夢章一 4『入夢』
浮遊感が全身に満ちていくにつれて、現実世界の時計の音も真夢の脳裏から次第に遠ざかっていった。夢と結合するときに生じる粘着音や、情景が切り替わる際の気流の音へと変わりゆく。それに伴って、自分の耳から聞こえてくるドクドクという音もあった。
続いて、真夢は自分の身体が誰かに勢いよく掴まれ、水の中に引きずり込まれるかのように感じた。そしてすぐに突如として落下感が襲い、真夢の全身の筋肉が一瞬で緊張した。
本来であれば、全身の筋肉が緊張した後には、身体の震えが続き、そして夢から覚醒して現実に戻る——それが脳の反応だ。脳はしばしば運動神経を通じて自分がまだ生きているかどうかを判断する。入眠時には運動神経が抑制され、筋肉が完全に弛緩し、身体が麻痺する、それによって脳は身体がまだ生存状態にあるのかを判断する必要がある。真夢は誰よりもこのことをよく理解していた。
しかし真夢にとって、この感覚はまったく——
「まったく——誰かにどこかへ引きずられているかのようだ……」
真夢は鋭く、自分が今まさに現実と夢の境界線上に立っていることを察知していた。間もなく、彼は完全に夢の世界へと足を踏み入れるだろう。
「……ならば。」
彼は深く息を吸い込んだ……少なくとも、意識の上ではその動作を行った。
「このすべてが一体どうなっているのか、見届けてやろう。」
真夢はそう考え、夢の奥深くへと踏み込む覚悟を固めた。
その時になって初めて、真夢は一つのことに気づいた。
自分がこれほど明確に「夢に入っていく」という意識を持ったことは一度もなかったのだ。これまではいつも夢の中で「受動的に」漂っていた。しかし今回は違う。自分が「能動的に」現実と夢の境界線上に立っていることを認識しており、そして何かしらの力によって反対側へと引きずられつつあるのだ。
微かな耳鳴りが一瞬走り、真夢は自身の夢の中へと辿り着いた。
目を開けると、目の前の光景に彼は一瞬呆然とした。
「ここは……」
真夢はこの異様な光景を見て、その場に立ち尽くし、どうすればいいのか分からなかった。
目の前には、今日見たあの本棚が赫然と現れていた。本棚の外枠には流線型の装飾が刻み込まれ、心を奪われるような書物の香りが漂っている。
本棚の高さは相変わらず天を衝き、その上の本もまた寸分の狂いもなく、様々な書物が並べられていた。唯一異なるのは、周囲の黒い霧が跡形もなく消え去っていることだった。
その時、真夢が振り返ると、さらに驚くべき光景が目に飛び込んできた。
「これは……いったい……」
そう、真夢の目の前にあるこの本棚は、彼の視界の届く限りどこまでも広がっていた。
見渡す限りの本棚の群れ。それらの間隔は完全に均一で、整然と並び、人間の及ぶところではないほどの規則正しさだった。どの本棚も天井すら見えず、何かしらの虚無へと直接突き刺さっているかのようだった。
その荘厳な神聖さに、真夢の胸は強く打ち震えた。
しかも、よく見れば、これらの本棚に並ぶ本はすべて異なっている。
そして各本棚に収められた書籍の数も異なっていた、まるで本当に誰かがここでこれらの書物を整理しているかのようだった。
「秩序感か?いや、集合的無意識……違う違う。」
職業柄、真夢はまず自分の夢の世界を分析しようとしたが、どう考えても正確な答えは見つからなかった。
目の前の光景を見つめながら、彼は胸の奥が詰まるような感覚に襲われた。
突然、真夢は何かに気づいた。
「……違う、まさか?」
真夢は自分の手を強く握りしめ、舌の先を噛んだ——すると一瞬にして、ある種の現実感が脳裏に流れ込んできた。
「……ありえない。」
信じられない真夢はさらに強く舌先を噛んだ。痛みが舌先から次第に伝わってくる。血が出るまで噛み続けてようやく止めた。
この痛覚は以前の感覚とは異なり、完全に現実世界でのそれと同じだった。
