第11幕:うごめくものは裏の裏
「さ、さいっきん集まってばっかじゃ、ない? 一位と二位の誇りは何処行ったん、のよよさ」
「そーだそーだー」
「それ、それそれそれにっ……あなた達、戦えればいい、でしょ? 良かったら砦の旗を護る役、やらせてもらえないかなって……あ、あああ。出来れば出良いんだけどですけどね? 出来ればで」
「そーだそーだー」
「厚かましっ。あと合いの手適当過ぎでしょ」
「あ、青騎士は黙って」
「そーだそーだ」
「……娘よ。文句があるなら」
「まずは相棒の背後から出て来てからだ。黒幕など気取らずとも、私も彼も君の事は認めている」
おどおどした雰囲気と厚かましい言動、双方を併せ持つ黒髪の少女が桃色の髪の少女の背後に隠れるままたどたどしく捲し立て、それに応対するのは白銀の鎧を纏った騎士と灰の革鎧を纏った戦士風の大男。
同伴するように顔を見合わせる蒼髪の少年と長身痩躯の男。
円卓の盃、古龍戦団、亡者の千年王国。
この場に集うはまさにPLの最高峰。
一堂に会した彼等は、ある目的を共にし起死回生となる戦いに身を投じているのが現状で。
「そ、そもそも何で皆素直に聞いちゃうかなぁ、集まっちゃうかなぁ。トップギルドの誇りはないの?」
「そーだそー……、みっちゃん? 流石にブーメラン」
「わ、わたしは友達だもん! お姉さんにナデナデしてもらう間柄だもん!」
「―――友達ってか調教されてるじゃねーか」
「ちょっと前まで光属性無理とか言ってたくせにさ。せめてオフ会くらいしてからだよね、友達は」
「いいぃぃ今時おふおふふぉふ会とか」
「魔王よ」
「ひゃいぃぃ……!? き、きしおう? も、もしかして何か気を損ねるような事……」
「君だけではないぞ」
「「?」」
「私も友達だ。それも、本当の顔すら知っている仲だ」
「始まったよ。王さま、そこ張り合わなくて良いから……」
………。
「あーー、騎士王さんと聖女のお姉さんはリア友……ってコト?」
「いや。友、というのは適切な表現ではないな、黒幕殿」
白銀の騎士はレンガ造りの足場を数歩歩いたのち、振り返る。
「超えるべき壁であり、迎えに行くべき存在でもあり、だ」
「「……………」」
「ゴメンちょっとよく分かんないなー? 青騎士くん? 翻訳できる?」
「うん、王さまはあの人の事になるとちょっとおかしくなっちゃうんだ。これ、平常運転ね。リカルドさん? 話し進めていいよ、面倒だし」
「いや進めるっても……」
蒼髪の少年に水を向けられた痩躯の男は頬を掻き。
「奪われたものを取り返した―――ただそれだけの事だからな。むしろ疑問に思う所あるか? 突撃しただけだったぞ」
「けっこー犠牲出ちゃったじゃん。策士で有名なカール君がそれで良かったの~?」
「代案あるなら聞いたんだがな。その時なんて答えたか忘れたかや? ミツルさん」
「な~~い」
「あははっ、ちょっと前までパワーバランスがどうとか、接触すら殆どなかったのに。何かいつの間にか随分仲良くなったよね、僕ら」
「だ、だれが……! 青騎士は論外!」
「はいはい、それで良いよもう。―――そもそも重要拠点だからね。これからの事を考えれば、交渉をするにせよここを先に取り返してからじゃないと始まらない……。問題は、あちらもすーぐ取り返しに来たみたいって事だけど」
……現在地は、薄明領域に存在する、かつて人界側の前哨基地として機能していた砦。
魔族らの襲撃により一時陥落していたそこは、彼等の活躍により再び人界側の手に舞い戻っていたが。
果たして、それをそのまま護り続けられるかどうかが、現在の焦点。
遠距離攻撃が届かない程度の間を空けて空を飛ぶ影の影。
実際の所、暗黒騎士たちの駆るそれらは単体の脅威度としてみればさほど高くはない。
レベル的にも、今の彼等の敵ではない。
だが、それ等がいるという事自体彼等がこの場を動けない事でもあり。
「―――けど、あのくらいの戦力なら何人来ようが……だな」
「じきに人界側のNPCも戻って来るって話だし、それまで持てばいいだけでしょ? ヴァディスさん達も、今はお姉さんたちと一緒にいるみたいだからね。まー、それまでは持つでしょ」
「仮に三騎士が来た場合は、かつてない戦いになるだろうがな」
「むしろどうしていなかったんだろうな。来てたんだろ? ここが落とされた時」
三騎士。
人界で言う12聖天……或いはそれすら凌駕する、圧倒的な力を持つ魔族側のNPC。
