第二十二話 プライベートビーチ
夏之神楽も無事成功し、本格的な夏が――――
いや、暑さはとっくにやってきている。夏の女神は生命を司る存在であって、実は気温とは無関係、なのだが人々がそれを知るはずもなく。
盆地である天河市は、夏がめちゃめちゃ暑い。
「久しぶりに過ごすこの街の夏はやっぱり暑いな……」
東京の暑さとは少し質が違う。とはいえ、基本は空調のある室内での作業なので、外にさえ出なければどうということもない。ここ数日、青画は屋敷にこもってイラストレーターとしての仕事に集中していた。もちろん専属契約したフェニックス・ライブ関連の仕事である。
「ん? 綾さんから……珍しいな」
「ごめんね~お仕事の邪魔じゃなかったかな?」
「いえ、気分転換したかったので丁度良かったです」
綾から呼び出されてやってきたのは、ショッピングモールの水着売り場。
「ほら、週末プライベートビーチ行くでしょ? なんかね、皆、新しい水着を買ったらしいの。だから私も新しい水着買おうと思ったんだけど……どうせなら青画くんに選んでもらおうかなって……こ、婚約者だし?」
スーツ姿ではない綾は可憐そのもので、通りがかりに見惚れて振り返る人が続出している。本人は意識していないが、青画の前で見せる照れた感じが彼女の魅力を兵器級に高めているのだ。
「わかりました、そういうことなら全力で綾さんの水着を選びます」
「青画、私たちの水着も選んでくださいね」
「ええっ!? お嬢さま、私もですか!?」
「黒沼は嫌ですの?」
「あ、いえ……決して嫌というわけでは……」
「では頼みましたわ」
二人きりでお買い物出来ると思っていた綾だったが、二人の存在を忘れていた。まあ……仕方ないかと諦めて水着売り場へ突入する。
「綾さんはスタイルが良いし、肌がとても白いから、お仕着せのフリルよりシルエットが綺麗な方が映えると思います」
青画が選んだのは、ナイトブルーのハイウエスト・モノキニ。ワンピースタイプでありながら、ウエストや背中が上品に大胆にカットされているデザイン。露出度はビキニより低いはずなのに、スーツの下に隠されていたメリハリのある大人のボディラインが完璧に強調される。
「こ、これ、後ろから見たらほとんど紐じゃない……っ!?」
赤面する綾だったが――――
「すごく綺麗ですよ綾さん」
「……こ、これにしようかな」
青画の真っすぐで熱い視線にノックアウトされる。
「青画、次は私ですわよ」
「朱璃は、華やかで太陽の光が一番似合う人だから、ビーチで誰よりも輝くビキニがいい」
青画が選んだのは、メタリックホワイトのホルターネック・ビキニ。首の後ろで紐を結ぶ、胸元が美しく開いた王道のインポート風水着だ。シンプルながらも洗練された都会的なデザインが朱璃の魅力を最大限に引き出している。
「あ、あの……私、実はビキニが初めてなんですの……変……じゃないかしら?」
「まったく変じゃないけど……あまりに素敵すぎて変になりそうだ」
「ま、まあ……プライベートビーチなら良いですわよ……着て差し上げても」
朱璃は、赤面震え声で視線を逸らす。
「よ、よろしくお願いします」
最後は絵里香。
「絵里香はいつも黒いスーツで自分を隠してるから、海に映える淡い色がいい。それに、実はすごくスタイルが良いのを知ってるから」
「ちょ、青画さまっ!?」
ぼふんっ 青画との甘い朝を思い出して耳まで真っ赤になる絵里香。
青画が選んだのは、ラベンダーのシアーフレア・ビキニ。スカート風のボトムスや、肩周りに透け感のあるフリルがあしらわれた、一見すると清楚なお嬢様風ビキニだ。
「こ、これ……大胆過ぎませんか!?」
「うん……実際に着ると思ったより刺激が強いな……」
顔を赤らめ視線を逸らす青画。
「……これにします」
青画の反応を見て、ひそかにガッツポーズする絵里香であった。
「お買い上げありがとうございます!!」
皆、大満足の水着選びだったが――――
「あの……お客様――――」
「はい、何でしょうか?」
「ぜひ、私の水着も選んでいただけないでしょうか?」
水着売り場の店員さんが、頬を赤らめておねだりしてくる。
「「「駄目よ(ですわ)(です)!!」」」
