夢章二 8 『帰路の途中で』
意識がゆっくりと水面へ浮かび上がっていく。
耳に届くのは、何かリズミカルな音。かかとが金属の表面を叩くような音だ。次に、柔らかな呼びかけの声が聞こえてくる。遠くから徐々に近づき、彼女の意識の殻を一層ずつ貫いていく。
「夢映、夢映——」
「ん……」
夢映がゆっくりと目を開ける。まぶたの重さはまだ完全には取れていない。
顔を上げると、自分が栞の肩に寄りかかっているのが分かった。身体の重心はしっかりと支えられていて、列車の揺れで滑り落ちることはない。いつしか上着がかけられている。
「やっと起きたね……寝たまま降ろすところだったよ。」
「ご、ごめんなさい……」
「もう着いたよ。行こうか?」
周囲を見渡すと、車内の乗客はだいぶ減っていて、数人が座席に残っているだけだ。それぞれがスマホを見下ろすか、窓の外を眺めている。
「はい……」
身体を起こし、上着を栞に返す。手のひらで顔を上下に撫でてから、ゆっくりと息を吐き出した。
栞が上着を着直し、車両を出る。夢映もその後について、駅を出た。
地下鉄の出口を出ると、外の空は入る前よりもずっと暗くなっていた。太陽は完全に沈み、西の地平線にわずかに細い暖色の線が残るだけだ。空は地平線から上に向かって、深い青から藍紫へと変わり、低く垂れた雲が星の一部を隠し、その光を明滅させている。
空気には夕方特有のひんやりとした冷たさがあり、駅構内の一定の温度とははっきりとした対比をなしている。街灯はすべて点灯し、路面に一連の白い光の輪を落としている。
「ねえ、夢映。」
「はい?」
「さっき、何の夢を見てたの? ずっと『知ってるか』とか『知らない』とか言ってたけど。」
「な、何でもないです。ただ最近眠りが浅くて……変な夢を見るんです……」
栞が横を向いて夢映を見る。その目にはわずかな疑念が浮かんでいる。
「……そう。どうやら君は本当に真夢と一緒みたいだね。寝言の言い方までそっくりだよ。」
「え? そうなんですか?」
「そうだよ。二人とも変な夢を見るし、寝言で訳の分からないことを言って、聞かれると『何でもない』って言うんだ。」
それを聞いて、夢映はうつむき、両手を胸の前で重ね、指の腹を押し始めた。爪が皮膚に白い跡をつけては、すぐに元の色に戻っていく。
「でも、真夢の場合は単に言いたくないだけで、君は言い出しにくいんだろう?」
「それは……」
「心配しなくていいよ。言いにくいなら詮索しないから。でも、もし手伝えることがあれば、教えてほしいな。」
栞がそっと夢映の肩に手を置き、優しい笑顔を見せた。
夢映はまばたきをして、顔を上げて遠くの通りを見つめた。彼女たちは地下鉄の出口の階段を上り、交差点に差し掛かっていた。遠くにコンビニが見え、白い灯りが内部から外へと溢れ、入口付近の地面を照らしている。歩道沿いの木々はまっすぐに立ち、風が梢を揺らして葉をさらさらと鳴らせている。
ごく普通の光景なのに、なぜか言い表せない違和感があった。
「……栞さん。」
「なに?」
「もし……もしもですけど、私の言うことが本当だったら、信じてくれますか?」
「……?」
首をかしげ、栞の表情に疑問が浮かぶ。
「君が言うことが本当なら、もちろん信じるよ。どうしてそんなことを聞くの?」
「だって……私が言いたいことは……ちょっと信じがたいかもしれないけど、本当に経験したことなんです。」
「……」
街灯の光が上から降り注ぎ、夢映の輪郭を薄く白く縁取る。
栞の目が夢映の顔に留まる。そこには飾りのない誠実な感じがあった。その表情に、栞は足を止めた。
「……言ってごらん。信じるから。」
「本当ですか? ありがとうございます。では、そのまま言いますね————」
…………