彼等が基地に常駐し、守護に当たっているというのであれば話は変わってきただろう。
だが、今回はそうではなかった。
「或いは、あれかなー。一度半端な守りで僕らに落とさせた後、すかさず攻めて一網打尽……」
「おーー」
「成程、その発想があったな。確かに―――、来るな」
「王よ!」
「大将ーー! 敵方が来るぞ!」
「「見えている」」
彼等がその可能性を認識した時だった。
今に、偵察のみを目的として遠方を飛翔していた影が動き出す。
魔族領土の方位から進んでくる黒鎧の騎士達……その全てはNPCであり、数としては百に届くか。
砦を護る彼等の数にも及ばない程度の人数か地上を進軍し、迫りくる。
しかし、明らかに少ない……と。
攻城戦における攻め手の苦をまさに先程経験したばかりの彼等が疑問を浮かべたのも束の間。
「「!」」
「なんだぁ!? いま何か」
「ものすごい速度で飛び込んで―――、なァ!?」
行進……その最前線を悠然と歩んでいた影が大地を蹴った。
爆音、衝突音。
まるで大砲の砲弾が炸裂したような衝撃がこだまし。
「―――、はは……。うっそでしょ……!?」
「ひぃぃぃぃ……!?」
「それは予想外……、ってか想定できるかよ、こんなん」
だれもが悲鳴を上げる。
状況を認識した彼等の目の前に降り立ったのは、まさに―――。
「人界側の異訪者と戦うのは初めてであるか……。さて。情報通りであれば、貴様等は人界でも名を挙げた者たちという話だ」
2メートルには届かないまでも、細身にして長身。
黒髪に紅の瞳と、魔族としては最も一般的な特徴を持ち、しかしその存在が纏う数値で表せないオーラ、或いは圧力に彼等は圧倒される。
「―――少しは楽しめるのか?」
抜刀。
腰に下げられた武骨な長剣が抜かれると同時、男の背から竜のソレを思わせる二対の翼が広がり、また頭部からも竜種、或いはヤギのそれに近い捻じれた双角が現出する。
「おい、マジか……!」
「四祖魔公……、ジュデッカぁぁ……!? 三騎士の上司じゃん!」
「ラスボスだ! ラスボスだよね!? どう見ても私よりよっぽど魔王がいるよ!? 帰って良い!? 多分第二形態も―――」
「ちーちゃん!」
「「伏せぇぇ……!!」」
今に振るわれる、横薙ぎの一閃。
スキルを発動するでもなく放たれたそれに反応できたのは、ひとえに彼等が数多の経験を積んだ最高位のPLだったゆえ。
重ね、前衛としての勘。
事実として後方で舞い散るガラス質のそれ等は、予測すらできなかった者たちの残骸で。
「―――炎天大征!!」
「王断ッッ!!」
「六重断ち!」
長期戦こそあり得ない。
今に、彼等は同時に攻撃の動作へと入り、人界へ伝えられる最強の魔族へと武器を伸ばす。
「向かってくるか。だが悪手だ」
「ッ!」
「ぬ、ぅ……!?」
スキルが発動して僅かに数瞬。
彼等の放つ斬撃が届くより早く、大地から噴き出る黒焔がその行動を中断させる。
下手に踏み込んでいたら即座にリタイアだったろう。
「亡者よ!! 道をッ! ―――行けッ!!」
「ロランド、私が合わせるぞ!」
「ムムゥ!!」
すぐさま思考を切り替えた魔王チズルが六匹の死霊騎士を操って道をひらき、騎士王ムーンと竜人ロランドが左右から次々に斬りかかる。
「そうだ、そう来なくてはな……」
「―――ッ! なに……!」
「これはっ!?」
騎士王の攻撃を武器で受け、竜人のソレは背中の翼を伸ばし、往なす。
闘牛士がマントで攻撃を捌くように。
そのまま、最強格の異訪者たちの技を難なく捌いた魔族は一瞬に武器を振り上げ、大地から噴き出る黒の焔を纏わせる。
「どうした、異訪者―――炎獄一斬」
「「!」」
騎士王、竜人、魔王……。
三大ギルドの団長にして最強とされる三人を同時に相手取り、まだ余裕がある。
その様子に、真っ先に動いたのは騎士王だった。
「場所はまた取り返せばいい! 総員、退却!」
「王さま!?」
「―――同じ言葉を二度は言わん! 総員撤退だ!!」
一拍の遅れこそあったものの、やがて動き出す彼等。
一人、また一人と踵を返し、人界側へと砦から飛び出す。
……敵は追ってはこなかった。
そして、それを契機とするかのように脳裏に鳴り響くものを全員が感じていた。
「―――これって……?」
「基地に攻め込んじゃったのがまずかったのかなぁ!?」
