夢章二 24 『居場所、そして月下の約束』
その後、夢映と真夢の二人で夕飯を作り終えた。食後、二人はそれぞれの用事に散っていった。夢映は食器を片付け、キッチンからは水の流れる音と、磁器の皿が水切りかごに置かれる微かな音が混ざって聞こえてきた。真夢は持ってきた本を手に、寝室へと戻った。
寝室は静かだった。窓の外からは風が木の葉を揺らすサラサラという音と、壁に掛かった時計のチクタクという音だけが聞こえてくる。天井のひび割れは相変わらずそこにあり、家具の配置も何一つ変わっていなかった。当然だ。寝室の配置が変わったのはもう三年も前のことだ。何もおかしなところはない、まったく正常だった。
真夢は本を机の上に置き、背もたれに寄りかかってゆっくりと息を吐き出した。視線は天井の、見慣れすぎた模様を漫然と辿った。
「死、か……」
さっきのあの映像を思い出すだけで、背筋が冷たくなる。
間違いなく、あのフラッシュバックは実際に起こった出来事だ。しかもつい最近に。しかしそう考えると、時間軸がどうしても合わない。つい最近の彼は、家に帰って、キッチンで夢映と話していただけだ。その間に死が起きたとすれば、論理的にも記憶の連続性からも説明がつかない。
だが、もし夢の中の話なら、説明はつく。夢の中では時間軸が圧縮され、歪むこともあり得る。あの映像の出所もそこ以外には考えられなかった。
問題は、誰が夢映を殺したのか、そして自分はその後誰に殺されたのか、それがいつ起きたことなのか、そして自分がなぜその情報を知っているのか――数え切れない疑問が真夢の頭に深く突き刺さり、抜けず、避けられない。
真夢は深くため息をつき、指で眉間を揉んだ。
「どうしていつも面倒なことばかりが重なるんだ……しかもこんなに解決が難しいなんて。」
この一週間で起きたことの複雑さは、一人の人間の理性を全て打ち砕くには十分だった。症状、苦痛、責務、怪物――いかに彼が揺るぎなくても、短期間でこれほど多くのことを受け止めるのはさすがに応えた。
ましてやあの死の映像が現れてから、元々周囲に対して感じていた不安の神経は、さらに一段と張り詰めていた。
「確かに助けにはなっている……いや、今はまだ誰かの尻拭いをしているだけだ。」
アリュエスの遺産に足を踏み入れてから、真夢の立場は静かに変わっていた。「自分の精神症状の根源と夢の真実を探ること」という当初の目的は、知らぬ間に「現実と夢を救うこと」に押しやられていた。クローリアがいくつかの答えをくれたことは確かだが、それ以上の部分は深い霧の向こうに隠されたままだった。
そう考えながら、視線が無意識に窓の外へと向かう。
窓の外では月明かりと街灯の光が混ざり合い、互いに排斥し合うことなく、しかしそのすべてが矛盾を孕んでいた。木の影が路面の灯りを細かく切り刻み、遠くの無数の明かりが夜の中に広がっていた。時折、車のクラクションが聞こえ、梢の揺れる音と混ざり合う。
夜の景色は、どうしても余計なことを考えさせてしまう。
「どうやら……何かとんでもないことが起ころうとしているようだ。」
なぜか、それまで緊張を抱えていた真夢の心の底に、微かな熱が沸き起こり、口元が不意にわずかに上がった。
心の奥の何かがそうさせるのか、それとも精神そのものが不安定なのか。今の彼は、死への恐怖よりも真実への渇望が勝っていた。ホテルの入り口に立っていた時のように、今夜の夢にどこか異常な期待を抱いている自分がいた。
そして、こういう時に限って、決まって何かが起きるものだ。
案の定、リビングの方から悲鳴が聞こえてきた。
「ちょっと、それはダメだってば――――!」
その叫び声には明らかな慌てた様子が混じっており、思考に浸っていた真夢は我に返り、顔をドアの方へ向けた。
ドアの外では、夢映の影がリビングの明かりに照らされて伸び縮みしながら、何かを追いかけて部屋中を走り回っているのが見えた。
