第10幕:何を信じるか
根源領域オルトゥス……。
起源。
その名前で呼ばれるのは、まさにこのゲームのタイトルにもなっている言葉。
ここにきて、本当に終わりに近付いてるの?
今まで興味がなさそうにしていた人たちも、妖精王さんの言葉で幾らかの注意をあちこちに広がる遺跡群へ向けるようになって。
ルミエールさんは四方をぐるぐると忙しなく見回している。
多分ワクワクしてるんだろう―――無表情だけど。
訪れた広大な遺跡群。
彼等の反応はそれぞれで、興味深そうに見回す者、あくびをするもの、今に取り出した撮影機でところ構わず写真を撮り始めるもの。
隣のメアさんは……ずっとルミエールさんのこと見てる。
幼馴染だもんね。
けど……私の騎士なのに。
「オルトゥス、ね……。大層な名前だけどね、問題はそれに見合うだけのものがあるのかどうかだね。ね」
「あら急に辛口」
「ふ―――期待に沿えるかは分からんが案内しよう。正面の遺跡だ。……時間がない。そのままついて来てくれ、諸君」
自分たちはまさに物語の根源に近付いている。
そんな興奮が一段落する頃、妖精王さんに導かれるままに踏み入れるのは、瓦礫に満ちて朽ち果てた太古の大通りを真っ直ぐに行ったところにある、ひときわ目を惹く遺跡。
マヤとか、南米とか……教科書で見たような感じ?
ピラミッドみたいだけど、よりデザイン性のある感じの凄く大きな石の建造だ。
構成する石も、その全てが濁った水晶で出来てるみたい。
けど……今の彼の言葉は?
「妖精王さま? 時間がないっていうのはどういう事なのですか?」
「まるで、そう長くは居られないみたいに聞こえたのだわ」
「うむ、そのままだ」
「この遺跡は、ずっと隠され続けてきた。だが、今はもうそうではない。神に連なるものに見つかった事だろう。丁度いま、な」
「……いま?」
「誰かが入ったら見つかっちゃう仕組み?」
それはそうかもしれない。
けど、彼の口ぶりを聞くに、もっと具体的なモノの筈だ。
すぐに頭に浮かぶ、先のルミエールさんと妖精王さんのやり取りと合わせれば……、うん。
「私たちが来たから、か?」
「―――うむ」
理解した。
「先ほどの襲撃も、そうか」
「ご明察だ、半魔の騎士よ」
「そっちもやっぱ偶然じゃなかったんですー?」
「何でそうなるのだわ? 暗黒騎士」
「先ほど、そこのエセ聖女と妖精王が話していただろう。秘匿領域は天上の神々から隠された場所。そして、異訪者をこの世界に呼んだのは誰だ?」
「「!」」
「ディクシアさん……月の御子。そうですわ」
「そういう事……。じゃあ、最初から異訪者の存在そのものが発信機付きの探索装置みたいなものだった可能性があるわけね」
或いは、私たちが世界を広げれば広げる程に、得体のしれない存在へと情報を流す事になると。
「なーるだね。私たちが来た時にタイミングよく彼等が襲撃してきたんじゃなく、私たちがいたからこそ場所が暴かれちゃったってコトか」
「疫病神か?」
「んじゃあ、マジで俺たち人間発信機!? 何で案内するんだよじゃあ!」
確かに、それを知っていて私たちをここへ案内した理由が分からない。
暴かれる前提だった?
