二度目のチャンス
少しずつ物語が自分のなかで固まってきました。
あの夏の日、俺は君を見つけた。
君は気づいてないだろう。あの騒ぎの中、俺は君をずっと見ていた。つまらない日常を君は見事にぶち壊したんだ。また代わり映えのない日々が繰り返されるのかと、うんざりしていた俺のなかに飛び込んできたのは平凡な男。
高校に入学したら、絶対に話しかけよう、そう思ったのに隣にいる男がいつも邪魔をする。
この場所は誰にも渡さないとでもいうかのようにずっと君といた。
だから俺はずるずると君との接点を持てずにいた。
だけど俺に転機が訪れたんだ。
君と委員会が同じだった。クラスも隣だ。委員会の会議なんて一ヶ月に一度しかないのに、過去のトラウマが俺を縛り付ける。たった一度でいいのに、君と話せる勇気がほしい。
ついカッとなって言ってしまった。他の女子のせいでどんどん表情が暗くなる君を見ていられなかった。君を励ましたかったのに、そんなときに限ってオレは気の利いた言葉が出てこない。君はその後少し気を持ち直したらしいけど、俺はそれどころじゃなかった。
一度だけだと願ったはずなのに、もう一度話したいと思ってしまった。その結果がアレだ。
自分でもどうかと思ったが、三週間に二度も会える、それなら一度ぐらいまた話す機会があるだろう、だが、
現実は甘くなかった。
これはもう神から諦めろという啓示か、と諦めかけたそのとき。
ヒラリ、
「・・・!」
奇跡が起きた。
──放課後
「涼ー、」
「んー。」
「ねぇ涼ってば、」
「んふふーー」
「りょぉーーーー!!!」
「るせえっ!! 耳元で大声出すな!!」
キーンってなった。耳キーンなった!!なんなんだこいつは。折角人がいい気分になっていたというのに何故邪魔をするんだ。
ブスくれてるし、何不機嫌になってるのやら。
「むすぅ・・だって涼が朝からふんふん気持ち悪いんだもん。」
「男がもん言うな。別にいいだろ、オレは今機嫌がいいんだよ。一気に落とされたけど。」
「しかも、今日の昼休み教室いなかったし、ねぇどこ行ってたの? 先生にまた呼び出された?」
「オレを常習犯みたいに言うなし、つか呼び出されてねぇよ。
昨日は、あれだ。友達のとこ行ってた。」
「友達いないくせに?」
瀬利はジト目でオレを見る。
「いっ居るわっ! お前に言ってないだけで多くはないけど数人ぐらいならいるし!!」
「へぇぇぇふぅぅぅんはぁぁ↓ ? ・・ソウナンダー・・」
「いや信じてないだろその目!」
「分かってる分かってる、とりあえず学校終わったら病院いこっか、ね?オレも一緒に着いてったげるからさ」
「妄想じゃねぇよ!」
オレはそこまで可哀想なやつじゃない! ・・はず・・。
こほん、とわざとらしく咳をして話を戻す。
「まぁ、このクラスにはいないけどな、他のクラスにはオレにだって友達ぐらいいるんだからな!」
「・・ふーん。見たことないけど。」
「い、今まで会う機会がなかったんだよ・・!」
「どこで知り合ったの?」
「え?」
「てゆーか、誰?」
ずい、と身を乗り出した瀬利の背後には漫画とかでよくあるズゴゴゴゴって効果音が聞こえそうだ。ただの真顔なのに、それはオレのなかの黙秘という選択肢をいとも簡単に消し去った。こえー。
「如月さんだよ。」
「如月さんってこの前の? なんで??
普通あんなことあったら仲良くなれるわけないじゃん。それともなに?
関係がマイナスからプラスになるような何かがあったわけ? ─────ねぇ、涼。」
オレを 置いていったりとか しないよね?
震えた声にやり過ぎたかと、反省する。
自分より頭一つ分大きい、彼の頭にぽん と手を置いた。
「如月さんとはただの友人だよ。ちょっとした相談をしてもらってた。」
「相談ってなに? なんでオレに相談してくれなかったの。
オレの方が絶対涼のことわかってるのに。」
彼の頭にへにょりと曲がった犬耳が見えるのはオレの目の錯覚か。心なしかくぅ~んって鳴き声が聞こえる。
「あー、そうだな。悪かった。お前に先に聞くべきだったかもな。」
「かも、じゃない! ぜっ・たい!!」
「・・・・お前、キャラ変わってね?
