第二十三話 海水浴の前に
「お待たせ」
水着に着替えた青画が姿を現すと――――女性陣全員が固まった。
(あ、兄さま……素敵)
(青画……その引き締まった身体、いつ見ても最高だ)
(お兄さま……ああ、その胸に顔を埋めたいです)
(せ、青画くんって……こんなに凄い身体してたっけ!?)
(と、殿方の裸体……生で見るの初めてですわ……す、凄い)
(あ……ああ……無駄のない引き締まった筋肉……ヤバいです)
(あら……素敵!! ぎゅってしてくれないかしら)
青画は家事全般何でもこなす上に、イラストレーターという職業柄、肉体派という印象はないが、実は古武術から合気道までこなし、しかも『夜叉神』という肉体強化系の異能を持つバリバリの武闘派だったりする。
その鍛え上げられた肉体は野生の肉食獣のように無駄一つなく、その美しさは、もはや芸術の域まで達している。毎日見慣れている黒乃や真白はともかく、男性耐性の無い、綾や朱璃、絵里香にとっては致死性の毒でしかないわけで――――近くに来ただけで悲鳴を上げて赤面する彼女たちに青画も若干困惑気味。
「えっと……気になるなら上着着ようか?」
「「「「「「「それは駄目」」」」」」」
どうすればいいんだ? 珍しく悩む青画であった。
ところで夏の海といえば、日焼け止めが必須である、が――――
「常春の掌で最高の状態に整えてから――――常盤の掌でその状態を固定すれば……日焼け止めなど塗らなくとも肌や髪を完璧なコンディションに保てる」
青画の説明に女性陣から歓声が沸き上がる。日焼けや潮風の影響を気にせず思う存分海で遊べるのだ、これは嬉しいに決まっている。
「ただし――――そのためには俺が全身に触れる必要があるのがネックだ。なので――――よく考えてから決めてくれ」
青画はそう言うが……一体誰がそんなことで断ると思っているのだろうか?
全員が即OKし、まずは手本となるべく黒乃と真白から施術が始まった。
(勢いでOKしてしまったけど……青画くんに全身触れられるとか――――無理かも)
綾は、順番を待つ間、緊張しすぎて気分が悪くなっていた。
「綾さん、お待たせ」
「あ、うん……よろしくね」
よく考えれば、互いに水着というこの状況、もはや裸同然じゃないだろうか? 綾は動揺しまくるが、年上のお姉さんとして余裕を見せたいという思いもある。
「楽にしていてくださいね」
青画に触れられるのはもちろん初めてではない。全身マッサージをしてもらったこともあるし、キスだってした。常春の掌で髪や顔を整えてもらったこともある。
(よく考えたら海と水着いう非日常的な状況が冷静さを失わせているのね……そうよ今更緊張する要素なんてないじゃない)
「水着外しますね」
「うん……って、ええっ!?」
「言いましたよね? 全身満遍なく触れる必要があるんです」
こういう時、真面目で几帳面な職人気質の青画は容赦がない。
「ちょ、ちょっと待って――――」
「お疲れ様でした」
「……青画くん……お嫁に貰ってね」
「はい!!」
(待って、待って、待って……ど、どうしましょう……)
朱璃は綾の様子を見てパニックになっていた。まさか……あそこまで徹底的にやるなんて聞いてない。たしかにシャワー室で抱き合ったことはあるが、あの時は勢いというか極限の状態で身体が勝手に動いただけで、後で冷静になってから死ぬほど恥ずかしがった朱璃である。
「朱璃、お待たせ」
「ひぃっ!? も、もう順番ですの!?」
「どうした? 無理そうなら止めるか?」
嫌ではない、むしろ触って欲しい。だが、恥ずかしくて死ぬ。
「……お、お願いしますわ」
だが、鳳凰院家の誇りと欲望が羞恥心を上回った。
(落ち着くのよ朱璃、これはあくまで加護、卑猥でも破廉恥な行為でもないんですから――――)
必死に言い聞かせる朱璃だったが――――
――――無理だった。
「……責任とってくださいまし」
「ん? わかった」
(はあ……はあ……なぜ私は断れなかったのでしょう……無理、無理いいいいいっ!?)
