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お天気彼女  作者: ひだまりのねこ


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第五話 縁の下の力持ち


「むう……ずるいずるいです、(あに)さま!! 雨音と朧とイチャイチャデートしたのに私とはちょっとしか会ってくれてないじゃないですかああ!! 断固公平な対応を希望します!!」


 主人格である日和は他の人格に比べて記憶がわりと残っているらしく、私もデートがしたいと頬を膨らませている。


「それはそうだけど、一番最初に会ったのは日和だろ? それに――――雨音も朧も一年振りだったんだから」

「それは……わかってますけど……」


 日和は文句を言っているのではなく、単純にデートしたいだけなのだ。青画は口をとがらせる許嫁の耳元で囁く。   


「ふーん……じゃあ今はデートじゃないのかな?」

「はっ!? たしかに……これはもしや……お買い物デートなのではっ!?」


 青画と日和は週末のお花見の準備のため、二人で買い出しに来ていた。目的は買い物だが、二人きりのお出かけ、しかもまるで新婚さんである。


 意識をしたら急に恥ずかしくなってくる。日和は慌てて話題を変える。


「こ、今夜は何が食べたいですか?」

「うーん……そうだな、日和が食べたい――――」

「にゃあああ!? そ、それは――――」   

「日和が食べたい――――もので良いよ」

「うわあああ!! は、ハンバーグが良いなあ!!」

「あはは、了解」


 二人はたっぷり時間をかけて買い物というデートを満喫するのであった。




「市長、来週の視察の件ですが――――」

「ああ、そこに置いておいてくれ、後で目を通しておく」

「かしこまりました。それから市議会での想定問答集作成しておきました」

「ありがとう。あ……そうだ綾、週末の花見の件だが――――」

「そちらもスケジュール調整済みです。ご安心ください」

「さすが頼りになるな。この後の予定は?」

「12時から議長との会食、15時から夏祭り実行委員会との打ち合わせです」


 天河市市長、天河黒乃の秘書を務める竜ヶ崎 綾(りゅうがさき あや)は、黒乃の幼馴染で同級生、そして大の親友である。ちなみに竜ケ崎家は、高龗家の分家筋でもあり、日和と綾は従妹同士という関係だ。

 

 天河黒乃のスケジュールは多忙を極める。天河家の当主でありながら市長をこなしているのだから当然だ。実際、綾が秘書として献身的に支えているからこそなんとかなっているともいえる。なまじ能力が高く、お節介な性格のせいで昔から黒乃に振り回され続けている。


 黒乃はリーダーシップはあるのだが、大雑把な性格と思いつきで行動する傾向があり、その皺寄せは秘書である綾にすべて押し寄せてくる。市の職員たちからは影の市長と呼ぶ者も多い。 



「はあ……今日は何時に帰れるかしら……? どうでもいいけど仕事が多すぎるのよね」


 こんなはずではなかった。高い給料をもらい毎日定時で帰る優雅な秘書ライフを送るつもりだったのに――――綾は小さくため息をつく。


 残業を強いられているわけではない。定時で上がることも可能なのだが……親友が頑張っている姿を放っておけない性格が憎い。  


「……二人でやったほうが早く帰れるでしょ?」


 誰が悪いわけでもない。他でもない自分自身が支えると決めたのだから。


 

「お疲れ様です綾さん」

「っ!? 青画くん!!」


 すでにほとんどの職員が帰って市役所は静まり返っている。現れたのは、黒乃の弟青画、手に持った袋からはほんのり甘い匂いが漂ってくる。


「日和とパンケーキ焼いたので差し入れです。後、コーヒーはブラックで良かったですよね」


 毎日帰りの遅い姉を心配して迎えにくるのが日課のようになっている。守衛さんともすっかり仲良くなって、今では顔パスである。残業するとわかっている日には、こうして差し入れを持ってきてくれるのだが――――綾は歓喜に打ち震える。


「せ、青画くんの手作りパンケーキっ!? い、いくら払えば良い? 今手持ち五万しかないんだけど……足りるかなっ!?」


 食い気味に迫る綾に、青画はにこりと微笑んで首を横に振る。


「あはは、いつも姉さんがお世話になってますから、感謝の気持ちです。それにお金をいただけるようなものでもありませんから」

「何言ってるの? 黒乃のお弁当青画くんが作ってるんだよね? あんな美味しいもの食べたこと無いんだけどっ!! 半分売って欲しいって頼んだのに絶対に駄目だって言うのよ……」


 連日の激務で限界まで追い込まれている綾は、精神が弱っているのだろう。悔し涙を流して崩れ落ちる。 


「あの……もし良かったら今度から綾さんの分のお弁当も作りましょうか?」 

「はえっ!? お、お弁当……い、良いの!?」

「もちろんです。姉さんの作るついでなのでたいした手間でもないですし」

「ぜ、せひお願いするわ!! 一食いくら払えば良いかしら……」

「ああ、それは本当に大丈夫です、姉さんが迷惑かけているので……これくらいしか出来ませんが」

「もしかして……青画くんは神さまだったの?」

「いいえ、ただの人間ですよ」


 混じりけのない優しさに感極まった綾は、泣きながら青画の胸に飛び込む。


「うわあああん、ありがとう」


 泣きじゃくる綾が落ち着くまで黙って胸を貸す青画。こんなになるまで頑張っているのだ、少しでも役に立ちたいと思う。


「……ごめんね、みっともないところ見せて」

「いえ、綾さんのことは本当に尊敬してます」


(はあ……もう無理、青画くんが尊すぎる……)


