第四十五話 将来の話をしよう
「無事目的を達成したようだな望月」
「はい、ご支援心より感謝いたします黒乃さま」
片膝をついて当主へ挨拶する望月。英国へ留学出来たのは、彼女の能力あってのことだが、天河家の全面的なバックアップがなければ実現は難しかった。
「灰月クラリスの配信、いつも見てますよ!!」
「真白さまの巫みこともチェックしております。もちろん裏メニューも」
手先だけとはいえ、青画の料理を見られる貴重な動画を望月が見逃すはずがないが、裏メニューは外部からアクセスできないはず……。
「ええっ!? ど、どうやって……」
「ご心配なく。私以外では見ることは出来ないと思いますので」
昔から望月には隠し事は出来ない。兄の秘蔵動画を見られて真っ赤になる真白。
「むう……望月さん、また綺麗になってる……」
日和にとって、望月は憧れの先輩であり、誰よりも青画の側にいた女性。再会できたことを喜ぶ気持ちと青画の隣を取られるのではないかという複雑な想いが入り混じっている。
「大丈夫ですよ日和さま。青画さまはいつだってちゃんと見てらっしゃいます」
誰よりも側にいたからこそわかる。本当は望月こそが複雑な想いを抱いている側なのだが、そんなことはおくびにも出さない。彼女はプロのメイドなのである。
「良かったですね綾さま」
「あら、もしかして心配してくれていたの?」
「いえ、単にさっさと告白してくれば良いのに面倒くさい人ですね、とは思っていました」
「あ、あはは……言い返せない自分が嫌になるわね」
まあ……綾でなくとも、望月がぴたりと警護している前で、青画に告白するなど出来なかっただろうけれど。
「不毛なやり取りは美容の大敵ですよ綾さま」
ストレートな物言いと塩対応が標準装備の望月。彼女は青画以外の人間に興味が無いというよりは、どう思われても良いと振り切っている。そのせいで、和気あいあいとした雰囲気とはいかないけれど、屋敷で見せるその姿は、わかりづらいのだが、たしかに普段よりも少しだけ楽しそうに見える気がしないでもない。ちなみに青画と絵里香はデートで不在である。
「なるほど、灰月クラリスの正体は天河家のメイドだったというわけですわね!!」
「違いますよ鳳凰院社長、私は天河家のメイドではなく、青画さまの専属メイドです。お間違えの無きようお願いします」
そこはこだわりがあるらしく、物凄い圧で睨みを利かせる望月。
「うっ……わ、わかりましたわ、ところでその呼び方堅苦しいですわね……これからは家族になるのですし、朱璃と呼んでくださいませ」
「わかりました朱璃」
「……いきなり呼び捨てですのねっ!?」
びくっ、動揺する朱璃。
「……なにか問題でも?」
「はあ……別に問題などなくってよ」
そういえばこういうやつだったと朱璃は初対面の頃を思い出す。絶対に敬称を使わないので、なんとか社長と呼ばせることで妥協したのだ。
「最初、朱璃が青画さまと婚約したと聞いて契約破棄&婚約破棄してやろうかと思いましたが、よく考えたら天河市に移転してくれたおかげで、ずっとここに居る大義名分が出来ました。その点だけは感謝しています」
一ミリも感情が乗っていないが、塩対応が基本の彼女が感謝の言葉を口にすること自体極めてレア。つまり本当に感謝しているのだろう。っていうか婚約破棄させるつもりだったのか……この忠犬メイド。
「ところで皆さまにお伺いしたいことがございます」
真剣な様子の望月に、何事かと皆の視線が集まる。
「青画さまと何人子作りする予定ですか?」
特大のどストレートな質問に皆固まる。返事がないので、望月は全員を見回す。視線が合った瞬間、黒乃は慌てて目を逸らそうとしたが手遅れだった。
「黒乃さまはいかがでしょうか?」
「そ、そうだな、三人くらい……?」
「話になりませんっ!!!!」
「ひぃっ!?」
バアアアアン テーブルを叩きつける望月の気迫に押されて悲鳴を上げる黒乃。
「当主なのですから、最低でも二桁はお願いします」
「い、いや……それはさすがに――――」
「出来る出来ないではないのです!! やるかやらないかです!!」
「さ、最善を尽くそう……」
なぜか怒られてしまう黒乃。
「望月、お姉さまはもう若くないのです。その役目、私に任せてください!!」
「おい真白、私はまだ若いぞ!! それに――――その台詞、春夏さんの前でも言えるのか?」
「うっ……それは……」
年齢はただの数字、春夏ならそう言いそうではあるが、さすがの真白もそんなことは口が裂けても言えない。あの人、おっとりしているけれど怖いのだ。
「私ならさっきから居るわよ?」
「うわああああっ!!?」
「ひぃいいぃいいっ!?」
背後から肩を掴まれて、悲鳴を上げる黒乃と真白。
「あはは、そんなに驚かなくてもいいのよ? でもね――――とっても傷付いたから――――真白ちゃんはシフト一番きついところにしておくわね、ついでに日和も一緒に」
「嫌ああああっ!?」
「えええっ!? なんで私までとばっちり!?」
「若さというのは――――それだけで罪なのよ」
なぜ子どもの数を聞いたのか、それは、望月の計画を実現するために必要なことだったから、らしい。
「まずは次期当主、副当主が二人、四天王が四人、八武神が八人、七賢人が七人、天河家だけで最低これだけ必要になります。それ以外に、高龗家、竜ケ崎家、鳳凰院家の御三家だけでも後継者候補がそれぞれ複数、最低でも十人は欲しいところです。ここまでで三十二人、勘違いしないでくださいね? あくまでも必要最低限です。次に、各分家筋や派閥の長、天河家の幹部の席も出来れば青画さまのお子様が就くべきでしょう、あ、海外拠点にも――――」
「望月……鳳凰院家のことまで気にかけてくれるのは有難いのだけれど、一体何をするつもりですの?」
「何って――――青画さまの穏やかな生活を守るために世界を牛耳り、裏から操る計画ですが? 強力な異能を持つ軍団ならそれが可能です」
「「「「「なるほど、それならたしかに多い方が――――」」」」」
夢のある計画に盛り上がる女子たち。
……どうしよう、なんかとんでもない話をしているんだけど!? っていうか私場違い感が凄い……とにかく存在感を消すのよホムラ!!
