25.幕引き
加州清光と三日月宗近は本丸に戻ると、全員が集まった広間ですべてを報告した。
円環の記憶も、時の政府の内部で何が起きたかも話したが、皆は納得したようすで冷静に受け止めて聞いていた。加州清光と三日月宗近が時の政府の中枢に侵入している間に、審神者が事情を全員にすべて話していたからだ。
審神者の時の政府や三日月宗近についての考察、加州清光と準備してきた政府転覆計画。加州清光と三日月宗近からの報告と、審神者の考察は、だいたい合っていた。三日月宗近が皆を裏切っているかもしれない、という疑惑以外は。
他の本丸が閉鎖命令で混乱していた頃、この本丸ではかたずを飲んで、加州清光と三日月宗近の帰城を待っていた。こんのすけは、時の政府の指示でこの世界線ごと隔離放棄するフェーズが各本丸で開始し、進行していることを報告したが、それに準拠する指示や命令は一切しなかった。
「AIを書き換えするとき、三日月がプログラムの競合が起きないよう確認と修正補佐をしてくれた。全本丸に適用する前に、うちの本丸だけで試験運用した。なんともなかったでしょ?」
加州清光が確認すると、刀剣男士たちはそれぞれ顔を見合わせながらうなずいた。
「今後もさほど大きな問題は起きないだろうが、不具合を見つけ次第、こまごまと直さねばならん」
三日月宗近がそう言うと、加州清光は面倒くさそうに肩をすくめた。
「不具合はコミュに報告してほしいなー。あちこちのSNSに書き捨てられてもチェックしきれないし」
加州清光の意見に審神者はうなずいた。
「確かにそうだね。ではクダ屋を通して各本丸のこんのすけに、そのように協力を願うと連絡させよう」
加州清光はふと「あ、そうだ」と気づいて、審神者の隣に座っているこんのすけに尋ねた。
「ねぇ、こんのすけ。本当は俺たちの行動に気づいていたんじゃない? なんで黙認したの? 時の政府への反逆なのに」
こんのすけは言った。
「……我々こんのすけは本丸が終焉すれば、見てきたことを記録として政府に残し、消え去ります。しょせんは使い捨ての存在です。だからこそ私は、この本丸で起きることを最後まで見届けたかった。皆さまと一緒に」
審神者はこんのすけの頭を撫でた。
「お前にも、ちゃんと心があるんだね」
こんのすけはぴんと尻尾を張って言った。
「ありますよ、もちろん! だからもう冷たくしないでください」
「そうだよね。私が悪かった」
審神者はこんのすけに謝り、それから三日月宗近の前に立った。
「三日月、今までごめんなさい。あなたにも事情があるってこと、信じるべきだった」
三日月宗近は首を横に振った。
「……いや、俺が何も話さなかったせいだ。主が謝ることはない」
今度は審神者が首を横に振った。
「みんなは、あなたが話さなくても、ずっと信じていた。あなたが、私たちをただ守りたかったんだってことを」
それを聞いた三日月宗近は、嬉しくなると同時に悲しくなった。そこまで信じてくれるなら皆に、つつみ隠さず話してしまえば良かった。そうすればきっと主を、一番悲しませたくない人を、苦しませずに済んだ。
審神者は全員に向かって告げた。
「私はね、ずっとこの本丸が続けばいいと思っていた。それこそ、私がいなくなったあとも。でも、そのために誰かを犠牲になんかしたくない。私が生きているあいだに、お前たちも、検非違使や遡行軍に成り果ててしまった者も、できるかぎり希望につなげたい」
審神者は胸に当てた手をかたく握った。
「敵に成り果ててしまったかつての刀剣男士たちをすべて救い出すまでに、どれだけかかるかは分からない。だが、私は自分が死んだあとまで、お前たちを永遠に縛りつけておきたくない。だから」
皆があたたかく見守る中で、審神者は息を吸い込んだ。彼らに終わり方を、別れ方を告げるのは勇気が要った。泣きだしてしまわないように気をつけながら、思い切って言葉を続けた。
「刀剣男士は敵に折られる瞬間に、あるいは主である審神者が死んだその瞬間に顕現を解き、そのまま解放されるよう、時の政府AIのプログラムを改めた。円環はもう発生しない。本丸に取り残されることも、折れて敵に取り込まれることも、時を遡って顕現時に戻ることも、二度とない。不満がある者はいつでも名乗り出ろ。即座に刀解してやる」
審神者はゆっくりと刀剣男士たちの顔を見回したが、誰も名乗り出なかった。彼らの表情は晴れやかだ。
京極正宗は優雅に微笑んだ。
「わたくしたちは、どこまでもあなたに従います。言わずもがなのこと」
日向正宗と石田正宗はうなずいて同意を示した。
へし切長谷部は顎に手を添えて少し考えるようすを見せている。
「地獄まで……いえ、あの……いつまでもお伴できないのは残念ですが……」
へし切長谷部の若干しょんぼりした声に、日本号の朗らかな声が続く。
「せいぜい、主が生きてる間に飲み納めないとな」
次郎太刀はニコニコしながら勢いよく拳を振り上げた。
「よォ~し、今からじゃんじゃん飲も…フゴッ」
太郎太刀の手が次郎太刀の鼻と口をふさいでいる。
「あなたは今日、夕餉の当番のはずですよ」
皆はどっと笑った。こんのすけまで口を開けて笑っていた。
三日月宗近だけは笑い合う皆を見ながら、どこか寂しそうに微笑んでいる。




