夢章一 22 『来訪者』
漂遊感が身体の奥底から湧き上がってきた。
真夢は自分が沈んでいくのを感じていた。前回とは違い、誰かに引きずられる感覚も、包み込まれるような触感もなかった。彼はただ落下していた。ある方向に向かって、より深い場所へと落ちていく。しかしその落下には終わりがないようだった。
次に、耳元を風がかすめていった。そして、短く遠くから聞こえてくるような音が、彼の意識の端をかすめてはすぐに消えた。
再び目を開けると、頭蓋の内側から痛みが広がってきた。
「うっ……」
真夢は額を押さえ、その痛みが引くのを待った。
数秒ほど経ち、痛みが和らいだのを感じて手を下ろし、今回の夢の中の風景を観察し始めた。
自分が一つの部屋に立っているのがかすかに感じられた。本棚はなく、微かな光もなく、クローリアもいなかった。彼の目の前には完全に見知らぬ空間が広がっていた。部屋の中は暗く、数か所の微かな光源だけが大まかな輪郭を描き出していた。同時に、時計の音がどこかの方向から聞こえ、規則正しく時を刻んでいた。
「ここは…………」
真夢は視線を巡らせ、暗がりの中からより多くの細部を読み取ろうとした。
ドン——
彼が顔をそらした時、背後から微かな衝突音が聞こえた。
「誰だ——」
音を聞いて、真夢の身体は一瞬で緊張し、猛然振り返った。
「……真夢さん? 真夢さんですか?」
「夢映……ここにいるのか?」
真夢の視線はその声を頼りに地面に落ち、夢映が机の下にしゃがみ込んでいるのを見つけた。彼女は両手で地面を支え、身体をわずかに丸めている。そして机の端から顔を覗かせ、今まさに彼を見上げていた。
「……よかった、あなただったんだ。変な生き物かと思ったよ。」
目の前の人物が真夢だと確認して、夢映もほっと息をつき、机の下から這い出て、膝の上の埃をはたいた。
「まさか本当に成功するとは……」
真夢は元々この夢の接続にあまり期待していなかったが、今、二人は確かに同じ空間に立っていた。
しかし彼はこの話題をひとまず置き、周囲の環境を観察し続けることにした。
部屋の間取りはオフィスのようだった。いくつかのデスクが並び、机の上の物は整然と配置され、丁寧に整理されたかのようだ。書類立て、ペン立て、カレンダー、マグカップ——それぞれが在るべき場所に置かれている。壁には時計が掛けられ、秒針が規則正しく動いていた。
「そうだ、夢映。」
「うん? どうした?」
「君はいつここに着いた?」
「だいたい……一分前くらいかな。でも、着いたばかりの時は周りが暗すぎて……机の下に隠れてたんだ。」
夢映はそう言いながら、照れくさそうに自分の指を弄っていた。
「そうか……」
真夢はそれ以上追及せず、周囲の配置に目を向けた。
その時、彼は隅の机が特別であることに気づいた。その机の上には三台のディスプレイが置かれ、三つの画面の角度はすべてわずかに左を向いている。他の席からはファイルキャビネットや他の機器に遮られてその机の上の詳細を見ることはできないが、その席に座る者からは他の席の様子がはっきりと見える。どの席のゴミ箱も空だが、机の上のコーヒーカップは満たされている。書類は整然と並び、まるで使用中のようだった。
「異化不安……」
周囲の様子を観察し終えて、真夢は低くつぶやいた。
「異化不安? それって何?」
「三台のディスプレイが置かれた机は監視者の机だ。この配置は通常の座り姿勢の視線方向では見えない角度だ。他の席からはここの様子は見えないが、ここからは他の席が見える。誰もここで仕事をしていない。ここは仕事を見るための場所だ。」
「仕事を見るための場所……」
「つまり、ここは仕事を体験するために作られたわけではない可能性が高い。」
「じゃあ、何のためにあると思う?」
「仕事を監視するためだ。そして今、私たち二人が仕事をする者として判定されたのかもしれない。もしかしたら今、誰かが私たちを監視している可能性がある。」
「分析が的確だね……」
真夢は夢映の評価には答えず、最も近い机の上に視線を落とした。
マグカップの中のコーヒーの液面はまだ微かに揺れており、まるで誰かが置いたばかりのようだった。真夢は手を伸ばし、指先でカップの縁に触れた。温度はまだ温かい。コーヒーの香り、温度、色合い——すべてが異常なほどリアルだった。
「おかしい……他に誰もいないのに……」