……
「——以上です。」
言い終えると、夢映は全身の力を抜き、ほっと息をついた。
「つまり、変な生き物が現実に侵入していて、夢の中で追いかけられている。そして、夢の中には守夢人がいる、と。」
「だいたいそんな感じです……」
栞は腕を組み、軽くあごに手を当てて、視線を夢映の顔から外し、遠くの街灯の下の地面に向けた。
彼女は夢映の言葉を頭の中で整理していた。
明らかに、科学的な理論で説明できる範囲を超えている。
最初に聞いた時、確かに栞は困惑した。それらの内容は彼女の既存の知識の枠組みには当てはまらなかった。しかし、それらの情報を真夢の状態と結びつけて考えた時、疑念は徐々に薄れていった。
真夢の立場なら、おそらく科学的に説明できる言葉でこの状況を説明しようとするだろう。そんな彼がこの説明を受け入れているということは、おそらくそれが真実に近いということだ。あの彼ですら受け入れているのだから、彼の説明できる範囲を超えているということに他ならない。
栞はそう考え、それ以上反論することはなかった。
「それじゃあ、家に帰ったらネットで調べてみるよ。見つかるかどうかは分からないけど、できる限りはやってみる。」
「もういいんです……この話は確かにちょっと特別ですから。」
「気にしなくていいよ。もし見つかれば、二人、あるいはもっと多くの人の症状を解決できるかもしれないんだから。」
栞は手を上げて、そっと夢映の肩を叩いた。
「本当に、私に話してくれてありがとう。真夢よりずっとマシだよ。あいつは今でも何も言わないから。」
「……真夢さんも昔からそうなんですか?」
「昔? ずっとそうだよ。彼を知ってからずっと、そうだった。何があっても全部自分で処理してしまうんだ。どれだけ辛くてもね。だから、君が話してくれて嬉しいよ。」
「はい……」
二人は再び歩き始めた。足元の路面が歩道のタイルからアスファルトに変わり、またタイルに戻る。道端の店舗が次々と看板の灯りを灯し、それぞれの光色が混ざり合い、夜の中でそれぞれの色の塊を作り出している。
「そういえば、どうして真夢の家に住もうと思ったの?」
「だって……家賃が払えなかったから。この街に来てまだ一ヶ月くらいで、知り合いもいなくて、今知ってるのは栞さんと真夢さんだけ。真夢さんの助手になったのも、彼の役に立ちたかったからです。」
「ちょっと待って、君まだ十八歳だよね? 家族は若い女の子が一人で大都市に出てくるのを心配しないの?」
「実は……仕事を探して生活するためだけじゃなくて……」
夢映の声が徐々に小さくなる。栞はそれ以上問わず、横目で彼女を一瞥してから、視線を戻した。
彼女たちが角を曲がり、狭い路地の入り口を通りかかった時、夢映が突然足を止めた。視線は脇の路地に向けられ、何かを探すように。
「……何を見てるの?」
夢映が止まったので、栞も足を止めて、彼女の視線を追った。
路地は長くなく、街灯の光は入り口で途切れ、奥は暗くなっていた。路地の奥にゴミ箱があり、その周りに段ボールやビニール袋が散らばっている。
夢映は答えず、そのまま路地に入っていき、ゴミ箱のそばにしゃがみ込み、手を伸ばしてゴミ箱の脇から黒い物体を慎重に持ち上げた。それは最初は丸まっていたが、やがてゆっくりと伸びた。
「ニャ~」
かすかな鳴き声。
「猫……ですか?」
「うん。黒い子猫だね。生後半年くらいかな。誰かがここに置き去りにしたんだろう。」
夢映は子猫を持ち上げ、両手で包み込むように抱え、優しく汚れを払った。毛の上のほこりを吹き飛ばすと、街灯の下で淡い灰色の霧になって散っていく。
よく見ると、胸の部分にひし形の小さな白い斑があるだけで、他の部分はすべて黒い。目は黄褐色で澄んでいて、街灯の下で宝石のように輝いている。体はやや痩せており、骨格がはっきりと見える。