「何があった……?」
何かあったのかと心配になり、真夢は立ち上がってリビングへ向かった。
おそらくあの黒猫が原因だろうとは予想がついた。ここにいるのは夢映と自分と、そして正体不明のあの猫だけだからだ。ただ、具体的に何が起きているのかは分からなかった。しかしリビングに行けば、おそらく何かが分かるだろう。
そう思いながら、真夢はリビングに到着した。
「もう逃げないでよ! パンツを返して――――!!!」
「……」
夢映は前方の黒猫に向かって叫びながら、必死に追いかけていた。走るうちに髪がほどけ、数本の髪が頬に張り付いている。
黒猫は視界を何かに遮られたせいで緊張して興奮状態にあり、リビング中を飛び回っていた。ソファ、タンス、机の下――ほとんど全ての隅々にその姿を残した。天井の照明の傘を除いて、リビング中をくまなく見回ったようだった。その素早い動きに、夢映はどうしても追いつけず、手を伸ばすたびに指先がわずかに届かない。
その視界を遮っているものが何かと言えば――
「うん、確かにとんでもないことが起きているな。」
真夢は脇に立ち、平静な目で目の前の光景を見守っていた。
どうやら黒猫の頭に、なぜか藍白の鉢柄模様のパンツが引っかかっていて、耳と頭の間のある角度に挟まり、どんなに振っても取れないようだった。夢映はそのことに全く気づかず、ただ執拗に追いかけ、捕まえて取ろうとしていた。
「一度立ち止まることを勧める。ずっと追いかけても、ますます事態を難しくするだけだ。」
「でも、捕まえないと絶対に――――ちょ、ちょっと待って、真夢さんがどうしてここにいるんですか?!」
真夢がすぐそばにいるのを見て、それまで目的がはっきりしていた夢映は一瞬で慌てふためき、視線を黒猫と真夢の間で行ったり来たりさせ、どちらを先に解決すべきか分からなくなった。
「さっき来たところだ。ところで……どうしてその猫が君のパンツをかぶって走り回っているんだ……?」
「だって……片付け終わった後、自分の荷物を整理しようと思ったら……バッグを開けたら猫が中に隠れていて……それで何かに引っかかって飛び出しちゃって……もう、そこにいて!」
夢映がそんなに慌てているのを見て、真夢は小さくため息をつき、口元が微かに引きつった。諦めなのか苦笑いなのか、自分でもよく分からなかった。
しかし、ため息をつき終わる前に、黒猫が急に向きを変え、真夢の方へと突進してきた。踏み込み、跳躍、その動作には一切の無駄がなかった。
「おい、ちょっと――――」
言葉が終わる前に、黒猫の前足が真夢の顔面に直撃した。その衝撃で彼の身体は後ろに倒れ、ドンという音とともに床に座り込んだ。
「真夢さん、大丈夫?!」
「痛い痛い……何だよ……」
真夢は踏まれた鼻筋を揉んだが、指先には布地の滑らかな感触が残り、目の前が何かで遮られているようだった。
いつしか顔の上に清潔な布地が一枚かかっていて、ちょうど顔を覆っていた。かすかに洗剤の香りがして、場違いなほどに爽やかだった。
「……?」
真夢は顔の上の衣類を取り去り、視界が再び開けると、手にしているものがはっきりと分かった。
「まさか本当にこんな偶然があるのか……」
見下ろすと、手に握っていたのはまさにその藍白の鉢柄模様のパンツで、生地は薄く、手触りも繊細だった。
真夢は前後にひっくり返して、間違いないことを確認した。
「あ、あの……真夢さん……」
夢映が震える手を差し出し、気まずそうに顔をそらした。顔全体が耳の先まで真っ赤に染まっていた。
「……パンツを……返してもらえますか……?」
その声はどんどん小さくなっていった。
真夢はそのパンツを持ったまま、夢映を見、また自分の手の中のものを見て、しばらくどうすればいいのか分からなかった。
「すまない……」
我に返って、真夢は手にしたものを夢映の手に差し出した。
空気が一気に気まずさに沈んだ。
