26.通達
各本丸では操作パネルが一切作動しないまま、わけも分からず不安なときを過ごしていた。どの本丸の刀剣男士たちも、それぞれの主を守るために異変に備えていた。
そこへ短い通知音が鳴り、電信が届いた。
各本丸のモニターには、それまでの電信とは違い、暗号の解読過程がないまま鮮明な映像でクダ屋が現れた。
「二度に渡る大侵寇は終わった。そして、時の政府は時間遡行軍でも検非違使でもない者たちに制圧された。制圧者は各本丸に契約の更改を求めている。送った文書を確認し、どのように対応するか各々の本丸で協議せよ」
クダ屋の音声は雑音まじりではなく清明だったが、どの本丸でも事態を飲み込むまでに時間がかかった。
届いた文書の内容が内容なだけに、真偽を疑う審神者もいたが、こんのすけが
「時の政府AIプログラムはクーデターによって大きく変更されました。書き換えたデータはすでに各本丸に転送済みです。プログラム書き換えに起因すると考えられる不具合は私こんのすけに直接言うか、コミュニティ掲示板への書き込みをお願いします。一本丸が単独で時の政府を制圧していますので、SNSへの書き込みでは不具合報告を把握しきれません」
と言うので、信じるしかなかった。
文書の内容は下記の通りである。
・とある本丸がクーデターを起こして時の政府を制圧した。
・時間遡行軍と検非違使は、破壊された刀剣男士を素材にして時の政府が作り出していた。クーデターでそれを止めさせ、時の政府の中枢であるAIのプログラムを書き換えた。
・歴史修正主義者や第三勢力は時の政府が構築した虚像である。時の政府は刀剣男士を際限なく戦わせるために、時間遡行軍と検非違使という存在意義を作っていた。
・時空転移システムは破壊したので各時代の記憶(合戦場)への出陣や遠征は不可能になった。時間遡行軍や検非違使も過去に行けない。
・時間遡行軍や検非違使を無限に生み出す円環システムは解消したが、これまでに生まれてしまった遡行軍や検非違使はまだ残っている。
・今後、時の政府AIは、各時代の記憶に代わり、歴史に偽装した罠『偽史』を設置。その罠に時間遡行軍と検非違使を誘い込んで迎え撃ち、敵に成り果てた刀剣男士を救済する戦いに方針を変換した。まれに救済に成功すると、敵に取り込まれていた者が刀剣男士として顕現する。救済した刀剣男士を刀解するか錬結するか、あるいは戦力として置くかは、各本丸の判断に委ねる。時間遡行軍と検非違使の浄化救済のためになるべく多くの本丸の協力を願いたい。
・今後の遠征は偽史の整備と保守を主とする。合戦場と同じく遠征先の名称や時代、獲得資源、報酬、所要時間に変更はない。
・すべての刀剣男士は、本丸に後継者のいない状態で審神者が死んだ場合は顕現を解き、そのまま解放されるようにプログラムを更改した。これは、審神者の死後、主を失った刀剣男士が本丸に取り残されないようにするための措置である。また、どの刀剣男士も時を遡ってその本丸での顕現時に戻ることは二度とない。
・この戦いをいつまで続けるのか、いつどのように本丸をたたむのかは、各本丸の審神者と刀剣男士で協議し決定すること。申請すればいつでも本丸を閉じて所属する刀剣男士を全員解放することができる。
・異議のある審神者はいつでも退去してよい。その審神者が死ぬまでの間、刀剣男士たちが本丸に残り生活を続けることは認める。
・浄化救済が完遂し最後の本丸が閉じるまで時の政府AIは機能を維持するが、その後はプログラムにより自動崩壊する。
・文書の最後に表示されている確認ボタンを押せば、操作パネルと本丸の機能は回復する。
つまり、任務はほぼこれまで通りである。
出陣先が「記憶」から「偽史」に変わり、戦う意味が歴史を守ることから敵の浄化救済に替わり、無限が有限になっただけ。とは言え、時間遡行軍と検非違使の残党はまだ数多く残っている。すぐには終わらないだろう。
それぞれの本丸で審神者が確認ボタンを押すと、映像のクダ屋は目元を覆う仮面を外した。
「狐ヶ崎為次。時の政府での俺の役目は終わった。以降はあらためて、それぞれの本丸にて」
こうして各本丸は新しい刀剣男士を迎えることになった。