「なかなか綺麗だね。こんな猫を捨てる人がいるなんてね。」
栞が身をかがめて、夢映の腕の中の子猫を見つめる。口調には感慨が込められていた。
「で、どうするの?」
「え? 何をですか?」
「もちろんこの猫だよ。保護施設に送る? それとも自分で飼う?」
夢映はうつむき、腕の中の子猫を見つめた。
子猫は彼女の手のひらの中で静かに丸まっている。胸の白い毛が呼吸に合わせてゆっくりと上下している。手のひらにすり寄り、顔を上げて彼女を見つめ、その視線が合わさる。灯りの下で黄色い瞳がわずかに収縮した。
「……飼うことにします。」
夢映がそう言った時、自分自身も少し驚いた。考えるよりも先に言葉が出ていた。どんな心理からかは分からないが、どうしてもこの子猫を飼わなければならない気がした。
栞が指を伸ばして子猫の耳先にそっと触れた。子猫は避けず、ただまばたきをした。
「……君に懐いてるみたいだね。」
「うん……なんでだか分からないけど、見た瞬間から放っておけない気がしたんです。」
「そうか。でも真夢にはどう説明するつもり?」
「私がちゃんと面倒を見ます! 絶対に真夢さんの迷惑はかけませんから。」
そう言われて、栞はため息をついた。
「……どうしてそんなに即答できるのか分からないけど、君なら大丈夫だと思うよ。」
「そ、そうですか?」
「そうだよ。」
子猫がまた手のひらにすり寄った。夢映はうつむいて見つめ、指で耳の付け根を優しく撫でる。子猫が先ほどよりも小さな声で鳴き、そして静かになった。
「こんなにおとなしい猫だとは思わなかったよ。全然暴れないね。」
「確かに……ちょっと意外だね。」
二人は再び歩き始め、子猫は夢映の腕の中に抱かれている。もがくこともなく、飛び降りようともせず、ただ静かに丸まっている。
間もなく、真夢の住む建物が見えてきた。入り口の灯りがついていて、階段は周囲よりも明るく見える。
「栞さん、ちょっと上がって何か食べたり飲んだりしませんか?」
「私はいいよ。もう遅いし、自分の家に帰るから。」
「じゃあ……ここまで送ってくれてありがとうございました。お手数をおかけしました。」
「いいえ、大したことじゃないよ。それじゃあ、お先に失礼するね。」
「はい、お気をつけて。」
栞がうなずき、通りを渡って歩き出した。夢映はその場に立ち、彼女の背中が街灯の下で伸びては縮み、やがて小さくなるのを見送ってから、建物の入り口へと向かった。
栞は振り返らなかった。
通りは閑散としていた。時折車が通り過ぎ、タイヤが路面を擦る音と共に乾いた風が立ち上り、アスファルトと埃の匂いが混ざる。風が梢を揺らし、少しだけ清々しい気配を運んでくる。彼女の足音は人通りの少ない歩道に均等に響き、ひときわはっきりと聞こえた。
(夢映か……)
栞は通りを歩きながら、その名前を心の中で繰り返していた。
今日一日の交流の中で、彼女は夢映から多くのことを知った。彼女が行き詰まっていたこと、真夢の差し出した手を掴んだこと、二人が夢の中で共に経験したこと、そして二人の間に芽生えた特別な共感。夢映は純粋で率直、まだ子供らしさを残した性格で、他人の気持ちを察することができ、自分の感情を隠すのが苦手だ。
だが——
(なぜだろう……何か変な感じがする……)
栞は自分の手のひらを見下ろした。
夢映と真夢がただのルームメイトであり、同時に互いに助け合う病友同士だということは分かっている。しかし、そう思えば思うほど、心の中の言いようのない違和感がはっきりとしてくる。
栞はその場に立ち、遠くの車の音を聞き、風が葉を揺らす音を聞き、自分の心臓の鼓動を感じ、夜風が頬を撫でるのを感じながら、どうしてもその感情の輪郭を掴むことができなかった。
