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21.犠牲

 真相の告白が進むにつれ、三日月宗近の表情はひどく悲しげに、声はつらく苦しそうになっていった。


 最初のうち俺は、何度でもやり直すチャンスを与えられているのだと考えていた。だが、思いつくかぎりの手を尽くしても、何を試しても、再び混を打ち倒すことはできなかった。

 何度も仲間は敵に折られ、取り込まれた。何度も主は失意の中で命を落とし、あるいは本丸閉鎖命令を受け絶望の中で刀解を行った。俺は何度も、何度もそれを見続けた。

 円環を経るうちにだんだんと真相が見えてきたが、俺には何も変えられなかった。

 いつしか俺は、円環を数えるのを止めた。

 そのとき俺はやっと気づいたのだ。円環の記憶を持ったままなのは、俺だけだ。俺さえ黙っていれば、少なくともそのときを迎えるまでは、他の誰も無駄に苦しまずに済む。円環の記憶がない主や仲間にとってはそれが幸せなのではないか……


 ここまで話すと、三日月宗近は力なくうなだれて黙ってしまった。

 加州清光は両手で三日月宗近の両肩を優しく叩いた。三日月宗近がこれまで抱えてきた苦しみを思うと、やるせなかった。

 そして加州清光は急に右手の肘を引いて拳を固め、思い切り三日月の左頬を殴った。

 三日月宗近はよろけて茫然とした。打たれた左頬に手を添えて目をぱちくりしている。加州清光の一撃は三日月宗近の身体にとっては倒れるほどでもなかったが、苦しい秘密を打ち明けたばかりの心には十分衝撃だった。直前まで加州清光の手がとても優しかったので完全に油断していた。

「バカ言ってないで帰るよ、俺たちの本丸に。みんなに、全部話そう」

 加州清光は鼻息を荒くして腰に両手を当てた。

「何もかも隠して一人で抱え込んでたのを俺たちのせいにしないでくんない? 俺たちみんな、何度失敗しても、何度でもあんたに協力するよ。それなのに何も知らされないまま、折られて検非違使や時間遡行軍に成り果てるなんて、納得いかないね」

 三日月宗近はしゅんとして加州清光から目を逸らした。

「……もう、間に合わぬ。もうじき各本丸から派遣された援軍は戦況にかかわらず退却させられ、本丸閉鎖命令が下される。そしてまた円環が始まるのだ。次からは、俺の目を共有したお前にも円環の記憶が残っているだろう」

 加州清光は右の拳を左の掌に強く打ちつけた。パン、とあたりを払うような音がした。

「その円環が始まる前に。時の政府を制圧する。時の政府の時空転移装置を壊す。もう二度と円環を作らせない。時空転移装置さえ壊せばどの本丸も、検非違使も、時間遡行軍も過去へは行けなくなる。もう誰も過去に介入させない」

 三日月宗近は息を飲んだ。加州清光の言っていることが信じられなかった。時の政府ごとひっくり返して円環を終わらせるというのか。

「そんなことは……できるはずが……」

「できるんだよ。あんたがいれば」

 加州清光は鋭い視線を三日月宗近に投げかけた。

「最初にクダ屋から入電があったとき、あんたは『これで好きなように働ける』って言ってたよね。防人作戦の直前に本丸が襲撃されたとき、あんたは時間遡行軍を引きつけて時空転移装置も使わずに本丸から消えた。本丸を囲む風景は、銀色の水平線に大きな月が浮かぶ、不思議な場所になってた。異空間を作って、本丸をそこに隠したんでしょ? 椿寺も四季の花が一度に咲く異空間に変えられていた。その異空間椿寺をあんたは時の政府のシステムに本丸と認識させ、時間遡行軍の大群を誘い込み、隔離放棄させようとした。時の政府はあんたの単独行動をぜんぶ黙認した。好きなように働ける……つまり、三日月宗近は時の政府のシステムに介入して直接動かすことができる。そうだよね?」

 三日月宗近は感心しながらうなずいた。

「……よく気づいたな」

 加州清光はちょっと肩をすくめた。

「気づいたのは主だよ。あんたが椿寺を自分もろとも隔離放棄させようとしてたときにね。あのとき主は、全部あんたの仕組んだ茶番だから椿寺で折れてもらうって怒ってた。でも、これはあんたが仕組んだんじゃない。時の政府AIが、その設計者たちが三日月宗近の存在を利用して立てた茶番劇だ。時間遡行軍も検非違使も、円環の中で俺たちを戦わせ続けるために、時の政府AIが作り出した。そんなものに、都合よく呑まれてたまるかっての! 大人しく言うこと聞くような可愛げは、あいにく持ち合わせてないんでね」

 加州清光は三日月宗近にまっすぐ向き直って言った。

「三日月、力を貸してくれ。俺たちが混を打ち倒したときに変わったものを、未来につなごう。時の政府AIのプログラムを書き換えるんだ。あんたがいればできる」

 三日月宗近はうろたえ、加州清光から視線をそらした。

「だが、それでは、俺たちは……戦う意味がなくなれば……俺たちの物語は、いつか人々から忘れ去られ、消えてしまう………必要とされなくなれば……主と、仲間と一緒に、いられなくなる……」

「そうやって、自分をいつまでも悲しみや苦しみの中に縛りつけて? 俺たちは仲間の誰かがそんな犠牲になるのなんか、まっぴらごめんなんだよ。あんただって本当は円環を終わらせたいんだ。ずっと抜け出そうとしてたから、あきらめられないから、苦しんでいたんだろ!」

 加州清光は三日月宗近の両肩に手をかけ、ぐっと力を入れた。

「力を貸せ、三日月宗近! 円環を終わらせるんだ! あんたが犠牲になり続ける永遠なんか、俺たちはいらないんだよ!!」

 加州清光の真剣さに三日月宗近は気圧された。

「終わらせて、一緒に帰ろう、俺たちの本丸に。みんな、俺たちを信じて待ってる」

 三日月宗近の目がうるんだ。加州清光の向こうに、本丸で待っている者たちが見えたような気がした。脳裏を仲間たちとともに駆けた日々が駆けめぐった。彼らと共に、昼に夜に、戦場を駆け抜けた。本丸で穏やかな生活を楽しんだ。円環の中で無数に経験した破滅とやり直し。守りたくて、守り抜けなかった日々。

 三日月宗近はとうとう覚悟を決めて、うなずいた。



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