20.プロジェクト『刀剣乱舞』
三日月宗近は淡々と言った。
「円環について調べるという目的は、果たせたはずだ」
「……まだだよ。これまであんたがめぐってきた円環がどんなものかを知ることはできた。けど、誰が何の目的で円環を作り出しているかを確かめないと」
加州清光は食い入るようにモニターに流れる映像を見つめ続けている。
三日月宗近は加州清光の肩に手をかけた。
「……防衛ラインはもうじき崩壊する。拮抗までは押し返せているが、一度もグリーンラインに持ち込めていない。もうじき敵の連合軍によって跳躍経路が制圧され、本丸閉鎖命令が出るはずだ」
「だったら余計に帰れないだろ! このままだと、また円環に陥る。元の木阿弥だ!」
加州清光は三日月宗近を振り返り、ほとんど泣きそうな声で言った。
「一体どこの誰が何のためにこんな、円環だなんて狂ったこと始めたんだよ!」
『認証しました』
無機質な音声とともにモニターの映像が切り替わった。映し出されたのは記録文書だ。論文らしきものがずらりと並ぶ中に、図解もある。天球儀のような形をしているそれは、時空転移装置という名称だった。
三日月宗近はモニターを見上げると、やがて静かに話しはじめた。
「二〇〇〇年代前半、世の中にAIが出回り始めた頃だ。極秘裏に時空転移装置を発明した設計者たちがいた。時空転移装置は過去を学術的に調査研究する目的で運用が始まった。だが、使い方を間違えれば世界を滅ぼしてしまう代物でもあった。設計者たちは時空転移システムと装置を安全かつ恒久的に管理するためのAIを構築しはじめた」
「時空転移装置を管理するためのAI……それが、時の政府?」
「そうだ。時空転移装置の管理を人間の後継者に委ねれば、いずれは一部の権力者に都合よく利用されてしまう危険性が高かった。それゆえ時の政府AIは設計者たちにより、人間に頼らず自律し進化する機能を持たされた」
加州清光は声を荒げた。
「どうして、それがこんな円環を作り出しちまったんだよ! 時空転移装置を安全に管理するための時の政府AIだろ?」
「二二〇五年を迎える頃には、日本の文化や文明が、AI設計者たちが理想としたものからはかなり違っていたからだ。だからこそAIは、設計者たちがちょうど生きていた時代に審神者たちを求めた」
「理想……の日本じゃない、から?」
加州清光は耳を疑った。
「設計者たちはあらかじめ、そのときのための準備をAIにさせていたようだ。称して、プロジェクト『刀剣乱舞』……二二〇五年、時の政府AIはプロジェクトを発動するべき時が来たと判断し、時間遡行軍が過去への攻撃を始めた」
「プロジェクト……刀剣乱舞……」
「刀の持つ物語を穢すことで時間遡行軍は生成され、物語を奪うことで検非違使は生成される。時間遡行軍も検非違使も物語を求めて俺たちを襲ってくる。戦闘での破壊や円環で際限なく刀剣男士を取り込むことで、爆発的に増え続ける」
加州清光は審神者と色々と話し合って推測を深めておいて良かったと思った。いきなり真相を聞かされたらきっと理解が追いつかなかっただろう。
「じゃあ、やっぱり、マップの検非違使のマークは、いずれこの世界ごと円環になるって意味だったわけ?」
「多くの本丸が検非違使を出現させ、刺激し続けることで、検非違使は時の政府への攻撃を始める……と見せかけているわけだな」
「見せかけている?!」
加州清光は驚いて三日月宗近の言葉を繰り返した。
「二度目の大侵寇の勃発と政府防衛作戦の失敗を、審神者の責任ということにするためだ」
「はぁあ?!」
三日月宗近は物憂げな表情で話し続けた。
「検非違使を招いたのが二度目の大侵寇の原因となれば、本丸閉鎖命令によって現世に逃がされた審神者の多くが自らを責め、悲しみと後悔をいつまでも引きずることになるだろう。そうやって、俺たちを心に焼き付けることで、日本の未来を理想の世界に変えたいのだ」
それを聞いて加州清光はあきれはてた。
「なにそれ……ドン引きなんだけど」
「理想の世界の構築を目指して時の政府は刀剣男士を作り、その存在に意味を持たせるために敵を作り出した。いつまでも、刀にこめられた精神が人々の中に残るために。いつか終われば、また始まるために。そのための円環だ。このプロジェクトでは、正しい歴史の根拠とはこの俺の……三日月宗近の記憶ということになっている。それゆえに俺は他の者たちにはない能力を持たされた」




