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お天気彼女  作者: ひだまりのねこ


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第四十八話 始祖の炎


 紅蓮天翔が空港へ着陸すると、赤い狼煙が派手に打ち上がり、滑走路には紅蓮護衛隊と焔影守がずらりと整列して青画一行を出迎える。


「むう……あの者たち全員目隠しをしている?」

「凄まじい練度だな……目隠ししているのに一糸乱れぬあの動き……」

「はい、相当訓練されています」


 感心する天河家の面々。


「うむ、焔影守は炎帝直属の影、いわばエリートなり」


 素直に褒められて悪い気はしない。胸を張る焔牙。


「焔影守は内なる炎が強すぎるために視界を遮ることで抑え込んでいるんですよ」

「なるほど、さすが鳳凰院家」

「なんか強者感あるなあ」 


 金剛の説明に納得する二人だが――――


「……カッコいいからやっているだけなんですわよね」

「……わりと透ける素材ですしね」


 実態を知る朱璃と絵里香にとっては恥ずかしくて仕方がない。


「ようこそ帝都へ!! 蒼き炎を纏いし者たちよ!!」


 ドガアアアン 派手な炎の演出とともに深紅のマントを翻して登場する男。


「れ、烈火お兄さまっ!?」

「ふふふ、久しいな私の可愛い紅蓮の宝珠よ!!」

「だからその妙な呼び方やめてって何度も言いましたわよねっ!?」

「何が妙なのだ? お前が私の宝であることは事実だろう」


「絵里香、あの人は?」

「……次兄の烈火さまです。お嬢様を溺愛しているのでご注意ください」

「妹を溺愛するのは当然では?」

「あ……何でもないです」


 相手が呼吸をするようにシスコン発言をする青画だということを失念していた絵里香。


「……で、ですが、あの方は内なる炎が強すぎて脳まで焼かれてしまっているのです」

「なるほど、治療が必要ということだな」


 会話が噛み合っているようでまったく噛み合っていない。


「烈火、客人の前だ、弁えろ」

「これは失礼しました。私は紅翼の策士にして炎環導師、焔影の頭脳である鳳凰院烈火と申します。高名なる水天主殿、蒼龍殿と拝謁賜り恐悦至極であります」


 長兄である焔牙にたしなめられ、黒乃へ最上位の礼をする烈火。


「これはご丁寧に。焔影の頭脳といえば、鳳凰院の戦略顧問にして焔影守の指揮官であると聞いた。烈火殿に会えて嬉しく思う。深淵導主にして水天主、我こそは天河家当主、天河黒乃である」


 ぐぐッ 黒乃が正面に突き出した掌を握り締めると――――焔影守が持っていた槍が砕け散る。


「なっ!? この遠距離から槍を破壊するとは……そして何という凄まじい黒炎を纏っているのだ……これが……伝説の天河家家当主の力……」


 実際は黒乃が時間を停めて自分で槍を折ったのだが。こういうのは魅せた者勝ちである。


「お初にお目にかかる、炎環導師、鳳凰院烈火殿。俺が蒼龍にして蒼刃、天河青画だ」

「ほう……貴殿が我が紅蓮の宝珠を欲する者か? 面白い、それに値するのかどうか試してやろう」

「私はお兄さまのものではありませんわよっ!? それに何を試すのです?」

「大丈夫だ朱璃、妹は宝、それを貰い受けるのだから試練は当然」

「ほう……さすが蒼龍殿、わかっているではないか。ではこれを受け取るが良い」


 烈火は、懐から古びた巻物を取り出して青画に手渡す。


「……烈火殿これは?」

「なに、鳳凰院家の者であれば誰でも暗唱できる簡単な心得だ。宝珠を手にしたいのならこのくらいはやってもらわないと示しがつかない」


(くくく……鳳凰院家の知恵袋、紅蓮の三賢ですら暗唱できない詠唱だ。せいぜい恥をかいてもらおうか)


 難しい顔で渡された巻物を読んでいる青画を見て、朱璃が駆け寄る。


「ちょっと青画、それ見せてくださいませ――――なっ!? これは――――紅蓮輪廻焔誓っ!? 烈火お兄さまっ!! これを暗唱できる人間なんて鳳凰院家にもいないじゃありませんか!!」


(ちっ……余計な真似を……)


「おや? すまないな、どうやら間違って渡してしまったようだ――――」

「問題ない、全部覚えた」

「なっ!? なんだと――――」


 あり得ない、このわずかな時間では最後まで読めたかも怪しい。


「始めて良いか?」

「あ、ああ……」


 焔牙、烈火だけでなく、紅蓮護衛隊と焔影守、朱璃、金剛、絵里香も固唾をのんで見守る。


「では参る――――紅蓮の深淵に眠りし古き不死鳥王の焔よ。時の狭間に散りし灰を集め、輪廻の環を再び廻せ。我、炎の名を継ぐ者として問う。焔は滅びを拒み、滅びは焔に抱かれ、灰は命へと還る。紅翼は天を裂き、炎環は地を照らし、焔影は影を断ち、不死鳥の心臓は永劫に脈打つ。来たれ、始祖の焔。来たれ、輪廻の火種。来たれ、紅蓮の誓約。我が声に応えよ――――紅蓮輪廻焔誓、此処に成就す。 これで良いか?」