どうしてそこまで。
「知れた事。あくまで諸君らが自由な存在であると理解したからこそだ。毒にも薬にもなり得る、異界からの来訪者……埒外の使者、神すらも予測しきれなかった、自由を求める者たち。余は君たちに掛けることにしたのだ。―――さあ、見るが良い」
案内された遺跡建造物の内部―――今に、言葉と共に照らされる光。
それは壁画のような、原始的な遺跡だった。
存在するのは、陽、月、星を象った紋様。
地底から上を見上げ、大きく口を開ける名状しがたい形の怪物達が―――五つ。
そして下から上へ向かって昇っていく小さな光。
今までに見た遺跡とも酷似するようなそれが、天上を覆うようにして前面に描かれている。
その上で、何処も欠けていない。
「本当に破壊者の手が伸びていない場所みたいだね。―――皆、コレ見えてるもの一緒だよね?」
「……確認してみましょう」
「少し急いだ方が良いかもしれませんねぇ」
交わされる会話。
壁の壁画を指し、アレは何だ、これは何だと互いに見えているものを確認し合って。
「上が、光の神々。下が地底の神々」
「昇ってる光ってのは? 夜明けってコト?」
「ルーキス・オルトゥス……。ラテン語の夜明け。これが創世神話の様子だとすれば、既に光は昇ってるって事ですか?」
「下の怪物みたいなのって、今までの地底の大神にそっくりだよねー。スライム、オーガ、スケルトン、ゴーレム……、この悪魔みたいなのは分からないけど」
「……魔神王さんですー?」
「なのか?」
私に尋ねられても……いや、この場で尋ねるのが私かメアさんになるのは分からなくはないけどさ。
「分からん」
「私達も会った事ないもの」
けど、確かに。
「だが……、地底の水、アスラ・シャムバラ。地底の風、オグド・アマウネト。地底の土、ヨグノス……地底の闇、アリマン。そういった属性を司る神々が存在する中で、我ら魔族領域の神が火を司る神だというのはしっくりくるな」
地底の火とか、焔の眷属とか。
ジュデッカさまもそんなこと言ってたし。
私の言葉に、妖精王さんは肯定するように頷いて。
「そうだ。魔神王と呼ばれる存在も、地底の一柱……根源の焔魔。起源とは地底……、地底六柱の神々から始まったのだ」
「ほえー……」
「焔魔、悪魔? ここにきて正体見たり……ん?」
「―――六柱?」
私たち一般のPLが知る限り、地底の神は四柱。
そこに魔神王さまを加えたとしても、六には届かない。
「見えて来たか? その正体が」
「まさか、それこそが我々が求める黒幕の正体なのですね!? コメントを……カメラ目線で!」
飛ぶような勢いでズズイと妖精王さんへ詰め寄る記者さん。
その勢いにすら押されないシリアス領域を広げる妖精王さんは、神妙な面持ちで続きを紡ぐ―――カメラ目線で。
「そうだ。存在するのだよ。都合の悪い真実として当事者たる神が隠した、もう一柱が。この壁画は。そして、世界各地へ散らばるそれらは。まさに、その卑劣な神格の本性を描いたもの」
「光は地より昇る。地底の神々を裏切り、天上の神々へと味方した創世神の一柱。しかし、やがては天さえも。それこそが―――、ッ!!」
………。
話が途切れる。
彼が弾かれたように後方へ向く。
皆が「やっぱりな」、或いは「待ってました」みたいな顔で……これもまたお決まりの展開ってやつだね?
「ようやく―――ようやく根源の遺跡の位置を知る事ができましたね。流石異訪者。私が数百年かけても辿り着かなかった深奥に、こうも容易く辿り着いてしまうとは……はは。しかし、喋り過ぎですよ、妖精王」
「あ、出た」
「また、これなんだ」
「あーー、アールさんだー」
「先はどうも。はははっ」
「性懲りもなく……。よっぽどお暇なんですね? あなたって」
「顔しか褒めるところがないのだわ」
「はははッ―――、ぼろぼろな評価」
さんざん言われてるけど、実際こうしつこいとね。
金髪、蒼の瞳……或いは男版ルミエールさんみたいな雰囲気をたたえた存在。
正直私とあの人はあんまり関わった事ないけど、多分間接的に色々と妨害されたりはある筈で。
「アールさん。さては失業後の再就職に失敗しちゃったんだね? それで、原因になった異訪者に復讐する無敵の人に……話聞くよ? 私。お店も紹介できるし」
「全く斜め上の同情まで……本当に自由な方々だ」
……。
あの二人話してるとやっぱり何か似てる気がするなぁ。
これ以上増えられても困るから一人消しておかないと。
「ノクスは滅びた……、滅ぼした。そこに誤りがあってはいけない。―――メア」
「了、解」
「「……!」」
「おおー」
彼のほかに敵方の影が見えない今こそがチャンスだと、この世界で一番信頼している私の騎士と、二人同時に地面を蹴る。
「―――ほう……、これは中々」
「お前がいなくなれば、夜は終わりだろう」
「さ、大人しく―――、あら」
……!
