」
クラレッタさん……店主君の恋人さんは完全に白目剥いちゃってる彼の頬をペチペチしながらも興味津々みたいで、妖精種特有の長耳がピコピコ。
やがて店主君が起きないと見るや、私達それぞれにお茶を出してくれる。
「本当にルミエちゃん達は色々な人たちと会うんやね。驚いたわー。妖精王さまって言えば、ふるーい伝説上の存在みたいな御方。私ら妖精種の始祖様やからねぇー。私たちが生まれるずっと前の、いつの時代からかお隠れになったって聞いてたけど、本当に偉い人なんよ」
「「おーー」」
改めて人伝に聞くと参っちゃうね。
「凄い人なんだ、おーちゃんさん」
「そうとも。余は凄い。どのくらいえらいかというと……」
「へっくしょい!!」
「―――あ、おはよ店主君」
「うぃー……ずずっ。悪い夢見てた気分だぜ。おまけに最初に見るのがお前の顔か。悪夢だな」
「あ、まだ覚めてない? じゃあ丁度良いね。改めて状況を説明しよう。まず、このダンディな妖精さんが妖精王おーちゃんさん。偉いよ」
「―――」
「ほい、ノルド君」
「んあ? なに飲ませ―――にげぇ!?」
「まーた気絶すると思ったんから、良いお茶だしたんよ。せんぶりっていうの? 異訪者さんが栽培してるんよ」
「良いね。私も貰おうか」
「是非、余も」
「いや、俺は普通のが飲みた―――、妖精王さまあぁぁぁあ!? ぁあががが……」
「ほほーい」
「にげぇ!!?」
「新手の拷問ですか?」
「最悪です」
面白いねこれ。
防衛本能からかすぐに気絶しようとする彼を寝かさないようにゆっくりじっくりと話を聞いてもらう事にして。
………。
「っていうわけで、ちょっと世界の起源に近付き過ぎたみたいでね。命からがら逃げて来たってワケ」
「―――あ?」
「……今のでわかるん? ヴィオラちゃんも」
「いえ、この人の話は大体意味が分からないので」
拠点防衛で魔族側に大敗した話。
何か流れで一緒に旅する事になった話。
その過程でおーちゃんさんに出会い、ちょっと真実に近付き過ぎて追われる身になった話。
前半こそ私やマリアさんの説明にも熱が入ってたけど、後半はもう優雅なティータイム。
皆で和気あいあい、のんびーりしながらゆっくりとお菓子でもつまみながら会話を弾ませて。
「えっと……妖精王さま……、で、いいんすか?」
「うむ、我が血脈よ」
「……この人でなしが迷惑かけてません?」
「ふ―――」
「良い関係を築けているのだな、君たちは」
「「……………」」
「本来、異訪者とはこの世界に存在せぬもの。それが、今や世界中に散らばり、様々な関係を築いている。不思議なものだ」
「大体は問題の種になってますけれどね」
「ふふ……」
「それがたのしいんやけどね」
「参っちゃうよね」
「お前にな。……今日は泊ってくのか?」
んーー、そうだね。
「いや、ちょっと急ぎなんだ。敵にはすごく強い魔族さん達が居て、12聖さん達もいて、もしかしたら神さまそのものかもしれなくて。ちょっとガイドさんも信頼できるか怪しくなってきてね―――ずずっ。早く安全で護りの厳重な所に逃げなきゃなんだ」
「へいへい、そらぁ大変なこって……。あ?」
あ、このお茶も美味しい。
「茶葉替えた?」
「いつものだ。……? ―――ズズズッ……」
「―――じゃねぇえぇぇぇぇだろっ!! 何やってんだよ! 猶更こんなゆったりしてる場合じゃねーだろ!! はよ行けや!!」
「そうだねごもっともだね」
「呑気!!」
………。
まぁ色々あって。
やっぱりここにおーちゃんさんを置いていくのは危ないという事なので、行先を変更。
幸いな事に私たちには世界巡りの馬車っていう便利な移動アイテムがあって、追手が来てても振り切れる。
或いは、これからその追の本拠かもしれない所に向かうんだけど。
「ルミエールさん? 本当に行くつもりなんですか?」
「うん。大丈夫……かは分からないけど、他にもう信頼できるような当てなんか無くてさ。多分、私達PLの現状の戦力じゃどうあっても勝てないし。あとは、先のクエストの文面を信じるしかないよ」
実際の所、最初から目的地は決まっていたようなもので。
魔族側目標拠点:皇国皇都シャレム
人界側目標拠点:暗黒領域タルタロス
発令されたクロニクルクエストにおいて、人界側と魔族側はそれぞれ相手の陣営の最重要拠点を落とさなければならなくなった。