真夢は床から立ち上がり、壁に寄りかかって頭を掻いたが、やりにくく感じて鼻梁を揉んだ。手に残る香りがますます居心地を悪くさせた。夢映はすぐにパンツを荷物の中に戻し、しゃがみ込んで黒猫に散らかされた衣類を片付け始めた。すぐに片付け終わったが、それでも彼女はしゃがんだまま起き上がらず、指で荷物の端を何度も撫でていた。
二人とも口を開かず、沈黙が瞬時に空気中に広がった。
一分ほど経って、夢映がしゃがみ続けるのに耐えかねて、先に口を開いた。
「……そうだ、もう一つだけ。私……どこで寝ればいいですか?」
衣類の入った荷物を脇に押しのけ、さらに大きな荷物を引き寄せた。中には布団のようなものが入っているようだった。
「寝室で寝ればいい。場所は心配しなくていい。君はベッドで、俺が床に寝る。」
「そんなのダメですよ。私のようなよそ者が家主のベッドで寝るなんて、申し訳なさすぎます……」
言葉の上では主客の区別を言っているが、その言葉の奥には男女の別もかすかに浮かんでいた。真夢は言葉から情報を読み取る習慣から、そのニュアンスを正確に捉えていた。
「安心しろ。君はもう俺を家主だと思ってくれているんだから、俺が気にしないと言ったら、それで構わない。あまり深く考えず、自然にしていればいい。」
「うぐぅ……分かりました。」
彼があっさりと言うので、夢映もほっと息をついた。
その後、夢映は寝具の入った袋を提げ、残りの荷物を壁際に引き寄せ、何も忘れていないことを確認してから、真夢の後ろについて寝室に入った。
寝室は暗く、窓の外の月明かりと、ナイトテーブルの上の電子時計の微かな明かり以外に、ほとんど光源はなかった。
しかし真夢は明かりのことは気にせず、ベッドのそばに行き、自分のシーツと布団を畳んで片側に置き、床にマットレスを敷き、布団をベッドから下ろした。
「真っ暗ですね……明かりはあったはずですけど……」
夢映は闇に目が慣れるまでにしばらく時間がかかり、壁を手探りでスイッチを探し当てて押した。
しかし、予想通りの明かりは灯らず、闇はそのままだった。
「え……? 壊れてるんですか?」
もう一度押しても、結果は同じだった。
「ずっと前に壊れたんだ。普段は明かりをつけないから、特に気にせずそのままにしている。」
真夢が明かりの状況を説明すると、床の準備も整っていた。彼は脇に立ち、手を叩いて埃を払った。
「よし、君のものを片付けろ。この工程には俺は参加しない。」
そう言い残して真夢は寝室を出て、出る前に机の上のスタンドライトをつけ、洗面所へと向かった。
その理由は、一つは夢映に片付けの時間を一人で与えるためであり、もう一つは自分も顔を洗って今日の疲れを流したいと思ったからだ。それに、あの猫、あの小さな騒動を引き起こした黒猫を探したかった。
リビングで猫の姿が見えなかったので、真夢はリビングの明かりを消した。暗い環境の方が彼には慣れていたし、寝室の方はスタンドライトの明かりがあれば十分な安定光源になるだろう。
洗面所に入り、蛇口をひねり、水をすくって顔に叩きつけ、両手を洗面台に付けた。その一連の動作を終えると、真夢は長く息を吐き出した。
右手には依然として包帯が巻かれていた。ほとんど水で濡れてしまったが、今は外すつもりはなかった。傷がないなら、濡れた包帯はせいぜい冷たいだけだ。しかし外してしまえば、明日また栞に見つかって、説教されるのは必定だった。
そう考えながら顔を上げると、鏡の中の自分と目が合った。目の下のくまはまだ濃いが、眼球の周りの赤い筋はいくぶん和らいでいた。顔色は青白く、暗闇の中でも――
鏡の中の自分の顔色が異常なまでに白かった。
次の瞬間、鏡の中の「真夢」の首元から大量の血が滲み出し、眼球が制御不能に上を向き始め、皮膚が少しずつ血の気を失っていった。もう一度瞬きすると、その異様な光景は一瞬で消えた。
それに対して真夢は特に驚きはしなかった。ただ心臓がかすかに震えただけだった。