「或いは……、向こうでルミさん達が何かをやらかしたという可能性だ。終わりへのカウントダウンボタンを、躊躇いなく」
「押したのか」
「やりそうで困るなー! もー!」
――――――――――――――――――――――
【World chronicle Quest】 夜明けの光
【概要】
全実績解除
すべての条件が解放されたことで、人界領域
と魔族領域にて未曽有の大戦が勃発。
最終シナリオへと進行すます。
魔族側目標拠点:皇国皇都シャレム
人界側目標拠点:暗黒領域タルタロス
相手陣営より先に終局指定都市を攻略しま
しょう。
光の導く方角へ向かい、自身の存在意義を確
立させましょう。
勢力図の詳細については戦略マップをご覧く
ださい。
【仕様】
本クエストでは、人界・魔族領域を共に攻略
可能エリアに指定。
現在の侵入可能区域は大戦略マップに表示。
条件達成でエリアが解禁される場合がありま
す。
【備考】
・開催:3/12 ~未定
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◇
「うーーむ……。参るね、この状況は」
おーちゃんさんに案内されて訪れた根源領域……その場で、私たちの知的好奇心を遮るように起こった襲撃。
立ちはだかった敵には、12聖たる海洋伯や魔族側の三騎士がいるという意味不明。
私達も必死に戦ったけど―――。
まぁ順当に敗北濃厚かなって悟っちゃったわけで。
嫌々殿になってくれたレイド君とか、相手がPLじゃないならと残ってくれたレーネ君、失うものはないと同じく最後まで戦ってくれたアミエーラさんやヨハネスさん……。
多くの犠牲を払って、私たちは逃げた。
「ルミエールさん……」
「うん、マリアさん……、皆やられちゃったんだ。殿の人たちには借りができちゃったね」
「えぇ、貸しにしておくわ」
「おかしいな。幽霊の姿が」
……。
悪夢さんも一緒に最後まで粘っててくれてた筈だけど、何故か一緒にいるのはどういう事か分からない。
他の人たちは皆キルされちゃったはずなのに。
「逆に、君はどうして生きてるの?」
「失礼ね。殿は生き残っちゃいけないっていうルールでもあるのかしら」
「それは―――、ないけど……。これからどうするの? おーちゃんさん」
「それを丁度余も考えていたんだがな」
確かに犠牲は出た。
けど、もっとも守るべき対象だった彼は無事……彼をあの場から逃がすのが目的まであったからね。
あの場で私たち皆がやられてたら、それこそ彼は一人になっちゃってたし……。
「悪い人達の中に、ポツンとエルフ一人……そんなわけにはいかないよ」
「こんな時に何の想像なんです? 貴女って人は」
と。
私たちがあの場から逃げ出せた方法だけど、混乱の中で思い出したのはイベント用転移アイテム【チェンジ・リング】
あれを使う事で、私たちは人界の領土へ瞬間移動。
同じ場所で指輪を使った者同士は同じ場所へ転移するっていうルールでもあったのか、皆して通商都市の広場に立ってたのは驚いたけど。
いかに彼等とて、ここは通商都市の内部……流石にここにまで魔の手が伸びてくることはないと思いたいんだけど……。
「ね。通商都市の領主さま……、狼侯爵の奥さんって12聖だったよね?」
「―――そういえば……淵水の雷鞭さんですね」
「まさか、牙兵団を引き連れて我々を捕縛しようって?」
明らかにテンションが落ちているヴァディスさん……否、クオンちゃんがうなだれながら呟く。
PLの生き残りは私達四人だけだ。
「絶対にないとは言い切れないと思う」
そもそも何で12聖が敵なのかも分かってない。
あの状況、いま思い返してもよく分からないよ。
「本当にどうしてこうなってるのか意味が分からないね。昨日の今日まで平和路線だと思ってたら、昨日の今日で修復不可能なくらい溝ができちゃったような気がするよ。昨日の今日」
「昨日の今日って言いたいだけです?」
そうとも言える。
海洋伯と……、翠玉の霊杖カルクニオさん。
私が知る海洋伯さまの性格とかからしても、こっち側を裏切るような人ではないし……そう考えれば、他にも予想外の人たちが実は敵方の可能性もある。
「本当に油断できないけど。共通点としては、彼等が王国所属ってコトかな」
「そうなって来ると……。でも、ハクロさんは」
ちょっと危ないかも。
彼女自身はPLだから可能性は低いけど、じゃあアルバウスさまは?
