第四十一話 プロ意識
あれは――――出来心だったんです。
少し前のこと。私は天河先生から依頼された四季神楽巫女シリーズを完成させるため、情報収集をしていました。
もちろん原画は天河先生からいただいていましたが、架空の存在ならともかく、やはりリアルなモデルと実際に会えるのであれば、その方が段違いに解像度が上がる。そこは妥協できない私のこだわり。
日和ちゃんはほぼ毎日会えるし、朧ちゃんは最初から協力関係にあるので問題ない。最大の障壁は雨音ちゃんと響ちゃん。響ちゃんは滅多に出現しないのでまずは雨音ちゃんをじっくり取材したいのですが……。
えっ? 全員同一人物なんだから原型に違いはないんじゃないかって?
私も最初はそう思っていたんですけどね、彼女たち全員、瞳や髪の色だけじゃなくて体型も違うんですよ。たとえば胸のサイズも違うんです。信じられませんけど事実そうなのだから仕方がない。だから完全に別人なので個別にデータが必要になる。まあ……そういう意味で、天河先生の原画の精度がヤバいんですけどね……知れば知るほど完璧すぎる。いかに許嫁だからってあそこまで全身の隅々まで理解しているって――――想像しただけで赤面ものです。
すみません、話が横道に逸れてしまいました。
雨音ちゃんの話ですよね。彼女は雨の日にしか会えないので、なかなかタイミングが無くて、しかも彼女基本外出しないので接触する機会がない。
しかし――――今日は彼女お屋敷にお泊りしているので、千載一遇のチャンスなのです。
「おはよう雨音ちゃん」
びくっ 遠くから声をかけただけで激しく警戒してますね。まあ……直接話したことないから当たり前か。私もコミュ強じゃないから結構しんどい。
「……おはようございます」
それでも逃げずにいてくれるんですよね。優しくて良い子です。
「あのさ、良かったら私の部屋に来ない?」
「……嫌です」
だよねーよく知らない人の部屋に行くとか嫌だよね……っていうか私誘うの下手かっ!!
「そ、そっか、じゃあ雨音ちゃんの部屋行っても良いかな?」
「……嫌です」
ですよねーなんか怖いもんね、何されるかわからないし。ただでさえ私って少し怪しい感じだし、ジャージだし。
「もう行ってもいいですか? 読みたい本あるので……」
「本好きなんだ!! 何読むの?」
「……教える必要が?」
ないよねー仲良くもないほぼ他人にそんなこと教える義理も必要性もないよね。
「……失礼します」
「ま、待って!!」
駄目だ、この機会を逃したら次はいつになるかわからない。
「……まだ何か?」
まずい……明らかに少し不機嫌になってる。
「……あの、実はお願いしたいことがありまして」
「……はあ……なんでしょうか?」
それでもちゃんと聞いてくれる雨音ちゃんマジ天使。
「えっと……全身を隅々まで調べたいんですけど」
「……さようなら」
しまったあああ!! いや、間違ったことは言ってないんですけど、言い方が間違っている気がする。なんかゴミを見る目をされた気がする。
駄目、もうこれしかない。
「て、天河先生!!」
「……え?」
おお!! 物凄く食い付いた!! 天河先生すごい!!
「実は天河先生から頼まれてまして……」
「え? 先輩から?」
可愛いいいいい、頬を染めて照れてるのヤバい。
「そうなんです。雨音ちゃんのサイズとか知りたいんです」
「そ、そうなんですね……もう……先輩ったら……言ってくれれば良いのに……」
なんという信頼感……チョロ過ぎて心配になっちゃいます。っていうか天河先生、なんか利用した感じになってごめんなさい。
「じゃあ……私の部屋……来ますか?」
う、うわああ……まずい、なんか変な気分になりそう……なんだこの可愛い生き物。
「な、なるほど……私のフィギュアを作るんですね……」
「あ、安心してね、天河先生が個人的に楽しむためのものだから!!」
「えっ!? そ、そうなんですね……ふふ……なんか照れちゃいますね」
なんか間違っているような気もするけど、嬉しそうだから大丈夫ですよね?
