夢章二 16 『意識の海』
…………
……
静かだ。
あまりにも静かだ。
自分の耳がおかしくなったのではないかと疑いたくなるほどに。
そして、それに続くのは一種の静謐さだった。心臓の鼓動は穏やかで、心の内にはほとんど波立つものはなく、感情の起伏も一切ない。鎮静剤を打った時よりもはるかに強く、精神を落ち着かせてくれる。
この感覚は現実にあるものとも、夢の中にあるものとも違うように思えた。
「…………」
ゆっくりと目を開けると、そこには青空と白い雲があった。
美しかった。絵画よりも数段美しく、空の青は絵の具よりも鮮やかで、雲はそこに浮かび、白さにほとんど影がなかった。全体の光景は見る者の心を晴れやかにさせる。
ここには風がないのに、雲は空をゆっくりと動いている。あるいは、雲が自らの意思で動いていると言った方が正しいかもしれない。
この矛盾した光景は、見る者にどこか奇妙な感覚を抱かせた。
「これは……?」
喉から声が発せられた。音量は大きくないが、この広大な静寂の中ではひときわはっきりと響いた。
真夢は戸惑った。
先ほどまで自分は霧に包まれた街にいて、集団に追われながら通りを走っていた。一瞬のうちに、どうしてこんなに明るくなったのか?
そう考えるうちに、思考は次第に明晰になり、感情も戻り始め、記憶も次第に甦ってきた。一枚一枚の映像が目の前に浮かび上がる。
そうだ。自分は夢喰いに遭遇し、かろうじて斬撃をかわした後、夢映とカクと共にその視線から逃げていた。
その後、再び彼女に捕捉され、簡単な会話の末に殺されかけた。しかしクローリアが提供した方法で夢喰いは手を出せず、慌てて逃げていったが、去り際に彼女の周囲にいた者たちに攻撃を命じた。生き延びるために、彼らは遠くへ走り続けた。
夢喰いの名前は……ヴィラ。そう、ヴィラと名乗る夢喰いだ。あれこれと立ち回った後、彼女が呼び寄せた集団に追われて走り続け、そして……脚が急に力を失い、次にここにいた。
「一体どうなってるんだ……」
身を起こすと、真夢の視線は周囲を駆け巡った。すると、どこまでも続く海面が広がっていた。
見下ろすと、自分は海の上に座っている。深く見ても海底は見えず、海床さえも見えない。
この物理的な違和感に、真夢の身体は一瞬強張った。しかし、手に伝わる感触が彼に少しの安堵をもたらした。
指が海面に触れると、絹のような微かな冷たさが指先に広がった。さらに押し込むと、指先に硬い感触が返ってきた。
その時になってようやく、真夢はここで海面が立つことができる場所だと確信した。そしてゆっくりと身を起こし、海の上に立った。かかとから伝わる感触はどこか異質で、どこか滑らかだった。その感覚に、彼は一瞬の戸惑いを覚えた。
「……変だな。」
初めて海の上に立った人間にとって、この感覚は経験の範囲を超えていた。
再び周囲を見渡すと、視界に映るのは海と空だけだった。陸地も島も、鳥も船の影もない。ただ頭上をゆっくりと動く雲と、足下にどこまでも広がる海面だけが存在していた。
しかし、もう一つの異変が真夢の注意を引いた。
「……太陽はどこに行った?」
確かにここには明るさが存在し、その明るさは正午のようであり、日差しの温かさも感じられた。しかし、顔を上げて探しても、空には光を放つものは何も見当たらなかった。
安定した光源がないのに、日光はどこから来るのか?