今日――いや、今夜、この一時間余りの間に起きた出来事は多すぎた。鏡の中の首から血を流す幻覚、死のフラッシュバック、夢映の胸の苦しみ、黒猫の名前への反応、自分が黒猫に感じた既視感、そして玄関先であの見知らぬようでいてどこか馴染みのある気配。様々な異変が絡み合い、背筋が冷たくなる一方で、どこかはっきりとした輪郭が見え始めていた。
――これらすべての源は夢の中にある。
間違いなく、自分がこれらの感覚を持っているのは今夜の夢と関係がある。最も顕著なのはあの死の映像だ。今夜経験するかどうかは確かではないが、発生する場所は必ず夢の中である。
そしてあの黒猫も、おそらくこれと無関係ではない。夢の中で彼と夢映の行動に影響を与えるだろう。クローリアのようにどこかの位置から密かに支援するのか、それとも直接夢に現れて一緒に行動するのかは分からない。
「今夜の夢には……いったい何が待っているんだろう……」
真夢は独り言のように低く呟き、タオルで顔を拭いて洗面所を出ようとした。
しかし、黒い影が行く手を塞いでいた。
それが何かを確認して、真夢は軽く笑った。
「……見つけたぞ。それとも、自分からやって来たのか?」
外にいたのはあの黒猫だった。今は真夢をじっと見つめ、その両目は暗闇の中で微かに光り、まるで琥珀の粒のように輝いていた。
「先に言っておくが、俺は君に悪意はない。安心しろ。あの名前が誰のものかは確かではないが、どうやら君に関係があるようだ。なぜあの名前を口にしたのかは分からないが、君が思っているような悪人ではないことは保証する。だからあまり警戒しすぎないでほしい。もし分かったなら、片方の前足を上げてくれないか?」
黒猫が動かないうちに、真夢はすぐに自分の立場を明らかにした。
今夜の夢にこの猫が関わる可能性が高いことは分かっていた。敵か味方かはまだ分からないが、それは後で考えればいい。今はまず相手の警戒を解くことが先決だった。
黒猫の耳が微かに動いた。どうやら言葉を理解したようだ。しかしすぐに前足を上げることはせず、真夢のそばに近づき、彼の周りを嗅ぎ回り、半周ほど回った。
「……?」
真夢はその意図が分からなかったが、無駄に動かず、ただ静かにその場に立ち、黒猫が足元を行ったり来たりするのを任せていた。
しばらくして、黒猫はようやく彼の前に来て、片方の前足をゆっくりと上げた。頭はわずかに横に向けられ、少し迷いがあるように見えたが、結局は上げた。
「よし、それなら君も同意したということで。」
そう言って、真夢は手を伸ばして猫の頭を撫でようとした。しかし黒猫は頭をひねって避け、そのまままっすぐに寝室へ向かって歩いていった。真夢は少し寂しさを感じたが、すぐに気を取り直し、その後ろについて寝室へ戻った。
寝室では、夢映が一人でベッドの端に座っていた。布団は整えられ、スタンドライトも消されていて、部屋全体が再び半ば薄暗い状態に戻っていた。
彼女は窓の外の空を見つめ、月明かりがその顔に降り注ぎ、冷たい銀白色に染まっていた。その横顔の線には、普段よりも深い憂いが隠されていた。
「何を考えている?」
「あ、いえ……何でもありません。」
真夢の声を聞いて、夢映は慌てて答えたが、すぐにまた窓の外に視線を戻した。
「……私は、人は死んだらどこへ行くのかなって考えていました。」
夢映は夜空を見つめながら、突然憂鬱な口調で言った。それは夜空に問いかけているのか、真夢に問いかけているのか、それとも自分自身に問いかけているのか、判然としなかった。
「人は死んだら天国に行くとか、星になるとか、幽霊になって世界をさまようとか、あるいは何もないとか、いろいろ言われています。だから私は、人は死んだら本当はどこへ行くのかなって……死んだ後の世界って、どんなところなのかなって……?」
夜風が窓の隙間から入り込み、彼女の肩の髪先を揺らした。今の彼女は月明かりに形作られた像のように、静かで、そして儚かった。