 綾が献身的に黒乃を支える理由――――


 それは綾が青画を激推ししているからである。本家の日和がいなければ自分が許嫁候補だったかもしれないという未練もいまだ捨てきれていない。


「綾さんちょっと失礼します――――」

「ひうっ!?」

 

 突然顔が触れそうなほど接近し、心臓が止まりそうになる。大きな掌が、綾の額や頬、首筋に触れる。


「顔色が悪いし……血流が滞っていますね……相当疲れが溜まってるはずです」

「そ、そうかな? 言われてみれば肩が凝ってるかも……」


 ドキドキして冷静さを保てない、青画に触れられている部分が熱を帯びて焼けてしまいそうだ。


「ですよね、俺も絵を描くので肩凝るんですよ。良かったら軽くほぐしましょうか?」

「っ!? じゃ、じゃあお願い出来るかな」


 青画に肩を揉んでもらえる――――くらいに軽く考えていた綾だったが。


「肩こりをほぐすにはただ肩を揉んでも駄目なんですよ――――


 綾は知らなかったが、幼い頃から姉、大きくなってからは日和や真白のマッサージを担当してきた青画のマッサージスキルはプロ並み。イラストレーターが駄目でも普通にマッサージで食べていける腕前だったりする。

 

「どうですか? 少しは楽になったと思うんですが」

「はああああ……信じられない……こんなに身体が軽くなるとか嘘みたい……」

「それは良かった。でも、だからって無理は駄目ですからね?」

「う、うん……ありがとう」

  

 爽やかで優しい笑顔、そして――――上辺だけではない心から心配しているのが伝わる真剣な眼差し。綾は、ただボーっと親友の弟を見つめることしか出来なかった。


「じゃあ姉さんの所に行きますね」


 小さく手を振って市長室の方へ歩き出す青画。


「せ、青画くん!!」

「はい、なんですか綾さん?」


「あ、あのね……また……マッサージ頼めるかな? あ、もちろんお金払うよ」


 青画はにこりと微笑んで――――


「俺で良ければいつでも構いません、綾さんのお役に立てるなら嬉しいですから。あ、報酬は……そうですね、姉さんをこれからも支えてもらいたいです」

  



「はあ……残業してて良かった」


 綾は残業していた自分を褒める。


「んふ、パンケーキ美味しいっ!!」


 さっきまでの疲れなど忘れてしまった。やる気と活力が漲っている。このまま朝まででも頑張れそうな気がする。


「よし、青画くんのために働くぞ」   


 その頃――――市長室では黒乃が同じように気合を入れ直しているのだった。

 



「わあ……とっても良い天気ですね!!」


 週末、空は晴れ渡り絶好のお花見日和である。これ以上ないほど日和な日和は桜色の巫女服でくるくる舞い踊っている。


「お兄さま、私の桜色のワンピースはどうでしょうか?」

「うん、とても似合っている。桜の妖精みたいだよ」

「まあ……嬉しいです」


 頬を桜色に染める真白。


「青画、私はどうかな? この日のためにスーツを新調したんだが」

「似合ってるなんて言葉じゃ表現できないぐらい素敵だよ、桜の女王様だね」

「ほ、褒めすぎだ……ありがとう」


 さっきまで寝不足でダウンしていた黒乃だったが、すっかり元気になる。

 

「まったく……現金なんだから」


 浮かれている親友を横目にマイクロバスから荷物を下ろし始める綾。


「俺がやりますよ綾さん」

「青画くん、大丈夫だよこれくらい手伝わせて」

「ありがとうございます。じゃあ一緒に」


 荷物を受け渡す時に手と手が触れる。そのたびに綾の胸はときめいてしまう。


(くっ……この手は洗いたくない……けど汚いお姉さんは嫌だよね……)


 葛藤しつつも、来て良かったと噛み締める綾。


「青画くん、日和とお揃いなんだけど……どうかしら?」

「とても似合ってますよ春夏さん、まるで姉妹みたいです」

「ふふ、じゃあ……私もお嫁さんに貰ってくれる?」

「えっと……とても嬉しいんですけど……」

「あら、困らせちゃったかしら? ごめんね」

 

 赤くなって照れる青画をむぎゅっ、と抱きしめる春夏。


「ちょっ、何やってるのお母さん!? ズルい!!」

「お兄さま、今参ります!!」

「なっ!? 抜け駆けとは……やるな春夏さん」


 日和、真白、黒乃が参戦し、青画争奪戦が始まる。



「あの……どさくさに紛れて私も参加しても大丈夫ですかね深町さん」

「あはは、今更一人くらい増えても誰も気付きませんよ」


 こっそり綾も参戦する。


「ふふふ、まさに花より男子、ですねえ……」


 見上げた先には――――楽しそうに彼らを見守る春の太陽が輝いていた。


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