水着は違えど、息はピッタリな三人であった。
天河家が保有するプライベートビーチは、立ち入りが制限されているエリアにあり、道が存在しないので現地へはクルーザーで海側から入るしかない。
「これは……すごいですわね。鳳凰院家の別荘と比較しても遜色ないですわ」
「まさか……こんな本格的なプライベートビーチだとは……」
ここで過ごすのは毎年の恒例なのだが、初めて参加する朱璃と絵里香はその豪華さに驚く。
完璧に整備された清潔な砂浜、高級リゾートを思わせる別荘には、使用人たちが整列して出迎える。
「情報によれば、綾、朱璃、絵里香の三人は青画に水着を選んでもらったらしい……」
「くっ、サプライズ計画が裏目に出ましたね……羨ましいです」
「だ、大丈夫だよ、私たちの魅力で逆転するんだから!!」
更衣室で気合を入れるのは、黒乃、真白、日和の三人。直接選んでもらうというご褒美を捨ててまで選んだサプライズだ。並々ならぬ熱い意思を感じる。
「準備は良いな? ではいざ出陣っ!!」
黒乃を先陣に撃って出る三人組。
「青画っ!! いざ尋常に勝負!!」
「……え? 勝負って――――ね、姉さん!?」
黒乃の水着は、アッシュグレーのバックレースアップ・ワンピース。フロントは露出を抑えたモードでエレガントなカッティング。しかし、振り返ると背中が腰の近くまで大胆に開き、細い紐がレースアップ(編み上げ)されている大人の色気全開のデザインだ。
「ど、どうだ青画?」
「綺麗だ……姉さん……本当に」
思った以上に、素直に見惚れる青画に、黒乃は盛大に赤面する羽目になる。
「そ、そうか……お前は好きなだけ見ていいんだからな」
耐えきれず足早にその場を去ってゆく黒乃。
「次は私です!! 覚悟はいいですかお兄さま?」
真白の選んだ水着は、ピュアホワイトのパフスリーブ・バックフリルワンピース。その名を体現するような純白。胸元はスクエアネックで清楚に見せつつ、袖がシースルーのパフスリーブになっており、お兄さま好みの「清楚な令嬢感」を完璧に演出した計算高いデザインとなっている。
「どうですかお兄――――」
「か、可愛い!! 可愛いよ真白っ!!」
すごい食い付きで褒めまくる青画。
「え!? あ……あの……その……」
真白は兄の称賛に耐えきれず、 ぷしゅう オーバーヒートする。
「ふふん、本命は最後に登場するものだよ!!」
日和が選んだ水着は、ひまわりイエローのシャーリング・フリルビキニ。夏の青空に最高に映える、鮮やかなビタミンカラー。胸元に細かなシャーリングと控えめなフリルがあしらわれており、健康的でハツラツとした、圧倒的な「ヒロイン感」を放つデザインだ。
「兄さまー! どう? 似合うかなっ!」
ワンコのように全力で飛びついてくる日和。おひさまの香りと、健康的ながらも確実に女の子として成長している瑞々しいボディの感触。
「……日和、日々成長しているんだな」
赤面して狼狽える青画。
「え? あ……えっと……あ、あはは……ちょっと大胆過ぎたかな……」
「いや、最高に似合ってる。ずっと眺めていたいし他の誰にも見せたくない」
かあああぁ 日和の全身が赤く染まって――――
「じゃ、じゃあ、また後でね~!!」
逃げるように走り去る日和であった。
「一体なんだったんだ……」
呆然と見送る青画の背中に――――むにゅん 柔らかい感触が――――
「青画くん、私の水着姿も見て~」
「は、春夏さんっ!?」
春夏の選んだ水着は、オニキスブラックの、超ストリング・マイクロビキニ(パレオ付き)。極限まで布地を削ぎ落とした、紐で繋がれただけの、大人の成熟したボディラインをこれでもかと主張するアブナイ水着。
一応、腰にはシースルーのパレオを巻いているが、透けているので全く隠せていない。
そのあまりの破壊力に青画くんは一瞬でフリーズする。
「あら……そんな反応してくれるなんて……嬉しいわ」
そんな状態でさらに密着してくるのだからたまらない。
『日焼け止め……隅々まで丁寧に塗ってくれるかしら?』
息を吹きかけながら耳元で囁かれ――――
「お、俺も着替えてきますねっ!!」
逃げるように更衣室へ向かう青画であった。