まぁいいけど。でもあいつのこと聞くには彼女が一番都合良かったからさ、聞いただけ。」
「 "あいつ" って?」
「それは──」
「───加賀見!!」
噂をすればなんとやら。オレの台詞を遮ったのは、件の黒澤 色だった。
「えっ!? 黒澤!!?」
「 あぁ、良かった。まだ学校にいたのか。
あんたに用があるんだ。」
あれ、今日オレ死ぬの? え? こんな幸せなことがこの世にあったなんてオレ今死んでもいいわ!
あ、・・とか、う・・、とかしか喋れなくなったオレは、さながら某有名なアニメに出てくるカ○ナシのようだ。だけどそんなの気にならない。だって、今オレは人生の最絶頂にいるのだから!!
イベントが何もなく終わってしまった今、この先は話す機会どころか関わる機会すらないだろうと諦めていたのに!
うへへーとでれでれしてるオレの肩が突然、オレの意識関係なく、後退した。
原因は先程の怒りがまたさらに増加した、瀬利だった。
オレの肩を掴んでいる手は力が強すぎて、思わずオレの口から蛙の潰れたような声が洩れた程痛かった。それでも、瀬利がその手を放すことをしない。
瀬利は、そんなオレのことなどまるで知らぬ存ぜぬといったようすで 黒澤 に話しかけた。
その顔はニコニコと笑っていて、一見爽やかなイケメンに見えるが、背後には般若を背負っていた。
「君、誰?」
「・・・は?」
第一声がそれかよ!! 黒澤は突然のことに一瞬困惑したものの、その声音が自身に対してよくないものだということを察知し、臨戦態勢に入った。
「あんたこそ誰だよ。ああいやまて、思い出した。
たしか隣のクラスの王子サマだったっけ。違うクラスなのに、いつも加賀見にくっついている、イケメンサマ。」
「なんだ、知ってたのか。そうだよ、オレは涼の " 親友 " の須藤 瀬利 。
で、最初の質問にまだ答えてもらってないんだけど。
君、────誰?涼のなんなわけ?」
瀬利の鋭い声に、眉をしかめながらも黒澤は律儀に答える。
「・・俺は黒澤だよ。加賀見とは・・」
躊躇いがちにオレの顔を見て、また瀬利の方を向く。
「・・・・ただ委員会が同じってだけ。」
ピクリと、瀬利は眉を動かした。そして、当のオレはというと、頭を鈍器で殴られたような感覚だった。まさにその通りのはずなのに、なにを期待をしてたんだろう。
「あぁ、もぅ、こんなことしに来た訳じゃないのに。
俺が用があるのは涼なんだ。親友だか、友達だかは黙っていてよ。」
黒澤は一際大きな溜め息をつく。
「・・あ、そういやオレに用があるって最初から言ってたもんな。
・・・えと、どうしたんだ?」
「あんた、この間の整備三週間キャンペーンのときにハンカチを落としてたよ。
丁度、お前が帰った後だったからすぐに渡せなかったんだよね。中休みの間もクラスに居なかったし」
「えっ、まじで?悪い拾ってくれてありがとな。」
そういえば、母さんがこの前ハンカチがひとつないと言っていたな。あれか。
「だけど、今手元に無くて。明日も休みだろ。そのあとも学園祭の準備が始まってお互い会えないだろうし、
だから、もしよければなんだけど・・明日、会えない?」
「・・・へ、」
沈んだ気持ちが、一気に浮上した。
「・・・・悪い、急にこんなこと言って。だけど委員会のときあまり話せなかったし、俺ら。
あのとき恥ずかしくて話せなかったけど、俺あんたとずっと話してみたかったんだ。」
「・・うへ、あ、オレもっ!!/
ずっと君と話したかったんだ!あと連絡先交換してくれないっすか!?」
「・・え、うん・・・・なんか一気にテンション上がったね。」
その後連絡先や、明日の予定をきゃっきゃと話して最後には、あの整備三週間キャンペーンのときのが嘘のように仲良くなっていた。
その間瀬利は、オレたちとは少し離れた場所でオレたちを見ていた。その顔からは感情が読み取れない。ただじぃっと、観察でもするようにオレたちを見ていた。
「じゃあ、明日そこで。」
「おぅ、またな!・・じゃあ瀬利、帰───」
門の前で黒澤と別れて瀬利の方に向き直ると一気に抱き締められた。
「・・・」
「・・心配すんな。オレがお前を置いていくことなんて絶対ねぇから。」
「・・・・・うん。」
瀬利は家の前に着くまで、ずっとオレの手を握りしめていた。
「あー、こんなはずじゃなかったんだけどなぁ、どーしよ。
こりゃ、彼女に怒られちゃうかもなぁ。」
男の声は、誰にも聞かれることなく風にかき消された。
来週は本編とは少し離れ、だけど本編とつながっているそんなお話です。
予告を少し言うと、主人公が前の世界で死んだ後の人たちはどうなったかという感じ・・かな?




