夢章一 15『夢議』
あの見慣れた分かれ道に辿り着くと、真夢は迷わず右側へと足を進めた。
その喫茶店は分かれ道から百メートルほどのところにある。彼はこの道を何度も何度も歩いてきた。足の裏がすでに、一枚一枚のタイルの凹凸を覚えているほどに。
ガラスドアには手書きの営業時間が貼られ、その隣には色あせたコーヒー豆のポスターが掛かっている。紙の端はめくれ上がり、その下の黄ばんだ糊の跡が露わになっていた。彼はドアを押し開けると、コーヒーの油脂と焙煎した穀物が混ざり合った香りが流れ出し、彼の肌と服の表面に静かに落ち着いた。
真夢は窓際の席に座った。その席は彼が最もよく使う場所で、通りを行き交う人々や、入口の街灯、向かいの病院の建物の一角が見える位置だった。
腰を下ろした後、真夢は手を挙げて店員に合図し、二本の指を立ててから自分の席を指さした。
およそ二分後、店員がトレイを運んでやってきた。トレイの上には金縁の陶器製のカップが二つ、細い金のラインが縁に沿って施され、釉薬がかかった表面が灯りの下で柔らかな光を反射している。中には湯気の立つコーヒーが注がれており、ナッツとカラメルを思わせる香ばしい香りが、テーブルの上の空気の中でゆっくりと広がっていった。
「今日も栞さんとご一緒ですか?」
店員はカップを机の上に置いた。それぞれの下には白いコースターが敷かれている。
「いや、今日は患者さんと約束していてね。」
「それはお疲れさまです……」
店員はトレイを脇に挟み、背筋を伸ばした。
「今朝、どうして来なかったのかなと思っていたら、後で栞さんから今日はお休みだと聞きました。せっかく休みを取ったんだから、ちゃんと休まないとダメですよ。体を疲れさせてしまったら、また栞さんに言われちゃいますからね。」
真夢と栞が一緒にこの店に来ることが多いため、店員は二人の関係をよく知っていた。彼は栞がいつも真夢にコーヒーの飲みすぎや夜更かしを注意していることも知っていた。店員は時々、栞の口調を真似て真夢をからかうこともあった。
「はいはい……」
真夢はそのうちの一杯を手に取り、陶器を通して指先に伝わる温かさを感じた。彼はその香りをひと嗅ぎしてから、周囲を見渡した。
「でも、そう言えば、最近この店はなんだか客足が減ったね。」
「何しろここに来るお客さんの大半は病院の医師か、夜勤の方々ですからね。患者さんは基本的にコーヒーを飲むことが許されていませんし、近隣の方はコーヒーにあまり興味がないようです。自然と店内は閑散としてしまいますよ。」
「それは惜しいな。コーヒーみたいなものは、私にとっては何物にも代えがたいものなんだから。」
真夢はカップを口元に運び、一口含んだ。
コーヒーが舌先に触れた瞬間、芳醇な苦味が広がり、かすかな酸味とカラメルの余韻が重なった。その味わいは彼に馴染みのある安堵感をもたらした。
「ははは、コーヒーは確かに良いものですが、やはり疲れたら休むことをお勧めしますよ。コーヒーで無理にしすぎないほうがいいです。昨日の夕方、コーヒーのせいで不整脈を起こして、診察室で倒れそうになったって聞きましたからね。」
「それもまた栞から聞いたのか?」
「さあ……私は何も知りませんよ。」
店員は顔をそらし、視線をカウンターの方へと向けた。
真夢は追及せず、ただ軽くため息をついた。自分の体調を店員に伝えるのは栞以外にいないことを、彼はよく知っていた。
「わかった、それじゃあ邪魔しないよ。何かあったら呼んでくれ。」
「ああ、わかりました。」
そう言って店員は空のトレイを持って立ち去った。
真夢は視線を戻し、再びコーヒーに目を落とした。液面はまだ微かに揺れており、カップの壁に残った振動がごく細かい波紋を描いていた。それらの波紋はカップの中心を起点に外側へ広がり、縁に達する前に静まっていった。
その波紋を見つめながら、真夢はコロリアが話していた時の、冗談ではなさそうな目を思い出した。それは彼に奇妙な感覚をもたらした。苦さに近い、あるいは鬱屈したような感覚だ。
彼はあの場所が何なのかさえまだ完全には理解しておらず、それが何のために存在するのかも分かっていなかった。最初から最後までコロリアが一方的に彼の頭の中に大量の情報を詰め込んでいっただけで、彼には詳しく問いただす余地すらなく、完全に受け身の状態だった。
そして三十分前、自分が見たあのスレッドが、コロリアの言葉がすべて事実であることを裏付けていた。科学理論の中に答えを求めようとしてきた真夢も、思わずため息をつかずにはいられなかった。何年もかけて学んできた知識が、結局は自分自身の最も深い問題を解決することはできなかったのだ。
——これはおそらく皮肉というものだろう。
彼は自分の学んできた知識を使って、その知識の範囲を超えた土地を理解しようとしていた。そして今、自分がその土地の端に立っていることに気づき、手にしている地図はすべて白紙であることを発見していた。
真夢はうつむき、カップの中で揺れる液体を見つめていた。その時、左側から声が聞こえた。
「あの……」
「……?」
声のした方を見ると、白いパーカーに灰青色の長ズボンを履き、キャップをかぶった人物がそこに立っていた。キャップは深くかぶられており、顔の大部分を覆っていた。キャップのつばの下からは顎の輪郭と唇のラインだけが見え、それより上は影に完全に覆われていた。その背は高くなく、立ち姿には明らかな居心地の悪さが漂っており、まるでいつでも立ち去れるように構えているかのようだった。