机の前に立った真夢は、彼女の背中を見下ろしながら、長い間沈黙した。
「おそらく……人は死んだ後、夢の中で自由に生きるのかもしれない。」
「え……?」
夢映が振り返って彼を見た。
「よく言われる説の他に、永眠というものもある。死とだいたい同じだが、私は永眠の方がいいと思う。この世を去った人は、夢の中に戻って、束縛されず、自由に生きる。」
「でも……夢の主な源は脳にも関係していますよね? 人が死んだら、脳も徐々に消えていくのでは……」
「もちろん。ただ、夢はもともと儚く、自由奔放なものだ。だから、脳が夢を導くのではなく、夢が脳を導くのかもしれない。」
「そうなんですね……」
夢映は小さく応えた。彼女の視線は再び窓の外に落ちたが、月明かりの清らかな光に照らされて、その目尻に何かがきらめいているのが真夢には見えた。
「……何か悲しいことを思い出したのか?」
真夢は声を緩めた。
夢映はすぐには答えず、うつむき、指で膝の上の布地をそっと握った。
「……実は、私がこうしてこの街で頑張っているのは、帰る場所がなかったからなんです。」
彼女の声は先ほどよりもか細く、しかし先ほどよりも落ち着いていた。
「子供の頃、両親が離婚して、私はずっと祖母と暮らしていました。私にとって祖母は唯一の家族でした。でも……つい先日、突然彼女が亡くなってしまいました。あまりに突然で、別れの言葉すら言えませんでした。葬式の後、両親がそれぞれ新しく作った家庭に私を迎えに来ました……でも、その家はもう、祖母が去った日に存在しなくなっていました。」
彼女は淡々と語った。しかしその平静な言葉の底には、何か重いものが微かに震えているのが感じられた。
「それで……私は祖母がその間に私のために貯めてくれたお金を持って、一人でここに来ました……」
そこまで言って、涙が彼女の頬を伝った。嗚咽も、すすり泣きもなく、ただ静かに流れ落ちていく。
しかし、声を上げて泣くよりも、無言の涙の方が苦しいものだ。
「……おそらく、私がもっと考えているのは自分のことなんでしょう。私はいったいどこへ行けばいいのか。本当に……どこへ行けばいいのか。」
真夢は彼女の前に立ち、何と言えばいいのか分からなかった。
精神科医として、彼はあまりにも多くの壊れた人を見てきた。診察室に座って涙を流す患者たちに、彼はいつも正確な切り口を見つけ、言葉を差し入れ、固まった結び目をそっと解いてきた。しかし今、教科書に載っているテクニックはすべて喉の奥で詰まっていた。なぜなら、目の前の少女が語っているのは病気ではなく、彼女自身だったからだ。人の家を奪われた後の空洞の形を、診断名で説明することはできない。
彼は長い間沈黙した。
夜風が窓の隙間を通り抜け、木の葉を揺らしてかすかな音を立てる。時計のチクタク音は相変わらずゆったりと動いている。おそらくこの世で唯一、何にも動じないものだ。日常の音はすべて遠くへと後退し、この月明かりに満ちた部屋と、部屋の中の二人の間にある薄い静寂だけが残された。
そして、真夢はベッドのそばに一歩近づき、ゆっくりと手を上げた。まるで相手に十分な回避時間を与えるかのように。その手はそっと夢映の頭の上に置かれ、掌には温かな感触が伝わってきた。髪は柔らかく、微かに冷たく、彼女が黒猫を抱いて家に入ってきた日のことを思い出させた。あの時は笑顔だったのに、今はまるで別人のようだった。
「人生はそもそも曲がりくねっているものだ。些細なことにこだわっていては、遠くまで行けない。生活は……前に向かって進んでいくものだ。」
声は予想よりもずっと小さかった。
言葉を口にした後、自分でも少し薄っぺらく感じた。その言葉は間違っていない。しかし今この瞬間、それは説明書のようなものに過ぎず、慰めの手紙として使われているに過ぎない。正しくても、心を温めるには届かない。