真夢は手を引っ込め、もう一度周囲の配置を確認した。
自分が夢を見ているということを無視すれば、ここは完全に現実の投影だった。すべての物体の位置は合理的で秩序立っており、何の異常もなかった。
「パソコンも同じだね……普通に起動できる。」
夢映は椅子に座り、机の上のコンピュータの電源を入れた。
画面が明るくなると、真っ白な光が広がった。デスクトップアイコンも、タスクバーも何もなく、一面の白い画面だけが表示されていた。
「どうやら夢の中のこういったものはただの道具で、実用的な用途はないようだ。」
真夢はコーヒーカップを置き、壁の時計に目を向けた。
秒針は規則正しく動き、分針もゆっくりと進んでいる。針の進む速度は現実世界と変わらなかった。
「……?」
しかし彼は何かがおかしいと感じた。
「ねえ、夢映。壁のあの時計に何か言いようのない違和感を感じないか?」
真夢は夢映の肩を叩き、時計を見るように合図した。
「違和感……?」
真夢の指の方向を見て、夢映も壁の時計に気づいた。
しばらく見つめてから、彼女は首を振った。
「特に違和感はないけど、ただ——」
「いいや、違和感がないならそれでいい。」
「ちょっと待って、最後まで聞いてよ————」
真夢は聞かずに、部屋の隅の床に目をやった。
床には明らかに奇妙な跡があった。直径約一メートルの円形の領域で、周囲の床とは異質で、まるで別個に貼り付けられたかのようだった。境界には連続した隙間があり、この領域と床の他の部分を明確に分断していた。
「これは……?」
真夢は近づき、しゃがみ込んで、指を伸ばしてその領域の端に触れようとした。
彼の指先がその隙間に近づいた瞬間——
「な——」
その領域の下から突然一本の手が伸び、真夢の手首をしっかりと掴んだ。
反応した真夢は猛然後退し、肩甲骨を後ろに引き、かかとを床に踏みしめて腕を引き戻そうとした。しかしその手は微動だにせず、依然として彼の手首にしっかりと食い込んでいた。手のひらの温度は非常に低く、その感触は普通の人の皮膚というより、表面が滑らかで内部が硬い素材のようだった。そしてその力は彼の予想を超えており、まるで巨大な万力が彼の手首を締め付けているかのようだった。
真夢は自分の手のひらが痺れ始め、皮膚の表面の血管が浮き出るのを感じた。手首から乾いた音が響くと、鋭い痛みが手首の内側から広がり、前腕を伝って肘まで駆け上がった。
「くそっ、どうなってる——?!」
真夢は歯を食いしばったが、その痛みはさらに強く押し寄せてきた。
「真夢さん————!」
夢映は彼の腰に腕を回し、肩を後ろに引いて力を込めた。しかしその手の引っ張りに抵抗するように二人の努力は、真夢の手首からさらに明らかな音を響かせた。
「うっ————!」
二人が同時に力を入れると、ようやくその手は離れた。真夢と夢映は同時に数歩よろめいた。
真夢の右手は体の横に垂れ下がり、その手は絶えず震えていた。
「大丈夫? 真夢さん!」
「痛い痛い……これは……まずいかもしれない……」
真夢の顔には苦痛の表情が浮かび、額には汗が浮かんでいた。
右の手の痛みは手首の筋に沿って広がり、前腕の中ほどまで達していた。見下ろすと、右手首は血の気がなく、関節の角度もおかしかった。
「あなたの手首……」
「大丈夫……心配しなくていい……ただの脱臼だ。」
言い終わると、地面から低い音が聞こえてきた。
「ぐるる————」
その音は何か粘性のある液体がゆっくりと沸騰しているかのように、重く鈍かった。
「……?」
その奇妙な音を聞いて、真夢と夢映は同時に音のした方を見た。
先ほど真夢の手首を掴んだあの手が、今ゆっくりと上に伸びていた。続いて二本目の手もその隙間から現れた。
「まさか——」
言葉が終わる前に、青白い頭部が円形の領域の底から現れた。次に肩、そして胴体。その身体全体が狭い開口部から押し出されてきた。
その生物の身体はまるで皮膚が骨に貼り付いただけで、筋肉がほとんどないようだった。関節の曲がる角度も自然ではなく、その姿勢は異様だった。皮膚は死んだように白く、凹凸はなく、数本の浅い裂け目が皮膚の表面に分布しているだけだった。四肢の比率は普通の人間とは異なり、通常よりも長く伸びていた。顔には目も、鼻も、耳もなく、ただ水平な裂け目があり、その長さは顔の半分近くを覆っていた。
「これが……夢喰いか?」
