夢章二 5 『夕方』
すぐに、一日の仕事が終わった。
真夢の手首が怪我をしていたため、症状の記録や処方箋の作成は夢映が担当した。そして夢映は真夢の期待を裏切らず、終日、記録業務をしっかりとこなした。午後の患者も午前中のようなトラブルを起こすことはなく、今日の仕事はまあ、多少の波乱はあったものの、概ね順調に終わったと言えるだろう。
ただし、診察の大半は依然として真夢が行った。一時的に夢映が診察を担当した時間もあったが、まだ慣れていない様子で、結局は真夢が問診し、夢映が記録するという形に落ち着いた。ちなみに、真夢が使う医学用語のいくつかは夢映にはさっぱりだったが、本人によれば「入門レベル」だという。その言葉に、夢映は少なからず打撃を受けた。
とにかく、今日の業務はどうにか終了した。
「うぐぅ……やっと終わった……」
最後の患者を見送った後、夢映はペンをペン立てに戻し、椅子の背もたれに寄りかかって、ほっと息をついた。
「感想はどうだ? 初めての経験だろう。」
真夢は片手を机に付き、横を向いて彼女を見た。
「……正直、すごく大変だった。」
「そうだろう? 初心者には確かに難しい。」
「そうじゃなくて——」
夢映は顔を横に向け、壁の方を向いた。親指の爪で人差し指の腹を押しながら、声が次第に小さくなっていく。
「真夢さんのこと……大変だなって。」
「……」
真夢は夢映の横顔をしばらく見つめ、沈黙した。
「だって……真夢さんは全部一人でやってるんでしょ? それを毎日——」
「違う。」
「……え?」
顔を戻し、視線が真夢に合わさる。
「俺が病院でやっている仕事はすべて、夢と現実を見極めるための拠り所だ。これらは精神的な負担を軽減してくれる。確かに身体は疲れる。だが、それで意識が安定するなら、俺はむしろ職場で倒れる方を選ぶ。精神がおかしくなって、あらゆる症状に苛まれながら気絶するよりはな。」
真夢はそう言いながら、机の上の物に視線を走らせ、そして再び夢映の顔を見た。
二人は見つめ合ったまま、診察室は再び静けさに包まれた。壁の時計は動き続け、その音が静かな部屋の中で明確に聞こえる。
夢映はその言葉の意味を頭の中で整理しようとした。精神科医でありながら、自らも精神疾患を抱え、それでもその席に座り続けている。個人的な精神的重圧と、外的な感情的重圧に苛まれながら、その強烈なストレス環境の中で医学の資格を取得し、これほど優秀な仕事をこなせる人間は、おそらく真夢以外にいないだろう。
一体どれほどその選択を繰り返してきた人間が、仕事中に疲労で倒れることを選ぶなどと、こんなに平坦な口調で言えるのだろう。夢映にはそれがどれほど難しいことか分かっている。だが、真夢の言い方は他の誰とも違っていた。彼の口調には「自分がどれだけ大変か」という要素は微塵もなく、ただ事実を述べているだけだ。しかしその冷静な口調が、むしろ夢映に奇妙な感覚を抱かせた。彼はまるで感覚が麻痺した殻のように思えた。
夢映の唇が微かに震え、何かを言いかけたその時——
「おや~ お邪魔だったかな?」
診察室の外から、別の声が聞こえてきた。
二人が入り口に目を向けると、栞が扉枠に寄りかかり、両腕を胸の前で組んで、全てを見透かしたような表情を浮かべていた。
「ち、違います——! 栞さん、誤解しないでください。」
夢映の声が先ほどより高くなり、背筋もすぐに伸びた。
「分かってるよ。ただ、雰囲気が重すぎたから、ちょっと冗談を言っただけ。」
そう言って栞が中に入ってきて、ごく自然に夢映の前の椅子に座り、両手を机の上に置いた。
「……何の用だ?」
