夢章二 17 『錨点回帰』
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……
入り口に差し掛かると、昏い黄色の灯りが足元の小さな範囲を照らしていた。
真夢はドアノブを回し、扉を押し開けて中へ足を踏み入れた。家の中からは暖かな白色の光が溢れ出し、彼の視界を満たした。家具たちの影も灯りに照らされて浮かび上がる。テーブル、ソファ、戸棚——どの物体も在るべき場所にあった。
しかし、あまりにも当たり前のその光景が、むしろ真夢には異様に映った。自分が家の明かりがついている場面を見るのは久しぶりのことだった。特に夜の時間帯はなおさらだ。そのため、その光景を見た瞬間、自分の家が一瞬見知らぬ場所に感じられ、彼はその場で二秒ほど立ち尽くした。
軽く頭を振ってから、真夢は中へ進んだ。その時、キッチンの方からかすかな物音が聞こえてきた。
「……?」
音の方へ目を向けると、冷蔵庫のドアが開いており、夢映がその前に立ち、あごに手を当てて何かを考えているようだった。
「夢映、何をしているんだ?」
「あ——今晩のご飯を研究中なんです……で、でも、勝手に真夢さんの冷蔵庫を開けたわけじゃなくて、その、ご了承いただけると……」
夢映の声が冷蔵庫のドアの向こうから聞こえてきた。少し申し訳なさそうな口調で、指が無意識に互いを突いている。
「気にしなくていい……それに、まさかお前が料理をするとはな。」
「前は一人暮らしだったので、どうしても生活スキルを身につける必要がありましたから。」
「そうか、それは意外だったよ……じゃあ、頼む。」
そう言って、真夢は一束の本を手に寝室へ向かった。
ちょうど寝室のドアを押し開けようとした時、視界の端に黒い影が映った。
「——!」
異変に気づき、真夢はすぐに振り返り、その影に視線を固定した。
それが何かを確認してから、緊張感はようやく和らぎ、代わりに困惑が湧き上がった。
「……猫?」
一匹の黒猫が廊下の曲がり角の床に座っていた。尾は静かに前足を囲むように巻かれ、その視線は真夢にまっすぐに向けられていた。その毛色は周囲の影とほとんど溶け合っていたが、胸の部分にあるひし形の白い斑だけが照明の下ではっきりと浮かび上がり、まるで切り取られた月の光がそこに貼り付けられているかのようだった。
「あの……この猫は栞さんが私を送ってくれた時に、二人で路地で出会ったんです。行く場所がなさそうだったので、勝手に連れて帰ってしまいました。もし……迷惑だったら、明日には保護施設に連れて行きます。」
夢映がキッチンから半身を乗り出して言った。その口調には迷いが混じり、視線は黒猫と真夢の間を行き来していた。
真夢はすぐには答えず、本を床に置き、しゃがみ込んで目の前の黒猫を見つめた。黒猫もわずかに顔を上げて真夢を見つめ、一人と一匹の視線が交わった。
「……」
黒猫の目は照明の下で淡い黄褐色の光を放ち、まるで動く宝石のようだった。真夢はその目を見つめて、何とも言えない感覚に襲われた。何かがこの視線を通して伝えられているような気がしたが、その内容は理解できなかった。
しかし、思考よりも先に身体が動いた。真夢は無意識のうちに手を伸ばし、黒猫の耳の後ろの毛に触れていた。
(なんて滑らかなんだ……)
手のひらで黒猫の背中を優しく撫でると、その感触が彼に安らぎを与えた。黒猫は彼の手の下で目を細め、喉の奥からゴロゴロという低い音を立て、頭を彼の手のひらに擦り寄せた。
彼はこういった小動物に触れる機会がほとんどなかった。子供の頃も機会はなく、大人になってからも自ら近づくことはなかった。だから、これはおそらく彼が初めて本物の猫に触れた瞬間だった。
(可愛いな……)
黒猫が目を閉じ、彼の手のひらに寄り添う様子を見て、真夢の口元がわずかに緩んだ。
しかしすぐに、その弧は中途半端なところで止まった。
(………………?)