「……栞?」
すると、前方から声が聞こえた。
顔を上げると、真夢がそこに立っていた。左手には分厚い本を何冊も抱えている。白いビニール紐で十字に結わえられ、その重みで指の腹が白くなっていた。右手は依然として包帯が巻かれ、体の横に垂れている。
「おや、どうやら忙しい人が帰ってきたようだね。」
気持ちを整えて、栞はいつものように落ち着いた態度に戻った。
「いきなりそう呼ばれるとはな……」
真夢がゆっくりと近づき、数歩離れた場所で立ち止まる。街灯の光が二人の間に均等に広がり、地面にそれぞれ違う方向への影を落としている。
「何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと?」
「夢映を送ってる時、何か変わった出来事に遭遇しなかったか?」
「…………いや、特には。」
栞はわずかに首を傾げ、視線を横にそらす。真夢の目が彼女の横顔に一瞬留まり、前方に戻る。
「ならいいんだ……何もなければ、もう帰る。」
そう言って、真夢は体の向きを変え、栞の横を通り過ぎようとする。
「ちょっと待って——」
背後から栞の声が追いかけてくる。真夢は足を止めたが、振り返らず、横顔だけを見せた。
「守夢人……」
彼女の声はさっきより低くなっていた。
「夢喰い、夢喰い、それに一連のあらゆること——最近君が夢で経験してるあれらは……全部本当なの?」
「……」
「あの話は……事実なの……?」
真夢は前を見つめたまま、しばらく沈黙した。街灯の光が横から彼を照らし、顔の半分を明るく、半分を闇に沈めている。
「……ああ。」
「じゃあ、どうして最初から話してくれなかったの? もっと早くに話してくれてたら、もしかしたら——」
「無駄だ、栞。」
言い終わらないうちに、真夢が遮った。
「たとえ話したところで、知っている人間が一人増えるだけだ。俺に必要なのは、知っているだけの人間じゃない。実際に関わる人間だ。」
「でも——」
「それに——君をこの件に巻き込みたくなかった。危険すぎるから。」
「……?」
栞は目を見開いた。
「俺の夢と君の夢はもう別の世界だ。そして、これから何が待っているかは未知数だ。この情報が広まれば、君にとっても、俺にとっても、夢映にとっても不利になる。話を複雑にするだけだ。言わないのは、言うことで問題が複雑化するからだ。」
「……」
「これからどうするかは……俺自身の問題だ。」
真夢はそう言って、そっと息を吐き出した。
彼はこの件自体が謎に満ちていることを知っていたし、情報が拡散した場合の結果も分かっていた。もしこの情報を広く人々の間で流せば、疑いの声、世間の騒動、さらにはもっと悪い結果が待っているかもしれない。
この件の関係者には現実の他人も含まれており、彼自身もその一人だ。だが問題は、彼の事情が他の誰よりもはるかに複雑だということだ。
真夢がこうするのも、やむを得ない選択だった。
「……分かったよ。」
栞の声は落ち着きを取り戻していた。そう言って、彼女は前に向かって歩き出した。
「そうだ、栞。」
「……?」
真夢は振り返り、栞の背中に向かって静かに言った。
「気をつけて帰れよ……」
その言葉に、栞は立ち止まった。彼女は振り返らず、真夢から二歩離れた場所に背を向けて立っていた。
「……分かってるよ。君もね。」
そう言って、栞は再び歩き出した。足音が空っぽの通りにしばらく響き、やがて風の音と遠くの車の流れに飲み込まれていった。
真夢はその場に立ち、彼女の背中が街灯の間を現れては消え、やがて遠くへと消えていくのを見つめた。それから体を戻し、自分の家へと向かって歩き始めた。