真夢は自分の声が乾いているのを感じた。
その確認をした瞬間、二匹目の夢喰いが同じ開口部から姿を現した。一匹目と同じ体型、同じ顔の構造、同じ動き方。彼らは並んで立ち、わずかに前傾姿勢をとり、目の前の二つの生き物を評価しているかのようだった。
「……真夢さん、彼ら……彼らは……」
「ああ、奴らが何かは分かっている。」
真夢は自分の指が冷たくなっていくのを感じたが、彼の足は動かなかった。夢映はまだ彼の隣に立ち、彼女の速い呼吸がかすかに聞こえた。
「ぐるる——はぁ——すぅ——はぁ——」
一匹の夢喰いが低い声を発した。その声は不安定なリズムを帯びていた。
その口が開閉し、歯列が露わになった。それらの歯は密集して配置され、顔の下半分全体を覆っていた。
そして——
「吼吼吼吼吼吼ああああああああ———————!!!」
瞬間、鋭い高周波の音が響き渡った。その音は生物の死の際の悲鳴と何ら変わらなかった。
不快に感じた真夢と夢映は慌てて耳を塞ぎ、この異様な音を遮断しようとした。しかしその音はまるで二人の身体を直接貫くかのようで、手のひらで耳を覆っても何の役にも立たなかった。
「うっ……」
「ちっ……本当にうるさい奴らだ……」
その音は約二秒間続き、そして止んだ。部屋は再び静けさを取り戻した。
真夢は急いで逃げ出そうとはせず、再び二匹の生物に視線を戻し、その輪郭と姿勢を観察し続けた。
彼はこれらの生物が何をするのか見てみたかった。
(この生物の存在は……正気を奪うのか?)
真夢はよく分かっていた。最初にこの生物を見た瞬間、脳に一瞬の猛烈な衝撃が走り、理性が徐々に失われていくのを感じた。
「ひっ……うぅ……」
今、夢映は真夢の隣に立ち、声を絞り出している。その顔は恐怖で歪んでいた。彼女の身体はわずかに後傾し、無意識のうちに距離を取ろうとしていた。
彼女の声に明らかな不安が混じっていても、少なくとも彼女は逃げなかった。こんな時に正気を保っていられることは、真夢の想像を超えていた。
真夢は手を下ろし、視線は夢喰いに固定されたままだった。
その時、彼は一匹がゆっくりと頭を左右に揺らしているのに気づいた。その目を持たない頭部は、何らかの方法で真夢の位置を走査しているかのようだった。
真夢がその問題を考えている間にも——
「はぁ——すぅ——はぁ——ぐるる——」
夢喰いの呼吸音は不安定な周波数で続いていた。
真夢は怯まず、夢喰いの動きを観察し続けた。手の位置から身体の傾斜角度、呼吸の頻度から振れ幅まで。
そして——
「ああああああああ————————!!!!」
夢喰いは突然激しい悲鳴を上げ、同時に真夢に向かって手のひらを振り抜いた。その手の速度は先ほどの動きの倍以上で、掌の方向は真夢に向けられていた。
夢喰いの掌が真夢に触れようとしたその瞬間————
「わああああ! 逃げて! 真夢さん——————」
夢映は真夢の左手を引き、猛然後ろのドアに向かって走り出した。その歩調はほとんど半ば引きずるように真夢を前に運んでいた。
「開いて……開いてよ……」
背後から迫る音に、夢映の手は絶え間なくドアノブを回していた。金属製のノブが彼女の手の中で滑り続けた。
夢映がどんなに押してもドアは開かなかった。肩をドアに当て、全身の重みをかけて押しても、ドアは微動だにしなかった。
「終わった……」
その時、真夢が彼女の背後から手を伸ばし、ノブを握って自分の方に勢いよく引いた。その力でドアは開いた。
「ドアは引き戸だ。そんなことに構ってる暇はない、走れ!」
夢映を外に押し出した後、真夢自身もすぐに後を追って跨ぎ出した。そして振り返り、ドアノブを握って内側に引き、ドアを閉めようとした。
しかし夢喰いはその機会を逃さず、青白い指を金属製のドア枠の端にかけ、横に力任せに引いた。ドア全体が引き裂かれ、金属の蝶番が耳障りな音を立てた。
「くそっ————!」
真夢は夢喰いを止めることを諦め、ノブを放して振り返り、廊下の奥へと走り出した。
彼の足音と夢映の足音が重なり合い、廊下に反響した。
「どうすればいいの?」
真夢が追いついたのを見て、夢映は横を向いて尋ねた。
「分からない。とにかく走るのが正解だ!」
「ずっと走り続けるわけにはいかないよ————————」
言葉の途中で、背後から鋭い金属の裂ける音が響いた。
「————————!」
