19.円環の記憶
「お前の知りたいことを言ってみるといい。俺の目を共有していれば、本部の機器に指示が通る」
三日月宗近の太刀に言われるままに、加州清光は本丸の識別番号を入力し、指示を出した。
「円環とはどんなものか、これまでに何が起きたのかを見たい」
すると、どこからともなく
『認証しました』
と答える音声があり、同時に大きなモニターが作動しはじめた。
まもなく防人作戦で見た作戦フィールドと同じ映像がモニターに表示された。右肩に「参考記録映像」という文字がある。モニターは次に防衛ラインでの戦闘を映し出した。
モニターに流される映像の動きに合わせ、三日月宗近の太刀が説明を始めた。
まずは俺が刀剣男士として初めて本丸に顕現した時点から話そう。
本丸で歴史を守る戦いを続け、数年。大侵寇が勃発し、防人作戦が始まった。
何度か大きな波はあったが、各本丸の共闘で防衛ラインは優勢を守ることができた。それにもかかわらず、作戦の終盤には本丸の門前におびただしい軍勢が殺到した。それが一点に集約し、そこから混が現れた。
混は集合体であり、恐ろしいまでに大きく、強力だった。だが、本丸の刀剣男士総員でかろうじて撃退に成功した。
防人作戦は成功したが、やがて次の大侵寇が勃発し、政府防衛作戦が始まった。
政府防衛作戦は難航した。削っても削っても、おびただしい数の敵があふれてくる。やがて、その敵は防衛ライン上で混と同じように一点に集約し始めた。
そして、混を上回る威力の敵が出現した。その強大な敵によって時の政府本部への跳躍経路は制圧された。
時の政府は制圧される寸前に各本丸に閉鎖命令を下した。閉鎖命令は終わりの一振りを選んで本丸に残し、それ以外全員を刀解、審神者は本丸を退去し現世へ戻るというものだった。審神者が本丸から避難するまでは終わりの一振りが敵から守る。
本丸閉鎖命令に反発した本丸は敵に取り込まれた。
俺たちの主は、このときは本丸閉鎖命令に従った。終わりの一振りには……初期刀である加州、お前が選ばれ、俺は刀解された。
お前は主を現世へ逃がした後、おそらく襲撃によって折れただろう。
そして気づくと、俺は初めて本丸に顕現したときに戻っていた。
俺はそれまでの出来事を本丸の皆に話してみた。誰もが真剣に耳を傾けてくれた。そして、記憶があるのはなぜか俺ひとりだけだと分かった。
数年を経て、大侵寇が勃発し、防人作戦が始まった。
混は再び門前に出現した。このときは倒せなかった。敵はさらに増強し、混ははるかに威力を増していたからだ。
時の政府は本丸が壊滅する寸前に閉鎖命令を出した。
俺たちの主は、このときは本丸閉鎖命令に反発した。本丸は混に蹂躙され、主は命を落とし、仲間は敵に取り込まれた。
俺はその記憶を持ったまま初めて本丸に顕現したときに戻り、その円環を何度かめぐることになった。
主は本丸閉鎖命令に従うこともあれば、反発したまま命を落とすこともあった。俺が円環について事情を話すか話さないかは関係なかった。
いくつもの円環を経るうち、俺は、時の政府が何か特別な役割と能力を俺に持たせているらしいと気づいた。
俺だけに持たされた特別な能力は、円環を経るごとに徐々に強くなっていったようだ。それにつれ、だんだんとこの世界と時の政府の関係についても見えてくるようになった。
同じく円環を経るごとに、敵の数は恐ろしい勢いで増え、混はますます手に負えなくなっていった。
やがて俺は、敵の兵力を分断すれば混は発生しないのでは、と考えるようになった。
混を発生させなければ、本丸はまだ未来につながる可能性がある……少なくとも、もうひとつの円環が発生するまでは。その先の未来への道も、生き残った本丸が見出すやもしれぬ。
俺は本丸に明日を託すため、椿寺に敵を誘い込み、渦の中に留め置いた。俺が囮になって自分ごと切り離すと言い出せば反対されるに決まっている。俺は事情を話せなくなった。
椿寺には加州、必ずお前が探しに来てくれた。消耗していた俺は太刀の姿で連れ帰られた。そして混と対峙し、敗れた。本丸は閉鎖するか、壊滅した。
俺はその記憶を持ったまま初めて本丸に顕現したときに戻り、その円環を……今度は、数え切れぬほどめぐることになった。
どの円環でも混は椿寺に分断していた兵力が戻ったあとに出現した。俺は、兵力の分断は有効だと確信した。
椿寺にお前が迎えにきたとき、俺は空間をねじらせ、霧の海で足止めした。椿寺が完全に隔離放棄される寸前、お前はこんのすけによって強制的に帰城させられた。
狙い通り、椿寺が隔離放棄されたあとには混は出現しなかった。防人作戦が成功し本丸が生き残ったのを見届け、俺はそこで力尽きた。
だが、俺はその記憶を持ったまま初めて本丸に顕現したときに戻り、その円環をまた数え切れぬほどめぐることになった。
混は出現しなかったのに円環を抜け出せていない、つまり政府防衛作戦は数え切れぬほど失敗し続けている。それでも俺には、本丸に未来を託し続けるしか方法がなかった。
俺は疲れきっていた。椿寺の霧の海でつい、もう折れても良いと漏らしてしまった。
すると、焦ったお前は俺の居場所をつきとめ、霧の海を抜け、庭園の幻に隠れていた俺を見つけ出した。
そして俺たちは目を共有し、混を討ち取った。
「……それが、今回ってわけね」
と加州清光が確かめると、三日月宗近の太刀は答えた。
「うむ。最初に一度だけ見出した活路を、やっと再現できたのだ。しかし……」
「しかし?」
加州清光の手にある三日月宗近の太刀は答えなかった。その代わり、背後から三日月宗近の声がした。
「もう時間がない。迎えにきたぞ、加州。ともに本丸へ帰ろう」
そこには刀剣男士の姿の三日月宗近が立っていた。