ここに来てまだ一分も経っていないが、彼はすでに三つの異変に気づいていた——消えた太陽、風もないのに動く雲、そして立つことができる海面。どれも現実の説明の範疇を超えている。
正直なところ、小説でもこんな矛盾したものは書かないだろう。
彼がまだこれらのことを整理していると、目の前の光景が再び彼を驚かせた。
人だ。
彼と同じように海の上に立っている人々。
それらは一列に整列し、間隔は見事に揃っており、左端から右端まで一直線に並んでいる。しかし距離が遠すぎて、それらがどのような姿をしているのかはっきりと見えなかった。
真夢は目を細めて、もっとよく見ようとした。
「何を見ているんだ?」
彼が首を伸ばして前方を見ようとした時、突然背後から他の誰かが話しかけてきた。
突然の呼びかけに、真夢の神経は一瞬で張り詰め、無意識に三歩前に飛び出し、慌てて振り返って自分の背後に立っていた人物に視線を落とした。
「……ずいぶん反応が大きいじゃないか。」
視線の先には、真夢から三歩ほど離れた場所に一人の男が立っていた。彼は白いフード付きのマントを羽織り、上半身の白い長衣が脚の部分を覆っていたが、その隙間からはこの男のズボンも白いことがかすかに見て取れた。
奇妙なことに、この場所がこれほど明るく、男が全身白い服装をしているにもかかわらず、彼の顔には何も見えなかった。目鼻立ちはおろか、表情も、輪郭さえも見えず、空白すらも見えなかった。
そして今、彼の手のひらは空中に浮かんでいた。おそらく真夢の肩を叩こうとしていたのだろうが、真夢の突然の動作で空を切ったようだった。そして彼の口調にもわずかに困惑が混じっていた。
「心配しなくていい。君に危害を加えたりはしない。」
おそらく真夢が警戒しているのを見て、男は一歩後退し、両手を肩の高さまで上げ、手のひらを前に向けて、何も持っていないことを示した。
「そんな手には乗らない。前にそう言って何度も騙されたやつがいる。お前はどういう立場だ?」
真夢の声がこの広い場所に響き渡り、ひときわはっきりと聞こえた。
「君が今緊張しているのは分かっている。でも、まずは落ち着け。こんな時に焦ると、判断を誤るものだ。」
「ちっ……」
真夢は舌打ちをした。
彼はこの男の言葉を信じるわけにはいかなかった。少なくとも今は。見知らぬ場所に見知らぬ人物が現れる——どう考えてもおかしい。
何より、さっきまで彼は周囲をくまなく確認していたが、どこにも人影はなかった。この男はまるで背後から突如現れたかのようだった。
明らかに、この男の存在は特別だ。それがどれほど特別なのか、真夢は今考えようとは思わなかった。
「お前は一体——」
言葉が終わる前に、男が口を開いて遮った。
「もしこれ以上後退すれば、自分自身にぶつかるぞ。」
それを聞いて真夢は一瞬固まり、振り返った。すると、顔のない自分が目と鼻の先に立っていた。その空白の顔は腕一本分の距離もなかった。
この異様な光景に、真夢はよろめき、危うく地面に座り込むところだった。
よく見ると、先ほど遠くにあった列が、今は目の前に現れていることに気づいた。
それらの人物には共通点があった。すべて真夢であり、すべて顔がなかった。白衣を着た者もいれば、私服姿の者もいた。数ヶ月前の自分もいれば、数年前の自分もいた。
それぞれの真夢が静かに海の上に立ち、両手を体の横に垂らし、一切の無駄な動作もなく立っていた。
「これは……俺?」
左から右へと視線を移し、それらの姿をはっきりと確認すると、真夢は信じられない思いに駆られた。
男は真夢の反応を気にせず、ゆっくりと前に進み、手を上げて横に振った。すると、一列に並んだ者たちが一瞬で一つの方向へと高速で移動し、その速さは残像を残すほどだった。
最終的に、真夢の視線は列の最後尾の一つの姿で止まった。
頭部には明らかな貫通痕があり、乾いた血が額を伝ってはっきりとした跡を残していた。その他にも、大小様々な血痕が全身に散らばっていた。
「これが最後の瞬間の君だ。死んだ後、現実の君の意識は一瞬で崩壊し、脳は即座に活動を停止した。二度と目覚めることはないだろう。そして君の友人たちも……良い結末にはならなかった。」
男は哀しみを帯びた口調で言い、両手を背中に組み、静かに真夢の反応を観察した。
真夢はその場に立ち、列の最後尾の自分の額に手を伸ばし、指をその貫通痕に沿って動かした。その穴を通して向こう側の海面さえも見えた。
その深刻な傷に、真夢は悪寒を感じ、思わず唾を飲み込んだ。
「ちなみに、俺はアイエスという。この場所の管理者だ。ここは君が思うほど危険な場所ではない。一時的に休む場所だと思ってくれればいい。そんなに警戒しなくても大丈夫だ。」
アイエスと名乗る男は真夢の隣に立ち、穏やかな口調で自分の役割とこの場所の安全性を説明した。
しかし、何よりも自分が死んだという事実が真夢の脳裏にこびりついていた。
自分がこんなにもあっけなく死んでしまったことが信じられなかった。最後の一言すら残せずに。
二十五年の人生。そのうち少なくとも十数年は夢の中で過ごしてきた。しかし、本当に夢の世界を探求し始めてからはまだ一週間も経っていない。新しいことに触れたばかりで、反応する間もなく、一発の銃弾で簡単に命を奪われた。
真夢は反論し、疑問を抱きたかった。しかし、死という事実がはっきりと目の前に突きつけられた時、それらの考えは一瞬で消え去った。
「それで……ここは天国なのか?」
真夢はまぶたをわずかに伏せ、低い声で言った。諦めたように、あるいは何かを確かめるように。
「もし望むなら、ずっとここに留まるのも構わない。だが、今の状況は手の施しようがないと思うのか?」
アイエスは首をわずかに傾げ、やや無頓着な真夢の横顔を見つめた。
まさか、こんな状況でもまだ方法があるというのか?