果たしてノクスのアールさんがその勢力図にどうかかわって来るかはまだ分からないとしても、いきなりここが機能不全って事はない筈なんだ。
「そう思わない?」
「思うおもう。楽しみであるなぁ、皇都ぉ。余、直接行くのは初めてで……」
「この二人は本当にッ。けれど、こういう時のルミエールさんほど信用できる直感も……せめて誰か一人でも戦闘系のひとを回収してからでも……、っていうかツッコミ役って私一人? ううーん―――わわっ!?」
「とーーうちゃく」
手綱を操り、異空の穴を抜けて馬車が飛び出た先。
皇国の皇都シャレム―――それも、中央に位置する教皇庁。
指定した座標も、ここの家主さんがいつでも来ていいよって言ってくれたところで。
白石の柱が幾重にもそびえる屋内。
地上五階建てである巨大な建造の中でも既に中枢と思える空間に降り立つ私達。
変化はすぐだった。
今に皇都からほとんど動く事はないとされる親衛隊の神使さん達に護られるようにして、純白の祭服をまとった少女が現れる。
「やはり―――ルミエールさま……! マリア様まで!」
「こんにちは、リア殿下」
「お久しぶりですわ」
マリアさんが危惧する通り、これは賭けだった。
だって皇国は神々への信仰の根拠地で、12聖を任命する場所で、何よりノクスの影が長年存在し続けていた。
今に信頼していた人が背後から襲ってくる可能性が絶対にないとは言えなくて。
「今まで一度も使わなかった秘密の路を……。何か、あったのですね?」
「えぇ、急ぎ、会って頂きたい方と、ちょっとこれからの事で話したい事が沢山。あとちょっとかくまって頂きたくちょっと」
「清々しい程あつかましっ」
知り合いである私やマリアさんはともかく、国家元首さんの注目は今におーちゃんさんへと移っている。
明らかに目の前の存在が普通ではないと理解したのか、単に外見に年齢が見えるほどに老化した妖精種というのが珍しかったのかは議論の余地ありだけど。
「お話する時間は……、ありそうですか? 全てをお話しください。お茶を淹れますよ」
「「……………」」
「―――お時間はないのですか?」
「「頂きます」」
さっきたくさん飲んできたって言いたいけどそれって失礼だよね。
お腹タポタポだけど案内されるままドキドキなテーブルマナー大会へと向かい。
途中で一応聞いてみたけど、やっぱりステラちゃんは居ないらしい。
最近なんかはリア殿下とニコイチみたいに思っちゃってたけど、私たちが会う時って大体が有事だから、本当に二人が一緒にいないと危ない時に偶々私が会いに来てただけで、本来の彼女は帝国にいる筈なんだ。
居なくて当然……、うん。
「なんかしっくりこない」
「「?」」
「しっくり……、ですか?」
「ん。えーー、あーー、失礼。お茶会の前に、少しだけ席を外しますね」
「ルミエールさん? 何か嫌な予感が―――」
………。
「わわぁっ!? ―――ぷきゃぁ!」
「連れてきたよ、星の御子様」
「誘拐ぃぃぃ!? ちょっと手慣れ過ぎですわよ!?」
「マリアさんで鍛えられたからね」
思えば何度も誘拐した気がする。
流石にそろそろ「気のせい気のせい」で誤魔化すのは苦しくなって来るかも。
いや、でもあと一回くらいはワンチャンス。
「あるわけ!! 無いでしょう! 本当に相手が誰だろうと容赦しないんですからこの人は……! あ、あの……ステラさま? 大丈夫ですの!?」
「あ、マリアさま……。えぇ、と……これは?」
「しかも事情すら話してない!」
「ルミエールさまが大丈夫だと。心配せずに安心して付いて来てくれていいと仰っていたので……。お菓子もくれるって」
「健気!!」
「まぁ、ぶっちゃけるとステラちゃんも狙われる可能性ありそうだからね。―――12聖さん達に」
「「……12聖?」」
今に御子様たちの注目が向けられるは、まさにその当事者。
一説には12聖最強との呼び声もある、鉛影の双鎌アレスさん。
親衛隊の長として、常にリアさまの傍にいる彼女は今もこうして静かに控えて―――。
「………やはり、妖精王」
「「!」」
「―――アレス!?」
ずっとおーちゃんさんを見ていたらしい彼女。
アレスさんがおもむろに「何処か」から、二つ名の要因でありトレードマークとも言える大きな双鎌を取り出す。
彼女の真骨頂はまさに空間を操るっていうスゴイ力そのもので、以前はその実力を見せつけられた。
……けどなんで今?