「ぐッ!」
ワンクッションだった。
まず、私とメアさんの斬撃がアールに当たる前より早く何処かから飛んできた光の槍が眼前に突き立ち、推進力がやや鈍って―――、そこから更に飛び込んできた影が防御に動かした武器ごと私を後方へ吹き飛ばした。
目を離していないからすぐに分かる正体。
物凄い衝撃で私を斬り付けてきたのは、武骨な大剣を持った大柄な体躯の全身鎧。
甲冑の配色は私たちと同じ漆黒ではなく、まるで聖騎士を思わせるかのような金と銀に彩られた、一種の神性さを伴うもので。
またPLである事を指すアイコンが立っているけど……いや。
「まだ何人もいたの……、強いわね」
「面倒だ」
「ヴァディスさんと悪夢さんがはじき返されちゃうほどの実力者って、私たちの知ってる人たち以外にPLで居たっけ?」
「絶対にあり得ないレベル……。NPCだとしか思えないのだわッ!」
「俺らが身をもって体験したからな。PLじゃあねぇ。絶対に在り得ねえ。アイツ等……おい、レイドの旦那」
「あぁ、NPCだなー」
これは信頼なのかな?
けど、本当にそれはそう。
油断していたわけじゃない。
その上で私の意表をついて、防御を完全に間に合わせられない速度、そして吹き飛ぶほどの重さ。
普通にあり得ないレベル。
しかも。
「私はともかく君がしてやられるのは由々しき事態じゃないか、メア」
「どうかしら。……えぇ、正直結構マズいかもね、これ」
巨大な剣を持った大柄な騎士、通常より余程も長い槍を持った騎士、無手であり両手を後ろ手で組んで塞がる長身痩躯の騎士。
他にもボロボロの杖を持ち、外套を目深に被った術士風の影や、世界観に見合わない拳銃のようなものを持っている影まで。
それらはアールを護るような形で私達の前に塞がり。
「えぇ、先程の戦力では不足だと考えましたので……。一番良いのを要請しておきました。楽しんでくれると良いのですが」
「ジャンケンで決めない?」
「私鬼ごっこが良いですぅー。大人になるとちょっと機会がなくなっちゃ―――もがもが」
「黙る!」
「普通に鬼ごっこでも勝てる気がしないんですけれど? ……このステータスって」
………。
――――――――――――――――――――
【Name】
**騎士 ――――――――――
【種族】
【基礎能力】
体力:200 筋力:200
魔力:280 防御:150
魔防:150 俊敏:180
【能力適正】
白兵:EX 射撃:A 器用:A
攻魔:A 支魔:A 特魔:A
――――――――――――――――――――
明らかに只のPLが持ち得るステータスを超越してる。
たった一人の時点で、それこそ最強クラスのNPCに迫る能力値……5thの妖精王さんより圧倒的に強い。
それに、強力な鑑定阻害のスキルも。
レベル10に達してる私の鑑定スキルでも全部は覗けないってなると、重要クエストの黒幕NPCとかそのレベルの阻害力だ。
余程バレたくない何かがある……?
「何度も途中で妨害されて、余自身機嫌が悪くなってきているが……、話を続けるためにはやるしかないようだな。―――式句詠唱。唱え、森よ」
「式句詠唱! 歌え、歌え、猛き白日。荘厳なりし陽の眷星よ!」
「僕も手伝おうか! ―――魔笛演舞、乱戦の紅葉!」
妖精王が、そしてマリアさんが高純度のバフを付与。
それに合わせるようにレーネくんが斧笛を振るい、更にバフを上塗りする。
強力な強化を得たうえで、私達前衛が一度に飛び出す。
私の狙いは、さっきこっちに攻撃してきた大剣を持った騎士だ。
「おおおぉぉぉ!!」
「……!」
私と大剣騎士の武器が交わり、頭上からは銃が噴火のような火達磨を散らす。
その側方でも、メアさんが槍を持った騎士と切り結び、レイドさんが痩躯の騎士とにらみ合う。
更には地面が大きく揺れ―――遺跡に入り込んでいた樹木の根が敵を薙ぎ払うように大きくしなる。
妖精王さんが、先の戦いで見せた大自然の怒りをけしかける気なんだ。
「森よ、少しばかり力を―――、なに?」
「魔杖よ、謡え。根に光を、茎に息吹を……、全ての闇を喰らうのだ」
けど、その樹根の力は対抗するように振るわれた杖の光に動きを鈍らせていく。
これだけの強化を受けても届かないのは、単純に相手の能力値と補正値が高すぎるからだ。
明らかに一対一で勝てる相手じゃない―――、彼等一人一人がボス個体の能力。
「敵の強さがさっきの比じゃないよ!?」
「どうなってんだよ! 明らかにコイツ等―――歌姫様、もちっと超強くれや!」
「ルミエールさんみたいにこけても知りませんわよ!」
斬撃、魔法、銃撃……幾多の弾幕が飛び交う渦中。
今に、ビーンさんが纏うバフの光が太陽のような金色に煌めく。
「―――吹き飛ばせッッ“爆風火々銃錬弾”!!」
それは、私でも防御するだけじゃ一撃で吹き飛ぶかもしれない大火力のロマン砲。
火山の噴火どころか、山一つが丸ごと凝縮されて吹き飛んだかのような衝撃が広がり、金色に近い橙の光がアールを含めた複数の、後方で待機している敵へ突き進み。
「“蒼錆”」
「な……ッ!?」
「うっそオ!?」
逆方―――同じく銃を持った敵方から放たれる蒼の一撃は……水属性?
