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第049話 クローナの報告

 名前だけの部屋をもらった翌日、


 俺の名前は、国中へ報告されることになった。


 旧宮の公開評議室には、朝から人が集まっていた。


 王家派の兵。


 反乱に加わらなかった保守派の貴族。


 神官代表。


 市民代表。


 書記官。


 そして、拘束下のアンテリアとゼルヴァン。


 ユリアはまだ王冠をかぶっていない。


 それでも、評議室の中央へ立つと、誰も彼女をただの王女としては見なかった。


 クローナが一歩前へ出る。


「本日の審理は、最終判決ではない」


 その声はよく通った。


「黒月街で確認できる事実と、魔国中央へ送る容疑を固定するための暫定審理である」


 処刑を決める場ではない。


 赦す場でもない。


 何が起きたかを、消えない形にする場だった。


 ヴェルナが記録を提出した。


 封印鍵発行。


 帰還経路情報。


 転移陣停止命令。


 観測者との私的通信。


 停止要請を拒んだ発言。


 一つずつ、評議室の中央へ浮かぶ。


 美羽がそれを分類していく。


「アウグスト陛下殺害の直接命令は確認できません」


 市民代表の顔が険しくなる。


 美羽は止まらない。


「反乱準備への物的・制度的幇助は確認できます。帰還経路情報、封印鍵、転移陣停止命令、非常継承規則の提供」


 文字が別の欄へ移される。


「また、危険を予見した後も停止しなかった責任があります」


 アンテリアは目を伏せていた。


「事実関係を認めますか」


 クローナが問う。


 アンテリアは、長い沈黙の後でうなずいた。


「認めます」


 声は小さい。


「甥の消息と、制度防衛を、わたくしは別々のものだと思っていました。実際には、同じ取引へ絡め取られていた」


「それでも、行為は行為です」


 クローナの声は冷たい。


 けれど、怒りだけではない。


 書記官が記録する音が続く。


 市民代表が立ち上がった。


「王が死んだ。兵も、市民も死んだ。これで中央審査まで保留など、納得できるものか。処刑を求める」


 別の神官が、震える声で言った。


「しかし、神々の遊戯側に騙された被害者でもあります。甥の消息を餌にされたのであれば、減免を」


 評議室がざわめく。


 処刑。


 減免。


 どちらの声にも、俺は違和感があった。


 殺せば終わる。


 騙されたから赦せ。


 どちらも、早すぎる。


 俺はユリアを見た。


 ユリアは小さくうなずいた。


 発言していい、という合図だった。


「騙されたことは記録すべきだ」


 俺は言った。


 視線が集まる。


「それを消したら、観測者側が何をしたか隠れる。死んだ人の消息を餌にして、最初からできない取引を持ちかけた。それは残すべきだ」


 市民代表が俺を見る。


「では、罪を軽くしろと?」


「違う」


 俺は首を横に振った。


「騙されたことだけで、本人が選んだ行為まで消せない。封印鍵を渡した。経路を渡した。止められた時に止めなかった。それも残す」


 アンテリアが目を閉じた。


 ユリアが暫定処分を読み上げる。


「アンテリア・ヴォクス。最高儀礼長権限を剥奪する」


 黒い文字が刻まれる。


「ヴォクス侯爵家当主権限を停止。全記録と封印具を提出。中央合同審査まで保護拘束」


 ユリアの声は揺れなかった。


「処刑、永久追放、免罪は、中央審査まで保留する」


 アンテリアは皮肉を言わなかった。


 制度に守られてきた者が制度で裁かれる。


 そこに逃げることもできたはずだ。


 でも、彼女はただ頭を下げた。


「記録を残してください」


 小さな声だった。


「甥への思いも、わたくしが選んだ罪も、両方」


 クローナが短く答える。


「残す」


 次に、ゼルヴァンの処分が分けられた。


 暫定保護者として名を貸した責任。


 実戦指揮への関与。


 アンテリアの傀儡だったことは減免要素。


 ただし、無罪ではない。


 ゼルヴァンは何か言おうとして、結局黙った。


 クローナが中央報告を読み上げる。


 アウグスト死亡。


 ユリアの継承受諾と喪中即位予定。


 反乱の経緯。


 観測者外部介入の証拠。


 深層門の再起動。


 俺の名前が、そこで出た。


 神酒聖夜。


 人間。


 ユリアとの対契約有効。


 黒月王配候補資格あり。


 統治権なし。


 邪神系統の外部神性を持つため継続監視。


「危険人物みたいだな」


 思わず口から出た。


 美羽が俺を見る。


「危険性を隠せば、後で必ず道具にされます」


「分かってる」


「記録に残すことと、あなたを排除することは違います」


 俺は息を吐いた。


 嫌ではある。


 でも、事実だ。


 俺の中の力は危険だ。


 それを隠して英雄扱いされたら、もっと危ない。


「事実として記録してくれ」


 俺が言うと、クローナがうなずいた。


 契約共同体の立場も報告される。


 ユリアを正室とする相互承認契約。


 美羽、ここな、ラヴィニア、イリヤーナは独立した契約当事者。


 所有関係ではない。


 撤回・変更権あり。


 ヴェルナは自律記録者、深層門立会人。


 王家契約者ではない。


 一つずつ、書記官が確認し、複製へ写していく。


 クローナは最後に報告書へ署名した。


 その横顔は、ひどく疲れていた。


 それでも、手は止まらない。


「王家に都合のよい部分だけを抜き出さない」


 彼女は自分に言い聞かせるように言った。


「アウグスト陛下の失策、アンテリアの欺罔被害、聖夜殿の危険性も含める」


 ユリアが静かに見ていた。


 クローナは三つの複製を封じた。


 魔国中央へ。


 太陰外縁の各都市へ。


 黒月街の市民閲覧記録庫へ。


 俺の名前が、噂ではなく公文書として広がっていく。


 胸の奥が落ち着かなかった。


 でも、隠すよりはいい。


 アンテリアは移送される。


 彼女は俺へ赦しを求めなかった。


 俺も、別れの答えを与えなかった。


 今ここで何かを言えば、それが結論みたいになってしまう。


 彼女の裁きは、まだ終わっていない。


 審理が終わった夜、旧宮の深層門監視記録に小さな異常が出た。


 俺はその場にいなかった。


 ヴェルナだけが、記録室でそれを見つけた。


 白金の波形。


 観測者の紫黒い消費反応でも、俺の空白反応でもない。


 一瞬だけ、傷の奥から届いた光。


 ヴェルナは記録板を開き、誰にも告げずに保存した。


 俺の名前が国へ広がった夜、

 ヴェルナは、別の世界から届いた光を見つけた。



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