「……裏側をひらけ、鉛の影よ。時空歪曲ッ!!」
「「―――――」」
「何が―――、きゃぁぁぁ!?」
「これ、は……!! この黒鉄の閃光は……!?」
言うなれば、狙撃。
ソレが飛んできたのと、アレスさんが力を行使したのは同時だったんだ。
今に、視界が真っ白に染まる。
アレスさんが繋げた異界へ、闇を裂くような暗黒の輝きが飲み込まれていく。
途轍もない威力の衝撃波。
もしも彼女がそれをさばいていなかったら、今頃この場にいた私たち全員、神使さんたちを含めて全員が吹き飛んでいた事は自明の理で。
明らかに不意打ちの一撃。
こんなにも強力なのに、他の誰も気付けなかった。
そもそもこんな攻撃が可能なのは、当然PLじゃない。
只のNPCでもない。
そのレベルにいる人は。
明らかに過剰な暴力の衝撃……大質量の一撃を放ったのは―――。
「バベル。貴様」
現れる巨影……。
まるで蒸気機関車みたいに黒光りして、同じく蒸気機関車みたいな重厚な……分厚い鉄板を何枚も束ねたみたいな装甲に身を包んだ二メートルを超える騎士さん。
黒鉄の機銃ライブラ・バベルさん。
皇国所属の12聖
名前にもある通りの巨大な砲身を持つ機銃からは、黒の煙がのろしのように上がって……。
「―――。すまぬ。手が勝手に」
「成程?」
「そういう事でしたか……」
「バベル、貴方……」
「おっちょこちょいさんなのですね?」
うん、手が滑ったならしょうがない。
「―――ってなるわけありありませんわぁ!!」
「マリアさんの重要性が増してきたね」
「こんな事で! ―――ってそんな場合じゃありません! 王国だけじゃなかったわけですか!!」
「うん……、思えば、皇国にだってノワールさんとかが入り込んでたくらいだし、シャア・リさんだって元々は皇国の12聖だ。他にいても全然不思議じゃなかったね」
「悟られてしまっては止む終えんか……」
「いやむしろ何でいけると―――ひぃぃぃ!?」
「下がれ、客人。―――近衛」
「「……………」」
開かれた間合い。
私たちを庇うように立つアレスさんや神使さんたちと、こちらに向けられた銃口を外さないバベルさん。
「―――これって……、これは、一体!?」
「バベル! どうしてあなたが……!? ―――あ!?」
石が強い衝撃に抉れる音と、火薬の炸裂する音。
繰り出される機銃掃射と、その全てを異空へと飲み込む防御。
お茶会をするはずの広間は今にハチの巣に代わり、倒壊する柱、崩落する天井、その全てが異界に呑まれては消え、それでも銃撃は続き。
小金属がカラカラと床に落ちる音が過ぎ、僅かな静寂が訪れる。
「……弾切れ、か」
「……すみませぬ、リアお嬢様……」
元よりそのつもりだったのか。
バベルさんは今に自身で空けた壁の風穴へ飛び降り、消える。
僅かに数十秒ほどの出来事。
お茶会っていうよりは、クーデター後って感じになった屋内。
「お茶会のムードじゃなくなっちゃいましたね」
「「……………」」
「ステラさま、リアさまも。実演で申し訳ないのですが、つまりこういう事ですわ。彼等の中に、敵方に回ってしまった人たちがいる……と。夜はまだ終わってはいなかったようなのです。私達も、少し前に王国の12聖たちに襲われたんです」
マリアさんの説明は簡潔で理解しやすい。
震えながらも納得した様子の彼女ら……、やがてリアさまが何かに思い至ったようにこちらを見上げ。
「ルミエールさま。こうなる可能性を承知で来られたのですか? もしもアレスまでそうだったのなら……」
「終わりですね」
勿論考えた。
けど、ただ逃げるだけってつまらないだろう?