「あなたは……真夢さん……あ、違う、真夢先生ですか?」
その声はさらに小さく、何か言い間違えたらどうしようという不安が滲んでいた。
「そうだ。君が夢映さんで間違いないね?」
真夢はコーヒーカップをトレイに戻し、身体をわずかに前に傾けた。
「はい。」
彼女の答えは簡潔で、一言一言をできるだけ短く圧縮しようとしているかのようだった。
真夢は手を上げ、向かいの椅子に向かって手のひらを広げた。
「どうぞ、座って。」
夢映は一拍その場に立ち止まり、そしてその席へと移動した。
彼女が座る時の動作はとても軽やかで、椅子の脚が床を擦る音は聞こえなかった。座った後、彼女が最初にしたことは、キャップのつばをもう一度深く押し下げることだった。
「……」
真夢の視線は数秒間、彼女に留まっていた。
夢映の右手は繰り返しキャップのつばを押し下げ、頭はわずかに揺れ、左手の親指は人差し指の側面を繰り返し擦っていた。それらの動作は大きくはないが頻度が高く、まるで何かを絶えず確認しているかのようだった。
彼は心の中でそれらの細部を記録し、すぐに結論を出すことなく、それらを心の中に留めておいた。そして声の調子を普段よりも少し柔らかくした。
「緊張してるのか?」
「わあああ————」
夢映の身体が一瞬で跳ね上がった——まるで急に触られた猫のように。
「あ、あ……実は……少しだけ……」
真夢に問いかけられ、夢映の声は先ほどよりも慌てたものになった。
「はあ……緊張しなくていいよ。普通の友達同士の会話だと思ってくれればいい。医者だからって気にしなくていい。」
夢映がそう言うのを見て、真夢はため息をついた。
「実は……そういうわけじゃなくて……」
「……じゃあ、何が理由なんだ?」
「だって……だって……」
夢映の口調はたどたどしく、この言葉を口にしていいものか迷っているようだった。
「大丈夫だ、言いたいことを言っていいよ。」
真夢はわざと話すリズムをゆっくりにしながら、夢映を見つめ、彼女の返答を待った。
「だって……私……」
夢映の声はどんどん小さくなり、自分のパーカーの襟の中へと消え入りそうだった。
「真夢先生は……女性だと思ってたから……」
「……」
真夢は完全に固まってしまった。
彼は多くの可能性を考えていた。身分の差からくる緊張、公共の場での待ち合わせによる不安、彼女が自分に対して何か先入観を持っている可能性。しかし彼がどう考えても、彼女が緊張している理由が「自分が男性だったから」だとは思いもしなかった。
「あああ、実は……男性でも問題ないんですけど……ただ、ちょっと意外だっただけで……」
夢映は慌てて説明を続けた。その語気も先ほどより速くなっていた。
真夢はその場に座ったまま、まばたきをした。そしてまたまばたきをした。数秒間、夢映を見つめ、彼女の言葉を頭の中で何度も反芻しているかのようだった。
そして——
「ぷっ————」
真夢は突然笑い声をもらした。
「……?」
夢映の身体が震え、キャップのつばの下から顔を上げて真夢を見た。真夢は額に手を当て、肩を微かに震わせていた。
「正直に言うと——」
真夢は手を下ろし、口元にはまだわずかな笑みの名残が残っていた。
「——君がそう思った理由は分かるよ。僕の名前で性別を間違えたんだろう?まあ、そういうこともあるさ。以前にも何人かの患者さんが同じような勘違いをしたことがあるし。珍しいことじゃないけど、やっぱり笑ってしまうな。」
おそらくこの状況に呆れてしまったのだろう、真夢は仕方なく笑い声をもらした。
「でも、君の名前はなかなか面白いね。夜渡海……まるで夜に活動する海賊みたいだ。」
「海、海賊?」
夢映もそれを聞いて、思わず目を見開いた。
そして彼女は気づかなかったが、自分からは先ほどの緊張感がもう消え去っていた。彼女の視線はもはや泳ぐことなく、両手も親指を擦ることをやめていた。彼女は真夢を見つめていた。まるで初めて、向かいに座るこの人物をまともに観察しているかのように。
「ほら、たった一言で緊張が和らいだろ。」
「…………え?」
気づいてみると、自分の指がもう擦られていないことに夢映は気づいた。キャップのつばを押し下げたい衝動ももうなかった。
その時、彼女は自分が座った時とはまったく異なる口調と姿勢になっていることに気づいた。
「簡単な感情の足場を作ったんだ。話題を変えて認知的なかく乱を起こすことで、君の緊張が和らいだんだ。今の僕はただの同じ症状を持つ患者であって、医者じゃない。だから君はまったく緊張しなくていいんだ。」
真夢は優しい口調で言った。その声には、飾らない誠実さが滲んでいた。
その言葉を聞いて、夢映の背中はゆっくりと伸びていき、肩からも緊張が抜けていった。
「は、はい……」
夢映はうなずき、その声は先ほどより落ち着いていた。
「よし、それじゃあ、夢の中でのことについて話そうか?」
真夢はコーヒーカップを机の中央へと押しやった。
夢映はもう一度うなずき、手を伸ばしてテーブルの上に置かれた、湯気の立つコーヒーカップを包み込んだ。陶器の温かさが彼女の手のひらに伝わり、掌の線に沿ってゆっくりと広がっていくのを感じた。
夢映はそのカップを握りしめ、それはまるで彼女をその場に【留めておく】ための小さな支点のように思えた。