真夢の声にはわずかに諦めが混じっていた。
「もう……私が来るといつもそれかよ。まさかもう、毎日ここに来る権利すらないって言うのか?」
「いや、そういうわけじゃない。」
「だから、ただ話しに来ただけだよ。」
栞は肘を机に付き、頬杖をついて、視線を真夢と夢映の間で行き来させた。
真夢はややうんざりした様子で、わずかに苛立ちを含んだ表情を浮かべ、目には疲れが滲んでいた。夢映は少し気まずそうで、栞が彼女を見るたびに視線をわずかにそらしては、どこか別の場所に視線を置こうとしているようだった。
(面白い子だな……)
栞の目が夢映の顔に一瞬留まり、そして戻った。彼女も真夢と同じく心理学に長けている。いや、むしろ彼より理解が深いと言える。だから夢映を見た時、彼女の座る角度、視線を動かす頻度、声の高低から、すでにその心理状態を読み取っていた。
「今はもう終業時間だ。よかったら一緒に帰らない?」
「あ、それは……」
そう言われて、夢映は首をわずかに巡らせ、上目遣いに真夢を見た。
「俺はいい。まだ一つ、やることがある。」
真夢は一秒も迷わず、栞の誘いを断った。
「ちょっと待って、まさか仕事のことじゃないよな? もし病院で残業するつもりなら、私——」
「仕事のことじゃない……」
栞がまた何かを言おうとするのを、真夢はさえぎった。その口調にはさらに明らかな諦めが混じっていた。
「仕事にも関係するかもしれないけど、どちらかと言えば症状の方だ。とにかく、図書館に行くんだ。だから夢映のことは頼む。」
「でも図書館って、君の家の方角じゃないか? 行くならそっちからだろう?」
「いや、その前にカフェに寄るんだ。二人は先に帰ってていい。追いつくから。」
「……はあ、まあいいわ。」
真夢がちゃんとした用事だと分かって、栞も折れるしかなかった。
「じゃあ、一緒に歩こうか? 夢映。」
「は、はい……」
夢映はゆっくりと立ち上がり、栞の後ろについて、一歩ずつ入口へ向かった。入口に差し掛かった時、足が少し遅れた。
「ちょっと待ってくれ。あと一つ。」
その時、後ろから真夢の声が追いかけてきた。
「健……あいつは何か用事があったか?」
「健? どうしてそれを聞くんだ?」
呼び止められて栞が足を止め、振り返って真夢を見た。
「もし時間があるなら、図書館に一緒に行ってもらおうと思って。もし用事があるなら、待つつもりだ。」
「そういうことか……やめたほうがいいよ。今夜は手術が入ってる。整形外科の手術がどれだけ面倒か、君も分かってるだろ? 難易度が高くて、リスクも大きくて、時間もかかる。絶対に無理だよ。」
栞が手を振って、真夢の考えを打ち消した。
それを聞いて、真夢はそっとため息をつき、黙って自分の荷物をまとめ始めた。
「……そうか。じゃあ、二人とも気をつけてな。」
「分かったよ。行こう?」
栞はそう言って振り返り、夢映に向かって廊下の方を顎で示した。夢映がうなずき、横を向いて真夢を見る。彼はまだ荷物を整理していて、夢映の視線には気づいていないようだった。
夢映は視線を戻し、栞の後について診察室を出た。廊下の足音が次第に遠ざかっていく。一つは落ち着いた音、もう一つはやや軽い音。診察室が再び静けさを取り戻す。真夢は手を止め、入口の方を一瞥してから、また机の上の物を整理し続けた。
窓の外の空は午後の白から、夕暮れの橙色へと移り変わっていた。階下の通りからは車の走る音や、通行人の断片的な話し声がかすかに聞こえてくる。
最後の書類を片付け終えると、真夢は立ち上がり、診察室を出て、扉を閉めた。
廊下に再び足音が響き始めた。