「単に、全ての12聖が敵に回ったとは思いたくはなかった。ここが一番判定をしやすいと思ったんです。その上で、生き残ったのであれば最終的な拠点で間違いないとも。細かい説明は後程しますけど、今に人界と魔族領土の間で大戦争が起きます」
「より多くの人を助けるためにも、協力してほしいんです」
普通はいきなりこんなこと言ってもちょっと正気を疑われるだろう。
けど。
「……。ルミエールさん達が冗談でそんな事をいうわけありませんよね? リアさま」
「えぇ。……きっと、それは起きてしまうのでしょうね。であれば……」
「私にできることがあるならば、国と国民の命を預かるものとして戦いましょう」
「帝国に協力要請は!? 私が間を取り持てるはずです!」
………。
「こういう時に今までの積み重ねを実感しますわね、ルミエールさん」
「だね。じゃあ、防衛拠点決定って事で―――それでいい? おーちゃんさん」
「余はまんぞくじゃ」
「真面目にやってください」
よしよし。
「じゃあ、御子様がた。改めて素敵な助っ人を紹介しよう。気になるこの方―――妖精王さま。全ての妖精種の始祖。世界の大体の事を知ってる知恵者さんだ」
「よろしく頼む」
「「!」」
「……ここからは、皇国を拠点として魔族側や第三勢力と思われる彼等との戦いに入るわけだが。時に、るみちゃんとまりちゃんよ」
「おぉ、何だねおーちゃんさん」
「まりちゃんは止めてほしいんですけど」
「本来であれば、あの場で君たちに伝えておきたかったのだが。いま、この場には光の御子たちがいる。であるのならば、叶うだろう。―――新たな力が欲しくはないか?」
………。
「新たな力が欲しくは―――」
「いえ、聞こえてなかったわけじゃありませんわ」
「む?」
「もしかしてですけれど、更なる上位職になれる、とかそういう話ですの?」
「察しが良い」
「だってどう見ても最終決戦の様相じゃないですか。ここで出さないならいつ出すのって話ですわ」
「ふふ。確かにな。では、改めてだ。新たな力が―――」
「「のー」」
「……………」
いや、だってさ。
「私もルミエールさんもユニーク持ちなので」
「その話持ちかけるにはちょっと相手が悪いかも」
「えーー」
まぁ、それも状況次第だけど……、と。
「ところでリアさま。アレスさんとバベルさんは分かったけど―――トール君とポールちゃんはどちらへ?」
「……。実は、現在は件の前哨基地への援護の依頼を受け、古代都市に……」
「古代都市……?」
「これも兆しなのかもしれません」
「……! ルミエールさん!」
だね。
前哨基地が存在するのは薄明領域でも王国側。
元々あそこを護る役目を与えられていたのは古代都市に属する月光騎士団の上弦騎士さんたちだから、当然位置関係的にはすぐ傍。
「―――行かなきゃ」
「わ、私も! だって……、私だって」
「ううん。マリアさんは残って欲しいんだ。だって、やる事がある」
「……っ」
「分かるね?」
「……、やっぱり」
「―――やっぱり細かい説明とか押し付ける気ですね!?」
あ、バレた。
「……前哨基地が再び魔族たちの手に堕ちたという事は、次に狙われるのが何処であるのかは自明の理……と。ハクロちゃんが危ないかもしれないんだ。安否が確認できるまで、私は帰る訳にはいかないんだ」
「「………!」」
「大丈夫。絶対に戻って来るよ」
「ルミエールさん……」
「さっきから夜更かししてゲームするのをさも格好良く正当化するのやめてもらっていいですか?」