なんとなく同席していただけのホムラ先生。めちゃめちゃ危険な話になってきたので必死に気配を消してみた。
「――――となると、やはり最低五十人は欲しいですね……黒乃さま、真白さま、春夏さま、日和さま、綾さん、朱璃と絵里香、あとカグツチホムラ先生の八名だと考えると、一人当たり六人以上産んでいただきませんと――――」
えええっ!? なんか私の名前が入ってるんですけどおおおおっ!?
気配消してる場合じゃない、ちゃんと訂正しておかないと。
「あ、あの……私はただの居候なんですが?」
「何を仰っているんですか? カグツチホムラ先生と青画さまは何度も共同作業をなさっているではありませんか。もはや実質夫婦です」
があああんっ!! そ、そうだったのか!! い、言われてみればたしかに……裸見ちゃったし……わ、私も見せた方が良いのかな? で、でも……六人は多すぎるよね? 出来れば天河先生似の男の子が……
「ま、まあ……ミニフィギュアとかの参考になりそうですし、興味はなくもないですけど――――」
「何の話だ?」
「んひいっ!? て、天河先生!? な、ななな、なんでもないです!!」
突然現れた青画に慌てるホムラだったが――――
「青画さまとの赤ちゃんの話です」
塩メイドがそんな空気を読むはずもなく。
「ええっ!? なんでそんな話にっ!?」
一緒に帰ってきた絵里香も頬を染めて動揺する。
「絵里香も最低七人は産んでください」
「いきなり何の話っ!? っていうか、なんでいきなり呼び捨て!?」
混乱する絵里香を見かねて、青画が助け舟を出す。
「望月、さすがに七人は無理だと思うがどういう計算なんだ?」
「最低五十人必要ですので、八人で割って6.25人となりました」
「……なんで五十人なのかは置いておいて――――八人って?」
「黒乃さま、真白さま、春夏さま、日和さま、綾さま、朱璃と絵里香、あとカグツチホムラ先生の八名です」
なぜ朱璃と絵里香だけ呼び捨てなんだろうとツッコみたいが、ぐっとこらえて青画は望月の肩を抱く。
「な、なんでしょうか?」
いきなり青画に触れられて、わかりやすいくらい動揺する望月。
「おかしいな……一人足りないんだが?」
「えっ!? 私が把握していない女性が他にも……!?」
望月の諜報能力は間違いなく世界トップクラス。そんなはずないと主の目を見つめ返す。
「お前だよ――――望月」
「…………へ?」
何を言われたのかわからず、間抜けな声が出てしまう望月。
「出来ることならお前にも俺の子を産んでもらいたいって言ったんだ。駄目か……?」
「――――っ!?」
雪のように白い肌がみるみる真っ赤に染まる。
「あ……いえ、私は護衛で――――専属のメイドで――――」
「俺の幼馴染で――――守ってくれるヒーローで――――大切で大好きな女性だよ望月。これからもずっと一緒にいて欲しい」
考えないようにしていた。少しでも期待してしまったらたぶん耐えられない。だから――――可能性は最初から排除しなければならなかった。
強力な月読を維持するために、天河家の直系の血を入れることは珍しくはない。だが、先代はそれを受け入れなかったし、青画には最初から許嫁がいた。
「で、ですが……任務が……」
「移動が必要な任務は灰原に任せておけばいいさ。父親なんて頼れるうちに頼っておいた方が良い」
一生懸命言い訳を考えていた望月だったが、諦めてこくりと頷く。
「め、メイド長も必要なので……五十一人ですね、頑張ります」
真っ赤な顔で静かに気合を入れている望月、まさか一人で五十一人産むつもりじゃないよな? と不安になる青画。
「と、ところで日和」
「にゃっ!? なな、なんですか兄さま!?」
大人な話題について行けず、ぽわぽわしていたところに突然話を振られて、挙動不審になる日和。
「お前と雨音と朧が同時に妊娠したらどうなるんだろうな?」
ある意味当然の疑問ではあるのだが――――
「そ、そんなの知りませんっ!? あ、兄さまのケダモノおおおおお!!」
初心な日和にする質問ではなかったようである。
少なくとも今はまだ。




