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14.終わりと始まり

 翌朝、加州清光が目を覚ますと、床の間の刀掛けから三日月宗近の太刀が消えていた。

「ったく。元気になったんなら徘徊する前にひとこと言えっての」

 加州清光は眠い目をこすりながらぶつくさ文句を言った。障子を開けてみると、ちょうど三日月宗近が庭から摘んできたらしい花を束にして戻ってきた。

 三日月宗近は加州清光に向かって悠長に「おはよう」と言った。三日月宗近の胸元で、その麗しい微笑を引き立てるように色とりどりの可愛らしい花が咲いている。

「もう大丈夫なの?」

 と聞くと、三日月宗近はうなずいた。

「ああ、加州のおかげでな。色々と世話をかけた」

「そーゆー自覚があるんならさ。俺の忠告を聞く気はない?」

 加州清光は柱に寄りかかりながら言った。

「はて……?」

 三日月宗近はとぼけて首をかしげた。

 加州清光は姿勢を直してまっすぐに立った。

「物覚えの悪いふりなんかすんなよ。円環の記憶を持っているのはあんただけだ」

 三日月宗近は一瞬動揺した。ほんのわずかだが、双眸が揺れた。

「だいたい、あんたが」

 加州清光がさらに言いつのろうとしたとき、隣の部屋の障子が開いてねぼけまなこの大和守安定が顔を覗かせた。

「朝っぱらから喧嘩? やめてよ、もおぉ」

 三日月宗近は手に持っていた花の束を

「というわけだ、うむ」

 と言いながら加州清光の胸に押しつけた。

「は? え?」

 加州清光がとっさに花を受け取ると、三日月宗近はそそくさと逃げ去ってしまった。

「三日月、元気になったんだね。良かったぁ……ふぁ」

 大和守安定はあくび混じりに言った。

 加州清光はハッとした。

「ちょっと! この花、俺が世話すんの?!」

 加州清光はその花を活けて執務室に飾った。誰が摘んできたかは審神者には言わないでおいた。

 三日月宗近を追いかけ回して事情を聞き出そうとしても、今朝のようにのらりくらりとかわされるだけだろう。これでは審神者が抱く疑念もわだかまりも、とうてい解くことはできそうにない。どうすればいいのだろう?

 加州清光は花瓶の前で、ハァーと長くため息をついた。



 それから数日後、防人作戦は終了した。開始から掃討戦の終了までは二週間程度だった。

 本丸を取り巻いていた不思議な白い月の風景はそれきり消え、元通りの景趣になった。審神者は景趣を現世の季節に合わせるので、桜が咲く春に戻った。

 審神者は防人作戦の報酬としてさずかった七星剣を新たな刀剣男士として顕現した。

「始まりは終わり、終わりは始まり。われは死を刻みし北斗の剣。汝、星宿に何を願う」

 七星剣の口上に、審神者鋭い目つきで

「あいにくと、星占いは信じない方だ」

 と返した。言い方が冷たい。

 七星剣は超然と微笑んだ。

「……それでも星は、お前を見守る」

「そうか。それはありがたい。ではさっそくだが、色々と働いてもらう」

 審神者はいつもなら新しく迎え入れた刀剣男士を快く歓迎するのに、七星剣には不躾に、試すような態度を取っている。加州清光は内心ヒヤヒヤしながら、やり取りをそばで聞いていた。

 七星剣は審神者の失礼をまるで気にしていないようすでゆったりと言った。

「この身は刀として使われるために在る。契約の範囲でなら、なんなりと言うがいい」

 審神者は七星剣を一通り使い、言動を確かめた。その後、七星剣を加州清光に任せて下がらせた。

 加州清光は七星剣を居室に案内したあと、小烏丸に世話係を頼んだ。二人は旧知の間柄なのですぐに打ち解けた。そしてなぜか、いの一番に、桜が満開の庭先で舞いはじめた。

 加州清光は二人のゆったりと優雅な舞を眺めながら、七星剣が主の機嫌が悪くてもまるで気にしないのん気なタイプで助かった、と思った。これ以上の板挟みはごめんだった。それ以上に、三日月宗近だけではなく七星剣にまで冷たく当たる審神者を見ているのはつらかった。

「なんとか、しないと……」

 加州清光は立ち尽くしたまま考え込んだ。

 その頃、審神者は考え込みながらブツブツと独り言を言っていた。

「始まりは終わり、終わりは始まり……終わりと始まりが一致する……自らの尾を飲み込むウロボロスの蛇……円環……折れるまではここにいる契約……折れればあちら、というわけか?」

 こんのすけは桜の花びらが舞い落ちる縁側で、久しぶりの日向ぼっこをしながら、そ知らぬふりで聞き耳を立てていた。



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