拳銃から放たれたはずが、まるで巨大な大砲……主砲の威力。
確実なのは、凄まじい威力を秘めていた筈のビーンさんの一撃を、そのスキルが完全に相殺―――どころか。
「冗談じゃねえぞ! コイツ等一人一人が12聖―――、ッ!!」
あり得ざる光景だった。
互いに情報の上ではPL同士。
その最高峰の銃士派生である男が特大のバフを受けて放った攻撃さえ、たった一撃の技にかき消され、逆に吹き飛ぶ。
単純な出力差によって、火山の噴火が海底火山の力に勝てなかった。
真正面から爆撃を喰らったビーンさんは一瞬にして消滅した。
「む―――、私が蘇生して……」
「ルミエールさん! ダメです! また経験値がなくなっちゃいますわ! あとあんな蛮族に勿体ない!」
「「えぇ……」」
結構酷いと思う。
「ちょっと酷いけど確かに……。うーむ。ところでさ。あなた」
「……………」
けど、そんなマリアさんの言葉を一理あると思ったのか。
一つ頷いていたルミエールさんが、今に何かに気付いたように目を細めて。
全てを見透かすような瞳が見据える先は……先の、銃撃を放った存在。
「―――。隣人を疑えって。ひどくないかな。……そういう事なの? おーちゃんさん」
「……………そうか。君たちは―――むむぅ!!?」
今に、銃士が再びソレを構える。
「魔砲よ―――水平を閃け、淀んだ空へ蒼穹を」
「葦よ! 世界樹の蔦よ!」
「樹木生成! 維管束ーー!! みんなー、少しだけガンバですぅ! ―――みなさん! わたしの後ろーー!」
放たれたソレを前に、妖精王さんとルイさんが同時に防御壁を展開する。
ルイさんは仲間である精霊さん達から少しずつ力を分けてもらい、数多の属性で術を補強しながら後衛の避難を誘導して。
けど、それが僅か数瞬のうちに端から砕けて。
「わぁーー!? あとよろしくですぅ!!」
「ルイちゃん(さん)!」
「姉さん―――!」
超高範囲の爆撃にも思える、マシンガンの如き蒼の薙ぎ払いが、容赦なくルイさんの肉体を吹き飛ばす、
防御の手段を持っていない私たちが、彼女の作ってくれた僅かな時間に遮蔽を探し飛ぶ。
「やはり……、魔公系ユニーク並みの威力!! そして何よりこの力……ッ! 武器の性質……! やはり貴殿は……!」
不意に叫ぶは、後方で敵へ矢を射かけながら一部始終を見ていた記者ヨハネスさん。
これは相手の正体に思い至った人から伝言を残す直前に消えていくパターン……と、そう思ってたけど。
彼は無事にその先まで言葉を紡ぎ。
「―――何故貴方が! 海洋伯カンケール殿!!」
「「!」」
……海洋伯?
「……。やはり」
「最初に見破られるのは貴方でしたね。知り合いの多さが裏目に出たようだ」
アールの言葉と共に、今に外套を脱ぎ捨てる存在―――その顔は、私も見覚えがある。
現れる、蒼髪の美青年……。
蒼穹の魔砲カンケール……シュトラント・ドラコ伯爵。
12聖天……、彼がどうして!?
