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23.書き換え

 加州清光は戦闘装束のポケットから折りたたんだ紙を取り出して広げた。深い赤色の背景と、金色の派手な文字が印刷されている。

 三日月宗近はいぶかしんで、その金色の文字を読み上げた。

「本日十時、新台入替?」

「主から預かったメモだよ。このメモの通りAIのプログラムを書き換える」

 三日月宗近は眉をしかめた。

「これは、新聞にはさまっていたパチンコ屋のチラシではないか」

 加州清光は茶目っけたっぷりに笑った。

「裏が白くてでっかくて、いっぱい書けるからね。それに、こんなパチ屋のチラ裏に政府転覆計画が書いてあるだなんて、誰も思わないでしょ」

 三日月宗近はあきれるやらおかしいやらで、目を丸くした。

「俺の任務はね、第一に可能な限り円環についての情報を持ち帰ること。第二に、やれそうならそのまま政府をひっくり返すこと」

「やれそうなら? とんだ無茶をするものだな、お前も主も……」

 三日月宗近はあきれはてたようすで言った。

 加州清光は肩をすくめた。

「一人だけ囮になって椿寺を隔離放棄させようとした奴に言われたくないね!」

 加州清光と三日月宗近は時の政府AIに指示を出すための作業を始めた。マイクを起動する前に加州清光は三日月宗近に尋ねた。

「ところでさ、時の政府AIのバックアップはどこにいくつあるの? そっちも上書きしなきゃ」

「バックアップは、ない」

 と三日月宗近は言い切った。

「は? 記憶領域も?」

 加州清光は耳を疑って聞き返した。

「うむ。強いて言えばそれぞれの本丸の三日月宗近が、俺そのものがバックアップだ。だから俺は、俺自身のすべてをやり直したいという思いによって、受取箱に入るのだ。本丸によってはその前に顕現する場合もあるが。時の政府を制圧した今、あえて新たな円環を始めたがる俺は、どの本丸にも存在しないだろう。なすすべもなく本丸が壊滅していくのを見るのは、失意の中で主と仲間を失うのは、幾度経験してもつらい。主が絶望のうちに本丸を閉鎖するのを見るのも。見たくなければ、戦場で折れるしかない」

 それを聞いた加州清光は怒りのあまり、めまいを覚えた。なぜ三日月宗近だけがそんな苦しみを背負わななければいけないのか。この怒りをぶつけようにも、二二〇五年の今、二〇〇〇年代前半に時の政府AIを設計した者たちはとうの昔に死んでしまっている。

 三日月宗近は立ち尽くす加州清光の背を励ますように叩いた。

「では、プログラムの書き換えを始めるとしよう」

 加州清光は気を取り直してうなずいた。三日月宗近を、それぞれの本丸を、一刻も早くこの残酷な円環から解放したい。自分の頬を軽く叩いて気合いを入れた。

 時の政府AIは正常に作動していれば根本の設計思想から外れるような指示は拒否するが、モジュールを数十個引き出されて機能停止している今なら根本から修正し放題だ。

「えーと、まず、刀剣男士の本能部分に刷り込まれた『歴史を守る』を削除っと……」

 加州清光と主から預かった手書きのメモを確認しながら、AIの書き換え作業を進めていった。

 三日月宗近はプログラムの修正補佐と確認を担当した。

 引き出したモジュールの収納も含めて、作業は小一時間程度で終わった。



 各本丸ではこんのすけが沈黙し、操作パネルのボタンも一切動かないまま、その小一時間が経過した。

 どの本丸も全員が、広間や執務室などで審神者の元に集まっている。

 審神者たちは時間の経過とともに、多少の落ち着きを取り戻していた。審神者たちは事態を少しでも把握しようと他の本丸の知人友人と連絡を取り合おうとしたが、通信は途絶え、門は通れず、本丸から一歩も出ることができなかった。

 刀剣男士たちは最後まで主を守り切る覚悟で、空のようすを警戒していた。

 そんな中、異変は地面から始まった。

 地面からふわふわと光の泡沫がただよいはじめ、空へ向かって上昇し、あっというまにその小さな光の数が大量に増えた。

 次には本丸内の建物、景趣の植物や岩や池、こんのすけや刀剣男士たちからも光の粒子が立ちのぼった。

 光の粒子は刀剣男士たちの指先から、体中から、どんどん空中に霧散していく。

「これは……みんな、消える?」

「いや! 消えないで!」

「待ってくれ! 頼む!」

 どの本丸でも審神者の悲鳴が響いた。

 審神者たちはすぐ近くにいた刀剣男士にすがった。

「あるじ……」

 刀剣男士たちが取り乱す主に向かって言葉をかけようとしたそのとき、異変はぴたりと止んだ。

「消え……て、ない」

「みんな、なんともない? 大丈夫?」

「一体なんだったんだ?」

 異変は止んだものの、どの本丸でも戸惑いと騒ぎは一向に収まらなかった。

 こんのすけと操作パネルも、しんとして動かないままだった。



 各本丸への修正データ転送を終えた加州清光と三日月宗近は、それまで交換して持っていたお互いの刀を返した。もう三日月宗近の目を共有する必要はないからだ。

 そして、次なる目標へと向かった。



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