真夢の手のひらが空中で止まり、そのまま下ろされることはなかった。
おかしい。
なぜこんな感覚がするのか?
掌に伝わる毛の感触は心地よく、黒猫のゴロゴロという音も普通だ。しかしなぜこの光景に既視感があるのか?
「真夢さん、笑ってます?」
その時、横から声が聞こえた。
顔を向けると、夢映が腰をかがめて、彼の顔を覗き込んでいた。
「いや……誤解するな、俺はこういう動物には興味がない。」
声は自分が思っていたより低かった。
そう言い終えて、真夢はゆっくりと立ち上がったが、その視線は依然として黒猫に留まっていた。
「ああ……そうですか。確かに興味はなさそうですね。」
夢映は彼の表情を見て、肩をわずかに落とした。
夢映の反応には構わず、真夢の視線は次第に黒猫の目へと移っていった。黒猫の縦瞳を見つめながら、彼の心には言いようのない違和感が芽生えていた。
しかしすぐに、その奇妙な感覚は次第に既視感によって覆い隠されていった。結局、彼も何度も見覚えのある光景を経験してきた。見覚えのある光景、見覚えのある動作、見覚えのある場所。これはきっとただの既視感に過ぎない。
「ひとまずこの猫はここに置いておこう。行く場所がないなら、数日経ってから改めて考える。」
「え? 本当ですか?」
夢映の声が一気に明るくなり、その目も輝きを増した。おそらく真夢がこんなにあっさり了承するとは思っていなかったのだろう。
「ああ。ここに置いておくのは悪いことじゃない。それに……この猫に話したいことがいくつかある。」
なぜ自分がこんなことを言ったのか、真夢には分からなかった。猫と話す? 確かに荒唐無稽に聞こえる。
しかし、口に出した瞬間、その言葉に何の違和感もなく、むしろそうすべきだと思えた。
夢映は首をかしげ、おそらくその言葉が少し変に聞こえたのだろう。しかし彼女はそれ以上問わなかった。彼女の認識では、真夢がそう言うのにはそれなりの理由があるのだろう。
少なくとも、彼女はそう思うことにした。
「分かりました……それでは、先に夕飯の準備を進めてしまいますね。」
「ああ、頼む。」
そう言って、夢映はキッチンへ向かい、その足音はやがて食器の軽い音の中に溶けていった。
真夢は腰をかがめて黒猫を抱き上げ、リビングへ歩き、ソファに腰を下ろした。そして黒猫を自分の膝の上に置き、その全身の細部を注意深く観察した。毛並み、目、爪、耳——もつれもなく、汚れもなく、傷もなく、毛はきちんと手入れされた清潔な光沢を放っていた。
確認を終えると、真夢は両手でそっと黒猫の頭を包み込み、その目を自分の目に合わせた。
「……俺は、前に君に会ったことがあるか?」
声には探るような迷いが混じっていた。
返事はなかった。
黒猫は何の音も発さず、じっと真夢を見つめていた。何かを聞いているようでありながら、何も聞いていないかのようであり、あるいは彼の次の質問を待っているかのようでもあった。
実際、何の害もない一匹の猫を疑うことを選ぶ者はいないだろう。しかし、どうしても真夢はこの件に不審を抱かずにはいられなかった。特にこの猫に関しては、今夜何かとんでもないことが起こるという予感があった。そしてその疑念は消えることなく、彼の心に留まり続けていた。
この黒猫を見つめながら、真夢の唇が動き、次の質問を口にした。
「君は……俺と何か関係があるのか?」
「ニャ……?」
語尾がわずかに上がり、疑問形のような響きだった。
黒猫の反応が耳に入り、真夢は微かに眉をひそめた。
確信は持てなかった。先ほどの反応が質問に対する答えだったのかどうか。もし本当にそうだとしたら、あの鳴き声は何を意味するのか? 知らないのか、それとも分からないのか? それとも彼はただの猫に過剰に解釈を加えているだけなのか?