その時、真夢は一つの恐ろしい結論に辿り着いた。
「ありえない……絶対にありえない……ここは……現実世界……?」
真夢は指の腹で自分の舌先を触った。その痛覚と血液は、すべてがあまりにも現実的だった。
「いや……夢の中でもこういう現象は起こる。夢の中で痛みを感じたり血が出たりするのは私にとっては普通のことだ。それにこんな場所が現実世界にあるはずがない。きっとそうだ、きっとそうだ……」
自分の指先に付着した温かく、リアルな血を見つめながら、真夢の内心はますます揺らぎ、口の中で絶えずこれらの言葉を呟き続けた。
その時の真夢はまだ気づいていなかった、自分がすでに精神崩壊の瀬戸際に立たされていることに。
この場所からの視覚情報量があまりにも膨大で、彼は一瞬で臨界値にまで達していた。間もなく、真夢は夢の縁へと戻り、そして瞬時に覚醒するだろう。
前提として、彼が自分が今いる場所が夢なのか……それとも現実なのかを明確に区別できればの話だが。
「くそくそくそ、一体全体どうなってるんだ————!」
何らかの理由で、真夢の感情は次第に激化していった。
両手は止めどなく震え、脳は引き裂かれるかのように絶え間なく彼の意識と神経を刺激し、額には一瞬で冷や汗が浮かび、耳の中ではドクドクという音が響き渡っていた。
真夢が意識崩壊に達するまで、あと一歩だった。彼が再び顔を上げて果てしなく広がる本棚の群れを見れば、またしても視覚的衝撃を受けるだろう。そして脳がその情報を処理しきれず、意識の崩壊は時間の問題だった。
「まずい、早く————」
真夢は自分のポケットに向かって手を伸ばし、普段服用しているあの薬瓶を探そうとした。
しかし手に触れたのは、何もない布地だけだった。薬などどこにもない。
いや、そもそもポケットなど最初から存在していなかった。
「何……?」
空っぽの手のひらを見つめながら、真夢は自分がすでに認知の異常な状態に陥っていることにまだ気づいていなかった。
このままでは、真夢は完全に崩壊の淵へと足を踏み入れてしまうだろう。
その時、周囲から一人の女の声が聞こえてきた————
「狭間真夢、で間違いないわね?」
「誰だ!」
突然背後から声が聞こえ、真夢は振り返った。
影がまるで両手で中央から引き裂かれるかのように、ゆっくりと両側へと退いていった。目を凝らすと、一人の人影がゆっくりと姿を現した。
二十代半ばほどであろうか。藍灰色の長袍をまとい、その裾からは幽かな青い光が漏れている。墨色の長い髪が肩に垂れ、細長く均整のとれた四肢が、柔らかな身体の曲線を描き出していた。その顔立ちは決して華やかではないが、ひとたび目を離せなくなるような静かな気質を湛えていた。白く滑らかな素足は見えない地面の上に立っており、一歩ごとに微かな足音を立てている。最も目を引くのはその瞳だった——蛍光のような青い瞳が、なめらかな肌に映え、妖艶でありながらも不気味な印象を与える。ひと目見ただけで、心の中の不気味さが一段と深まるかのようだった。
正体不明の女を見て、真夢はまず後退し、彼女との距離を保った。一方の女は真夢の約五歩手前で立ち止まり、それ以上は近づこうとしなかった。
「あなたが狭間真夢、で間違いないわね?」
女は首をわずかに傾げ、同じ質問を繰り返した。同時にその視線は絶え間なく真夢の全身を物色するように動き、まるで久しぶりに手に入れた収蔵品を鑑定するかのようだった。
「そうだ。お前は誰だ?」
「やっと————」
女の声は、先ほどのあの貫通的な声とはまったく異なっていた。むしろより柔らかく、布で包まれた刃物のような響きを帯びていた。
「————あなたはようやく、この場所に辿り着いたのね。」
「どういう意味だ……?お前は一体何を言っている?お前は誰なんだ!」
感情が高ぶる真夢に対して、女は微かに微笑んだ。
「私の名前はコロリア。ただのコロリアよ。」




