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24.天球儀

 それぞれの本丸で戸惑いと混乱がいまだ収まらない、その頃。

 加州清光と三日月宗近は時空転移装置の中枢を破壊すべく、それを安置した室内にいた。

 各本丸の時空転移装置の制御をつかさどる時の政府の時空転移装置。それは、宙に浮く金色の天球儀のような形状をしていた。大きさは一抱えほど。これを破壊すればどの本丸も、時間遡行軍や検非違使さえも過去に行けなくなる。

 その天球儀の一番外側には二つの円環がある。大きい方の円環には自らの尾を飲み込む大蛇の浮彫。その内側に一回り小さい円環があり、羽の生えた昆虫の群れの浮彫がある。

 ゆっくりと回る二つの円環の中で、さらにいくつもの歯車が回転している。歯車は複雑に噛み合って、せわしなく動いている。中心に浮く白銀色の球体を取り巻くように、いくつもの歯車が噛み合い、その歯車にまたいくつもの小さい歯車が噛み合う。歯車の一枚一枚に桜の花や花びらの透かし彫りがある。白い月のまわりを桜の花と花びらがひっきりなしに、互いに翻弄されながらくるくる舞っているようにも見える。

「……これって、斬ったら、刃こぼれしない?」

 加州清光が尋ねると、三日月宗近は首をかしげた。

「やってみなければ分からん」

「うぇっ、まじかよ……」

「だが、ここで折れればそれまでよ」

 三日月宗近はすらりと刀を抜いた。

「ちょ、まっ」

 加州清光はあわてて止めようとしたが、三日月宗近の刃は素早く右上から左下へ、スパンと振り下ろされた。

 宙に浮いていた時空転移装置は、パシッと軽い音を立てて割れ、バラバラに飛び散って床に転がり落ちた。

 三日月宗近は自らの刃をしげしげと眺めて確かめたが、刃こぼれらしきものは一切なかった。

 加州清光はためしに足元に転がり落ちてきた部品を踏みつぶしてみた。部品は煎餅のようにあっさりと粉々になった。見た目こそものものしいが、部品の素材は質量が軽く、あまり丈夫ではなさそうだ。

 加州清光はしんみりと言った。

「こんなにも、もろいんだね……」

 三日月宗近はうなずいた。

「うむ。精密で繊細で、儚い……もう再現は不可能だ」

 加州清光はふふんと鼻を鳴らした。時の政府AIといい、時空転移装置といい、こんなに脆弱な物にどの本丸もさんざん振り回されてきたと知って、急に馬鹿らしくなってきたからだ。

「どの部品も粉々にしてさ、本丸の裏山のあちこちに撒いちゃおうよ」

「良い考えだ」

 三日月宗近は床に転がる白銀色の球体に、刀の切っ先をざっくりと突き立てた。半透明の白い月のような色のそれは、あっさりと割れた。中身は粗いスポンジのような構造になっていた。まるで細かい泡が集まって固まっていたかのようだ。

 それを加州清光はさらに靴の爪先で踏んで砕いた。

「これでもう、どの本丸も二度と過去には手出しできないね。検非違使も、時間遡行軍も。ま、俺たちにはまだまだ面倒な仕事が残ってるけど」

 面倒だと言いながらも加州清光はどこか楽しそうだ。

 三日月宗近も満足そうに、にっこりと笑って応えた。

「そうだな。プログラム書き換えの不具合は、どれだけチェックしても起きるものだ。修正は、さぞやりがいがあるだろう」

「ひー。まあ、頑張るしかないよね」

 加州清光と三日月宗近は話しながら、時空転移装置の部品をどんどん砕き、踏みつぶしていった。

「ああ、大丈夫だ。なんとかなる。ひとつひとつやれば、いつかは終わる」

「だよね!」

 そして加州清光は最後の部品を踏みつぶした。

「これでもう大丈夫かな。さ、帰ろっか。俺たちの本丸に」

 加州清光が声をかけると、三日月宗近は晴れ晴れとしてうなずいた。



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