「そんな!? ノクスと海洋伯は海岸都市でも敵対してた筈です! どうして……」
「スマンな、歌姫殿。これは……」
「人員不足により人界が魔族側に押される心配はありませんよ。えぇ、人界側だけではないので。戦力比で言えばトントン……どころか。ふふふっ。むしろ、人界の方がマシだ」
本当に意味が分からない。
ノクスと敵対している筈の彼がノクスに協力してて、それに他の彼等も―――。
その動きを、剣技を、技を……。
私は……。
「一体何が―――ぐくッ!!?」
「敵から目を離すな。そう何度も行ったぞ、ヴァディス」
「………!!」
強力な一撃に思わず顔を歪め―――その次の瞬間には、芯から冷たくなるような怖気を感じた。
直前の攻撃を吹き飛ばすような衝撃。
―――。
嘘だ。
そんな筈―――違う。
「く……、ぅぅ。そんな、筈……」
「団長! まってなさい、今―――」
声は遠くから。
今まさに大槍を振るう騎士を相手取っているメアさんは明らかに此方へ注意を向けられる状況じゃなく。
そうだ、例え彼女でも、その人を相手に一人じゃ……。
「これで―――」
「ぁ」
そして、私も。
今に、ビーンさんやルイさんみたいに呆気なく―――。
「ムムゥ!!? よもや、この虫けらどもは!!」
「デジャヴってやつだね。はい、送還」
……。
完全に態勢を崩して倒れ込んでいた私だけど、追撃はなかった。
今にこちらへ刃を振るおうとしていた相手の全身に群がるように飛び回るハトたちが視界を塞いだからだ。
騎士は、まるで苦い記憶を思い起こすかのように武器を振るおうとして―――しかし、瞬間には周囲の鳥は跡形もなくいなくなっている。
「……ルミエールさん」
「うん。参るね、毎度。折角力に目覚めても、私にはどうにもならない世界ばっかりらしいんだ、バディスさん」
……。
「そんな嬉しそうで楽しそうな顔しながら言われても」
「ふふ」
私にも、偶に分かる時がある。
長い付き合いの優斗君達みたいに、この人が本気で楽しんでるっていうのが分かる瞬間。
今はまさにその時らしく。
「ね、バディスさん。私にとって、君は最強の一人なんだよ?」
「……………」
「まさか、気付いちゃった程度。傷ついちゃったくらいで戦意喪失なんて言わないよね? 一矢くらいは報いてもらえると、私もちょっと嬉しいな」
「……ルミエールさん?」
「だって、気になるだろう? 理由が。未知こそ根源だ」
……!
叩かれた背中へ、彼女の掌を通して伝わってくる、これは。
「君なら出来る。行くよ、ヴァディス・クウォさん」
「―――うんっ」
「“道化神の悪戯”」
ルミエールさんの最終スキル。
彼女が教えてくれた―――このスキル、何処にも自分にしか効果がないって書いてないッ!!
―――――――――――――――
【Name】 ヴァディス・クウォ
【種族】 半魔種
【一次職】 暗黒卿(Lv.80)
【二次職】 鑑定家(Lv.11)
【職業履歴】
一次:戦士(1st) 暗黒卿(――)
二次:鑑定家(Lv.11)
【基礎能力(経験値2P)】
体力:30 筋力:75(+28+100) 魔力:60(-50)
防御:50(+23-50) 魔防:25 俊敏:100(+30)
【能力適正】
白兵:AA 射撃:AA 器用:D
攻魔:A 支魔:E 特魔:E
―――――――――――――――
魔力と防御から50ずつ差し引き、それら全てを筋力に。
計、203。
凄まじいまでもの筋力―――この瞬間の私は単純な筋力のみで既に相手の膂力を上回る。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
「……!」
差し込まれようとする大剣の護りも間に合わない。
いや、ギリギリで入れ込んできてはいるけど、完全な体勢ではないあの状態では明らかに不足だ。
「“獄・焔刃滅却”!!!」
その、一撃の威力たるや。
最早炎とか関係なく、武器の衝撃だけで敵を大きく吹き飛ばしていく。
「ぐッ……、ぬ、ぅ……ッッ!? ……ふ。流石……ッ!」
吹き飛んで、足で踏み止まろうとするも引き摺られ―――PLではあり得ない現象として、兜が砕けて消える。
正体が露わになったのは。
私が相手していた、大剣を武器とする騎士の正体は。
「それでこそだ……、ヴァディス」
「やっぱり―――――アリギエリ……!」
そこにいたのは、やはり……私の同僚。
間違いようもない、大切なこの世界での仲間。
「……。すまぬ、ヴァディス」
「これも、神の命」
「我々はもとよりこの為に存在するわけですから」
………。
……………。
次々に姿をあらわにする敵たち―――槍使いの騎士はガラティア……、それに、痩躯の騎士はエルゴ。
輝ける鎧アリギエリ・スム
無垢なる剣ガラティア・コギト
怒れる兜エルゴ・ラース
全員だ。
けど……、何で?
何で、複数の12聖と冥国三騎士がノクスの残党である男に協力してるの……!?