二人は同時に振り返り、夢喰いがドアを上から下へと引き裂いたのを目撃した。金属製のドア全体が彼の手の中で、まるで紙を破るかのように簡単に握りしめられていた。
先頭の夢喰いはドアを脇に投げ捨て、大きな衝突音を立てた。そして四つん這いになり、二人に向かって突進してきた。もう一匹もその後を追った。
彼らの動きは不調和な滑らかさを伴い、四本の手足が異なるリズムで交互に地面に着き、身体は地面にほとんど張り付くように動き、その歩幅は大きく、一歩ごとに地面に明確な引っかき傷を残していた。
「くそっ、こいつらの速度は速すぎる!」
その光景を見て、真夢は顔を戻し、廊下の両側を素早く見渡し、頭の中で次の手を考え始めた。
二人は今、オフィスビルと思しき廊下におり、無限に循環する空間のように見えた。廊下の両側には整然と並ぶオフィスのドアがあり、どのドアも全く同じだった。廊下の天井の蛍光灯は通常のものより明らかに大きく耳障りな唸りを発し、その音がフロア全体に響き渡っていた。
真夢が視界の端で見たところによると、約五つのオフィスごとに十字路の角があり、その角の先にも同様に終わりが見えなかった。そしてフロア全体には階段室も、エレベーターの扉も、案内表示もなかった。つまり、ここは広大な非ユークリッド空間だった。
「このままじゃいつか追いつかれるよ!」
足音がどんどん近づくのを聞いて、夢映は真夢に向かって叫んだ。
真夢はその音の間隔から距離が縮まっていることを判断した。五十メートル、あるいはそれ以下。彼は残された時間の中で何とかしなければならなかった。
「こっちだ、こっちに走れ!」
真夢は夢映の手首を掴み、彼女を右側の分かれ道に引き込んだ。角を利用して少しでも時間を稼ごうとした。
しかし背後から壁の砕ける音が聞こえた。振り返ると、夢喰いが手のひらで角の端にしがみつき、その身体を信じられないほどの柔軟性で九十度のカーブを曲がり、ほとんど減速しなかった。指が壁に深い引っかき傷を残し、何枚かの壁の破片が床に落ちた。
しかも彼らの速度は全く落ちておらず、カーブによる慣性がむしろ彼らをさらに加速させていた。
「ちっ、手強い奴らだ————」
その光景を見て、真夢は口で文句を言うしかなかった。
「わああああ! レゼロ! どこにいるの————!!!」
この状況に直面して、夢映は守夢人の名前を叫んだ。しかし廊下には二人の足音と背後からの夢喰いの這う音だけが返ってきた。
「いけない、このまま走り続けてもいつかはやられる。」
真夢は周囲の配置を観察し始め、素早く一つのドアから次のドアへと目を移し、隠れられる場所を探した。しかしここの部屋はすべて同じで、同じ球形のノブ、同じドア、すべてが完全に一致していた。
真夢は走りながら、そのうちの一つのドアを押し開けた。開けた瞬間、中の配置は先ほどの部屋とほぼ同じだった。机、椅子、ファイルキャビネット、その配置と間隔も変わっていなかった。次に彼は次のドアを押し開けたが、結果は同じだった。どのドアの先も同じテンプレートだった。
「どうなってるの————?!」
まだ冷静さを保っている真夢とは違い、夢映はもはや全く落ち着いていなかった。その声には明らかな混乱が混じっており、このままではおかしな行動に出るかもしれなかった。
「落ち着け……何とかしろ……」
二人と後方の夢喰いとの距離はまだ縮まり続けていた。真夢は視界の端で、夢喰いが廊下の左側の壁に沿って移動しているのを見た。彼らの手足が交互に地面に着き、一歩ごとに床に明確な衝突音を残していた。
そして真夢は頭の中で今ある情報を整理し始めた。この空間の構造は繰り返されており、通常の方位感覚では位置を特定できない。背後にいる夢喰いの速度は明らかに速く、距離は一定の割合で縮まっている。
もしただひたすら前に走り続ければ、あのドアと同じ運命をたどるだろう。
「くそっ————」
手の施しようがない状況に、真夢は無力感を覚えた。
その時、真夢は前方約三十メートル先に一つのドアがあることに気づいた。周囲のドアとは少し異なり、その表面はかすかな緑色の光を放っていた。まるで何か光源がドアの裏側から透過しているかのようだった。
「真夢さん、あのドア!」
「分かってる!」
二人は同時にその奇妙なドアに気づいた。
「もうどうにでもなれ……運を天に任せよう!」
そう言って、真夢と夢映はそのドアに向かって突き進んだ。