彼は一瞬間を置き、彼女から視線を外し、月明かりに洗われた窓の外の夜景に目をやった。
「正直なところ、俺は人を慰めるのがあまり得意じゃない。」
この言葉を言った時、真夢は自分でも少し可笑しく思えた。
精神科医が慰めるのが苦手だと言うのは、まるで水夫が泳げないと言うようなものだ。しかし今はそれが本当のように思えた。カルテを自叙伝に変えてしまった人に向き合うとき、専門用語は何も役に立たなかった。目の前の夢映は、診察室で分析されるべき対象ではなく、キッチンで彼の手伝いをしてくれたり、猫を抱いてベッドの端に座ったり、彼の名前を聞いて顔を赤らめる、一人の生きている少女だった。
「でも、一つだけはっきりと言えることがある。」
視線を戻し、うつむいて夢映を見た。夢映も顔を上げた。涙の跡がまだ頬に残り、その目は月明かりと涙に濡れて、ひときわ輝いていた。
「もし君が望むなら、ハイリス病院もここも、君の帰る場所になる。栞も、健も、鈴も……みんな君の友達であり、家族になれる。君はどこかに置き去りにされたわけじゃない。だから……過去に縛られすぎるな。考えすぎると……人は良くない夢を見るものだ。」
真夢の言葉を聞きながら、夢映はうつむき、顎を膝の上に埋め、両腕で膝を抱え、全身をより小さな輪郭に縮めた。
「……ここも……私の帰る場所になれるんですか?」
声は先ほどよりも低かった。
「もちろん、君が望むなら。」
「…………はい。」
ただの短い返事だったが、その中に何かが緩んだのを真夢も感じ取った。
月明かりに照らされて、彼は夢映の今の表情もはっきりと見ることができた。笑っているような、しかし心照らすような。泣いているような、しかし惜しむような。口元の弧がわずかに上がり、目の端の涙の跡はまだ乾いていない。その表情は、古い雨と新しい晴れ間が同時に停泊しているかのようだった。
真夢はそれ以上は言わず、彼女の頭の上から手を引っ込め、体の横でゆっくりと握り、そしてまたゆっくりと開いた。
「さて、もう遅いし、早く休もうか?」
「はい……」
夢映はそう応えて、横向きに寝返りを打ち、窓の方を向いて横たわった。月明かりが彼女の背中に降り注ぎ、薄い毛布のように広がった。
真夢はベッドを離れ、自分の床の間へ向かった。しかしすぐに横たわらず、まず机の前に立ち、引き出しを開けた。
引き出しの一番奥に、白い薬瓶が置かれていた。
手にした薬瓶を見て、真夢は自分がなぜこんなことをしているのか分からなかった。今の夢はあの頃の夢とは全く異なり、たとえ薬を飲んでも、せいぜい薬としての基本的な補助効果しか得られないだろう。
しかし彼はそれでも薬瓶を開け、そこから三錠を取り出し、いつものようにそのまま飲み込んだ。飲み込んだことを確認してから薬瓶を閉め、引き出しに戻した。それらを終えてから、真夢は自分の寝床に戻った。
横たわる前に、無意識にベッドの方を見ると、夢映の身体は微かに上下し、呼吸はすでに均等で長くなっていた。どうやら深く眠りに落ちたようだ。
「……本当にすぐに眠れるんだな。」
真夢は独り言のように小さく言い、横たわって目を閉じた。意識がゆっくりと緩み始める。
その時、ベッドの上からごくかすかな声が聞こえた。
「……ありがとう。」
真夢は目を開け、口元がわずかに上がった。
――夢とはいったい何なのだろう?
おそらくこれからの旅の中で、ほんのわずかな答えを得られるのだろうか。
そう考えながら、意識が離れ始める。目の前の闇がゆっくりと深く、遠くなっていく。
意識が完全に剥離する直前、自分の手のひらに毛深い感触が伝わってくるのをかすかに感じた。温かくて柔らかく、何か小さな生き物がそこに丸まっているようで、一緒にこれからやってくる夢の中へと沈んでいくようだった。
しかし、それ以上考える余裕はなかった。意識は少しずつ再構成され、変形していく。
そして、彼は今夜の夢に入った。