「先に言っておくが、君がここに留まることも、過去に戻ることも許す。どう選ぶかは君次第だ。」
その言葉に、真夢の目がわずかに見開かれた。
「……過去に戻る?」
「そうだ。望むなら、君を戻すこともできる。ただし、代償がある。」
アイエスは両手を広げ、淡々と言った。
真夢は一瞬の迷いもなく、振り返り、深く息を吸い込み、そして——
「それならお願いします——!」
アイエスに向かって深々と頭を下げた。
代償など今はどうでもよかった。戻れるならそれで良かった。
自分に向かって頭を下げる真夢を見て、アイエスはため息をつき、手を伸ばして真夢の肩を掴み、その体を元の向きに戻した。
「焦っているのは分かっている。しかし、今は急ぐべき時ではない。」
アイエスは慰めるように真夢に言った。
「いや、先延ばしは辛すぎる。だからどんな方法でも構わないし、代償なら何でも受け入れる。」
「……先延ばしにしろと言っているわけじゃないんだ。」
真夢の切迫した態度にアイエスは戸惑いを隠せなかった。彼が口にした代償は、真夢にとっては全く負担にならないようだった。
「分かった。それならば……」
アイエスは反対方向に手を振り、そして突然止めた。列の中に、一人の普通の真夢が立っていた。傷も血痕もない。
「これは君が家に帰ったばかりの時間だ。戻ることを確認したら、その時点に送ることができる。ただし——」
アイエスは列の最後尾を指さした。
「——代償として、この期間以降のすべての記憶を失うことになる。そして、ここでの出来事も忘れる。次に君がこの場所に来るまで、それらを思い出すことはない。つまり、戻った後は記憶上の助けは一切得られず、同じ過ちを繰り返す可能性もある。それでもいいのか?」
アイエスの問いに、真夢はしばらく沈黙した。
この期間以降のすべての記憶を失い、すべてをアンカーポイントにリセットする。それは無意味な選択のように聞こえる。しかし真夢にとって、これは選ばざるを得ない選択だった。
彼はここで終わるわけにはいかなかった。
「……構わない。やってくれ。」
真夢は振り返り、アイエスに向かって確固たる口調で言った。
「分かった。それでは、向かいの自分の胸に手を当てろ。三つ数える間に、息を止めていればいい。」
真夢は手を伸ばして前方の自分の胸に当て、目を閉じた。
アイエスは真夢が指示通りに動いたのを確認してから、数歩後退した。
「一……」
その言葉が終わるや否や、真夢は落下感に襲われた。全身の血液が一気に頭に向かって押し寄せた。
「二……」
続いて、自分が水中に沈むのを感じた。冷たい海水が身体を包み込み、全身が震えた。
「三。」
その言葉が終わると、意識は一瞬で砕け散り、そして再構成された。脳は撫でられたかのように、一時的に思考を停止した。
やがて、周囲のものが少しずつ消え始めた。真夢が消え、アイエスが消え、列を成していた者たちも消えた。
最後に、海面は静けさを取り戻した。