 ぽかーん 鳳凰院家の全員が言葉を失う。


(ふん、青画の異能『万華鏡』の力だ。天河家の長い歴史でも複数の異能を持つ者はいなかった……生まれつきというよりは常軌を逸した努力の賜物……だがな)


 青画が二つの異能を持つことは黒乃しか知らない。天河家当主はそんな弟を誇らしげに見つめる。


「か、完璧だ……」


 恥をかかせるつもりが、逆にわからせられてしまった。


「ああ、それから――――これ姉さんが壊したヤツ」


 粉々に砕けた槍に青画の手が触れると青白い光と共に逆再生のように砕けた槍が元通りになる。


「壊して悪かったな、返すよ」

「あ、ありがとうございます!!」


 槍を手渡された焔影守が感激したように敬礼する。



「今のは……し、始祖の炎……!?」


 烈火ががくがく震えながら涙を流す。


「絵里香、始祖の炎って?」

「鳳凰院家の始祖不死鳥王が宿していたとされる、死をも焼き尽くし、灰から命を再び紡ぐと伝わる伝説の炎のことです。再生の炎とも言われていますが」


 鳳凰院家の中でも、伝説として語られるだけの存在。


「始祖の胸に宿っていたとされる永遠の火種……見える……お前の内に、紅蓮の輪廻が……蒼龍殿……その胸の奥に、不死鳥の心臓が脈打っているのが見える!! 貴殿は選ばれし者だったのですね!!」


 烈火はこれまでの態度を一変させ、首を垂れて恭順の意を示す。


「そうか、わかってもらえたのならそれでいい」


 話が早そうなのでまあ良いかと話に乗っかる青画であった。



「金剛さん、お兄さんはもう一人いるんでしたっけ?」

「ああ、四男の幽冥の焔、黒焔がいるけど……引きこもりだから会うのは難しいと思うよ? なんだったかな……そうそう、最近は巫みこと、とかいうVチューバーにはまってるらしいけど」

「へ、へえ……そうなんですね」


 青画としては苦笑いすることしか出来ない。

 

「ふふ、今回真白と望月だけ連れて来れば解決したんじゃないか?」

「たしかに。ちょっと鳳凰院家の将来が心配になるけど」


 天河家にとっては有難い話ではあるので不満はないが。


「はあ……もう鳳凰院家終わってますわね……」

「そんなことないぞ朱璃、俺はお前一筋だからね」

「金剛さま……シスコンは青画さまだから許されるのですよ?」


「安心するが良い不死鳥の末姫よ」

「……焔牙お兄さま、何の話ですの?」

「烈火は俺以上のクラリスガチ勢だからな」

「だから何の話ですのおおおお!!!?」


「そういえば烈火さまは?」


「青画さまを試そうなど万死に値する、無明の劫火に焼かれて死ね、灰以下のゴミが」

「あの消えるという概念が存在しないという無明の劫火……ぎゃああああっ!? あ、ありがとうございます!!」


 クラリスに燃やされて喜んでいる烈火からすっと目を逸らす絵里香。  


「まあ……これでお兄さんたちはなんとかなりそうだけど、問題はお父さんだよな?」

「はい……炎帝は正直次元が違います。お兄さま方と同じだと思えば痛い目に遭います」

「ええ、お父さまは本当に危険ですわよ……」


 朱璃や絵里香がここまで言うのだ。ごくり、気を引き締める青画。



「ところで絵里香、あの建物って……」

「はい……ご察しの通り灰燼宮です。灰月クラリスが住んでいるとされる場所ですね。炎帝の肝入りで二年前に完成した帝都の新たな観光名所です」

「……灰月クラリスに許可貰ってるのかな?」


 そもそも灰燼宮をデザインしたのは青画だが。


「おそらく無許可だと。ファンによる二次創作はグレーゾーンだからセーフだと意味不明なことを言っていましたが。灰色だけに」


 自分で言いながら少し顔を赤らめる絵里香。


「なんか……灰月クラリスがいっぱいいるんだけど?」

「はい……炎帝が鳳凰院家のメイドにクラリスコスをさせるように命じましたので……なんか本当にごめんなさい」


「お父さまは次元の違うクラリスファンなのですわ……望月を連れてゆくのは危険ですわよ?」

「そうです、結婚を認める代わりにクラリスを寄こせとか言い出すかもしれません!!」


 二人の懸念はもっともだけれど。


 青画は少し考えて――――


「大丈夫だ、炎帝はガチのクラリスファンなんだろ?」

「……あ、なるほど、そうでしたわね」

「ああ……あえて怒らせてご褒美もらおうとするかもしれませんね……」


 遠い目をする朱璃と絵里香であった。

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