状況はますます捉えどころがなくなっていた。
「俺は……現実で……いや、夢で……いや、一体何を尋ねればいいんだ……」
真夢は首を振り、自分が尋ねるべき言葉を考えた。
「君は……夢に関係があるのか?」
「ニャ~」
今度の返事は明確だった。抑揚もなく、ただのストレートな鳴き声で、短くはっきりとしていた。
しかし、あまりにも明確な返事だったからこそ、真夢の心の中の違和感はさらに深まった。
今のところ、この猫は確かに彼の質問に応じているように見える。しかし、なぜ一匹の猫が彼の質問を理解しているのか? なぜこんな方法で自分が夢に関係していることを示すのか? それとも、この猫自体が夢と深く結びついているのか?
「君は——」
真夢がまだ困惑していると、キッチンから食器のぶつかる音が聞こえてきた。
どう聞いても普通の調理の音には思えなかった。
その音を聞いて、一人と一匹は同時に顔をそちらへ向けた。真夢は黒猫をソファに置き、自分は立ち上がってキッチンへ向かった。
「どうした? 何かあったのか?」
真夢はキッチンの入り口に立ち、中を覗き込んだ。
中で何が起きたのかを確認してから、真夢は微かにため息をついた。散らかり放題というわけではないが、決して整然としているわけでもなかった。二つのステンレス製のボウルがなぜか床に落ち、その隣では無辜の卵が粉々に割れて、その液が床に広がっていた。
夢映はというと、その場に立ち尽くし、どうしていいか分からない様子だった。
「……説明してくれるか?」
真夢の口調には諦めが混じっていた。
「そ、それは……本当にわざとじゃないんです……す、すぐに片付けますから——」
夢映はすぐにしゃがみ込み、二つのボウルを拾ってシンクに置き、布巾で床の卵液を拭き取り、あっという間に床は元通りになった。
床を掃除する夢映を見ながら、真夢は自分の頭の中のどこかで何かがかすかに引っかかるのを感じた。
彼はこの状況に不審を覚えた。
「ところで……さっき何か異様な感覚はなかったか?」
「異様な感覚……?」
「そうだ。さっき何か変な感覚があったから、うっかり物を落としたんじゃないのか?」
それを聞いて、夢映は布巾を元の場所に戻し、顔を上げて少し考え込んだ。
「そう言えば……確かに変な感覚がありました。急に腕に焼けるような痛みが走って、それでうっかり物を落としてしまったんです。」
その口調は自然で、嘘をついているようには見えなかった。
真夢はキッチンの入り口に立ち、視線を夢映の顔に留めたまま、すぐには言葉を返さなかった。
彼女の言うあの焼けるような痛みは何なのか? なぜちょうどこのタイミングで現れたのか? 今のところ、疑問はどんどん増えている。どれも普通の、何の問題もなさそうなことばかりだ。
しかし、なぜかその疑念は真夢の心から消えずに絡みついていた。かすかに何かを思い出しそうだったが、その考えはあまりにも曖昧で、すぐにその思考を断念した。
「まあいい……一緒にやろう。」
「え? 一、一緒に何をですか?」
「夕飯を作るだけだ。あまり深く考えるな。」
真夢は近づき、シンクで手を洗い、まな板を台の上に置いた。
なぜ自分がこんなことをしているのか、彼には分からなかった。まだ解明すべきことが山積みなのに、彼はキッチンに立ち、久しぶりに真剣に夕飯を作ろうとしていた。
しかし、それでも彼はそうした。
おそらく、ただ手を動かして何かをしていたかっただけなのだろう。注意をこの数尺四方の空間に集中させ、目に見え、手に触れられるものに意識を向けることで、あの奇妙な場所について考えないようにするために。