これならいっそ最初にやってもらったほうが良かった。絵里香はこれから行われるであろう行為のイメージトレーニングをし過ぎておかしくなっていた。
「お待たせ絵里香」
「はっ、はぃぃぃぃぃぃ!?」
びくうっ、飛び上がるほど驚く絵里香。
「なんでそんなに緊張しているんだ? 触られるのは初めてじゃないだろ」
「そ、それとこれとは話が別ですっ!!」
ふむ、青画は少し考えてから――――
「はにゃあっ!?」
絵里香を抱きしめて頭を撫で始める。
「姉さんや、真白、日和が落ち込んだり緊張している時――――こうやると落ち着くらしいんだ、どうかな?」
完璧超人の青画だが、こういう部分は若干天然である。着衣と水着では状況が違い過ぎることに気付いていない。だが――――
(はああああああっ、これが落ち着くわけ――――あれ? なんだか落ち着きますね……)
加護の力もあって精神も整えられ、絵里香は不思議とリラックス――――
「せっかくだから、このままやってしまおう」
密着したままの加護、普通に触れられるよりも結果的に数段階ハードルが上がってしまい――――
(無理っ、無~理ぃいいいい)
「……青画さま、ここまでしたんです……一生養ってもらいますから」
「え? あ、ああ……?」
気のせいだろうか? なんだか大事になっている気がしないでもない。こんなことなら普通に日焼け止めを塗った方が良かったのかもしれないと青画は考えるが、誰も同意してくれはしないだろう。
「青画くん、待ちくたびれたわ」
「お待たせしました――――って、なんで全裸なんですかっ!?」
全裸で準備万端の春夏にさすがの青画も目のやり場に困る。
「だって……どうせ脱がすんでしょ? なら最初から脱いでいた方が……あっ!! ごめんね、男の子だもん自分で脱がしたかったわよね、気が利かなかったわ」
「わざわざ着ないで大丈夫ですからっ、そのままでいいですからっ!?」
「うふふ、じゃあ……お願いね」
加護によって最高のコンディションに整えられるというのは、めちゃめちゃ気持ちが良い。どんなマッサージやエステも敵わないほどの至高の体験だ。そもそも青画はマッサージの腕もプロ級である。
「黒乃……もしかして、毎日こんな良い思いしてるの?」
「綾、何言ってるんだ、そんなわけないだろう」
「そりゃそうね、青画くんだって忙しいんだし――――」
「せいぜい週六日くらいだ」
「ほとんど毎日じゃんっ!?」
「ふふ、私は週七日ですよ綾さん」
真白が勝ち誇ったように胸を張る。
「くっ、だからそんなに奇麗なのね……でも、これからは私も……ふふっ」
一緒に暮らすようになれば毎日……想像するだけで幸せな気持ちになる。
「最高の料理に最高のエステ……もしかして青画って最高じゃありませんこと?」
「今更何を言っているんですかお嬢さま、青画さまは世界の宝ですよ!!」
朱璃と絵里香も青画と共に生きられる喜びを再認識する。
「ん? そういえば日和の姿が見えないな?」
「ふふふ、日和なら朧になった瞬間、水着姿に耐えきれなくなって部屋に籠ってるわよ? 今、青画くんが呼びに行ってるから大丈夫だと思うけどね」
「朧、せっかく海に来たんだ、一緒に遊ばないか?」
「くっ、日和のやつ、ビキニとかあり得ないんだけど」
肌を晒すことが苦手な朧だ、ビキニなんて無理である。
「とても似合ってるし、俺はずっと見ていたいけど」
「そ、そう? ま、まあ……青画になら見られても……良いけど、やっぱりビキニで外に出るのは無理」
わりと人見知りな朧、青画だけならともかく、他の人は厳しい。
「そう思って朧用の水着を用意してある」
青画が用意したのは、スモーキーブルーのレースアップ・タンキニ(シースルーカーディガン付き)である。露出を嫌がる朧のために、上着とビキニがセットになった、露出の少ない大人しい水着をチョイス。それでいてトップスの胸元がレースアップになっており、彼女の豊かな胸元がキュッと強調される青画好みのデザインとなっている。長袖カーディガンを羽織れば徹底的にガードされるので、これなら朧も安心。
「……か、可愛いじゃない。まあ……せっかく用意してくれたんだから着てあげても良いわよ」
どうやら一目見て気に入ったらしい。青画はにこりと微笑むと、朧のビキニを脱がせ始める。
「ちょ、ちょっと、いきなり何してんのよ変態っ!?」
「勘違いするな、全身に加護を施すだけだから」
「な、なんだ……びっくりした――――って、そんな言葉で誤魔化されるわけないでしょ!?」
「朧、お前の綺麗な肌が日焼けして傷付くなんて俺は耐えられない」
「……そ、それもそうね……ちゃ、ちゃんと手抜かないでやりなさいよ?」
ぷしゅう 全身真っ赤になる朧。
「大変だ……もう日焼けして真っ赤に――――」
「違うわよっ、馬鹿あああっ!!」
何はともあれ全員準備万端である。