早速色々調べさせてもらいましょう。
「お疲れ様でした。これで完璧なものが造れます」
はわわ……なんというスタイルの良さ……肌とか超綺麗だし……髪もツヤサラ。フィギュアにするハードル高いなあ……。
「あの……ホムラ先生」
「はい、なんでしょうか?」
「……先輩のフィギュアとか造れたりしますか?」
ピシャーンッ!!!!! 全身が雷に貫かれたような衝撃が走った。
私、基本女の子専門だけど……たしかに天河先生のフィギュア……良いっ!!
なぜ気付かなかった!?
「……もちろん造れますよ、天才ですから」
うおおおおお……造りたい!! 造型師としての血が騒ぐ!!
「神……と呼んでも良いですか?」
「ふふ……それは完成してからにしてください」
こうして天河先生のフィギュア化計画が密かに始まった。
はずだったのだが――――
「ホムラ先生? 大丈夫ですか? ずいぶんお疲れのようですけど」
「あはは……ここ数日、ほとんど寝ていないので……」
なぜか天河先生のフィギュア化計画が、女性陣に共有されていて、真白ちゃんに資料として天河先生の動画を三日三晩見させられる羽目に……いやまあ、眼福だったんで良いんですけどね、興奮して眠れなかっただけなので。
「仕事だからやめろとは言いませんけど、身体壊したら元も子もないですからね。ほら、フラフラじゃないですか」
「ごめんなさい、気を付けます」
偶然よろけた風を装って天河先生に寄りかかる。目的は動画ではわからなかった部分を直接確認する必要があるから。
「少し仮眠した方が良いですよ、部屋まで運びます」
「お、お姫さま抱っこはさすがに恥ずかしいので……おんぶしてもらっても?」
「はい、もちろん構いませんよ」
これで自然に筋肉や体つきを確認出来る――――
って、天河先生の身体凄い~っ!!!! ナニコレ芸術品つ!?
はあああ……なんかずっとこうしていたい……ここで暮らしたい……。
「ホムラ先生、着きましたよ、って寝ちゃったんですね」
背負われて寝てしまったホムラを起こさないようにそのままベッドに横になり、そっと降ろそうとする青画だったが――――
「うーん……天河先生……ここどうなっているんですか……」
しがみついて離れない。
「あはは……一体どんな夢見てるのかな……仕方ない、俺も少し仮眠するか……」
作業明けで疲れていた青画もそのまま目を閉じるのであった。
(え……? これ……どういう状況?)
なぜか天河先生とベッドで一緒に寝ているんですけどっ!?
……よくわからないけど、これは絶好のチャンス!!
け、決して……やましい気持ちとか……そういうんじゃない……ですからね?
あくまで……フィギュアのため……そう……完璧なフィギュアのため……なんですから。
「……ホムラ先生、また寝てないんですか? 駄目ですよ」
「っ!? て、天河先生っ!? え、えっと……その……ちょっと眠れなくて……」
駄目だ……あの日以来、まともに顔が見れない。
「良かったら添い寝して子守唄しましょうか? 俺、そういうの慣れてるんで」
「ナニ言ってるんですかっ!? そんなのかえって眠れなくなりますって!?」
本当はめちゃめちゃ興味があるというか……やってもらいたい気もしますけど!!
「そうですか? まあ……いつでも気軽に言ってくださいね?」
「あ……それじゃあ一つお願いしたいことが……」
「なんですか? 俺に出来ることなら」
「実は今度男性のフィギュアを作るんですけど、私、女性キャラが専門なんですよ、それで……男性の身体の構造を知りたいので……モデルになってもらえないかと……」
やはり完璧さを追求するならこれしかない。天河先生のフィギュア化計画には失敗も妥協も許されない。
「なんだ、そんなことなら喜んで協力しますよ」
「ほ、本当ですかっ!?」
「はい」
さすがプロフェッショナル、同じクリエイターとして尊敬しますよ天河先生!!
(……え? え? どうしよう……天河先生のプロ意識が高すぎるんですけど……)
私の部屋に――――一糸まとわぬ天河先生が立っている。
今更恥ずかしいとか言えないし……正直めちゃめちゃ助かるんですけど……
こんなの……私が耐えられませんよおおおおお!!!
追い詰められて魂の叫びを上げるホムラであった。