「まさか、引退した老骨さんを働かせるとは思えないけど……けど、ひとまずはおーちゃんさんだ。重要参考人だよ? 多分狙われてるだろうから、上手い事隠してあげたいんだけど……。私の下宿先で良いかな。私たちが目隠ししてればいいかな?」
「「……………」」
「隠れ終えたらもーいーよって言ってもらってさ」
「ルミちゃん。良い案だが、少し厳しい」
「言う程少しですか?」
今までの襲撃って、異訪者たちが一緒にいた事によって位置情報が割れた事によるものだったんだ。
だから、私たちがどれだけ厳重に隠れさせてあげても意味がない。
私たちが同行して彼を何処に隠したかを知ってる時点で、多分相手にも筒抜けだ。
「ずっと一緒にいるのは無理だもんね……」
「です、ね……」
「うん。それに……今に、魔族領域と人界領域の間で大きな戦いになる……。そうならないようにしたいけど、なっちゃうと思うんだ」
何とかできないものか。
「私としては、ヴァディスさん達にもこっちに残って、一緒に方々を説得して回って貰いたいんだけど」
彼等、仲間の筈の二人の事を説得するそぶりすらなかった。
或いは完全に敵方という認識だったのかもしれない。
戻っても、果たしてどうなるか。
「どうかな」
「確かにそうなのかもしれません。戻ったところで、既に席が無いかもしれないのは」
「けど、だからと言って、仲間たちを見捨てるわけにはいかない。私にも、この世界で積み上げたものがありますから。紡いだものがある……、私を必要としている人たちがいる」
「ごめんなさい、ルミエールさん、マリアさん。私は魔族領域へ帰ります」
「私達、でしょう?」
「メアさん……」
「あなたの行くところが私の向かう場所よ。その方が愉しいの」
通じ合ってるね。
やっぱり、管理者の言う通り……この世界は孤独だった人たちを出合わせるための場所なんだ。
「マッチングアプリ・オルトゥス……」
「その言い方やめなさい」
「結構真面目なロールプレイしてるんですけど、こっち。……協力してほしい事があったらメールください。何とかしますから」
「ん、その言葉が聞きたかった」
じゃあ。
「なら、おーちゃんさんは任された―――で良いかな? 本人的に」
「手立ては幾つかあるだろう。厄介になる」
「こちらもまだまだ情報を聞きたいですからね、私も賛成です」
良かった。
まぁ、その辺をどうにかするかは後で考えるとして。
「―――メア」
「……あら、珍しい。ほんの二度目くらいじゃないかしら、名前呼んだの」
かもね。
どうにも私の中では既に悪夢さんで……。
「クオンちゃん、護ってあげてね?」
「言われなくとも」
「ふ、二人共……! 目の前でされると恥ずかしいって言いますか……」
「そういうところが守りたくなってきちゃうのよーー、団長」
クオンちゃんの髪をわしゃわしゃする悪夢さん。
それが終われば、再びこちらへと向き直って。
「ルミ。次に会う時はもしかしたら敵同士かもしれないわ。少しは動けるようになったんだから、期待して良いのよね?」
「うん―――、来世に期待して欲しいな」




